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トム・モレロ(Tom Morello)氏は、90年代に入り停滞していたギタリストの技術・スタイルを一新したと高く評価されるギタリストです。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、オーディオスレイヴほか数々のプロジェクトで活動し、強力なグルーヴに乗せて力強いメッセージを放ち続けています。斬新すぎるギタープレイはDJのスクラッチ音やヘリコプターのローター音を再現するなど、他の追随を許さない境地に達しています。今回は、このトム・モレロ氏に注目していきましょう。
Rage Against The Machine – Testify (Live At Finsbury Park)
2:35あたりから、驚愕の「シールドぶっこ抜きソロ」が確認できます。
1964年5月30日 生 米ニューヨーク州
幼いころから両親の影響で社会運動に関わりながら13歳の時にレッド・ツェッペリンを聞き音楽に目覚めます。
高校進学、同級生で現・トゥールのギタリスト、アダム・ジョーンズらと共にエレクトリック・シープというバンドを結成。1982年にハーバード大学に進学し政治学を専攻し、1986年に首席卒業。LAに移り、民主党のアラン・クランストン上院議員の秘書を務めるが政治思想の対立から解雇されます。1988年にロック・アップというバンドを結成し、翌1989年にゲフィン・レコードからアルバムをリリースしますが、1991年にバンドは解散します。
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンは90年代ニルバーナのグランジブーム以来のロック音楽を一新したバンドと言えます。怒りをラップにこめて絶叫するボーカル、エフェクティブなギター、ダイナミックなリズム隊。どれもがそれまで聞いたことのない音楽でした。1992年にはエピック・レコードと契約し、ファーストアルバムをリリース。4枚のアルバムを発表し、バンドが発する政治的メッセージやサウンドが人気を呼び、彼らは世界的なバンドへとなりました。バンド名「Rage Against the Machine(マシーンに対する憤怒)」から政治的で、「Machine」には政党の幹部組織や集票組織の意味があります。人気絶頂の2000年にバンドの方向性の相違からボーカルのザックが脱退を表明し、一旦バンドは解散します。そこからまだレコーディングこそありませんが、再結成を果たしてショウ出演やツアーを行なっています。
ティム・コマフォード – ベース博士
Rage Against The Machine – Sleep Now in the Fire (Official Music Video)
ドキュメンタリー映画で知られるマイケル・ムーア監督を起用し、ウォール街で強行したライブをゲリラ撮影。警察に取り囲まれ、連行されるまでを収録した衝撃的な動画。
ザックが脱退後、レイジのメンバーであるトムはティム、ブラッドに加え、元・サウンドガーデンのクリス・コーネルをボーカルに迎えてオーディオスレイヴを結成します。レイジのサウンドはそのままに、ボーカルであるクリス・コーネルのブルースをルーツとしたトラディッショナルなアメリカン・ロックなサウンドも人気を博し、3枚のアルバムを発表しています。政治的なメッセージ性は抑えられていましたが、アメリカのロックバンドとして初めて、社会主義共和国キューバでの野外コンサートを行いました。
Audioslave – Revelations
2:15あたりから確認できるスイッチング奏法のソロは、ディレイとフェイザーも使ってキーボードソロのよう。ディレイの後にフェイザーをつなげた理由はコレか、と納得させられます。
オーディオスレイヴで政治性が抑えられていることから、自身の政治的見解の出口として開始したソロプロジェクトが「ナイトウォッチマン」です。フォークソングを主体とした音楽性はバンドと一線を画し、自らボーカルも担当します。
Save The Hammer For The Man – Tom Morello: The Nightwatchman ft. Ben Harper
ストリートスウィーパー・ソーシャルクラブは、トム・モレロ氏と、パンクの老舗レーベル「エピタフ」の闘争MCブーツ・ライリー氏の2人がタッグを組んだ新バンドです。サイドギターを迎えることで、モレロ氏のプレイはいっそう自由奔放に。
Paper Planes – Street Sweeper Social Club
Tom Morello – Let’s Get The Party Started (ft. Bring Me The Horizon) [Official Lyric Video]
キャッチーかつグルーヴィーなリフ、バンドスコア職人が卒倒しそうなギターソロ。モレロ氏のプレイは、最大の敬意と賛辞を込めて「現代の変態さん」と表現されます。
モレロ氏のプレイは、ワウペダルを始めとするエフェクターやアイディア満載の特殊奏法を駆使した独特のサウンドが特徴です。個性的なリフに加え、パトカーのサイレンや工場の機械音などあらゆるサウンドを表現します。ギターのつまみを調整しながら弦を手で擦る事によってDJのターンテーブルのスクラッチ音を表現するスクラッチ奏法など、それまで誰も発想しなかった方法でエレキギターをプレイしています。
Rage Against The Machine – Bulls on Parade (from The Battle Of Mexico City)
2:25あたりから確認できるのが「スクラッチ奏法」です。ワウペダルでサウンドを調整しつつ、左手の掌で弦を擦り、右手でキルスイッチを操作することで、DJがターンテーブルでスクラッチを奏でるかのような効果を生みだします。
Audioslave – Cochise (Official Video)
冒頭で確認できるヘリコプターのローター音は、弦をアームで叩いた音にディレイをかけて出しています。叩く位置によって音質を微妙に変化させることで、実物のようなリアリティを達成しています。
若かりし頃、同時代のメタルやハードロックのギタリストを見て、「彼らとは違うものになりたい」とモレロ氏は感じたそうです。その結果として、モレロ氏は特殊奏法の数々を考案していきました。
これに加え、ギターを胸の位置あたりに構えるのも、同時代のギタリストと大きく異なる独特のアプローチです。ギターがベルトのバックルより高い位置にあり、右肘は鋭角に曲がります。ストラップが短い分だけギターと演奏者が一体化し、暴れまわっても脚がギターの邪魔になりにくいのが強みです。
モレロ氏は両親の影響もあり、学生時代から左派の立場で社会運動に参加しています。ハーバード大学で政治学を専攻し、1年間であれ上院議員の秘書を務めてもおり、こと政治に対して非常に高い関心を持っていることが伺えます。
氏の政治思想は社会主義に傾倒しており、音楽にそのメッセージを多く込めるほか、ハンマーと槌、赤い星など、ステージや衣装に共産主義のイメージを頻繁に採用しています。これらのイメージやメッセージ性がバンドのグルーヴやヘヴィリフと融合することで、見る者を鼓舞し、抑えていた感情を開放させるような音楽を作り上げています。
「僕は地下鉄の駅で小銭稼ぎに演奏してる素晴らしいアーティストを見たことがあるし、まったく魂を感じられないアーティストが4万人を前に歌う最悪のショウも見たことがある。」Tom Mollero
レイジ時代はフェンダー・テレキャスター、オーディオスレイブになってからはギブソン・レスポールを使用することもありました。ここでは特に象徴的な3本をピックアップしていきましょう。
Rage Against The Machine – Know Your Enemy (from The Battle Of Mexico City)
キルスイッチを駆使したイントロとギターソロが印象的。ボディに記される「ARM THE HOMELESS(ホームレスに武装させろ)」は、人種差別問題に対するモレロ氏ご本人の主張だと言われています。
レイジ時代のメイン機、通称「ARM THE HOMELESS」は、オーダーで作ったものの気に入らず、部品交換を何度も繰り返して2年がかりで完成したというスーパーストラトです。クレイマー風のヘッドを持つネックはグラファイト製で、フロントにEMG「85」&リアにEMG「81」というメタル王道のピックアップ構成、トグルスイッチと2V1Tの操作系、Ibanez「Edge」トレモロシステムはアームアップ可能、という仕様です。片方のボリュームを切ることで、トグルスイッチはキルスイッチとして機能します。
Take The Power Back (Live at the Vic Theatre, Chicago, IL – April 1993)
キルスイッチやアームに頼らなくても、随所に特殊奏法を放り込むのがモレロ氏のスタイル。このギターの愛称にもなっている「センデロ・ルミノソ」とは、ペルーで活動する毛沢東主義武装組織「ペルー共産党」のことです。
ドロップDチューニングの演目で使用するのが、1982年製フェンダー「アメリカン・スタンダード・テレキャスター」です。ペイントやステッカーで飾られてはいますが、楽器本体はオリジナルの状態を保っています。チューニングはヘヴィでも、テレキャスターゆえにサウンドが重くなりすぎないのがポイントです。
Audioslave – Like a Stone (Official Video)
アンニュイなムードを醸成するトレモロ、ディレイとワーミーあっての情熱的なソロにより、モレロ氏のエフェクターさばきが存分に味わえる名演として代表的な演目。
レイジの時とは違うサウンドにしたいという想いから、オーディオスレイヴ時代にメインとして起用していたのが通称「SOUL POWER」ストラトキャスターです。楽器店の企画した特別仕様機に手を加え、「ARM THE HOMELESS」の機能を損なわずに違った個性を持ったギターとして仕上がっています。
フロントとセンターにフェンダー・ノイズレスピックアップ、リアにはセイモア・ダンカン社製シングルサイズのハムバッカー「Hotrails」というピックアップ構成に、キルスイッチを増設、トレモロはやはりIbanez「Edge」です。ボディに記された文字は、新しいバンドにはソウルパワーが必要だと思ったからだとか。
Tom Morello | Fender Signature Sessions | Fender
フェンダーから、このSOUL POWERストラトキャスターを再現した、モレロ氏シグネイチャーモデルがリリースされています。トレモロこそフロイドローズですが、同じピックアップを備え、指板はコンパウンド・ラジアスです。「SOUL POWER」デカールが同梱されます。
SOUL POWER Stratocasterを…
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Tom Morello’s “Ordinary” Pedalboard
近年のボードは、昔よりやや拡大しています。BOSSチューナー、クライベイビー、ワーミー、2台のBOSSデジタルディレイ、ブースター用のDODグライコ、MXRフェイズ90までが直列で、アンプのセンド/リターンにつないでいます。多彩な亜空間サウンドが出せるデジテック「XP300」は、ボードに直接つながれてはいません。今のところ試験的に取り入れているだけなのか、またはこれだけアンプの前段につながれている可能性があります。
ライヴではいつもMarshall製50Wアンプヘッド「JCM800 model 2205」を使用しています。2205は「BOOST(ドライヴ)」と「NORMAL(クリーン)」の二つのチャンネルを備えていますが、モレロ氏はドライヴチャンネルのみ使用し、ギターの音量を絞ってクリーンを作ります。JCM800自体は80年代のメタルシーンを支えた名機であり今なお愛用者の多いアンプですが、この2205は100W仕様の2210とあわせて150台ほどしか生産されなかった、極めてレアなモデルだと伝えられます。
歪みは全てアンプで作っており、ドライブペダルを使用しないことは注目に値します。トム・モレロ氏は、ギターをアンプに直接挿し、エフェクターはセンド/リターンに接続しています。本来ならアンプの前段に配置するべきであろう、ワウやワーミーまでひとまとめにしてしまっています。ノイズ対策や可搬性にメリットが考えられますが、どのエフェクターを駆動させていてもプリアンプに送られるゲインは変化しない、というところが重視されているのかもしれません。
オーディオスレイヴ時代にはトラッドなアメリカンロック調の演目もあったため、エフェクターの最前段にトレモロが置かれていました。フランジャーやフェイザーと違って細かく揺れるように設定しており、古き良きアメリカの雰囲気をかもし出します。
Boss TR-2 Tremolo – Supernice!エフェクター
モレロ氏のサウンドに最も重要なのがワウとワーミーだと言われています。ワウはジム・ダンロップ「GCB95クライベイビー」を長らく愛用しており、正義のための戦いを主張するカスタム仕上げの施されたシグネイチャーモデルもリリースされています(ご本人は普通モデルを使用)。
Jim Dunlop CRYBABY GCB-95F – Supernice!エフェクター
写真は現行の第5世代
衝撃のデビューから十余年、ペダルでピッチコントロールできるデジテック「ワーミー」は、今では第5世代となっていますが、モレロ氏は初代の「WH-1」をご愛用です。ワウやディレイとの組み合わせでさまざまな効果を生みだします。時には、2本の足でワーミーとワウを同時に操作することもあります。
Digitech Whammy 5 – Supernice!エフェクター
コレはそのアップグレード版、BOSS「DD-3T」。
さまざまなディレイを使用することから、現在では設定の異なる2台のディレイを使い分けています。片方は繰り返しの多いロングディレイ、もう片方はほぼ同じ音量で1回だけ返ってくるショートディレイとして使うのが基本のようです。
BOSS DD-3
BOSS DD-3T – Supernice!エフェクター
レイジ時代に愛用していたIbanez「DFL」フランジャーは、オーディオスレイヴ時代にMXR「Phase 90」に切り替えられました。ゆっくり揺れるよう設定し、グルーヴにうねりを加えるように使用します。このPhase 90がエフェクト群の最後段にあることは、注目に値します。接続順のセオリーを全面否定するような配置ですが、モレロ氏にとってはココがベストだったようです。
MXR Phase 90 – Supernice!エフェクター
レイジ時代からずっと愛用している7バンド・グラフィック・イコライザーDOD「FX40B」は、+/-18dBのブースト/カットが可能という強力な性能があります。モレロ氏はこれを800Hz帯域を僅かにカットするほかはフラットに設定し、ソロ時に音量だけ上げるブースターとして使用しています。
最新作となるソロ2枚目は、ロック、カントリー、レゲエなど各界の超豪華ゲストが大挙参加した、電子音やラップも入ったダンスミュージックまである、ジャンル横断的な作品です。モレロ氏を中心に多ジャンルのアーティストを知ることができるので、音楽の勉強としても良好です。
Tom Morello – Highway To Hell (ft. Bruce Springsteen & Eddie Vedder) [Official Audio]
アルバムのオープニングを飾るのは、ロック界の大物ブルース・スプリングスティーン氏、オルタナ界の大物エディ・ヴェダー氏の二人をフィーチャーした、AC/DCのカバー。王道ギターサウンドの合間に、モレロ氏お得意の変態サウンドもしっかり入っています。
レイジとオーディオスレイヴでファンを獲得してきたモレロ氏が満を持して放つソロ第一作。ロック系だけでなく、何人ものラッパー、ドラムンベース、DJまで、各界を代表する豪華アーティストが多数参加するぜいたくなクロスオーバー作品になっています。
メタルとヒップホップの融合した強力なグルーヴ、左翼革命を強く訴える過激な政治性、そしてモレロ氏の非凡なギタープレイ満載、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン衝撃のデビュー作。知性と攻撃性が合体した歴史的名盤。
Rage Against The Machine – Wake Up (Audio)
映画「マトリックス(1999年)」のエンディングテーマに採用。スイッチング奏法でトレモロ効果を模した間奏、ワーミーでギャンギャン吠える後奏が、いかにもモレロ氏らしい。
一枚目のアルバムから4年を経てつくられた2枚目。4年たったにもかかわらず曲作りからレコーディングまで短期間で仕上げた作品。熱を封じ込めるのに時間は関係ないことを証明してくれるアルバム。6曲目の「Tire Me」は公式動画もシングルカットもありませんでしたが、1997年の「最優秀メタルパフォーマンス」でグラミー賞を受賞しました。しかもギターの録音には20Wの安いアンプと質屋で買ったジャンク同然のギターを使ったと伝えられます。
2枚目のアルバムからさらに3年を経て作られた、圧倒的なパワー・攻撃性がさらに深まった3枚目アルバム。1992年4月末から5月初頭にかけてロサンゼルスで起きた大規模な人種暴動、通称「ロス暴動」をテーマにしています。 ライヴでのテンションをそのまま焼き付けたような勢いがある、レイジの最後のオリジナルアルバムであると共に最高傑作。
Rage Against The Machine – No Shelter
レイジ最後のアルバムはカヴァーアルバム。ベトナム反戦運動に強い影響を受けたローリング・ストーンズ「Street Fighting Man(1968)」、マーガレット・サッチャー英国首相の反対派が国歌として広く採用したボブ・ディラン「Maggie’s Farm(1965)」など、いかにもレイジらしい選曲。
革新的なロックバンドに圧倒的な歌唱力を持ったボーカルが加入した、オーディオスレイヴのデビュー作。最先端のサウンドに古き良きアメリカンロックのテイストを融合させた、良質なロックアルバムです。
短命なスーパーグループ/サイドプロジェクトになるだろうという大方の予想をくつがえした2枚目のアルバム。酒と煙草をやめたことで、クリス・コーネル氏のボーカルはパワーアップ。
元RATMメンバーと元サウンドガーデンのクリス・コーネルによるバンドの3作目のオリジナル・アルバム。1960年代と70年代の音楽に影響を受けたサウンドに、モレロ氏は「アース・ウィンド・アンド・ファイアとレッド・ツェッペリンの出会い」と表現しました。
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの音源を…
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