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「Bizen Works(ビゼンワークス)」は2016年7月、愛知県春日井市にオープンしたばかりのギター工房で、オリジナルギター製作/リペア/各種オーダーメイドを行っています。店内にはリペアルーム、ショールーム、防音室があり、落ち着いた雰囲気でギターを眺めたりお話をしたり、ガンガン試奏したりできるようになっています。真新しい店内はスッキリとしており、カフェと間違われることもあるのだとか。オーナー坂本さんの淹れてくれたコーヒーをいただきながら、ほのぼのと。これはカフェに間違われても不思議はありません。奥に行くと工房や木材置場があり、ここだけでギター製作の全工程を行うことができます。
今回はBizen Worksオーナーの坂本行宏(さかもとゆきひろ)さんに、どんなギターを作っているのか、どのように作っているのかなど、いろいろなお話を伺いました。
──よろしくお願いします。さっそくですが、「Bizen Works」のネーミングはやはり「備前」が由来なんでしょうか。
坂本 はい。出身は僕も妻も岡山(備前)なんです。ここに来る前は神田商会の岐阜事業所に所属しており、長らくZEMAITIS(ゼマイティス)カスタムショップの工場長を務めていました。独立に際しては住み慣れた東海地区の物件を探していたんですが、ここは本当にいい縁があり貸していただいております。
──ZEMAITISですか!とんでもないキャリアですね! このことについては、のちほど伺います。Bizen Worksでは現在、オリジナルモデルを3機種リリースしていますが、それぞれどんなギターなんでしょうか。
坂本 現在のラインナップはいずれもセットネックモデルで、
の3機種です。RTは「ローズトップ」、HMは「ホンジュラスマホガニー」、ATは「アーチトップ」を由来としたネーミングです。ニックネームのようなモデル名が好きじゃないので、記号化した名称を付けています。弊社ではRTをイチオシにしており、写真を公式サイトやfacebookページのトップに使用しています。
──高級感のあるラインナップですね。個人工房でセットネック仕様を主軸に据えるのは珍しいんじゃないかと思います。レスポールタイプの高級機で裏通しというのもあまり例を見ない、独特なスタイルではないでしょうか。3機種を完成させるまでには、試作はどれくらい作りましたか?
坂本 前の会社を退社してから、ここのリフォームを自分でやりながら、それでも公式サイトで紹介するギターが必要だということになって、HMとRTを最初に完成させました。試作はなく、イッパツで決めました。
前の会社では受け取った図面から製法を考えて生産ラインを構築する、またそのための材料を仕入れる、という仕事をしていました。その過程でNCはじめ、さまざまな工作機械の使い方やいろんな技術を学ばせてもらいました。しかしデザインについては勉強したことがなく、今回が初めてでした。カッコいい図面が引けたと思っても、次の日に見るとイマイチだった、ということをさんざん繰り返しました。今も改善を重ねていますし、これからも良いものはどんどん取り入れて、よりよいものを作っていきたいと思っています。
──RT、HMともに、ピックガードを模したメイプル板が目を引きますね。これは埋め込まれていますが、黒い線で縁取られています。これにはどんな意図があるのでしょうか。
坂本 技術的にはトップ材にメイプルをキッチリはめ込むこともできるんですが、埋め込む前のメイプル板に、黒いバインディングを施しています。この2機種はメイプル板を埋め込んでからペーパーをかけてボディの平面を仕上げますから、色をつけるのはそれからなんです。店頭のサンプルはナチュラル系のカラーリングですが、将来的にピックガードに着色するなどのオーダーに対応するためには、マスキングする領域が必要になります。そういう作業性を考え、見切りのラインとして採用しました。それに黒いラインはデザイン上のアクセントにもなりますね。
──バインディングした板を隙間なく埋め込む、というのはすごい加工精度ですね!またこの思い切ったバックコンターがインパクト十分で、ネックヒールにまで達しています。レスポールシェイプなのに、22フレットまで余裕で手が届きます。バックパネルのデザインも面白いですね。
坂本 バックコンターにつながっているヒールカットによって、ハイポジションの演奏性はかなり理想的なところに来ました。ジョイント部分も大胆にカットしていますから、レスポールタイプのイメージからはかけ離れているのではないでしょうか。
ジョイント方法にもひと工夫あります。かのゼマティスさんも取り入れた、レスポールJr.の「ボックスジョイント」を採用しています。ギブソン的にはレスポールの工法とは違う、いわば「安い」ジョイント法なんですが、こちらの方がネックとボディの接着面をしっかり確保しやすいんです。シンプルなゆえにごまかしが一切できませんし。さらにネックエンドをフロントピックアップの真ん中あたりにまで延長もしています。
木製のバックパネルは3mmほどの無垢材を使用していますが、ネジを絞めこんだ時に割れてしまわないよう、補強としてバインディングを施しています。丸いシルエットのギターにバックパネルが四角い、というデザインにはしたくなかったので、雫(しずく)状でデザイン性を持たせています。
──木製テールピースが落し込みになっているようですが、これはどうしてですか?
坂本 デザイン上の意図もあるんですが、これはテールピースの位置を下げて弦のテンション感を確保するためです。2mmほど落とし込んでいるんですが、落とし込んでいないままではサドルに対する弦の進入角度があまりよろしくないんです。かといって木製ですから、テールピース本体を薄くしてしまうと強度の問題が出てしまいます。
コレはネジ3本で留まっているだけなので、将来的に他の木材のものに交換することも簡単です。何種類か異なる木材で作っておいて、お客様に選んでもらうのも面白いですね。
──ATの指板インレイ、これはよく見たら4分割されているんですね!とても細かい造りです。
坂本 いろんな反射の仕方をするので、かっこいいかなと思って採用しました。インレイの貝は手作業で削って四つの角が合うようにしていますが、とても大変な作業なので正直「やらなきゃよかったな」と思っています(笑)。
坂本 最初に製作したのがRTとHMでした。この二つはハムバッカーサイズのP-90シングルコイルピックアップ(セイモア・ダンカン製)を搭載するほか、ポットや配線など回路をあえて共通にしています。ボディシェイプやネックグリップも同じで、違いはと言えばボディトップにホンジュラスローズが貼ってあるかどうか、指板がエボニーかマダガスカルローズかの違いしかありません。それでも音にはハッキリと違いが出るんです。実際に鳴らしてみた結果どちらが気に入るか、お客様の反応はきれいに二分しています。
──ネックグリップは非対称なんですね。6弦側が丸く、1弦側が薄くなっていますが、不思議なフィット感があります。また、指板はコンパウンド・ラジアス(円錐指板)になっています。バレーコードが押さえやすいし、チョーキングがしやすいですね。
坂本 僕自身も弾きやすさを感じています。コンパウンド・ラジアス指板は「弦高が下げやすい」と言われますが、それだけではありません。ギターの弦はナット部で43mm、指板エンド部で58mmというように広がっていくテーパーなので、指板を円錐状にするのが理にかなっているんです。これによって、弦とフレットの関係がより自然になります。精度の高い加工ですが、弊社では精密加工できるNCがあるからキッチリ仕上げられます。
──まずはHMです!思わずニヤけてくる、甘さのある骨太のクランチですね!「これぞマホガニー!」って印象です。「ハムバッカーサイズのP-90」は初めての体験ですが、クッキリとした音色で、パワー感も充分ですね。
続いてRTを試奏します!ローズトップのぶん、やはりこっちの方が重量があります。生音からジャラっとした印象のある、やや硬質なサウンドですね。パリっとしたトレブルが豊かなので凶暴なサウンドにもなりますし、セクシーな艶っぽいトーンにもなります。
坂本 指板とトップ材の違いだけで、こんなに違ったキャラクターになるんです。RTのボディでローズ指板のものを試したい、なんていうお客様もいますが、ちょっと待ってもらっています。
──両機とも、トーンの絞り甲斐がありますね。全開にしたストレートな音色、やや絞ったマイルドな音色、もっと絞った甘い音色まで、バンドで使いたいサウンドです。特にRTのトーンがセクシーに感じます。
坂本 僕はレスポールJr.が大好きなんですよ。あれはP-90をリアに一発、ボディに直接マウントしています。「トーンをさわってなんぼ」というギターだと思っているんですが、この両機種はそういうイメージで設計しています。オールマホガニーのHMはストレート感が特徴ですが、聞きなれた安心できる音です。RTはそれにリッチな味をつけるのに成功したとみています。
──続いてATいきます!持った感じはちょっと軽く感じますね。アタックに低域のインパクトが加わっていてガツンと来る、ヴィンテージに肉薄した音色になっている印象です。さすがにこっちはハムバッカーだけあってパワー感があるし、単純に音量もでかいですが、ピックアップが違うとは思えないくらい、「RTの出力を上げたらこうなった」という印象も感じます。やはりホンジュラスマホガニーボディ&ネック、セットネック仕様という木部の特徴がサウンドに大きく反映されているんでしょうか。
坂本 ピックアップはセイモア・ダンカンの’59(SH-1)をセレクトしています。Bizen Worksは木材でサウンドを決定しようとしているので、変にトンガっていない、スタンダードなピックアップを選びました。僕はサウンドの要(かなめ)は木部だと思っているんですが、ピックアップが違っても木部に由来するサウンドはしっかり残っていますね。
バックのマホガニーは一般的なレスポールより若干薄くしていて、RTと同じ程度の重量です。トップは割とシンプルなカービング(削り)にしています。もっとメイプルを残したグラマラスな形状にするとグッと高級感が出るんですが、そこまでやるとマホガニーに対するメイプルの比重が多くなり、音のためには良くないと思っています。
別名「秋の新作」、ATのピックガードは無垢エボニーの削り出し。ジャズギターのような高級感です。
──この3次元的な木製ピックガードが、ものすごくいいですね!滑らかに削られていて触り心地がよく、厚みが十分あって安心できる印象です。3機種とも弦高に存在感のあるセッティングですね。この弦高も太い音色に寄与していると思いますが、下げても大丈夫でしょうか?
坂本 このピックガードはネック側の2.5mmからブリッジ側の6mmまで厚みに変化を出しています。ネック側は割れ防止のため、裏側に1mm厚くらいのメイプルを埋め込んでネジ穴を補強しています。サンプルの弦高は完全に僕の好みですが(笑)、思い切り下げたセッティングも十分にできます。弦高の決め手が「弾き手の好み」だとはいえ、音で言ったらある程度の弦高があったほうが太くて抜ける音色になりやすいですね。
──三機種ともそれぞれにキャラクターがありましたが、太く甘く、はっきりとしたサウンドというトータル的な共通点も印象的でした。このギターのオーダーが入ったら、納期はどれくらいなんでしょうか。
坂本 設計も含めてそれぞれ2カ月ほどで作りましが、もうデータが出来上がっていますから、もっと早く納品できます。いまオーダー頂いたら、寝る間を惜しんで完成させますよ(笑)。
ココボロの板にカーリーメイプルのブランドロゴを組み込んだ、オリジナル表札。驚くほど精度の高い加工です。
──三本ともそれぞれに個性がありながら、サウンド的には統一感を感じるラインナップでした。坂本さん自身「木フェチ」を自称していますが、Bizen Worksのギターは木部で主張するんですね。
坂本 メーカー勤務時代の経験ですが、自分たちの作ったギターで、同じ材料、パーツも同じ、もちろん塗装も同じで30本生産した製品の音が、検品すると本当に一本一本違ったんです。弦高やピックアップのセッティングも数値化されていましたから、全部同じ状態のはずなんです。だけどイイ響きをする個体もあれば、そうじゃない個体もありました。何が違うのかといったら、「木材の個体差」しかないわけです。そのことがあってから、僕はずっと材木の良しあしを特に気にするようにしています。
現在のラインナップでメインに使用するホンジュラスマホガニーについては、仕入れ方などかなり気を使っています。あの三機種の音色が近かったのは、「Bizen Worksの同じ基準をクリアした木材を使ったから」なんです。これが例えば「へヴィな音を出したい」というオーダーがあっても、材木の方でサウンドをコントロールしたギターをお出しすることができます。寸法が同じでも、一本一本あえて違ったキャラクターのギターを作ることだってできます。
ピックアップはどこのメーカーとか、サドルの材質は何とか、パーツ類はお客様の好みで後からでも簡単に交換できます。ところが「木材」というアコースティックな部分を後からどうにかするのは、絶対に不可能です。ですから木部に関しては、「現在手に入る一番いいものだ」と判断したものを届けたいと思っています。
──なるほど!同じ樹種だというだけではなかったんですね。クオリティだけでなく、響かせ方も木材で狙うことができるとは。レスポールタイプのギターは、マホガニーの個性を活かしやすいんでしょうか。
坂本 それはそう思います。上質なホンジュラスマホガニーの良さをいかんなく発揮できるギターを考えて、高級感のあるデザイン、高精度の加工、弾きやすさ、といった特徴を付加して完成したのが、現在のラインナップです。アルダーやアッシュ、メイプル材は最初からボディ用、ネック用として仕入れていますが、ホンジュラスマホガニーについては「フリッチ材(丸太の四方をカットした大きな角材)」で仕入れています。フリッチ材は長くて幅や厚みもありますから、どこをボディに使用するか、ネックに使用するか、という「木取り」が自由にできます。
材木の仕入れは全て、現物を見に行きます。愛知県は材木屋さんが多いですから、行きやすいんです。全て必ず自分の目で見てから仕入れています。そういう意味では東海三県はギターが作りやすい地域だと思いますよ。
公式サイトで紹介されているHM(左)と、塗装を塗り替えた現在のHM(右)。同じギターとは思えない風合いの違いは、テールピースの交換も一役買っています。
坂本 HMはサイト掲載用の商品写真を撮影してからしばらくして塗装をすべて剥がして、色調の違うラッカーで塗り直しています。そして「ヘアライン仕上げ」からさらに二手間ほどかけて、イギリスのアンティーク家具のような「鈍く光る」風合いに仕上げています。これは僕自身がすごく気に入っているので、今後は全モデル共通仕様にするかもしれません。
この塗装はキズが付きやすく、すでにところどころ貫禄が出てきました。ギターは道具だし、こういうものの方が僕の性に合っているんです。これを弾きこんでいくと、自然なツヤが出てきて使い古したイイ感じの顔つきに育っていきますよ。僕としてはこの「落ち着いた、シックにまとめた高級感のある風合い」を持ち味にしていきたいと思っています。RTとATはラッカーのグロス(ツヤツヤ)フィニッシュですが、こちらは経年変化に時間がかかりますし、ヴィンテージギターみたいにクラック(割れ)が入るとなると、まだまだ先の話になりますね。HMの木製テールピースは、撮影時のエボニー製からカーリーメイプルのものに換装しています。弊社は少量生産の工房なので、このような細かな仕様変更のハードルを下げることができます。
坂本 RTについても、この個体のトップ材にはきれいなサップ(白い部分)が走っていますね。白い部分は柔らかくて割れやすいんですが、このようにトップに使用するのは強度的に問題ないし、他にはないこの個体の個性になっています。サンプルのRTとHMにはカーリーメイプルのピックガードが埋まっていますが、現在製作しているものにはキルトメイプルも採用しています。ボディ材、ネック材、指板材といった「核」となる材料を変更するつもりはありませんが、仕様をカッチリと決めてしまわず、手に入った良い材料を積極的に採用する柔軟な姿勢で、一本一本異なったドレスアップを施していくというアプローチも面白いかな、と考えています。
NC加工が済んで、「ヒールキャップ」を接着したネック。ジョイント部も大きく、しっかりしています。
たとえば弊社では「ヒールキャップ」と呼んでいますが、サンプルのヒール部にはエボニーが貼られています。これを別の木材に変更したり、名前を彫ったりインレイを埋めたり、遊び心でさまざまなアレンジができます。
坂本 キルトメイプルやカーリーメイプルの美しい模様の、どこを木取ってピックガードにするかは、透明のテンプレートを当てて検討するわけです。「ココで取りたい!」とか「この辺がイイよね!」とか、そういう相談するのって、とっても楽しいですよ。こういうことを、お客様とやりたいんです。
弊社ではオーダーギターの作業工程はすべてオープンです。進捗を毎週見に来ていただいてもいいんです。指板材にしても、寸法を合わせていても、叩いてみると本当に一枚一枚音が違います。丸一日かけてすべてチェックして、お気に入りの一枚を決めてくれてもいいんです。そういうのって、すっごく楽しいんですよ。完成したギターを気に入って買っていただくのももちろんいいんですが、自分で材料を選んで一本作る、「企画に参加する」という深い楽しさをお客様と共有したいんです。お客様とのやりとりを楽しみたいと思っています。
──どこで木取るか?って考えているだけでワクワクしますね!とっても楽しいです!たとえば「ココがいい!」って言って板材のど真ん中をブチ抜いてしまっても大丈夫なんですか?
坂本 全然問題ありませんよ。端材はバックパネルなどの小さなパーツに活用できます。木目(木の繊維方向)が縦で、杢(浮き出た模様)が横に走っているのが、ギターとしては自然で美しいですね。
次のページでは、NCルーターのお話に続き工房内を案内していただきました。
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