《シングルコイルの絶対基準》フェンダーのピックアップ

[記事公開日]2025/4/4 [最終更新日]2025/4/26
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

フェンダーのピックアップ

フェンダー社は世界的なギター/アンプメーカーであるとともに、ピックアップの分野においても世界的なメーカーです。特に現代における標準的なシングルコイル・ピックアップの元祖はフェンダーであり、他社シングルコイル製品はみなフェンダーのトーンを基に開発されているとまで言われています。フェンダーはシングルコイルの「絶対的基準」となっているわけです。

並いるピックアップメーカー各社が数々の素晴らしいピックアップを開発していますが、フェンダーのギターに標準装備されているフェンダー製ピックアップはそれらをものともせず、世界中で素晴らしいサウンドを奏でています。そんなわけで今回はフェンダーのピックアップに注目し、特徴やラインナップをチェックしていきましょう。


  1. フェンダー製ピックアップの構造的特徴
  2. ストラトキャスター用シングルコイル
  3. テレキャスター用シングルコイル
  4. その他のラインナップ

フェンダー製ピックアップの構造的特徴

シングルコイル模式図 フェンダー製シングルコイルとギブソン製P-90の模式図。フェンダーはコイルに磁石を通しており、ギブソンでは磁石の上にコイルを配置している。

フェンダー製ピックアップの特徴は、第一にその構造にあります。フェンダーのシングルコイルはコイルに磁石を通しており、その磁石がポールピースを兼ねています。磁界はポールピースの先端から発することになり、狭く集中した磁界で弦振動を拾うことになります。これに対してギブソンのP-90に代表される他社のピックアップは、鉄製ポールピースを通したコイルを磁石の土台に乗っける構造です。磁界はピックアップ底部から広く発生します。この磁界の違いによって、音色に違いが出るわけです。
ただし磁石は硬くて脆いためネジとして使う事ができないため、磁石でできたポールピースは高さを調節することができません。そのためフェンダーの多くのモデルでは弦とピックアップとの距離を見越し、ポールピースの高さを弦ごとに設定しています。

フェンダーでは、各モデルのキャラクターを数値化している。


ストラトキャスター用ピックアップのパッケージ背面。出力とEQという二つのパラメータでキャラクターを表示している。また、直流抵抗とインダクタンスも表示している。

フェンダーのピックアップは、電気性能やトーンのバランスをとった1組のセットとして販売されるのが普通です。それゆえ、ピックアップ同士の音量差やトーンバランスを心配する必要はありません。またそれぞれのセットには、Pickup Output(出力)とOutput EQが表示されています。それぞれのモデルはポールピースの形状や磁石の番手などさまざまなアナログの要因で色づけされますが、大まかな個性を数値でイメージできる感じになっており、ピックアップを検討する上で大いに参考になります。

Pickup Outputについては、ヴィンテージ・スタイルが1か2、強めのヴィンテージ・スタイルや現代標準が3、高出力仕様が4や5に設定されています。

ストラトキャスター用シングルコイル

Fender Custom Shopモデル

モデル名 マグネット 出力 ポジション Treble Mid Bass サウンドの傾向
Custom ’69 V 1 Neck 5 4 5 低出力
クリアでペダルフレンドリー
バランスが良いがパンチ不足
Middle 5 4 5
Bridge 5 4 5
Custom ’54 V 2 Neck 3 4 6 ヴィンテージサウンド
クリーン〜クランチ
ブライトなベルトーン
Middle 3 4 6
Bridge 3 4 3
Fat ’50s V 3 Neck 6 5 5 低音強調、トレブル控えめ
アタック感の強いワイルドなトーン
ロックやペダルに最適
Middle 5 3 5
Bridge 7 5 5
FAT ’60S II 3 Neck 5 5 6 暖かく低音重め
ロック指向
Fat ’50sより暗め
Middle 5 5 6
Bridge 5 5 6
Texas Special V 4 Neck 8 6 4 高出力、低音強くクリアな高音
粘りとバイト感
多用途性あり
Middle 7 6 4
Bridge 7 6 8

カスタムショップ製ストラト用モデルを出力順に並べてみた。トレブルが豊かに響くものが多い印象だが、それぞれに違った個性を持っていることが分かる。

「Noiseless」シリーズ

Fender Noiselessピックアップ

「Noiseless(ノイズレス)」シリーズは、シングルコイルのサウンドをそのまま残しながら積年の課題だったハムノイズを可能な限り低減させる高性能モデルです。ノイズを相対的に小さくさせるため出力は高めに設定されており、現代的な音楽で使いやすいバランスの良い音色を持っています。

エリック・クラプトン・シグネイチャーモデルに搭載されている「Vintage Noiseless」、ジェフ・ベック・シグネイチャーモデルに搭載されている「Hot Noiseless」、MIJ MODERN STRATOCASTERやAmerican Elite Stratocasterで実績のある「Gen 4 Noiseless」など多様化しています。



Hot Noiseless Stratocaster Pickup Set | Fender
シングルコイルの泣き所だった「ノイズへの脆弱性」をいかに解決させるか。フェンダーは自社の歴史やアイデンティティに深くこだわりながらも、新しいチャレンジを常に重ねている。

さまざまなストラト用ピックアップ

シリーズ モデル名 マグネット 出力 ポジション Treble Mid Bass
Pure Vintage Pure Vintage ’65 ST V 2 Neck 6 5 5
Middle 6 5 5
Bridge 6 5 5
Pure Vintage Pure Vintage ’59 ST V 2 Neck 5 4 6
Middle 5 4 6
Bridge 5 4 6
USA Eric Johnson ST III & V 2 Neck 8 6 7
Middle 7 6 6
Bridge 7 6 6
Noiseless Gen 4 Noiseless ST V 3 Neck 5 6 6
Middle 5 5 6
Bridge 5 6 5
Noiseless Vintage Noiseless ST II 3 Neck 6 3 5
Middle 6 3 5
Bridge 5 3 4
MEX Tex-Mex Strat V 3 Neck 4 5 5
Middle 4 5 5
Bridge 7 5 5
USA Deluxe Drive ST III 4 Neck 4 4 6
Middle 4 5 6
Bridge 6 4 6
Noiseless Hot Noiseless ST Ceramic 5 Neck 5 6 5
Middle 5 6 5
Bridge 5 5 4
Pure Vintage Pure Vintage ’57/’62 ST V 5 Neck 5 4 4
Middle 5 4 4
Bridge 5 4 4

メーカー表示のパラメータより、Outputの順番で並べてみた。Pure Vintage ’57/’62はハイパワーな表示になっているが、実際には他のPure Vintage同様にほどほどのパワーらしい。

テレキャスター用シングルコイル

シリーズ モデル名 マグネット 出力 ポジション Treble Mid Bass
Pure Vintage Pure Vintage ’52 TL III 1 Neck 4 4 7
Bridge 3 4 7
Noiseless Vintage Noiseless TL II 3 Neck 3 3 6
Bridge 3 3 4
Noiseless Gen 4 Noiseless TL V 3 Neck 6 4 6
Bridge 6 6 5
Custom Shop ’51 Nocaster TL III 3 Neck 4 4 3
Bridge 4 4 6
Pure Vintage Pure Vintage ’64 TL V 3 Neck 6 4 6
Bridge 7 7 7
Custom Shop Twisted TL V 4 Neck 7 5 7
Bridge 6 4 5
USA Deluxe Drive TL III 4 Neck 6 4 8
Bridge 6 4 6
Custom Shop Texas Special TL V 5 Neck 6 6 9
Bridge 7 6 4
USA Ultra Noiseless V Neck
Bridge

出力順に並べてみた。Ultra Noselessのデータは公式に開示されていない。

Fender Custom Shopモデル

「Noiseless」シリーズ

テレキャスターにおいてもノイズレス・ピックアップはリリースされていますが、こちらはヴィンテージ系のサウンドを志向するモデルが中心で、パワーで勝負するモデルはありません。現在流通しているのは、MIJモダンやアメリカン・エリートで実績のある「Gen4(第4世代)」、現行の最強最新鋭アメリカン・ウルトラに採用されている「Ultra Noiseless」、Deluxe Tele Thinlineなどに採用実績のある「Vintage Noiseless」の3モデルです。


《高出力モデル》Deluxe Drive Telecaster Pickups

Deluxe Drive Telecaster Pickups

Fender Highway One シリーズに採用実績のある高出力機で、現行ではテキサス・スペシャルに次ぐパワーを持っています。ハイゲイン·アンプとの相性は抜群ですが、クリーントーンもクラシックなテレキャス・サウンドとなっています。

マグネット アルニコ III
出力 4
トーン
Treble / Mid / Bass
ネック:4 / 4 / 8
ブリッジ:6 / 4 / 6

「Pure Vintage」シリーズ

年式どおりの仕様を再現する「Pure Vintage」シリーズからは、1952年式と1964年式がリリースされています。1952年式は低音域を充実させつつ出力はかなり控えめ、1964年式は現代的なまとまり間のある音色と程よい出力を持っています。


Fender Original Vintage Telecaster® Pickups — CLEAN | Fender
’52は「オリジナル」のモデル名で扱われていた。

その他のラインナップ

Pure Vintage「’65 Jaguar」「’65 Jazzmaster」Pickup Set

Pure Vintageシリーズからは、いずれも1965年式のジャガー用およびジャズマスター用がリリースされています。両モデルとも低域が肉厚なネック側とトレブルの豊かなブリッジ側という組み合わせで、コード演奏に良好な程よい出力に設定されています。

CuNiFe Wide Range Humbucker


Fender Pickups CunifeWideRangeHumbuckers DemoVideo
コードプレイに良好な、透き通ってなお太い音。ちなみにCuNiFeは、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)の合金。

「(ワイドレンジ・ハムバッカー)Wide Range Humbucker」は、ギブソンの名機「PAF」の生みの親、セス・ラバー氏が1970 年に開発したフェンダー独自のハムバッカーです。シングルコイルと同じように磁石でポールピースを作る設計が特徴で、オーソドックスなPAFタイプに比べ高域の輝くサウンドが持ち味です。
ポールピースの材料として必須の磁石「CuNiFe(クニフェ)」が長年にわたって調達できませんでしたが、遂に近年その確保に成功、オリジナルレシピでの完全再現に成功しました。完全復活を遂げたワイドレンジ・ハムバッカーは、アメリカン・ヴィンテージIIシリーズに採用されています。


CuNiFe Stratocaster Pickup Set | Fender
USA本国では、CuNiFeを使ったストラト用、テレキャスター用などさまざまなピックアップがリリースされている。フェンダートーンを維持したままでポールピースの高さ調節ができる、夢のようなシングルコイル。夢は叶う。

ShawBucker 1&2

PAFタイプのキャラクターを持ちながら、フェンダーらしい明瞭さを持っている。

「ショーバッカー(ShawBucker)」は、フェンダーのチーフ・エンジニア、ティム・ショウ氏の名を冠するPAFタイプのハムバッカーです。ノイズに対する耐性と明瞭なトーンを両立させ、かつ出力をシングルコイルとの組み合わせに良好なところまで抑えています。
ShawBucker 1はSSHのリアとしての使用を想定した出力で、ShawBucker 2は1をフロントとした時のリアとしての使用を想定した出力にアップさせています。


American Standard Stratocaster® HSS Shawbucker Demo | Fender


以上、フェンダーからリリースされているピックアップについて見ていきました。フェンダーはシングルコイルの元祖、絶対的基準などという地位や名誉の上に胡坐(あぐら)をかくことなく、ヴィンテージモデルにおいても最新モデルにおいても、巨大メーカーなればこその開発力を駆使して次々と新しいモデルを開発しています。ピックアップ交換を検討するなら、ぜひ候補に挙げてみてください。

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