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アイバニーズは「RG」や「S」などHR/HM志向モデル、ギターボーカルに訴える「ROADCORE」シリーズ、「ARTSTAR」シリーズなどアーチトップ、新開発の「AE」などアコースティックギター、またアンプやエフェクターなどといった幅広いラインナップを展開しているブランドです。今回エレキギター博士では星野楽器販売株式会社 商品部企画Ibanez プロダクトマネージャーの宮沢英哉(みやざわひでや)さんにインタビューをお願いし、メールにてご回答をいただきました。これからIbanezが打ち出していくギターについて、またブランドの今後についてのお話となっています!
──宮沢さんは普段どんな業務を担当されていますか?
宮沢英哉さん(以下、敬称略) Ibanezブランドの弦楽器、電子製品、アクセサリーについて、国内販売会社の立場から、市場要求(ニーズ)の模索とそれに基づいた製品企画を担当しています。また数あるIbanezブランド製品のうち、日本国内に流通させる製品の商品選定に加え、さらに国内専用製品の製品企画までを担当しています。
──楽器開発についてお聞きします。Ibanez製品は、多弦用ピックアップ、トリプルコイル(RG2750QVなどで採用。タップ時のサウンドに優れるハムバッカーピックアップ)、多種多様なオリジナルブリッジ、KORGカオスパッドとの連携ギター(RGKP)など独自性の強いパーツが目立つ印象があります。これ以外にも多層ネックや極薄のネックグリップ、ピックアップセレクタと連動したコイルタップなど、Ibanez製品を彩るこれらの特徴的なアイディアはどのように考案され、具体的な製品になっていくのでしょうか。
宮沢 まず、Ibanezの製品企画は複数部門(大別して弦、電子、アクセサリ)ごと数名構成の企画チームと、楽器自体(つまり楽器としての力学的な成り立ちや実際の楽器の作り方)を考察する設計と開発専門部門に加え、私のような市場ごとの製品企画担当者(大きく分けてUSA、EU、日本、アジア)の総体でアイデアを出し合い、練り上げていくスタイルを採っています。
そのため、そもそもアイデアの内容、種類や数が非常に多岐にわたり豊富であることが、同じ楽器ブランドであっても一人のルシア―の名を冠するブランドさんや小規模で活動されている工房さんとの大きな違いです。そういったアイデアを、時にはより一層市場ウケする様相にしたり、あるいはもっともっと突飛で見たこともないものにしたり、という練り上げをして製品完成を目指しています。
もちろんその過程で、パーツ・メーカーさん等製造メーカーさんのご協力を頂戴するシーンも多く、例えば9弦用のピックアップでは、そもそも世の中になかったピックアップのベースプレートやボビン製造に必要な型、さらにはワイヤーの巻き数等ピックアップ作りにかかわるすべての点で、ピックアップ・メーカーさんと文字通り手探りで共同開発しています。
Ibanez RGKP6 / SRKP4 equipped with Korg® mini kaoss pad 2S
アイバニーズRGとコルグのカオスパッド、まさかの融合を果たしたとんでもないギター。ド派手な飛び道具としてだけでなく、フェイザーを利用したソウル/ファンク系のカッティングプレイなど比較的マトモな使い方も可能。こんなギターを思いつき、実際に世に訴える、アイバニーズの開発力とチャレンジ精神が伺えます。弾き手の発想が試されるギターですが、本体価格が意外と安いので、チャレンジしてみては?
──Ibanezのエレキギターは、RGを代表とするソリッドギターとARTSTARシリーズなどのアーチトップの両面でラインナップを展開しています。現代の楽器としてスタイリッシュであること、それぞれが想定しているプレイスタイルで弾きやすいことが共通しているかと思っておりますが、Ibanezのギター全ラインナップをこの二つに分けた場合、それぞれトーンやプレイアビリティなど、どんなところを狙っているでしょうか。
宮沢 Ibanezをひとくくりで「明文化」あるいは「文言化」するコンセプトは、実はありません。作り上げる楽器ごと、あるいはシリーズごとに先述したようにそれぞれ企画チームでコンセプトを考察していきます。
なお、「”完全コピー”に該当するような企画開発は、行ってはならない」という決まりは明確にございます。
──ROADCOREシリーズについてお聞きします。ROADCOREシリーズは、「ギターボーカル向け」というコンセプトと名機Roadstarを彷彿させるレトロ感で、「HM/HR、テクニカル系」というイメージからの脱却を目指した意欲作だと感じています。厚みのあるネックグリップによりアコースティックギターとの持ち替えがスムーズな印象がある一方で、ブリッジの落とし込みによるローセッティングで、テクニカルなプレイもやりやすい印象でした。ROADCOREシリーズの「もっとここに注目してほしい」というポイントがあれば、宜しくお願い致します。
宮沢 或るイメージの定着したブランドは、その範疇に居続けかつ進化(深化)を忘れなければ、定着を支持してくれた心あるファン層から継続して応援して頂ける、という半面、そのイメージ外となるモデルやシリーズを生み出す際にはそれなりに苦労が伴います。おっしゃる通りROADCOREは”近年”のIbanezのイメージとは異なるジャンルに訴えたいギターとして生み出しました。
当初から想定していたことですが、認知には時間を要し、このシリーズがIbanezのギターとして一般化する難易度は非常に高いと感じています。RGやSでは決して出せない音やトーン、或いはストラトやテレキャスターなど一般的なギターとはちょっと違った楽器としての音や格好の”良さ”、弾き心地を特に感じてほしいです。
が、現状はなによりIbanezからの発信が不足していますね。
Ibanez ROADCORE Guitar Review from フジタユウスケ
──新製品についてお聞きします。先日(2015年11月)は大阪でサウンドメッセがありました。この場で新しいギターやエフェクターを発表したかと存じますが、新製品やショーモデルなど、どんなものを展示しましたか?また、どういった特徴のある楽器でしたか?
宮沢 これまであまりイメージのなかったアコースティック・ギターについて、これからのIbanezのイメージを作り上げるべく、新たなシリーズ”AE”を立ち上げました。
その第一弾モデルとして日本で作り上げるフラッグシップモデル、AE900 & AE800を発表しています。
詳細につきましては以下をご覧ください。
アイバニーズの新しいエレクトリック・アコースティック・ギター、”AEシリーズ” – Ibanez
Happy New Year! [ABBA] – Igor Presnyakov – solo acoustic guitar
──多弦ギターについてお聞きします。8,9弦ギターは極端に低い音の出るギターとしてだけでなくベースの代わりとしても使用できることから、Animals As Leadersのようなベースレスバンドを誕生させるきっかけになりました。さらに一本多い9弦ギターは、ここまで来てしまったら「弾きこなせるものなら弾きこなしてみろ」と言わんばかりの挑発的な楽器ですね。
宮沢 Ibanezが作る楽器(企画)の中には、実は「極め付けまでは想定できていないもの」も含まれます。
その楽器を上梓(じょうし:世に問うこと。)したことで、思いもよらぬ弾かれ方を私たちが「知った」経験も一度や二度ではありません。おっしゃる通り、9弦ギターもその種の楽器として生み出されたギターです。
──ARTSTAR/Artcoreシリーズについてお聞きします。アーチトップギターという分野では新しい機能や革新的なサウンドを求められにくいことから、個性や独自性を発揮するのが難しいのではないかと思うのですが、Ibanezではホロウボディシリーズの独自性、競合ブランドとの差別化をどのように考えていますか?
宮沢 アーチトップやアコースティックは、おっしゃる通り超著名なモデルが存在し個性や独自性には背を向けられることも多い分野だと思います。Ibanezには一部モデルを除き、長大な歴史や超著名なモデルが存在しない代わりに、アイデアや発想の多彩さ豊かさでは他社を大きく凌駕していると自負しています。
それゆえ、ギター自体の構造や生産方法/手法の刷新はもちろんのこと、電装やデザインでも新しい要素を一つでも多く作り出していくことこそが、他ブランドとの差別化につながっていると考えています。
──チューブスクリーマー(Tubescreamer)についてお聞きします。定番オーバードライブ「チューブスクリーマー」には、現在豊富なラインナップがあります。それぞれどんなキャラクターがあり、どんなプレイヤーに使われることを想定しているでしょうか。
宮沢 ベース用であるTS9Bを除くすべてのTubescreamerはギター用で、特に特定のプレイヤーを想定して作られる(た)ということはありません。基本的にはオーバードライブというエフェクターの概念の上に、Tubescreamerならではの使用法というものが広く伝播し、後継モデル(TS808DXやTS808HWなど)についてはさらに突き詰めたもの、という位置づけです。
──星野楽器の未来についてお聞きします。星野楽器はスローガンに、ニーズへの対応と独創的な商品開発による「音楽文化への貢献」を掲げています。今後どのようなエレキギターやエフェクターが求められていくと思いますか?また、こんなギターを提案してみたい、というものはありますか?
宮沢 この先日本だけでなく、世界中どこででも”趣味の多岐化”は一層進むと思います。他の趣味と比べ趣味としてのギター演奏の入り口には高めのハードルがあると感じていますから、常識を覆すような”超”気軽に取り組みやすいギターを生み出すことに大きな魅力を感じています。一人でも多くの人が、ギター演奏の世界に入ってきてほしいものです。
一方で一定以上の技量を会得された人に対して、楽器としてじゅうぶんな魅力がある製品を生み出し続ける事も、星野楽器の重要な使命ですね。
──ご自身の経験についてお聞きします。日頃の業務の中で、ご自身の感じた「これは嬉しかった」というエピソードはありますか?
宮沢 楽器の展示ショウやイベント開催時に、私たちが作った楽器に満足しておられる姿やお褒めのご意見を実際に見たり聞いたりする瞬間がいちばんうれしいですね。
──楽器業界への就職を志望する人々へ。星野楽器グループではどんな人材に来てほしいとお考えですか?
宮沢 公式見解を求められる問いかけだと思いますので、グループ求人ページをご覧頂けますと幸いです。
以上、Ibanezの宮沢さんからのご回答でした。これまで培ってきたものを大切にするばかりでなく、それらを破壊してまで全く新しいものに積極的に挑戦する、というギター開発に対する攻めた姿勢を感じることができます。
またモデルごとに設定した明確なコンセプトで魅力あるギターを生み出している一方で、世界的なブランドでありながら9弦ギターなどではどうやって使うのか分からないけれどリリースする、という豪胆なブランドだということがわかりますね。
最後に語ってくれた「常識を覆すような”超”気軽に取り組みやすいギター」が具体的にどういうものになるのか、楽しみでなりません。
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