《一人ひとりに届けたい》T’s Guitars訪問インタビュー

[記事公開日]2016/7/17 [最終更新日]2017/8/15
[編集者]神崎聡

木材に関することを、あれこれ聞いてみました。

──木材の仕入れについてですが、やはり良材を手に入れるのには苦労しますか?

マダガスカルローズ ティーズギターの木材保管庫

高橋 ティーズでは、主に北米や中南米の木材を仕入れています。遠くから運ばれてくるものですから、ある程度相手の木材業者を信用して取引しなければならないんですけど、幸いにして弊社は信頼できるパートナーと言える材木屋さんと複数取り引きさせていただいております。ただし、値上がりは懸念材料ですね。ちょうど今は円高ドル安なのでいいんですが、景気の良しあしに影響されます。

トップのメイプルはふんだんに流通しており、値段が高くても仕入れることはできます。しかしある時ホンジュラスマホガニーが入手困難になり、もう日本には入ってこないんじゃないかと急に言われてしまいました。日本中問い合わせてかき集めたんですが、ここ最近こういう危機は頻繁にあります。今後ますますいろいろな材木が大変になっていくだろう、ということは覚悟しています。

──長野県と言えばヒノキというイメージがありますが、日本の木材は使用できませんか?

高橋 選んでいけば使えないこともないと思うんですが、今のところニーズがありません。未来にはそうせざるを得なくなってくるでしょうし、大手ではそういうトライをしているところもあるでしょうが、まだ定番にはなっていませんよね。また、日本の木は人件費がかかる分だけ逆に高いんです。

──新人の職人が、完成品を想定して「木取り」ができるようになるまでに、どれくらいの期間がかかりますか?

高橋 自分が材料を仕入れるところから最終的に完成するまでを見続けることができれば、割と早いと思うんです。1~2年でも十分わかってきます。しかし現在、弊社はチームごとに作業を進めておりますので、全員がすべての工程を行う訳ではありません。たとえば木を選ぶ人は仕事を通して木の選び方を学んでいきますが、完成品になったものの音を聞くところまではそのセクションではやりません。しかし順繰りに何年もかけていろいろなセクションに携わっていくことで、全体が見えるようになってきます。

幸いOEMも請けているので、全体で毎月80から100本くらいのギターを生産しています。楽器にも木にも多く接しているので、木材の傾向はつかみやすいと思いますよ。5年10年かかるとは思いますが、得られる情報量は多いので、深みがあると思います。

木材をタップして音を聞いているビルダーの写真をみて「うそだろー」なんて思っていた時期もあったんですが(笑)、だんだんやっていくと解ってくるもので、「じゃ、カタいのを集めてやってみようか」ってやると「なるほど」って感じになります。オーダーメイドは、ほぼ裏切らずにお客様の要望に応えることができます。

日々のお仕事についてお聞きしました。

──日常的にはどんなお仕事をしていますか?

高橋 一番時間がかかるのは弊社にお問い合わせをいただいているメールへの返信で、次に公式ウェブサイトの更新です。オーダーメイドに関するお問い合わせが一番多いですね。PCの前に半日以上座っていますよ。多い日には夕方までメール対応して、それから作業に入ることもあります。ここ1~2年OEMに関してはベテラン社員に応対してもらっていますから、僕はだんだん「ティーズギター」というブランドに集中できるようになっています。ティーズへの問い合わせは、今のところ従業員に任せてはいません。

社員の指導や製品チェックはもちろんしますが、今はベテランが多いので大半のことを任せることができます。製造の方針の相談は逐次しています。それと自分の担当しているセットアップなどの作業があります。

平日は工場にいて、土日は楽器屋さんのイベントに赴いて、なんてことを僕はしています。社長自ら営業する、というと凄いことに思えるかもしれませんが、滅相もありません。自分で作っては楽器店に行って売り込んでいった、という立ち上げ当初のやり方をそのまま続けているだけ、というつもりでいます。

日本各地でお客さんの話を聞くのは楽しいですね。ティーズギタークリニックと言いながら、お客さんと一緒になってギターの話をしているだけだったりすることもあります(笑)。全国といっても取引のない楽器店も多いので、まだまだこれからだと思っています。卸売業者さんからも問い合わせがあるんですが、なるべくお店とダイレクトにお付き合いしたいと思っています。お客様の様子がわかるようなところでやりたいと思っているからです。

──仕事の上で感銘を受けた思い出はありますか?

高橋 いろんな人と出会うことができました。自分がテレビで見ていたような人とも対面できたり、一緒に仕事ができたりするのは光栄に思っています。アーティスト本人にギターを手渡ししたこともありますよ。

自分が工房を始めたばかりの時にお世話になった業者さんに次の仕事をもらって、というように今まで続いています。その人と知り合ったことが発展して現在がある、というように「人」で繋がっているんです。人を裏切らないようにやっていけば、これは業者でもお客様でも同様に、評価してもらえる、続けていけるという心構えを、とても大事に感じています。

お客様はおそらく一生もののつもりで、40万円台もの高額なギターをオーダーなさいます。僕たちはその想いを受け止めながら、半年もかけてギターを作ります。そんなギターをお納めして、喜んでもらう時が一番感動します。

──ティーズで求人を出すとしたら、どんな人材に来てほしいですか?

T's Guitars 30周年記念キーホルダー Arc と DST を模した30周年記念キーホルダー
トップ材とバック材を貼り合わせて塗装して
インレイも入れるなど、手間のかかった仕上がり

高橋 ギター好きはもちろんですが、プラスアルファで何かできる人がいると助かります。PCだったりプランニングだったり、営業もそうですね。「人と付き合うのが苦手なのでモノを作る」という人が多いかもしれませんが、それでは結局うまくいきません。いいものは作れるでしょうけど、そのいいものをどこかに広めたり薦めたり、また買ってもらったりというように、人を相手にしなければなりません。これは作るよりもはるかに大変なんです。そういうことも必要なんだよ、ということを分かった上で来てもらうのが一番です。

ギターの製造技術はもちろんですが、それだけじゃなくて社会人として経営のことも考えたり、選挙や経済に関心があったりする視野を持って、人に使ってもらって社会に役立つような仕事をしないといけないと思います。自分の世界でギターを作るだけじゃなくて、人のために何かができる、というメンタルがある「人」がほしいですね。

ギターの仕事をするんだったら、英語は必須です。流暢にしゃべれる必要はないですが、エレキギターはもともとアメリカ起源で、最先端はアメリカですから、アメリカを分からないとそれ以上にはいけません。これはギターに限らず、どの仕事でも英語はいりますね。

独立していく職人もゼロではありませんが、多くの職人が弊社にとどまってくれています。ギター製作学校から弊社に来る人がほとんどで、県外出身が多いものですから、実家の事情で地元に帰らなければならない人はいます。15人の社員は全員職人で、営業を行うのは僕だけです。現在では10年以上の職人が半分近くを占めています。

──ティーズギターは、これから何を目指しますか?

高橋 今年55歳になりますが、このあと10年20年、なるべく長くやっていきたいと思っています。お客さんに対しては、いつも思っていることと変わらず「一本一本を届けたい」と思っています。量販品ではなく、一本一本をそれぞれのお客さんにお渡ししていきたい。どの人も、どれだけの思いで弊社のギターを買っていってくださるのか。その想いに仕事でお返しする、そういうお付き合いを広めていきたいです。だからこそ、それを裏切らないために、技術の裏付けや気持ちが必要だと思っています。

──休日はどのように過ごしていますか?

高橋 仕事に行っています(笑)。家に帰って暇なら会社に行く、なんてことをやってます。唯一の趣味は自転車ですかね。

以上、ティーズギター社長の高橋氏に、製品の機能や特徴、仕事に対する思いなどさまざまなお話をお伺いしました。経営者でありながらも職人であり続け、仕事に対する真摯な姿勢を絶やさない高橋社長の姿がお伝えできたでしょうか。
さて次は、高橋社長の案内でいよいよ工場を拝見します。

ティーズギター工場見学!

取材当日は10名程のスタッフの皆様がお仕事中で、昼休みに入ってしまったにも関わらずこちらからの質問に丁寧に応対いただきました。皆様本当にありがとうございました!

ts-guitar-ukulele まずは2階。ウクレレを作る工房になっている

高橋 木工は1階で、2階ではウクレレを作っています。これまではOEM中心でしたが、去年からこれに加えて「カクマエ」という自社ブランドを立ち上げました。ここ「角前工業団地」がブランド名の由来で、ティーズギターとは別サイトで紹介しています。

T's Guitars1階部分 1階

高橋 この部屋だけで、加工が全部できます。ティーズのギターもOEMもここで作ります。奥には小型のNCルーターが一台だけあります。軸は一本で、一台ずつ作ります。数がまとまるものはNCで処理することが多いですね。ネックについてもトラスロッドを埋め込む溝など正確な直線が必要な工程には、これを使って精度を保っています。

ts-artist-model 制作途中のアーティストモデル。インレイが美しい

roasted-maple ローステッドメイプルのネック
柾目(まさめ)のメイプルは木目が通って狂いにくいが、トラ目やバーズアイのメイプルは木目が通っていないため狂いやすい(バーズアイならなおさら)。狂いやすい材料をローストすることで、狂いやすい原因を取り除いているのだそう。こんがりローストしているので、香ばしい匂いがします。

塗装ブース 塗装ブース:ホコリなどが入らないように扉はキッチリ閉めます。

ベルトサンダー 研摩で使用するベルトサンダー

ts-guitar-kumikomi-heya セットアップ専用の作業場。以前は修理も行っていたらしく、名残で色々なネックが吊ってある。最後の調整をここで済ませ、梱包して、出荷する。

レギュラーラインのArc レギュラーの Arc。生産台数は月に4〜6本とか。

高橋 乾燥釜では、指板材などを乾燥させます。そんなに大きくはないんですが、弊社が使うには充分なサイズです。ボディ材やネック材はもともと乾燥させたものを仕入れているのですが、指板だけは半分乾燥させたようなものを買ってきており、これで最終乾燥します。指板は特に重視しているので、自分の所で確実に仕上げたいんです。

木材好きの皆さん、お待たせしました。木材の保管庫に潜入!

木材の保管庫

高橋 ここだけ壁が厚くなっており、温度や湿度など内部のコンディションを安定させようとしています。ネック材は荒っぽく加工して、スタンバイしています。それぞれが重ならないように、木を挟んで浮かせ、風が通るようになっています。粗加工から2~3ヶ月置きますが、それだけでも狂いが違ってきます。ココへ来て材料を選び、コレとコレとコレを合わせたらイイなー、って妄想するのは楽しいです。コレが休日の過ごし方ですね(笑)。

ハカランダの指板材 木材マニア垂涎の的:ハカランダ材が積まれている。

高橋 指板用のハカランダもキープしています。ココにあるのは向こう2~3ヶ月で使用するもので、別の保管庫にはあと10年分くらいあります。「個人的にお気に入りの杢は?」ってよく訊かれますが、このへんみんなそうです(笑)。気に入っている杢の材も、惜しみなく製品に使います。

masame-zai 10年以上前に仕入れたであろう柾目材が。

アッシュ材 アッシュ材:重さが記載してある

高橋 この辺りにはアッシュをまとめていますが、入ってくると全部重さを測って、どこから入ってきたか、日付、重さを記載して仕分けしています。アッシュの重さにはばらつきがありますが、オーダーごとに重たいのがいい人、軽いのがいい人などに向けて使用するものを選び出します。1ピース材もありますが、どうしてもフシが入ったりするので、そこをうまく外してボディを切り出します。たくさんある中から、極端に軽いものは自社用にキープします。Selectedと書いてあるものはオーダー用です。弊社はOEM用にたくさん仕入れているので、普通なら厳選して少量仕入れるから高くなる所を、比較的低価格で仕入れることが出来ます。そのぶんパーツの計測などで、職人に働いてもらっています。

トップに使用するメイプルはふんだんにありますが、良材が出た時にしっかりと仕入れます。今ここには2年分くらいはありますね。

バックアイ バックアイの2枚板

高橋 コレはバックアイです。ブルーチーズみたいですね。坑があいている所を同じ材で形を合わせて埋めて使いますから、結構手間がかかります。ベースでよく使われますが、黒っぽい所が製品になると緑色っぽくなります。コレは日本名で言うとトチの根っこなんです。

aqua-tinber キルテッドメイプルの2枚板:実に美しい!

高橋 キルテッドメイプルの他に、タイムレスティンバー(アクアティンバー)もあります。それは Sugi Guitars さんが輸入しており、弊社はスギから仕入れています。このような工房同士のコラボレーションもあるんです。


以上、ティーズのギターが作られる工場を拝見しました。冒頭で高橋社長がおっしゃっていた通り、工場に配備されている工作機械に特別なものはない印象でした。機械の性能に頼り切らず、あくまでも人間の仕事にこだわり、良い材料を惜しまず製品に使用するという高橋社長の姿勢には、昔ながらの職人気質を強く感じました。そんな高橋社長が自ら最終セットアップをバッチリ済ませたティーズのギター、お店で見かけたら是非手にとってみてください。
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