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PRS「NF 53(Black Doghair)」
PRS(ポール・リード・スミス)は代表機種「Custom 24」などのダブルカッタウェイ&セットネック仕様機で知られますが、近年ではボルトオンジョイント仕様機にも積極的です。2023年に発表された「NF 53」と「Myles Kennedy」はその流れに乗った、シングルカッタウェイ&ボルトオンジョイント仕様機です。両機はクラシックなサウンドを継承しつつも、操作性や演奏性には現代的な要素が多く反映された、全く新しいギターに仕上がっています。今回は、この「NF 53」と「Myles Kennedy」に注目していきましょう。
Nashville Session Artists Test the NF 53 & Myles Kennedy Signature | PRS Guitars
ナッシュビル(アメリカ合衆国テネシー州)で活躍するセッションミュージシャンたちによる試奏。小さめハムバッカーの搭載されたモダンなルックスのギターだが、どこか懐かしいトラッドなサウンドが確認できる。
エレキギター第3の王道 PRS(Paul Reed Smith)の選び方
PRSを代表するモデル「Custom 24」について
PRS「Myles Kennedy(Hunters Green)」
一見するとNF 53そっくりだが、よく見るとパーツ類だけでなくボディ形状にまで違いがある。
「NF 53」と「Myles Kennedy」のそれぞれを見ていく前に、両機に共通する特徴について、本体、ピックアップ、ブリッジの3点に注目していきましょう。
NF 53の背面。バックコンターと厚みをそのまま残したジョイントヒールが確認できるが、弦を通す穴が開いていないのも大きな特徴。
「NF 53」&「Myles Kennedy」は共に、シングルカッタウェイ&45mm厚のスワンプアッシュ製ボディ、メイプル製ネック&指板、4点留めプレート式ボルトオンジョイント、25.5”スケールという仕様です。音域こそ現代的な22フレットですが、全体的にトラッドなテレキャスターの影響を強く受けていると言えます。また10”の指板Rは現代的な多くのギターより丸みがあり、トラッドな雰囲気を帯びています。
その一方で、ボディ正面と背面には滑らかなカットが施され、ジョイントヒールは厚みこそそのままながら丸みを帯びた形状が採用されています。ホーン部にもカットが施されており、現代的なフィット感と演奏性が確保されたデザインです。指板エッジ部は滑らかに整えられており、握り心地は良好です。またヘッドには角度が付けられているので、弦張力の確保にストリングガイドを必要としません。
PRS「Myles Kennedy」
ヘッドはスカーフジョイント仕様の角度付き。
左:NF 53の「PRS Narrowfield Pickup DD」、右:Myles Kennedyの「PRS Narrowfield MK」
ピックアップについては、PRS「Custom 24-8」や同「Studio」などですでに実績を積み上げている「Narrowfield(ナローフィールド)」ピックアップを出発点に、それぞれに向けたアレンジが施されています。両機とも基本構造こそ小型のハムバッカーですが、サウンドは上質なシングルコイルを目指しており、澄み切った高域がしっかりと得られます。
操作系は両機とも1V1T、ブレード式セレクタースイッチという構成ですが、配置に違いがあるほか、Myles Kennedyには個性的な特殊配線が採用されています。
PRS「NF 53」
1V1T&ブレード式セレクタースイッチという構成の操作系。強固な金属製ジャックプレートもポイント。
PRS「Plate-Style Bridge」
S2「Vela」シリーズで実績のあるブリッジ。弦はボディトップ側で固定する。
「プレートスタイル・ブリッジ(Plate-Style Bridge)」はブリッジプレートで弦を固定するトップロード式で、ワウンド弦とプレーン弦がそれぞれ同じサドルに乗る、という斬新な構造です。角度や高さの微調整ができるので、オクターブ・ピッチも大変良好です。スチール製ブリッジプレートとブラス製サドルは、生き生きとした響きと豊かなサスティンが得られる、ヴィンテージタイプのテレキャスターで最も支持される組み合わせです。
次は、それぞれの特徴を見ていきましょう。共通点の多い両機ですが、さまざまなところに全く異なる設計が採用されています。
左から、Black、Black Doghair、Blue Matteo、 McCarty Tobacco Sunburst、White Doghair。
「NF 53」は、「1953年製のヴィンテージ・ギターにインスパイアされたNarrowfieldピックアップ搭載機」がモデル名の由来です。2基のピックアップでサウンドバリエーションは3つ、このほか操作系は1V1T、ブリッジは固定式という仕様で、PRSラインナップ内では最もシンプルなギターに仕上がっています。
テレキャスターの面影が残るボディラインは、高音側のホーン部を小さめに設定してハイポジションへのアクセスを向上させ、またウェストを僅かにオフセットさせて抱え心地を調整しています。ピックガードはオリジナルデザインで、垂直にカットしたエッジが武骨なイメージを演出しています。グロス仕上げのネックグリップはやや厚みを覚える、薄すぎない握り心地です。
個性的なノブを備えるクルーソン型ペグは、ヴィンテージギターでは定番のブラス製シャフトを採用している。なお、ロック機構は非採用。
コイルタップなど特殊配線を持たないシンプルな操作系だが、ボリュームやトーンの絞り具合で表情を変化させる奥の深さも持ち合わせている。
「PRS Narrowfield Pickup DD」は、通常よりも深めのボビンを使用してコイルの巻き数を上げ、ポールピースとして機能するマグネット同士を隔てるかのように金属片が挿入される、全く新しい設計です。これにより集中した磁界と高い出力を達成し、クラシックなテレキャスターのテイストにモダンなパンチを加えたサウンドが得られます。
ハムバッカー構造でヴィンテージ的なシングルコイルのサウンドを得るべく、開発に1年以上を要したと言われます。このピックアップに対してPRS社長ポール・リード・スミスさんは「ハムノイズを出さずにこれほどまで煌びやかに伸びる高音域を出せるのは、今までの常識を覆す革新的なことだと思っています」と語っています。
2基のピックアップはフロント/リア共にボディに直接マウントされ、3WAYブレード式セレクタースイッチで切り替えます。
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左から、Antique Natural、Antique White、Black、Hunters Green、Tri-Color Sunburst。このうちハンターズグリーンは、ケネディさんの良き思い出を象徴する特別な色。
マイルス・ケネディさんは、Alter BridgeやSlash ft. Myles Kennedy & The Conspiratorsといったバンドプロジェクトのほかソロでも活躍を続けているアーティストで、ロックギターの奏法にブルースやジャズの要素を取り入れるスタイルが持ち味です。NF 53と同時に発表されたシグネイチャーモデルには、トラッドな音と設計を大事にしながらケネディさんのプレイスタイルそのものが反映されています。
NF 53と異なりウェストラインは左右対称で、オリジナルデザインのピックガードはエッジ部が斜めに面取りされた、滑らかさを感じさせる設計です。サテン仕上げのネックグリップはNF 53よりやや肉厚で、ローポジションにV的な感触を持たせています。
ヘッドストックにはエボニーの化粧板があしらわれる。ブラス製シャフトを採用するクルーソンタイプのペグは、表側から弦を固定するPRS独特のロック式。
NF 53と異なる、直線状に配置された操作系が興味深い。フロントピックアップはピックガードマウント、リアピックアップはボディに直接、やや斜めにマウント。ピックガードはエッジが斜めに整えられた、エレガントな雰囲気。
「PRS Narrowfield MK」ピックアップはマイルス・ケネディさんご自身の所有するギターのサウンドを分析し、ハムバッカーの勇ましさとシングルコイルの鋭い立ち上がりをハムノイズなしで共存させることに成功しています。ケネディさんはこのギターを「アンサンブルで輝くギターであり、ミックスの中でギターがどの位置にいるかを理解している人には特におすすめ」だと評しています。また開発に数か月を要したと言われるこのピックアップに対し、ポール・リード・スミスさんは「マイルスが求める理想のサウンドを生み出すピックアップが出来た」と自負しています。
5WAYセレクタースイッチによるサウンドバリエーションは、Position 1 : ブリッジハム単体、Position 2 : ブリッジハム&ネックコイルスプリットのミックス、Position 3 : 両ハムのミックス、Position 4 : 両コイルスプリットのミックス、Position 5 : ネックハム単体。
5WAYセレクタースイッチにより、コイルタップをからめた幅広いサウンドバリエーションが得られます。このほかトーンポットには、リアピックアップのみにかかるプリセット・トーン回路が仕込まれます。トーンノブを引き上げるとリアピックアップのトーンが半分ほど絞られ、ポジション1~4で太く甘いサウンドが得られます。この太く甘い音と、この回路の影響を受けないブライトなポジション5のサウンドを、セレクタースイッチで切り替える、というわけです。
The Myles Kennedy Signature Model | PRS Guitars
完成してからはずっとシグネイチャーモデルばかり弾いているというケネディさん。楽器店で働いていたときには、まさか自分のシグネイチャーモデルがPRSから発売されるなどとは夢にも思わなかったという。
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以上、PRSのTスタイル、NF 53とMyles Kennedyの2モデルをチェックしていきました。クラシックなスタイルに敬意を払いながらもPRSらしさがキラリと光る、全く新しい楽器に仕上がっています。NF 53の余りのシンプルさには、演奏性や音の良さといった根本的な性能に対するPRSの自信が伺えます。Myles Kennedyはまた逆に振り幅の広いサウンドバリエーションと独特なプリセット・トーン回路によって、色んなジャンルを横断的に演奏できる守備範囲の広いギターになっています。ぜひ実際にチェックしてみてください。
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