《生産完了》Fender American Special Stratocaster徹底分析

[記事公開日]2016/5/5 [最終更新日]2024/8/22
[編集者]神崎聡

アメリカン・スペシャル・ストラトキャスター

「フェンダー・アメリカンスペシャル・ストラトキャスター(以下、アメスペ)」は、『より多くの人たちに「MADE IN USA」を感じて欲しい』というコンセプトのもとで開発された、カリフォルニアのコロナ工場で生産される「アメリカンシリーズ」において最も求めやすい価格帯のストラトキャスターです。

価格が抑えられているとはいえ、アメリカンシリーズ内でもこのシリーズにしかない仕様があり、一台のストラトキャスターとしてしっかりとした個性が与えられています。今回は、このアメスペにスポットを当ててみましょう。

※現在アメスペは生産完了となり、後継機種に当たるアメリカン・パフォーマー・シリーズが2019年からリリースされています。

《使いやすく、弾きやすい》Fender American Performer Stratocaster


Bonnie Raitt – Storm Warning
「妖艶」という表現がよく似合う、ボニー・レイット女史。デビュー以来苦節十余年、40歳にしてリリースしたアルバム『Nick Of Time』で初めてグラミー賞を受賞した、スライドギターの名手です。フェンダーから彼女のシグネイチャーモデルも発売されていましたが、ラージヘッド、ジャンボフレット、テキサススペシャルピックアップ、という主だった仕様がアメスペに引き継がれています。

アメリカン・スペシャルの特徴

70年代風の外観

american-special-strato-headアメリカン・スペシャル・ストラトのヘッド部分

アメスペのヘッドは、アメリカンシリーズの中では唯一となる、70年代を象徴する「ラージヘッド」仕様です。ヘッド重量がアップすると低音域が引き締まり、高音域が煌びやかな「ハイファイなトーン」になるという効果があり、この時代はギブソンのギターでもヘッドは大きくなっていました。ヴィンテージスタイルのギターとは違った方向性を持っていたこともあり、ラージヘッドのトーンは定番化こそしなかったものの、時代を象徴するスタイルとして、またハイゲインなアンプや多彩なエフェクタを使用する現代の音楽にフィットする仕様として、現代に受け継がれています。

このほかにも、

  • 現代風の「T」型に変更しながらも、二つのストリングガイドを配置
  • 70年代風のヘッドロゴ

というところで70年代のテイストを演出しています。

american-special-strato-back

しかしながら

  • ヘッド側に開口部のあるトラスロッドは穴があいているのみ(70年代仕様はブレット・トラスロッド)
  • ネックジョイントは、他モデル同様4点留め(70年代は3点留め)
  • 堅牢なロトマチックペグ(70年代は「Fキー」ペグ)

というように、ヘッドの意匠以外のディテールは現代のスタンダードな仕様を踏襲しています。


Fender American Special Guitars

絞り甲斐のあるトーン

アメスペに採用されているトーン回路は二つとも「Fender Greasebucket Tone Circuit」という特殊なもので、トーンを絞ったときのサウンドを聞こえやすくする効果があります。
通常のトーン回路は高音域を絞ることでサウンドを甘く丸くしていきますが、残された低音域が膨らんで聞こえてしまいがちになります。グレースバッカー・トーン回路は高域を絞っていくのに連動して低域もバランスよく抑え、トーンを絞りきった「ウーマントーン」でもくっきりとした輪郭を残すことができます。

通常のストラトキャスターのトーンは、フロントとセンターそれぞれのピックアップに一つずつ設けられます。アメリカンシリーズでは、センターのトーンがリアにも効くようになっています。それに対してアメスペのトーンはフロントとリアにのみ効くようになっており、センターには効きません。これは、ハーフトーン時に二つのグレースバッカー・トーン回路が干渉しあうのを嫌がった結果の配置だと考えられます。

こうした渋い特殊配線を積極的に投入していくのが、若かりし頃は趣味でラジオを作っていたというレオ・フェンダー氏が立ち上げた「フェンダー」のアイデンティティとなっています。

指技をサポートするジャンボフレット

アメスペには、アメリカンシリーズで唯一となる「ジャンボフレット」が採用されています。ジャンボフレットには「コードをあまりがっちりと押さえてしまうと、余計に弦をベンドしてしまって音程が狂ってしまう」というデメリットがありますが、

  • 金属の質量が増すことから、音の立ち上がりと伸びが増強される
  • 押弦に必要な指の圧力が少なくて済む
  • ハンマリング、プリングなどの指技がやりやすい

という利点があり、女性などパワーに自信がない人にも弾きやすく、またテクニカルなプレイに挑戦しやすいという大きなメリットがあります。

カスタムショップ製「Texas Special」ピックアップ搭載

アメスペに搭載されている「テキサス・スペシャル」は、引き締まった低音域と透き通った高音域、そして小鳥のさえずるような豊かなハイミッドを持った骨太なトーンを特徴とし、時に荒々しく響くことから「一般的なストラトらしくはない」と言われることすらある、キャラクターの立ったピックアップです。


Fender Custom Shop Texas Special™ Stratocaster® Pickups — CLEAN

テキサス・スペシャルのサウンドは、「テキサスにこの人あり」と謳われたスティーヴィー・レイ・ヴォーン氏が最もイメージしやすいでしょう。氏のシグネイチャー・ストラトキャスターにも採用されており、まさに彼のイメージを追求した暴れ馬のようなトーンが得られます。

ドライブサウンドと相性が良く、ピックアップセレクタのポジションにかかわらず、立ち上がりと音抜けに非常に優れています。ファズやディストーションとの相性も良く、しっかり歪ませたサウンドでもバンドアンサンブルに埋もれずしっかり響きます。レイ・ヴォーン氏のようなブルージーなクランチ、またはオーバードライブを念頭に置いたピックアップですが、ロック系にもうってつけの高性能ピックアップです。


Fender Custom Shop Texas Special™ Stratocaster® Pickups — DIRTY

明るい印象のカラーバリエーション

アメリカン・スペシャル・ストラトのカラーバリエーション

アメスペのボディカラーは「2カラーサンバースト」、「オリンピックホワイト」という定番カラー、「サーフグリーン」、「ソニックブルー」というさわやかな印象のカラーがあり、ソニックブルーのみ、ピックガードにミントグリーンが採用されています。2カラーサンバーストでは、透けて見えるアルダーの木目からAmerican Standard Stratocaster(アメスタ)同様の3ピースボディだということが分かります。

定番カラーの一つであり根強い人気がある「キャンディアップルレッド」が、アメリカンシリーズ内ではこのアメスペのみとなっているところも特徴的です。

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HSSモデル

American Special Stratocaster HSS American Special Stratocaster HSS

フロント/センターは「Texas Special」PU、ブリッジに「Atomic」ハムバッカー・ピックアップを搭載したSSH配列のストラトキャスター。「Greasebucket」トーン回路によってトーンノブを下げると低音を加えることなく高音をロールオフすることができます。

「アメスタ」との比較検証

amesta-vs-amespe 上:アメリカン・スタンダード・ストラト(アメスタ)
下:アメリカン・スペシャル・ストラト(アメスペ)
いずれもメイプル指板、オリンピックホワイト・カラー

アメスペがロックに特化したギターであることは先述しましたが、ここで標準機代表のアメスタを持ちだし、両者の類似点と相違点をチェックしていきましょう。違いが分かると、アメスペとはどんな楽器なのか、もう一歩深く知ることができます。

1)ネック周り

両者のネックには、多くの共通点があります。

  • フェンダースケール(25.5″インチ/648mm))で細身なModern “C”のネックグリップ。
  • ナット幅1.685インチ(42.8mm)、指板Rが9.5インチ(241mm)、22フレット仕様で、現代のフェンダーとしては標準的な設計。
  • トラスロッドはヘッド側から操作する。

ネックについては以上のようなネック本体の仕様にとって最も重要なポイントで共通するところが大変多く、両者は「ほぼ同じネック」であることが分かります。

American Standard American Special
フレットのサイズと数 押弦とチョーキングに有利であり、かつ大きすぎない「ミディアムジャンボ」の22フレット。 指技に有利なジャンボフレット。フレット数は22。
ヘッド形状 ~60年代までのいわゆる「スモールヘッド」に、現代的な意匠。 70年代のスタイルである「ラージヘッド」で、70年代風の意匠。

相違点はフレットとヘッド形状です。他の多くのポイントで同一の仕様となっているアメスタとアメスペですが、こうした違いによってアメスペの方がロック寄りの設計になっています。

2)ペグとブリッジ

American Standard American Special
ブリッジ アームを操作しやすい2点留め。 6点留めヴィンテージスタイル。
サドル 鉄板を曲げた伝統的なスタイル。 アメスタと同様。
ペグ 堅牢なロトマチックペグだが、ストリングポストの高さに違いが設けられている
(スタガード・ストリングポスト)。
アメスタ同様ロトマチックペグだが、ストリングポストの高さは標準的。

ブリッジについては、グレードの違いを出すとともに、70年代を匂わせる演出として、6点留めのヴィンテージスタイルが採用されています。一見おなじ仕様に見えるペグですが、アメスペではストリングポストの高さに違いが設けられません。

3)電気系

American Standard American Special
ピックアップ Custom Shop Fat ’50s Single-Coil Strat
低域の主張があるくっきりとした存在感のある音。
Custom Shop TEXAS Special
キュッと引き締まった、中高域に主張のある音。
コントロール 1ヴォリューム、フロントトーン、センター+リアトーン 1ヴォリューム、フロントトーン、リアトーン・トーン回路は「グレースバッカー」の特殊配線。

電気系には大きな違いがあります。トーンの心臓部となるピックアップは、いずれもカスタムショップ製ですが方向性を大きく変えているため、ギターのグレードで短絡的に述べることはできません。むしろアメスペの方がグレースバッカー・トーン回路を備えているぶん、電気系のグレードが上がっています。


アメスペとはどんなギターか。
これまでざっくりとした特徴をチェックしていきました。

  • メイドインUSAでありながら、低価格で手に入れやすい
  • 弦が押さえやすいから、女性にもお勧めできる

という特徴を並べたら、「初心者用のギターなんじゃないの?」とも思えてきますが、

  • ヘッド重量が増すラージヘッドにより、低音は引き締まり、高音は煌びやかになる。
  • ジャンボフレットにより、立ち上がりとサスティンが伸び、またテクニカルなプレイがしやすくなる。
  • パワフルかつ抜けの良いテキサス・スペシャルピックアップを搭載。
  • ドライブサウンドや多彩なエフェクタと相性が良い。

こうした性能から「ロックに方向づけたギター」であり、ソロをバリバリ演奏するスタイルにもおおいにフィットするギターだということがわかりますね。


Fender® Frontline Live 2007: Yngwie Malmsteen Plays Strat®
「ラージヘッド仕様でソロをバリバリ弾くロック系」と言えば、代表格はリッチー・ブラックモア氏と、このイングヴェイ・マルムスティーン氏に違いありません。往年の名曲「Far Beyond the Sun」を余裕で弾きこなす姿は、王者の風格を感じさせます。

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