リア用ピックアップをフロントに搭載するとどうなる?

[記事公開日]2017/1/31 [最終更新日]2024/6/23
[編集者]神崎聡

やはりどのギターもリアのピックアップが好きだなと思いました
フロントには出力が小さいものを搭載するべきっとよく聞きますがー
もしもリアに搭載するような大出力のものをフロント…もしくはミドルに搭載するとどうなるのでしょうか?
(2011/12/29)10~19歳 男性(高校生・中学生・小学生)

ロック系のサウンドにはリアッピックアップが大活躍しますね。メタル志向のギターなどではリアピックアップしかないものも珍しくはありません。そのいっぽうでジャズ系のサウンドには、フロントピックアップが欠かせません。フロントピックアップしか付いていないギターもたくさん作られています。各ピックアップの位置とサウンドには、秘密と理由が隠されています。今回はこれについて考えてみましょう。


EDWARDS E-AL-166 PINK SAWTOOTH 「チルドレン・オブ・ボドム」の中心人物アレキシ・ライホ氏のトレードマークは、自身のシグネイチャーモデル、鋭いストライプで彩られたESPのランディーVタイプ(写真はEDWARDS版「E-AL-166 PINK SAWTOOTH」)です。ここまで攻撃的なサウンドのバンドではフロントの甘いトーンが不用となること、またロックにはシンプルさが重要であることなどの理由で、このようなリアにハムバッカーを1基マウントするのみ、というギターが積極的に使用されます。初めからフロントピックアップを持たないギターはこの部分にピックアップキャビティ(穴)が空けられないため、ネックジョイント部の剛性が一般的なギターより向上し、より張りのある弦振動が得られるようになります。

ピックアップ位置の秘密

エレキギターは、ピックアップを切り替えることでいくつもの音色を出すことができますね。ギター博士がレスポールとストラトキャスターを使い、ピックアップごとに異なる音色を奏でる動画があります。これをチェックしてみましょう。


ピックアップによる音の違いを感じてみよう【ギター博士のレッスン】
ピックアップごとに、それぞれの音色があるということがわかりますね。

レスポールにはフロントとリアの2基、ストラトキャスターにはフロント、センター、リアという3基のピックアップが備わっており、それぞれの音色には

  • フロント:甘く、柔らかく、太い
  • リア:鋭く、硬い
  • センター:フロントとリアの中間

という個性があります。

またこれらを組み合わせた「フロント+センター」、「リア+センター」、「フロント+リア」といった音色は、それぞれのキャラクターを半分ずつ持ち合わせた音だと言う意味で「ハーフトーン」と呼ばれています。

では、フロントの位置には甘く、柔らかく、太い音を出すために設計されたピックアップが、リアの位置には鋭く硬質な音を出すために設計されたピックアップが付けられるのでしょうか。リアのピックアップをフロント位置につけ替えると、フロントピックアップから鋭く硬質な音色が得られるのでしょうか。

答えは「ノー」です。リアピックアップをフロント位置に載せ換えても、残念ながらフロント特有の甘く柔らかい、太い音色になります。ピックアップの音色は、それ自体の個性に加えて「マウントされる位置」に大きな意味があるからです。

模式図を使って、この理由を考えてみましょう。理科が苦手な人も、頑張ってついてきてくださいね。
はじかれた弦は、だいたいこのような感じで上下左右に振動します。

弦の振幅 弦の振幅

私たちの耳は、振動する弦全体の音を聞いています。しかしエレキギターのピックアップは、自分の目の前の振動だけをキャッチするように作られています。弦の振幅(しんぷく)は中央が最大で、両端に行くに従って小さくなっていきます。

  • リア側に設置されたピックアップは振幅の小さな弦振動を
  • フロント側に設置されたピックアップは振幅の大きな弦振動を

それぞれキャッチするというわけです。この振幅の違いが、ポジションごとのサウンドの違いに反映されるのです。

振幅の違いは音色の違いだけでなく、音量の違いも生じさせます。フロント位置の方がリアよりも振幅が大きいため、同じピックアップを同じようにマウントした場合にはフロントの方が音量は大きくなります。「フロント用のピックアップは出力を抑えた方が良い」という考え方は、音色だけでなくこのような音量バランスも考慮したものです。


という訳で、リア用に設計されたハイパワーピックアップをフロントにマウントすれば、リアにマウントした時よりも音量が大きくなるわけです。その場合の他のピックアップとの音量バランスについては、ピックアップと弦との距離を調節することで、ある程度整えることができます。
「搭載位置によって、ピックアップのサウンドは変化する」という点に付随して、ピックアップから弦までの距離についても考えてみましょう。
ギターのピックアップで音は変わる?


IBANEZ PM2-AAモダン・ジャズの騎手パット・メセニー氏がこの動画で使用しているギターは、アイバニーズからリリースされている自身のシグネイチャーモデル「IBANEZ PM2-AA」です。ジャズではこのようなフルアコやセミアコといった「箱もの」が多く使用されますが、特にフルアコの場合には「パーツを載せすぎると楽器本体の鳴りを失ってしまう」という考え方から、フロントピックアップのみ搭載という仕様のギターが多く作られます。パーツをボディに触れさせないことでボディ鳴りを邪魔しないようにする「フローティングピックアップ」も積極的に投入されます。

ギターの個性を作る要素でもある

「ピックアップのマウント位置によって音色に違いが出る」ことから、たとえば22フレットのギターと比べて24フレットのギターは、フロントピックアップが2フレットぶんリア寄りにマウントされるため、やや硬質な音色になります。またブリッジぎりぎりの位置にリアピックアップを配置することで、鋭いサウンドを狙うギターもあります。

上:22フレットの Fender American Standard Stratocaster HH、下:24フレットの EDWARDS E-HR-145III
フロントピックアップの搭載位置が少しだけ異なる

共に弦長が648mmの、フェンダーUSAの「アメリカンスタンダード・ストラトキャスターHH」とエドワーズの「E-HR-145III」を比較してみました。ナット地点と12フレット地点を合わせているので、二つの画像は同じ寸法になっています。22フレットのアメスタに対してE-HR-145IIIは24フレットなので、フロントピックアップの位置が大きく異なっているのが分かりますね。E-HR-145IIIはストラトよりもわずかにブリッジ寄りにリアピックアップを配置していることも視認できます。これにより、E-HR-145IIIの方がやや硬質なサウンドを持っていると考えられます。同じハムバッカー2基というギターでも、このようなピックアップ取り付け位置の違でサウンドに違いが作られているわけです。

ポジションごとに専用のピックアップもある

テレキャスターはフロントとリアそれぞれに全く異なる設計のピックアップを搭載していますが、ストラトキャスターに搭載されるピックアップは、本来はフロントもセンターもリアも同じピックアップを並べています。しかしVANZANDT(ヴァンザント)のピックアップ(ストラト用)では、各ポジション用にコイルのターン数を設定したピックアップのセットが作られます。弦の振幅の違いが音量の違いも生むこと、またポジションごとの個性を一層際立たせたり、また3つのピックアップをより理想的なバランスに整えたりするため、あえてそれぞれのポジション向けに異なる設計のピックアップを作っているわけです。

Seymour Duncan のハムバッカーPU「SH-2」では、
フロント(ネックポジション)用に「SH-2n」
リア(ブリッジポジション)用に「SH-2b」
2つが用意されている

レスポールなどで使われるハムバッカーはネジ状のポールピースがどちらのコイルに付けられるかで、フロント用とリア用に分かれています。いっぽう電池を必要とするアクティブピックアップの代表EMGの定番ハムバッカー「81」や「85」などはこうしたスタイルのポールピースを持たないこともあって、フロント用、リア用という区別がありません。

レスポールのブリッジよりもFRT(フロイドローズ・トレモロシステム)の方が僅かに広く、弦同士の距離(弦間ピッチ)が広くなっていることから、これにポールピースの位置を合わせた「トレムバッカー」というシリーズがセイモアダンカンからリリースされていますが、これはリア用と決まっています。


このように「ピックアップ」と一言で言っても、どのポジションでも使えるように作られているものもあれば、特定のポジションで使われることを想定して設計されているものもあり、扱いにはちょっとした注意が必要です。しかしリア用/フロント用という区別は「設計者の意図」がそうだということなのであって、必ずしもそれに従わなければならない、ということではありません。「位置を変更してみたら、自分にとってはしっくり来た」ということも珍しくはないし、気に入らなかったら元に戻すことも比較的簡単なので、興味がある人はぜひ、いろいろと実験を試みてください。

状況に応じてピックアップをセレクトしよう!

エレキギターに求めるサウンドが一つに定まっているというプレイヤーの中には、ピックアップが一つしかないギターを選んだり、ピックアップセレクタ―をガムテープなどで固定してしまったりする人もいます。しかし練習を重ねてこれから巧くなって行こうという人は、始めのうちからサウンドのバリエーションを限定してしまわない方がいいでしょう。スイッチの操作で音色を切り替えることができるのは、電気楽器すなわちエレキギターの大きなアドバンテージだからです。

練習しながら気まぐれにでもピックアップを切り替えてみて、自分のギターで出せる音色のバリエーションをチェックするようにしましょう。今まさに必要ではないと思うような音色でも、他の曲ではベストな音色かもしれません。また楽曲をコピーするのにも、お手本と同じポジションのピックアップを選択していた方が、近いサウンドになるはずです。演奏中にピックアップを切り替えるのも、慣れるまでは練習が必要です。

ピックアップの切り替えによるサウンドバリエーションは、クリーンサウンドで演奏するのが最も分かりやすく、あまりにハードなディストーションだと分かりにくくなります。歪みはちょっと抑え気味の方がピックアップごとの違いが分かりやすいですが、がっつりと歪ませるのなら使用するピックアップはリアとフロントのみ、などと限定してしまった方が効果的です。

ロックのパワーコードならリア、ジャズのメロディ演奏ならおおむねフロント、というのはオーソドックスな使い分けですが、必ずしもそうでなければならない、というわけではありません。演奏内容や楽曲に対して、どのポジションのピックアップを使用するべきか、という明確な決まりは無いのです。ハーフトーンはコードを弾くのにうってつけだと言われることがありますが、コードもソロもすべてハーフトーンで弾き切る人も、ストラトキャスターを持っていながら一貫してセンターピックアップしか使わない人もいます。


アルペジオの練習 6/6 【ギター博士】
開放弦を使ったアルペジオのフレーズのこの動画で、ギター博士はセンターとフロントのハーフトーンを選択して演奏しています

自分のギターでピックアップを切り替えたらどのような音になるのかを把握していれば、プロの演奏を聴くだけでもどのピックアップで弾いているのかがだいたい判別できるようになります。アルペジオやパワーコード、カッティングなど演奏内容で切り替えるというギタリストもいれば、ソロ中にフロントとリアを切り替えるというギタリストもいますが、
先輩ミュージシャンのこのような切り替え方を参考に、自分なりの使い方を作り上げていってください。

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