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「フェンダー・アメリカンスペシャル・ストラトキャスター(以下、アメスペ)」は、『より多くの人たちに「MADE IN USA」を感じて欲しい』というコンセプトのもとで開発された、カリフォルニアのコロナ工場で生産される「アメリカンシリーズ」において最も求めやすい価格帯のストラトキャスターです。
価格が抑えられているとはいえ、アメリカンシリーズ内でもこのシリーズにしかない仕様があり、一台のストラトキャスターとしてしっかりとした個性が与えられています。今回は、このアメスペにスポットを当ててみましょう。
※現在アメスペは生産完了となり、後継機種に当たるアメリカン・パフォーマー・シリーズが2019年からリリースされています。
《使いやすく、弾きやすい》Fender American Performer Stratocaster
Bonnie Raitt – Storm Warning
「妖艶」という表現がよく似合う、ボニー・レイット女史。デビュー以来苦節十余年、40歳にしてリリースしたアルバム『Nick Of Time』で初めてグラミー賞を受賞した、スライドギターの名手です。フェンダーから彼女のシグネイチャーモデルも発売されていましたが、ラージヘッド、ジャンボフレット、テキサススペシャルピックアップ、という主だった仕様がアメスペに引き継がれています。
アメリカン・スペシャル・ストラトのヘッド部分
アメスペのヘッドは、アメリカンシリーズの中では唯一となる、70年代を象徴する「ラージヘッド」仕様です。ヘッド重量がアップすると低音域が引き締まり、高音域が煌びやかな「ハイファイなトーン」になるという効果があり、この時代はギブソンのギターでもヘッドは大きくなっていました。ヴィンテージスタイルのギターとは違った方向性を持っていたこともあり、ラージヘッドのトーンは定番化こそしなかったものの、時代を象徴するスタイルとして、またハイゲインなアンプや多彩なエフェクタを使用する現代の音楽にフィットする仕様として、現代に受け継がれています。
このほかにも、
というところで70年代のテイストを演出しています。
しかしながら
というように、ヘッドの意匠以外のディテールは現代のスタンダードな仕様を踏襲しています。
Fender American Special Guitars
アメスペに採用されているトーン回路は二つとも「Fender Greasebucket Tone Circuit」という特殊なもので、トーンを絞ったときのサウンドを聞こえやすくする効果があります。
通常のトーン回路は高音域を絞ることでサウンドを甘く丸くしていきますが、残された低音域が膨らんで聞こえてしまいがちになります。グレースバッカー・トーン回路は高域を絞っていくのに連動して低域もバランスよく抑え、トーンを絞りきった「ウーマントーン」でもくっきりとした輪郭を残すことができます。
通常のストラトキャスターのトーンは、フロントとセンターそれぞれのピックアップに一つずつ設けられます。アメリカンシリーズでは、センターのトーンがリアにも効くようになっています。それに対してアメスペのトーンはフロントとリアにのみ効くようになっており、センターには効きません。これは、ハーフトーン時に二つのグレースバッカー・トーン回路が干渉しあうのを嫌がった結果の配置だと考えられます。
こうした渋い特殊配線を積極的に投入していくのが、若かりし頃は趣味でラジオを作っていたというレオ・フェンダー氏が立ち上げた「フェンダー」のアイデンティティとなっています。
アメスペには、アメリカンシリーズで唯一となる「ジャンボフレット」が採用されています。ジャンボフレットには「コードをあまりがっちりと押さえてしまうと、余計に弦をベンドしてしまって音程が狂ってしまう」というデメリットがありますが、
という利点があり、女性などパワーに自信がない人にも弾きやすく、またテクニカルなプレイに挑戦しやすいという大きなメリットがあります。
アメスペに搭載されている「テキサス・スペシャル」は、引き締まった低音域と透き通った高音域、そして小鳥のさえずるような豊かなハイミッドを持った骨太なトーンを特徴とし、時に荒々しく響くことから「一般的なストラトらしくはない」と言われることすらある、キャラクターの立ったピックアップです。
Fender Custom Shop Texas Special™ Stratocaster® Pickups — CLEAN
テキサス・スペシャルのサウンドは、「テキサスにこの人あり」と謳われたスティーヴィー・レイ・ヴォーン氏が最もイメージしやすいでしょう。氏のシグネイチャー・ストラトキャスターにも採用されており、まさに彼のイメージを追求した暴れ馬のようなトーンが得られます。
ドライブサウンドと相性が良く、ピックアップセレクタのポジションにかかわらず、立ち上がりと音抜けに非常に優れています。ファズやディストーションとの相性も良く、しっかり歪ませたサウンドでもバンドアンサンブルに埋もれずしっかり響きます。レイ・ヴォーン氏のようなブルージーなクランチ、またはオーバードライブを念頭に置いたピックアップですが、ロック系にもうってつけの高性能ピックアップです。
Fender Custom Shop Texas Special™ Stratocaster® Pickups — DIRTY
アメスペのボディカラーは「2カラーサンバースト」、「オリンピックホワイト」という定番カラー、「サーフグリーン」、「ソニックブルー」というさわやかな印象のカラーがあり、ソニックブルーのみ、ピックガードにミントグリーンが採用されています。2カラーサンバーストでは、透けて見えるアルダーの木目からAmerican Standard Stratocaster(アメスタ)同様の3ピースボディだということが分かります。
定番カラーの一つであり根強い人気がある「キャンディアップルレッド」が、アメリカンシリーズ内ではこのアメスペのみとなっているところも特徴的です。
アメリカン・スペシャル・ストラトキャスターを…
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American Special Stratocaster HSS
フロント/センターは「Texas Special」PU、ブリッジに「Atomic」ハムバッカー・ピックアップを搭載したSSH配列のストラトキャスター。「Greasebucket」トーン回路によってトーンノブを下げると低音を加えることなく高音をロールオフすることができます。
上:アメリカン・スタンダード・ストラト(アメスタ)
下:アメリカン・スペシャル・ストラト(アメスペ)
いずれもメイプル指板、オリンピックホワイト・カラー
アメスペがロックに特化したギターであることは先述しましたが、ここで標準機代表のアメスタを持ちだし、両者の類似点と相違点をチェックしていきましょう。違いが分かると、アメスペとはどんな楽器なのか、もう一歩深く知ることができます。
両者のネックには、多くの共通点があります。
ネックについては以上のようなネック本体の仕様にとって最も重要なポイントで共通するところが大変多く、両者は「ほぼ同じネック」であることが分かります。
American Standard | American Special | |
フレットのサイズと数 | 押弦とチョーキングに有利であり、かつ大きすぎない「ミディアムジャンボ」の22フレット。 | 指技に有利なジャンボフレット。フレット数は22。 |
ヘッド形状 | ~60年代までのいわゆる「スモールヘッド」に、現代的な意匠。 | 70年代のスタイルである「ラージヘッド」で、70年代風の意匠。 |
相違点はフレットとヘッド形状です。他の多くのポイントで同一の仕様となっているアメスタとアメスペですが、こうした違いによってアメスペの方がロック寄りの設計になっています。
American Standard | American Special | |
ブリッジ | アームを操作しやすい2点留め。 | 6点留めヴィンテージスタイル。 |
サドル | 鉄板を曲げた伝統的なスタイル。 | アメスタと同様。 |
ペグ | 堅牢なロトマチックペグだが、ストリングポストの高さに違いが設けられている (スタガード・ストリングポスト)。 |
アメスタ同様ロトマチックペグだが、ストリングポストの高さは標準的。 |
ブリッジについては、グレードの違いを出すとともに、70年代を匂わせる演出として、6点留めのヴィンテージスタイルが採用されています。一見おなじ仕様に見えるペグですが、アメスペではストリングポストの高さに違いが設けられません。
American Standard | American Special | |
ピックアップ | Custom Shop Fat ’50s Single-Coil Strat 低域の主張があるくっきりとした存在感のある音。 |
Custom Shop TEXAS Special キュッと引き締まった、中高域に主張のある音。 |
コントロール | 1ヴォリューム、フロントトーン、センター+リアトーン | 1ヴォリューム、フロントトーン、リアトーン・トーン回路は「グレースバッカー」の特殊配線。 |
電気系には大きな違いがあります。トーンの心臓部となるピックアップは、いずれもカスタムショップ製ですが方向性を大きく変えているため、ギターのグレードで短絡的に述べることはできません。むしろアメスペの方がグレースバッカー・トーン回路を備えているぶん、電気系のグレードが上がっています。
アメスペとはどんなギターか。
これまでざっくりとした特徴をチェックしていきました。
という特徴を並べたら、「初心者用のギターなんじゃないの?」とも思えてきますが、
こうした性能から「ロックに方向づけたギター」であり、ソロをバリバリ演奏するスタイルにもおおいにフィットするギターだということがわかりますね。
Fender® Frontline Live 2007: Yngwie Malmsteen Plays Strat®
「ラージヘッド仕様でソロをバリバリ弾くロック系」と言えば、代表格はリッチー・ブラックモア氏と、このイングヴェイ・マルムスティーン氏に違いありません。往年の名曲「Far Beyond the Sun」を余裕で弾きこなす姿は、王者の風格を感じさせます。
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