《目指したのは革新的なパッシブサウンド》Providence Guitar訪問インタビュー

[記事公開日]2016/9/15 [最終更新日]2024/8/22
[編集者]神崎聡

providence-interview

「Providence(プロビデンス)」と言えば高品位なケーブルやルーティングシステム、エフェクターなど内外のプロフェッショナルから絶大な支持を集めているブランドです。前身であるDeceiverギターを経て、約2年前から「Providence」ブランドとしてギターの製造をはじめた理由、Providenceギターの特徴など、Providenceブランドをプロデュースする株式会社パシフィクスの奥野猛氏、セットアッパー志村昭三氏のお二人にお話を伺いました。
Providenceのギターについて
Providenceのエフェクター

ケーブルやエフェクター同様、「良い信号周り」を意識して作っています

──Providence Guitarが誕生した経緯を教えてください。

奥野 Providenceってエフェクターやシールドなど電気物のメーカーというイメージが強いと思うんですが、実はギター自体10年近く前から作っていました。最初の内、実験して製作したプロトモデルにDeceiverっていう名前を付けたんです。大々的に商品として売った訳ではないけれど、志村さんと一緒に実験を繰り返して。彼と仕事を続ける中でどんどん商品に自信が持てるようになっていきました。

Providenceの主張、考えがようやく固まった段階で志村さんに「こういう趣旨でギターをやりたいんだけど」って話をしたら志村さんも「じゃあやりましょう」ってなって。その段階で、名前も“Providence Guitar”にしました。志村さんのお陰で堂々とうちのメインブランドにできたんですよね。

奥野猛 株式会社パシフィクス 代表取締役 奥野猛氏

奥野 そもそも、電気物のブランドがギターを作るのってすごい勇気がいるんですよ。だから僕らもProvidenceっていう名前とギターが合うかどうかすごい悩んだ。

ちょっと話が逸れるけど、僕らの製品はケーブルもエフェクターもスイッチャーも、ギターもそうなんだけど「良い信号周り」を意識して作っています。ケーブルは可能な限り良い信号を送るってことをコンセプトにしてるし、エフェクターも音を変えることがメインではあるけれど、元々の音を残していかに変化させるかってことを大事にしている。それはスイッチャーも同じです。

そしてギター。ギターもやるからには当然ギターの木部が持っている大事なポイントを活かすんですけど、結局それも信号周りがジェネレートしている訳です。だからギターにも良い信号を、それが趣旨ですね。その流れでProvidenceっていうメインブランドの名を冠したギターが出来たんですよ。そういった意味では、僕らは“最高の布陣”でギターを作っているつもりです。

セットアッパー志村さんに伺いました

──志村さんにお伺いします。元々ロックバンドのギタリストだったと聞いておりますが、その頃にリペアマンのお仕事を始められたんですか?

志村 そうですね。リペアを始めるというよりも、自分の楽器を自分で直していました。その頃はまだリペアの情報が無い時代でしたね。当時、僕はジミ・ヘンドリクスが大好きで。もちろん今でも好きなんですけど、その影響でアメリカ製のFender®ストラトキャスター®をローンで購入したのですが、彼と同じ音を出そうと思ったんですが中々難しかったんですよ。だから配線をいじったりして、なんとかあの音に近づけようとしました。

──その頃からリペアの知識はお持ちだったんですか?

志村 いいえ独学で覚えました。リペアの本を買ったんですよ。その本にはフレットの削り方とか、木の反り方とか、難しいことが書いてありましたね。

providence-shimura セットアッパー志村昭三氏

──なるほど。それがリペアマンになろうとしたきっかけだった訳ですね。

志村 んー。でも、リペアマンになった大きなきっかけって、実は無いんですよ。元々リペアマンとか、ギタークラフトマンとか、セットアッパーになろうと思ってやってきた訳じゃないので。強いて言うならば、自分の壊れたギターを直してくれるところが無い、仕方が無いから自分でやろう、っていうのがきっかけです。昔トランザムというバンドで活動していた時期があったんですが、その頃僕が知っていたギタリストの連中が、いま超一流になっています。このあと話に出てくる今さん(今剛氏)もそうですし、当時のミュージシャン仲間なんですよ彼は。

──その流れがあって、現在も今さんのギターのセットアップを行うように?

志村 そうです。今さんが自分のギターを僕に直してくれって話で、フレットやナット、ペグを交換したりするようになりました。そして同じようなことをバンド活動をしていた当時のみんな、今となっては著名なミュージシャン達にするようになり、どんどんセットアップ・リペアが本職になっていきました。

志村さんがセットアップしたら、志村さんの音になる

──セットアップの第一人者である志村さんですが。セットアップを行う上でもっとも厳しくチェックしている点、こだわっている点を教えてください。

志村 そうですね、全てにこだわっていると言えます。例えば工具を使ってどこか一カ所を動かすっていう行為自体にも気を配りますし、作業をするにあたって、そのポイントをどこまで追求できるかっていうのも大切にしています。自分が弾いて“一番心地よいチューニング”になるまで作業をしますね。

──そもそも組み込みとセットアップは違うのでしょうか?

志村 同じですね。組み込みっていうのはバラバラになっているギターのパーツを組んでいくということですよね。組んでいく時も当然ですが注意しなければいけないです。例えば、一つのパーツを付けるために穴を開けるとしましょう。穴とパーツの接地面がピッタリと付いているのが一番良い訳ですよ。その方が間違い無く音が良くなる。仮に10mmのシャフトを付けるとして、10mm丁度の穴を開けても実は入らない。微かに余裕を持って穴を開けなければなりません。

今現在、多くのギター工場がNC加工で穴を開けています。機械だから100%正確かと思うところですが、実際にはブレとかあってごく僅かなズレがあったりするんです。だから穴を少しだけ大きく開けます。でも、それでは先ほどお話した穴とパーツの接地面が完全にピッタリとは言えなくなりますよね。出音にも影響してきますし。究極的にいえば、人間の手によって極めて正確に穴を開ければピッタリと接地しますよ。それにより確実に音は良くなる。

──なるほど。では人の手でやるのが間違いないってことですね。

志村 そうです。でも、それをやるかどうかっていうのは別な話になってきますね。例えば、僕一人でゼロからスタートして楽器作りをするのであればやりますよ。シャフトがピッタリ収まるよう、正確に穴を開けます。でも、それを実際にやっていたらコスト的な面で仕事になりません。僕らはまだ立ち上がりの段階だからあれなんですけど、もっとProvidenceのギターを使ってくれるユーザーが増えたり認知度が高まれば、もっと正確に穴を開けて接地できると思いますよ。

奥野 ところで、セットアッパーっていう職業の人って志村さんしかいないんですよね(笑)初のセットアッパー。僕らもそういうった意味でセットアップっていう言葉を強調していて、そういった職業があっても良いんじゃないかと思っています。どんなビルダーさんが作ったギターでも、最後志村さんがセットアップをしたら志村さんの音になると思いますよ。

──それくらい最終調整が大事だということですね。

奥野 そうですね。志村さんが求める音に出来るっていうことは、逆を言えばクライアントさんが求める音にも出来るっていうことだから。

独自のタップトーン選定法について

──志村さんは木材を選ぶ際にタップトーン選定法という独自の手法を取られているそうですが、具体的にどのような方法なのか教えてください。

志村 簡単に言えば“木自体の振動”の伝わりチェック”するということです。これは板材の状態で行います。ボディ材なり、ネック材になる前の。それをコンコンと叩いて“音がどの方向に向かって通過するか”をチェックする訳ですね。目の前にある板材をどの部分に使用すれば良いかハッキリした方が良いんじゃないかと考えて、それを確立するために編み出した感じです。

──なるほど。具体的なやり方を教えて頂けますか?

志村 やり方としては、木を耳に付けて叩いてみる。そして、叩いた方の源からどういう風に振動が伝わって来るのかを確認します。それを裏表、左右、上下で試してみる訳です。「キンッ…」っていう倍音が伝わってくるのをチェックしたら、その材のブリッジ側に使用するのか、ネック側に使用するのか決めます。

奥野 一般的には正目っていうのを見て、ネックとブリッジどっちにするのか決める訳じゃないですか。もちろんそれも見てるんだけど、志村さんは音の伝わり方からどちらの方向に向いてる材なのか見極めてるいるんですよね。

志村 この方法は古くはバイオリンの製作から使われていたそうです。例えば、ストラディヴァリウスってありますよね。製作者のアントニオ・ストラディヴァリっていう人が一番の凄腕だったらしいのですが、それを研究しているチームがあって。その人達によると、アントニオが製作したバイオリンは裏板の厚さが1〜2センチ平方メートルおきに違うんだそうです。ここは厚い、ここは薄いみたいな。つまり「音の通過を確かめて製作した跡があった」と。それに気づいた時僕はゾッとしましたね。木のことについて勉強しようと思ったのはそういうきっかけもありました。

──でもそれを身に付けるには相当な訓練が必要ではないでしょうか?

志村 そうですね。材を相当叩いて訓練しないと分からない。僕も身に付けるまで何年もかかりましたし。

──ちなみに、Providenceのギターやベースにも全てタップトーン選定法を採用してるんですよね?

志村 もちろんです。僕が木材を保管している工場に直接出向いて選定しています。コンコンと叩いて「この材はこっちがブリッジ側、こっちがネック側で」みたいに矢印を書いて。それが例えば、材料を本来向けるべき方向と逆にして使ってしまうと逆相みたいになって、それこそ変な音になってしまいます。特にベースなんかはモロにそれが出てしまう。いわゆる“ハズレ”になっちゃうんです。それを無くすためにもタップトーン選定法は欠かせないですし、もし身につけたいのであれば、何年もかけて訓練するしかないですね。実際に試してもらうと良いと思います。この選定法を使うと材料を無駄にすることが無くなるし、それが結果的にエコに繋がる。良い材料をちゃんと使って、ロスが無いように仕事すれば良い音が出る訳ですよ。コスト的にも材料的にも良いことですよね。

奥野 エコの話が出たけど、これはとても大切なことでしてね。そもそも、ギターやベースに使われているものが“木”だっていうことを考えなければならない。木を切って、命を頂いてて、それをゴミにするのかと。資源にも限りがありますからね。

ギター製作でこだわっている点

──志村さんがギターという楽器を製作する上で、どのような点にこだわっているのでしょうか?

志村 これはね、究極的なことを言うと“ポップな物”ですよね。

──ポップ?

志村 ええ。ものすごいポップなもの。キャッチーとも言えるかな。“きゃりーぱみゅぱみゅ”みたいな(笑)彼女はとてもポップですよ!僕が言ってるのはポップス音楽に使う楽器ってことじゃなくて“存在がポップ”ってことですね。キャッチーな物じゃなければダメなんですよ。やっぱり。エレキギターは木で作られている訳ですけど、この50年の歴史の中でほぼ完成されています。この見慣れた形状も、他には変えられない訳ですよ。けれども、それをよりポップな物にしていかなければならないと思っています。“ポップ”で良い音が出るギター。ストラトキャスター®とかレスポール®とかテレキャスター®に準じない、まったく別の路線の物。でもちゃんとギターの音がするみたいな。もし僕がもうちょっと頑張って少しでも名を残せれば、ポップなギターを作る一端を担えるんじゃないかなと思っています。

Providenceギターを試奏させてもらいました!

続いてProvidenceギターを弾かせていただきました。まずは今剛氏のシグネチャーモデルであるDesperadoです。

今剛氏シグネチャーモデル:Desperado

providence-desperado-RMBK

──アクティブギターって感じの音がしないですね!殆どパッシブとの違いがわからないです。クリーンもハムとは思えないほど澄み切っています。ボディもちょっと薄い感じがします。

奥野 ある意味ディンキー的、だから完全なストラトキャスター®タイプじゃないですよ。

──ボディはアッシュですよね?アルダーにはされなかったんですか?

志村 そうです。アッシュの方が音の立ちが良いので。実はうちってアルダーボディのモデルはあまり無いんですよね。

──このギターは今さんの要望が全て反映されているとのことですが、具体的にはどのようなリクエストがあったのでしょうか?

志村 一番言われたのはネックですよね。彼は手が大きいのですが、比較的細めでスムースなネックを好みます。SPERZEL社のペグ、ミディアムジャンボのフレットも彼のリクエストで採用しています。指板のラディアス(R)もフラットに近いんですが、これによって一弦のチョーキングがとても綺麗になります。彼は一弦でキメますから、“一弦の落ち”にはシビアです。指が大きいからビブラートが強いので、一弦の落ちをすごく嫌がるんですよ。ネックにしっかりエッジを残して、綺麗に丸く仕上げれば弦落ちしにくくなります。彼はそういうところに拘っていて、それがこのギターには反映させていますね。

providence-guitar-edge

志村 あと、触ってしまうのが嫌だっていうので、コントロールの位置を10mm以上はエンドの方にずらしています。カラーリングについてはいくつも言われました。「このラメで何種類も欲しい」みたいな。ピックアップはJ.M.RolphのP.A.Fタイプモデル、これはすごく良いピックアップですよ。元々コイルタップ機能は無いのですが、今さんに「付けて」って言われて、どのような現場でも使えるように特別に作りました。彼のすごい所はその場ですぐそのギターに合った音を作ってしまうことです。

奥野 一つのことを追求したら全て玄人のレベルまで持ってしまう人ですからね。だから僕ら何か質問されても、今さんの方が知っていること一杯あるから、知ったかぶりなんて出来ないですよ。分からないことは「分からない」って言うしかない。下手なこと言ったらバレちゃうから(笑)

21世紀のテレキャスター®:Heartbreakerシリーズ

headbreaker-aH102TRSC Heartbreaker® aH-102TRSC

──Desperadoは今さんのシグネチャーモデルですが、Heartbreakerはどういったきっかけで作られたんですか?

奥野 これはDeceiver時代に僕がデザインしたものをグラフィックにして、メーカーに持って行って作ってもらいました。ただ大元となったギターに戦闘力が無いって話になって、志村さんに相談した訳ですよ。その結果出来たのがHeartbreakerです。

このギターを作るきっかけとなったのが「そもそもなぜボーカルギターの人達の多くが今でもテレキャスター®を使っているんだろう」と思ったこと。多くのギターボーカルの人がコードを弾きながら歌って、ソロセクションに入ったらテレキャスター®でリードを弾く訳ですよね。古くからそうだったし、21世紀になった今も行われているんですが何も変わらない。本当にそれで良いのか?21世紀の今の時代に合ったテレキャスター®があっても良いのではないかと思い、作ったのがこのHeartbreakerなんです。

例えば桑田佳祐さん。彼はボーカリストで、基本的にはカッティングをしているんですけど、実はリードプレイがめちゃくちゃ上手いですよね。ギターソロ弾いたらすごい訳ですよ。仮にバンドの中で桑田さん以外ギターが弾ける人がいなかったとして、ソロの時に自分しか弾く人がいないってなったら、このモデルを使えばパワフルなソロが弾ける。普通のテレキャスター®的にも使えるけど、カッティングもいざとなったらリードも、どっちもいけちゃう、本当の意味で戦闘力を備えています。

──確かに、このモデルはすごいパワーがありますね。ネックも思ったより細い。あとピックアップの位置が独特ですね。

志村 ピックアップのデザインはKariya Pickupsの刈谷くんにお願いしたのですが、良い音に仕上がっています。フロントPUはかなりネック寄りになっています。このピックアップを選んだ理由ですが、そもそもこのギターはテレキャスター®に近いルックスということもあって、本来ならハムバッカーを2つと言いたいところですが、そうするとボディとの兼ね合いで野暮ったくなってしまうんです。ピックアップの位置を変えることで、一見テレキャスター®だけどよく見ると違う、「あれは何だろう?」ってなりますから。奥野さんのデザインもしっかり出来ています。

headbreaker-aH102TRSC_2

aH-102TRSC-detail

奥野 ヘッドウェイは本当に難しいですからね。ちょっと線が狂っただけで全然違う物になってしまうし、何かしら既存のギターに似てしまいます。だから出来る限り格好良くして、バランスも良いギターにするよう意識はしています。さっき志村さんが言った“ポップ”っていうことにも通じますよね。そして僕が言う“21世紀のテレキャスター®”っていう要素も一致した訳ですよ。

──六弦の張力を整えるための工夫も施されているんですよね?

奥野 結論から言えば、これはチューニングの狂いを限りなく抑えるための工夫です。具体的には、ナットの0フレットの位置からストリングポストの芯の位置まで出来るだけ短くしているんですよ。しかし、あまり寄せるとルックスがおかしくなるんですよね。2~3mm動かしただけで変になってしまう。そこも加味して、全体のバランスがおかしくならないように、6弦の0フレットにギリギリまで寄せたんですね。これでチューニングの安定感が向上します。

志村 改良した物を今さんに弾いてもらった時に「面白い、全然良いよこれで!」と言ってもらいました。

プレイヤーのストレスについて

──Providenceが考えるプレイヤーのストレスとはどのようなものでしょう?

奥野 例えば、高性能で音が良いエフェクターがあったとして、その反面使い方を一生懸命覚えなきゃいけない物ってどうでしょうか。色々なことをやりたいけど、出来るだけシンプルな物の方が良いと思うんです。例えばうちで言うと、スイッチャーのPECっていうシリーズがあるんですが、あれなんかは直感的に操作出来るように作られています。そういう例もあれば、Vitalizerなんかもあります。Vitalizerは大きな概念で言えばこれはバッファーですけど、独自なバッファーと言った方が良いかな。
Vitalizerについて詳しくはこちら

奥野 一般的なバッファーはパッシブギターが持っている音をアクティブ臭くしてしまうことが多いです。言い換えれば、パッシブギターの良さを殺してしまっている訳です。Vitalizerっていうのはすごく極端な言い方をすると“パッシブの音がするアクティブ信号”なんですよ。ギターの木の個性やプレイヤーのニュアンスを残しながらローインピーダンスになる。回路を通してもプレイヤーが思っている通りの音になるから、プレイヤーのストレスが一つ解消される訳です。

そしてもう一つ、音抜けが良くなります。例えばですけど、音が抜けてこないとステージ上でアンプのボリュームを上げたりしませんか?そうすると、アンサンブルが崩れるから横のギタリストもベーシストもボリュームを上げますよね。全体としておかしくなってしまう。それと同時に、音が抜けないとどうしてもピッキングに力が入りますよね。それがVitalizerを通すと普通に抜けてくるからピッキングに力を入れる必要が無くなる。つまり、ステージ上での疲れも違ってくるんです。ステージに長時間立って演奏するのは体力が要るから、そこが軽減されるのも大きいですし、そういうのもストレスだと思ってるので。こういうプレイヤーのストレスを無くす要素をたくさん兼ね備えているから、結果的に“弾きやすいギター”になっています。

ステージ側に立ってオーディエンスを喜ばせている人って、みんなを喜ばせてあげたり、元気にしてあげたり、そういう人達って他の人には出来ないスキル、特殊技能を持っていると思うんですよ。その人達がさっき言ったスイッチャーの使い方がどうだとか、エフェクターはどうやるんだろうとか、頭を悩ませてしまったらどうでしょう。相手を元気にさせようとしているのに自分が疲れてしまいますよね。これでは彼らが持っている良い物がお客さんに伝わらないと思う。そんな時、プレイヤーの人達が細かいことは一切考えなくていい、つまりストレスを感じない環境にすることができたら良いですよね。それがProvidenceの考え方。個々の製品が良いっていうのは大事。でも、トータルで言えばプレイヤーが持っている素晴らしい物を100%出し切って貰いたいのが僕らの思いなんです。

志村 他にもプレイヤーのストレスって色々ありますよ。操作性やノイズなんかもそうですし、“ルックス”もですよね。「どうしてもこのギターが好きなんだけど、ハイポジションが弾きにくいんだよなぁ」っていうのもある種のストレスです。例えばGIBSON ES-335がなぜかつてあれだけ流行ったかというと、ピッキングがとても良いんですよ。良いところに竿の位置が来るし、ハイポジションも弾きやすい。そして長時間座って弾ける。といっても、ハードロックには使えない訳ですよね。セミホロウだからハウリングを起こしてしまう。それも逆に言うとストレスになりますよね。セミアコっていうギターがとても好きだ、でもハードロックをやってる自分には使えない、みたいな。あくまで例え話ですが、じゃあそれをどういう風にしていこうか?っていう鬩ぎ合いが、今僕らがやっているようなことなんです。

奥野 ノイズに関してもそうですよね、突き詰めていけばノイズって結構深刻な問題になりますから。僕らにはケーブルやエフェクターを開発してきた経緯があるから、ノイズを“無くす”のではなく、ノイズを“入れない”っていうところから入ります。元々無ければ良い話だから。元のノイズが無くて、さらに入れないってことをやっていくことで、皆さんが弾いている時にストレスが無くなると思ってる。

providence-effect-cable Providenceケーブルやエフェクター

繰り返すように僕らに対してエレクトリックのイメージを持たれている方が多いと思います。エフェクターとかスイッチャーですね。だけど、ギターに関しては木部の方もちゃんと考えているし、プレイヤーのストレスを無くすこともしっかり考えている。その点は意識が強いんじゃないかなと思います。

セットアッパーを目指す人へのアドバイス

──どうすれば志村さんのようなセットアッパーになることが出来るのでしょう?

志村 “欲がある人”がいいですね。何でも貪欲に行って欲しい。しっかりチューニングして、音がピッタリ同調するまで追い込んで欲しい。これは当たり前のように思えますが、本当にピッタリ合わせるのって、始めのうちはきつい作業なんですよ。同調している確証が得れているか得れていないかが重要ですね。

──ピッタリ合わせるってとても難しいですよね。

志村 例えば高音域ってありますけど「このポイントが本当に高音域なのか?」っていうことを、自分の耳が分かっていなくてはならない。自分なりの確証を得るためにはものすごく勉強しなければなりませんし、それまでには壁がたくさんあるので、乗り越えるためにはどうすれば良いのかよく考えるのが大切です。

──オススメの勉強法はありますか?

志村 毎日チューニングすることですね。メーターを見ないで。それを続けることで、自分の耳だけでチューニングできるようになります。もちろん今は僕もそんなことはやってないですよ。でも、本当に鍛錬したいのであれば、音は毎日聴いた方がいいですね。そして、確証が得れるまで、ものすごく深く追求してく。この二つが重要だと思います。

普段行っている業務について

──志村さんは普段どのような業務をされているのでしょうか?

志村 出荷前のギターやベースをセットアップしています。うちに入荷した段階ではオクターブも取ってないし弦高も調整されていませんから。後は楽器のリペアもしています。それこそ今さんのギターを修理したり。彼が持っているProvidenceのギターは10数本いってますから。中でもフレットを変える作業が多いですね。結局の話、“弦に関わっているところ”が肝な訳ですよ。ペグ、ヘッドストック、ナットの接着の仕方、後はネックですよね。指板、ブリッジ、フレットもありますが。こういった弦に関わるところを細かくセットしていきます。弦を一本一本弾いて、チューニングの安定感や音のまとまりを感じるところまではやりますよね。殆どが一つになるまではやる。それをほぼ毎日繰り返しでやっている訳です。

個人的な話ではあるのですが、自宅の一室をリペアルームに改造して、僕の仕事場にしています。そこで預かった物をセットアップします。その他僕が立ち上げた“SS Guitar”っていうブランドの作業をしています。SS Guitarを持ってる最近の若い人達がすごい活躍してましてね。具体的なアーティスト名は出せないのですが(笑)元々は彼等の楽器を直すことから始まって、それがきっかけで僕のギターを買ってくれたり。若かった彼等がみるみる間に偉くなってしまって(笑)後は学校の先生ですね。これが結構ね、大変なんですよ(笑)まぁでも、若い子達に教えるっていうのは面白いですね。未来の僕の弟子達が活躍してくれれば面白いし。

売れるものを作りたい、でもそれ以上に“作る喜び”が大切

──苦労話や嬉しかった思い出話など教えてください

志村 そうですね。色々ありますけどやっぱり、こうやってブランドを立ち上げて活動できるのは楽しいし、嬉しいことですよね。こういう業界にいる以上、あーでもないこーでもないってみんなで考えて作った物が、ミュージシャンの人達に「これ良い音するね!」って言われると、やったな!って思いますよね。嬉しいですよ。僕も奥野さんもそうなんですけど研究好きなんですよ。二人であーじゃない、こーじゃないって言いながら研究していると、すごい根幹を見い出したりするんですよね。Sadowskyのベースとか。

奥野 あれは面白かったですよね。

志村 うん、あれはすごい面白かった。
Sadowskyのベースを分解していろいろ研究したことがありましてね。その結果「Sadowskyはとんでもないくらい研究している」ってことがわかりました。SadowskyはFender®を徹底的に研究して「Fender®っていう物の根幹」を理解した上で、楽器作りに反映していたんですよ。ちゃんと“Fender®っていう物の根幹”を知らないとあの音は出せないです。

──Fender®ですか?

奥野 そうですね。僕らそこに気づいちゃったよね?

志村 そう、気づいた時二人で目を合わせてね。おー!って(笑)

okuno-shimura

奥野 Sadowskyを尊敬しましたよね。

志村 尊敬したね!本当に良い意味で!逆に「やられた!やっぱり研究してたんだ!」っていうのもありましたね。でも、僕らが研究をしなかったら、この明確になった考えは出てこなかった訳だから。だから、そういう研究を重ねてやってきたブランドなんですよ。このProvidenceは。

奥野 あのSadowskyへの研究があったからこそ、僕らの楽器に対する考え方が明確になったっていうのはあります。人がなんと言おうが、僕らはこういう考え方だよっていうのが。そういうの発見した時は楽しいですよね。

志村 楽しいねー、やっぱりそれは面白いよ。

奥野 そうするとやっぱり元気になりますよ。と言っても、そのまんま同じことをやってもしょうがないから、色々試行錯誤。物作り全てに言えるけど、そこは楽しいですよね。本当に。売れる物を作りたいですけどね?やっぱり売れて欲しいし。でもそれ以上に“作る喜び”っていうのが大事だから。みんなにオススメしたい気持ちになるからね。そういうのが“幸せ”ですよね。僕らにとって。


日本を代表するギタリストである今剛氏がその実力を認めたProvidence Guitar。
プロビデンスブランドとしては2年とまだ日が浅いものの、Deceiverブランドの時代を含め10年以上前からギターの開発をしていたため、リリースするモデル一本一本が高いクオリティを誇り、同時にプレイヤー目線を大切にした素晴らしいギターに仕上がっています。今現在、エレキギターは受注生産となっているため見かける機会が少ないかもしれません。ですが、もし触れるチャンスがありましたら、是非一度試してみることをオススメします。今剛氏が認めた理由は一体何なのか?それをあなたの耳と感覚で確かめてみてください。

※当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品を紹介しています。