エレキギターの総合情報サイト
「ナット」は弦を安定させ、解放弦の弦高を決めるパーツです。常に弦に触れているため、解放弦でなくてもサウンドに影響します。今回は、小さいけど重要なパーツ「ナット」に注目していきましょう。
ナットで使用される素材は多岐に及び、耐摩耗性など頑丈さ、そして滑りの良さが性能を左右します。しかしこれに「サウンドの好み」が加わりますから、カッチカチでスベスベだったら良い、と一概に言えないのが奥の深いところです。では、いろいろな素材を見ていきましょう。
世の中の合成樹脂は、だいたいプラスチックです。これに対してナット界のプラスチックは、後述するようなキャラクターの立った樹脂ではない「ふつうのプラスチック」という、ふわふわしたカテゴリーです。加工しやすく品質が安定しており、低価格のギターで盛んに用いられます。クセのない軽いサウンドですが、消耗しやすいのが注意点です。プラのナットが消耗してきたら、グレードの高いナットに交換してみましょう。
デルリンは米国デュポン社が、ジュラコンは日本のポリプラスチックス株式会社が開発した、ポリアセタール樹脂です。組成に細かい違いこそあれ、両者はだいたい同じものです。耐熱性や耐磨耗性など機械的特性に優れる「エンジニアリング・プラスチック」に属し、デルリンはヴィンテージ・レスポールのナットとして使われていました。牛骨に比べて弾性があり、マイルドな柔らかい音色です。また滑りが良く、チューニングが安定しやすくなります。
「Micarta」は、ギターではミカルタと読まれます。米国ウェスティングハウス社が開発した、布や紙などに圧力をかけてフェノール樹脂で固めた物質です。木材とほぼ同じ音響特性があるとされ、牛骨の代わりに使える人工骨として1960年代からしばらくマーチン社に採用された実績があります。牛骨より若干やわらかく、粘りのあるサウンドを持っています。
コーリアンは、米国デュポン社で開発された、アクリル系の樹脂を原料とした人工大理石です。
主張しすぎない使いやすい音色を持っており、アコースティックギターに多く使われます。エレキギターではまだ珍しい存在ですが、名手のレスポールで使用される例があり、他の人と違うものを使いたい人にお勧めです。
タスクは、米国グラフテック社が開発した人工象牙です。個体差なく加工性は良好、倍音が豊かでサスティンも良く、象牙に比肩するサウンドが得られます。牛骨に次ぐ支持を集める素材ですが、牛骨に比べて消耗が早いのが注意点です。
タスクXLとブラックタスクは、PTFE(テフロン)を含有した高分子素材です。弦振動によりテフロン粒子が放出され、弦との摩擦が恐ろしく軽減されます。潤滑効果はナット本体の寿命よりも長続きするため、「永久潤滑」も嘘ではありません。
人工骨は、牛骨と同じような音響特性を持った人工素材です。先述のミカルタやグラフテック社のNUBONE(ヌーボーン)などがこれに相当します。人工象牙のTUSQに対し、NUBONEは人工牛骨という立ち位置です。プラスチックより硬くて響きが良く、研磨の摩擦熱で溶解しない加工性の良さが持ち味です。
カーボン/グラファイト共に、炭素を原料とする物質です。グラファイトの方が炭素の純度は高く、高圧を加えるとダイヤモンドができます。耐久性が高くて滑りが良く、高域に丸みのある、輪郭のはっきりした音色になります。ただし加工は難しく、工賃が高くつくのが注意点です。
海外ではセイウチの牙なんてあるようですが、日本ではウシとゾウの類が現実的です。
牛骨は最もポピュラーなナット材で、ナット材を比較する基準になります。ブリーチで真っ白にした「漂白」、漂白しない「無漂白」、オイルを染み込ませた「オイル漬け(ヴィンテージ・ボーン)」の3種類があります。
やはり牛骨が人気ですし、間違いがありません。漂白、無漂白、オイル漬けの順で油分が増えていきます。オイル漬けは滑りに優れ、音は丸くなる傾向があります。― Red House石橋良一氏
《愛機復活!!》Red Houseにネック交換を依頼してみた!
水牛とバッファローは同じ動物で、ウシ目ウシ科ウシ亜科ウシ族のウシです。アメリカバッファローと混同されることがありますが、こちらは絶滅危惧種なのでギターには使えません。骨は牛骨と同様ですが、ツノ(Horn)もナット材として使用されます。水牛のツノは黒く、磨けばツヤが出る高級感が持ち味です。骨より柔らかめで加工性が良く、マイルドで丸みのある音になります。
象牙は牛骨より硬く、音の伸びが良く、かつ自然に響く、最高級のナット材です。しかし自然保護の観点から入手は非常に困難です。その代わりに登場したのが、マンモスの牙です。こちらはすでに絶滅してしまっているので、保護する必要がありません。「歴史を感じさせる音がする」という都市伝説がありますが、かなり高額なので試すには勇気が必要です。
ブラスは音の伝導が最も良い金属で、金管楽器に多く使われます。ナットではシェクターが初めて採用して有名になりました。ナット材の中ではフレットの個性に最も近く、開放とフレットを押さえた時の音質差が少ないのがメリットです。イメージほど金属的な音はせず、アタック/サスティンともに力強い音になります。ただし経年変化で黒ずんできたり、果ては腐食してしまったりするのに注意が必要です。
ジェフ・ベックモデルのストラトで採用されていることで知られる、ベアリングで摩擦を減らした金属製ナット。チューニングが安定し、サスティンも伸びます。
フロイドローズに代表されるダブルロッキングトレモロシステムのナットは全てネジの締め込みによって弦を固定することでチューニングを狂いにくくします。重量もありサスティンをかなり稼ぐ事ができます。
フロイドローズ搭載のエレキギターについて
ギブソンの2015年モデルに採用されている金属製のナットで、ネジによる高さの調節が可能。
材料としては、頑丈で滑りが良いのが良いナットです。「やわらかめ」と紹介した素材もありましたが、ナットとして必要な強度はしっかり持っているので心配ありません。ナットの性能を最終的に決定づけるのは、固定とミゾの加工、すなわち「人間の仕事」です。
形状、幅、開放弦の弦高、そして深さが適正なミゾならば、良いナットです。何かの拍子にポロっと落ちてしまったら、リペアマンに接着してもらいましょう。変な付け方をしたら、ギターが音痴になってしまいます。
ブリッジから来た弦が、ナットの端にきちんと接する。これが良いミゾの形状です。そうでなければ開放弦と押さえた時で、ピッチにズれが生じてしまいます。
弦のゲージに合わせ、そこからごく僅かに広いのがベストな幅です。量産機では幅にややゆとりを持たせることもありますが、ある程度タイトな方が弦は美しく振動します。弦の銘柄やゲージを変更する場合、弦とミゾが合わなくなることがあります。その場合、プロによる調整が必要です。
開放弦の弦高は、フレットよりほんのちょっと高いのがベストです。低ければ開放弦がビビりますし、高ければオープンコード「C」や「E」などが押さえにくくなります。
ミゾの深さ(=ナット上面の高さ)
ナット自体が高いままで適正な深さにミゾを切っているのが、ミゾの深い状態です。ミゾが深いと弦の両側に壁がある状態となり、摩擦が生まれてチューニングが狂いやすくなります。逆に浅すぎるとハードなプレイやアーミングなどで弦が外れてしまうこともありますから、適正な深さが必要です。
1弦までもがナット上面からちょっと顔を出している、絶妙にセットアップされたナット。
チュ−ニングやアーミングの際に「キッ」と言うような事があれば、ミゾの幅が狭いなどの理由で摩擦が強くなっています。潤滑用のオイルを塗布することもありますが、オイルに弱い素材もあるため注意が必要です。ナットの滑りを良くするためには、鉛筆の芯をこすりつけるという民間療法もよく行なわれます。鉛筆の芯には滑りを良くする作用があります。
ナット溝の調製は極めて高精度な加工が要求されるため、プロのリペアマンにゆだねるのが一番です。きちんと調製ができていないと、チューニングが不安定になったり合わせられなくなったり、という不具合が起こります。
ナットの精度、すなわち「ナットでどれだけ弦振動を受けているか」は重要です。ナットからペグまでの間がビリビリ振動するギターも世の中にはあるんですけど、それだと振動が逃げてしまっているんです。もちろん100%逃げないということは無いんですが、ナットがちゃんとできていると、ここで受けた振動のエネルギーが、きちんとネックに伝わっていく訳です。 – T’s Guitars 高橋謙次氏
《一人ひとりに届けたい》T’s Guitars訪問インタビュー
ナットは弦振動を受け、削れてミゾが深くなっていってしまいます。最後には開放弦がビビるようになりますが、こうなったら交換時期です。交換は高い精度が要求されますから、プロのリペアマンに依頼しましょう。スタイルが同じものなら木部の加工はいりませんが、ローラーナットやロック式ナットなどスタイルの異なるナットに交換しようとしたら木部を加工する必要があり、もとに戻す事ができなくなります。
あらかじめ溝が切られた状態で販売されることもありますが、職人が使用する弦にあわせて精巧に彫るという作業もよく行なわれます。自分のギターのナットはどうか、気になるギターのナットはどうか、ぜひチェックしてみてください。
ナットを…
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