ハムバッカー・ピックアップのカバーを外したら、どういう効果が得られる?

[記事公開日]2024/8/3 [最終更新日]2024/8/23
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ピックアップのカバーを外す

ハムバッカーのピックアップのカバーを外したら、どういう効果が得られるのか、気になった人はいるのではないでしょうか? 今回は、ハムバッカーピックアップのカバーについて考えてみましょう。カバーの有無でサウンドもルックスも変わりますから、ギターのカスタマイズに興味がある人にとってはしっかりチェックしておきたいポイントです。

小林健悟

ライター
ギター教室「The Guitar Road」 主宰
小林 健悟

名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。

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記事監修
Euphoreal 代表
藤野 州豊

“プレイヤーが陶酔できるサウンドを現実のものに”というコンセプトを元に、ハンドメイドでピックアップを制作するメーカー。レーザー加工機による微細彫刻が施されたドレスアップ金属パーツを作る他、不定期でギターを制作する。
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そもそも、なぜピックアップカバーがあるのか?

ハムバッカー本来の姿は、ピックアップカバーのある状態でした。カバー付きを「カバード」、カバーなしを「オープン」と呼ぶのは、カバーを外すという改造が流行してからです。外してしまうくらいなら付けなくてもいいのに、なぜピックアップカバーは付けられたのでしょうか。

シングルコイル・ピックアップのカバー 左:シングルコイルピックアップ、右はカバーを外したもの(細い銅線がぐるぐる巻きつけられている)

ハムバッカーのカバー 左:カバード・ハムバッカー、右:オープン・ハムバッカー(テープが巻かれている)

ハムバッカーのピックアップカバーは、「コイルの保護」と「ノイズの除去」を目指して付けられました。第一にコイルの線が切れてしまってはいけないので、カバーをかぶせて保護しようというわけです。
第二に、ノイズ除去のためカバーは金属製である必要がありました。金属製ベースプレートに固定したピックアップを金属のカバーで覆う事で、外部の電界を遮蔽する金属製シールド「ファラデーケージ」が完成するのです。

ピックアップカバーの有無とサウンドの違い

ピックアップカバーの有無によって、激的とまではいかないにしても、確かに音の違いが現れます。

オープン・タイプのサウンド特性

カバードのサウンドを基準にすると、オープンはより自然で派手な、明るいサウンドに聞こえます。直感的な弾き心地が得られ、ミックスでの抜けも良くなります。高周波を豊かに拾うようになるため、現代的なバンドサウンドに求められやすい引き締まり感やブライト感が得られます。
ヘヴィーなサウンドが主流なジャンルではオープンタイプを選ぶ事が多くなるでしょう。歪みの量が増えると音がコンプレッションされ輪郭が失われていき、ハウリングの危険性も高くなるので、カバー無しの方が圧倒的に扱いやすいのです。

カバード・タイプのサウンド特性

反対にオープンを基準にすると、カバードは滑らかで豊かな、暖かく、またダークに聞こえます。カバーによって磁場が歪むことで、ピックアップの受信する高周波数が減少し、暖かみの増した、または響きが暗くなったように聞こえるわけです。
いわゆるレスポールの太く甘いサウンドは、カバードのハムバッカーによるものです。1957年のデビューから現代にいたるまで、カバードのハムバッカーはロックの歴史に重要な役割を担っています。シンプルに「カバードのルックスが好き」というギタリストも多くいますが、50年代や60年代をリスペクトしてカバードを愛用する、というギタリストも多くいます。
またジャズ等の音楽ではトーンやボリュームを絞り気味で演奏することが多く、カバード特有のマイクロフォニックが艶っぽいクリーントーンを作り出すため、カバードの方が有利になってきます。


KURT ROSENWINKEL TRIO JAPAN TOUR 2016 : LIVE @ COTTON CLUB JAPAN (July.2,2016)
「現代ジャズギターの頂点」と言われるカート・ローゼンウィンケル氏。ジャズで使用されるフルアコやセミアコのハムバッカーは、カバードが基本となっています。この分野で求められる甘いトーンには、やはりカバードが必須です。

メッキ材によって音が変わる?!

カバードはまた、カバーのメッキ材によってカットされる高周波が異なると言われ、このほかワックス・ポッティングをしたりしなかったりの違いによってフィードバックやマイクロフォニック効果が起きたり起きなかったりするという、独特のディープさがあります。
メッキ製品にはニッケルやクローム、ゴールドなどがあります。このメッキの前段階に密着を良くする為、一度銅メッキを施してから最終的なカラーのメッキを施すことが多くあります。この銅メッキがあるのと無いのではサウンドに対する影響力が変わります。銅は導電性が高くシールド効果が高くなるので音への影響も大きくなります。

藤野州豊(Euphoreal)

そもそもカバーの素材も様々ですので、これらの素材と厚みの違いがメッキよりもサウンドに大きく影響します。もっと掘り下げると、ニッケルシルバーという素材(主に銅、亜鉛、ニッケルの合金)のバランスによって無数の型番があり、これらの型番の違いで音が変わります(真鍮も同様です)。ベースプレートもニッケルシルバーもしくは真鍮が多いですよね。これらにも同じことが言えます。

そう、はっきり言って沼です!

とはいえ、一般的に売られているピックアップカバーの素材がニッケルシルバー製なのか真鍮製なのか、はたまたその合金番号は何番なのか、メッキの下地に銅メッキを施しているのか、板厚は何ミリなのか、、、なんてわからないので、取り付けた結果、好みの音になったかどうかで決めるしかないのです。
ピックアップメーカー各社はそれら全ての要因を上手く組み合わせて様々なサウンドを作っています。
– 藤野州豊(Euphoreal)

ピックアップカバーを着脱する方法

ピックアップカバーは自分の手で付けたり外したりできます。しかしピックアップは本来、製造時の状態のままで使用されることを前提に作られています。カバーの外しやすさを考慮して設計されることはほぼありませんから、失敗もあり得ます。また、EMGなど樹脂でがっちりと固められているピックアップのカバーを外すことはできません。設備や技術に自信のない人は、プロのリペアマンに相談してください。

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また、交換用ピックアップの中にはカバードとオープンの両面でリリースするものもあります。カバー着脱よりピックアップ交換の方が作業は遥かにカンタンなので、いっそのことピックアップごと交換してしまう、というのも一つの方法です。

ピックアップカバーの外し方

ピックアップカバーはベースプレートにハンダ付けされていますので、外すにはまずこのハンダを除去します。このハンダがハンダごてで簡単に溶けてしまえば良いのですが、無鉛ハンダが使われている場合は融点が高いので溶けにくく、またベースプレートが真鍮(ブラス)製の場合、真鍮は熱伝導率が良いのでハンダは溶けにくくなります。
あまり長時間ハンダを熱するとカバーやピックアップ本体にダメージを加えてしまうことがあるので、作業は手早く行う必要があります。またハンダがピックアップとカバーの隙間に入り込んでしまっている場合には、少々荒っぽいですが「金ノコによる切断」という手段が有効です。

ハムバッカー・ピックアップ
古い国産のフルアコから摘出したPAF型ハムバッカー・ピックアップ。こいつのカバーを外してみよう。

カバードのハムバッカーは多くの場合、ピックアップ本体とカバーの隙間が蝋(=パラフィン、ワックス)で埋められています。加熱して蝋を溶かしたり、また軽く叩いたりするとカバーは外れます。コイルにテープを巻いて保護したら、作業完了です。

ハムバッカーの裏側
裏返すと、2か所でしっかりとハンダ付けされているのが分かる。これを除去すると、簡単にカバーを外すことができる。とはいえこの個体はハンダがなかなか溶けてくれず、少々苦労した。

ピックアップ外し
ハンダを除去すると、カバーはスルっと外れた。この個体はポッティングされていなかったようで、ロウを除去する作業も不要だった。

ピックアップカバーの付け方

買ってきたピックアップカバーは汚れが付きにくいように塗装されているのが普通なので、まずハンダを付ける部分にヤスリがけを行い、ハンダを付けやすくします。

カバーが付いたら、「蝋付け(ポッティング)」しましょう。熱して溶かした蝋(=パラフィン、ワックス)にカバードピックアップを浸し、内部の隙間に蝋を浸透させます。これを冷やして蝋を固化させ、余分な蝋を除去して完成です。

市販されているピックアップカバーでは、「弦間ピッチ」に注意!

現在では各ブランドから純正のピックアップカバーがリリースされているほか、いろいろなブランドからピックアップカバーがリリースされています。カバードのサウンドを求めたりドレスアップをしたりと、こうしたカバーには一定の需要がありますが、ピックアップカバーを買う時に注意しなければならないのが、「弦間ピッチ」というキーワードです。
ポールピースの中心から隣のポールピースの中心までの距離を「弦間ピッチ」といい、メーカーによって違いがあるのです。

ギブソン・ピックアップ 57Classic / Classic Plus / Burst Buckerではフロント/リア共に9.8㎜だが、490T/498T/500Tのブリッジ用は約10.5mm。いずれのカバーも純正パーツとして販売されている。ヴィンテージギターのハムバッカーには9.91mmのものも
セイモアダンカン 多くのモデルでフロント/リア共に9.8㎜だが、トレムバッカーは広くなっている。カバーは同社製品を取り扱うESPからリリースされている
ディマジオ 弦間ピッチ9.7mmを基本とするが、フェンダーの弦間ピッチに合わせた「Fスペース」のものは10.2mm。ノーマル、Fスペース共に純正ピックアップカバーがリリースされている
ヴァンザント・ピックアップ ヴィンテージギブソンと同じ9.91mm。純正カバーは販売されていない

各メーカーで異なる、ピックアップの弦間ピッチ例

標準的なピックアップカバーが「SCUD」や「YJB PARTS」などから、ヴィンテージピックアップのカバーを再現したりエイジド加工を施したりしたドレスアップ効果の高いものが「MONTREUX(モントルー)」や「VINTAGE CLONE PARTS」などからリリースされています。

弦間ピッチの算出

手持ちのギターの弦間ピッチが判らない場合には実際に計測してみるのが一番ですが、普通の物差しでは9.91mmと9.8mmと9.7mmの違いなど、ミクロの寸法なんて判りませんね。自分で弦間ピッチを測定するには隣の弦との距離ではなく、1弦ポールピースの中心と6弦ポールピースの中心との距離を測ってみましょう。この長さを5分の1にした値が、そのピックアップの弦間ピッチです。

弦間ピッチ 図:自分で弦間ピッチを割り出す方法

1~6弦の距離 弦間ピッチ
49mm 9.8mm
48.5mm 9.7mm
49.55mm 9.91mm
51.5mm 10.5mm
51mm 10.2mm

表:1弦~6弦の距離から弦間ピッチを算出


以上、ハムバッカーのピックアップカバーについていろいろ見てきました。サウンドの変化もルックスも、ギタリストならばこだわりたいポイントではないでしょうか。大雑把ながら、使用されるジャンルにも関係しているというのが面白いところですね。

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