ギブソン・レスポール・カスタム徹底分析!

[記事公開日]2022/7/30 [最終更新日]2024/8/22
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

レスポール・カスタムのラインナップ

現在のレスポール・カスタムはギブソン・カスタムショップでのみ生産されています。フィニッシュについてはピカピカの「グロス」、ちょっとくすんでいる「VOS」、エイジング専門部署マーフィー・ラボによる各種「エイジド」というようにバリエーションこそあれ、ほぼ全機種ブラックという黒光りしたラインナップを展開しています。

カスタムショップは多くのモデルが限定生産となっていますが、ここでは原稿執筆時点(2022年8月)で公式サイトにて紹介されているものをピックアップしています。

Les Paul Custom W/ Ebony Fingerboard Gloss

Les Paul Custom

現代版のレスポール・カスタムは、9ホール式重量調整を施したメイプルトップ&マホガニーバックのボディ構造、ディープジョイントのマホガニーネック、ミディアムジャンボフレットを打ち込んだエボニー指板という本体に、ハードウェアにはグローヴァー社製ペグ、ナッシュビルタイプのTOMブリッジ、スピードノブといった現代的セレクト、電気系には490R/498Tハムバッカーピックアップ、CTS社製ポット、スイッチクラフト社製アウトプットジャックといった王道系を装備した、まさに現代のレスポール・カスタムと呼ぶにふさわしいギターに仕上がっています。完全な新品として出荷されるので、エイジング処理は一切なく、バインディングも真っ白です。

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Les Paul Axcess Custom

Les Paul Custom:フロイドローズ Les Paul Axcess Custom W/ Ebony Fingerboard Floyd Rose Gloss

Les Paul Axcess Custom Figured Top Les Paul Axcess Custom Figured Top W/ Ebony Fingerboard Gloss

「レスポールアクセス・カスタム」は、伝統的なスタイルを継承しつつ演奏性やサウンドバリエーションを強化させた、新しいレスポール・カスタムです。490R/498Tのハムバッカーピックアップはこのギターのために4芯仕様に再設計されており、トーンポットのプッシュ/プルでコイルタップが可能です。
アクセス・カスタムからは、FRTを装備した何でもアリ仕様と、TOMブリッジのフィギュアドメイプルトップ仕様がリリースされています。

レスポール・カスタム・ボディバック ハイポジションのアクセスを思い切り向上させたジョイント部と、びくともしなさそうなヘッド裏のボリュートが大きな特徴。

1957 Les Paul Custom Reissue

1957 Les Paul Custom

現代のレスポール・カスタムのお手本となった1957年式は、重量調整が非採用の1枚板マホガニーボディをはじめ、パールノブのクルーソンペグ、ハットノブ、ワイヤ無しABR-1ブリッジなど当時の仕様を完全再現し、ややくすんだ感じのVOS(Vintage Original Spec)フィニッシュで仕上げています。ピックアップはアルニコIII磁石を使用したカスタムバッカーで、ロウ漬けを施さないところまで当時の仕様をしっかり受け継いでいます。
標準的な2ハムバッカー、センターピックアップを追加した3ハムバッカー、そこにビグスビー追加、という3タイプがあります。なお3ハムバッカー仕様機のサウンドバリエーションは、フロント単体/センター+リアのフェイズ/リア単体となり、センターポジションでは細く鋭いサウンドが得られます。

1957 Les Paul Custom 2-Pickup Aged 1957 Les Paul Custom 2-Pickup Ebony Ultra Light Aged

1957 Les Paul Custom 3-Pickup Aged 1957 Les Paul Custom 3-Pickup With Bigsby Vibrato Ebony Light Aged
エイジング専門部署マーフィー・ラボにてヴィンテージギターそのものの姿を再現したモデルも、2タイプがリリースされています。

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1968 Les Paul Custom Reissue

1968 Les Paul Custom

1968年式レスポール・カスタムは、メイプルトップ&マホガニーバックのボディ構造が最大の特徴です。金属ノブのクルーソンペグ、ワイヤ付きのARB-1ブリッジなど、当時の仕様がしっかり採用されています。ヘッドのダイアモンドインレイやボディ&ヘッドのバインディングに経年変化を思わせるカラーリングが採用されているものの、塗装はピカピカのグロスで仕上げられています。

1968 Les Paul Custom Ebony Ultra Light Aged
マーフィー・ラボからリリースされている1968年式は、全体的にうっすらとくすんでいるウルトラ・ライトエイジド仕上げになっています。

Peter Frampton “Phenix” Inspired Les Paul Custom

Peter Frampton Les Paul Custom

かつて全世界35本という限定生産機だったピーター・フランプトン仕様機は、アーティストコレクションとしてレギュラー入りしました。ちょっと古くなった感じのVOS仕上げこそ施されていますが、マホガニー1Pボディには9ホール式重量調整が施されており軽量で、ジャンボフレットが採用されており押弦がラクチンです。
3基のカスタムバッカーを主軸とする電気系は個性的な配線になっており、マスターボリュームとマスタートーン、そして3WAYセレクタースイッチがフロントとリアに効きます。センターピックアップはこれらと独立しており、専用のボリュームとトーンが備わります。

《資料編》レスポール・カスタムの歩み

ではここからは、レスポール・カスタムがどのような変身を遂げてきたかを見ていきましょう。ヴィンテージ市場では何百万円というプライスが付けられている当時のレスポール・カスタムですが、それでも一番人気のレスポール・スタンダード「バースト」よりは「圧倒的に安い」ので、頑張ったら買えるかもしれません。

1954年モデル

54年モデルを再現したCustom Shop Historic Collection「1954 Les Paul Custom VOS」

レスポール・カスタムは、1952年に発表された「レス・ポール(Les Paul)」の高級仕様として、1954年に発表されます。メイプル/マホガニーの二層ボディを持つレスポール(この時代、「スタンダード」の名前はありません)に対して、レスポール・カスタムにはホンジュラスマホガニー1ピースボディが採用されています。ピックアップはフロントに「アルニコV」、リアに「P-90」を搭載しています。この「アルニコV」は最上位機種「Super400」に採用されていたピックアップで、レスポールへの採用例はありません。また、新たに開発された「ABR-1(TOM)」ブリッジの採用も、レスポールに先駆けています。標準機のボディ構造が2層だったのに高級機ではマホガニー1枚だったことに「失敗だった」とレス・ポール氏が嘆いたと伝えられていますが、ハードケースにも違いが設けられていたと伝えられており、レスポール・カスタムの開発に対して、ギブソン社が並々ならぬ情熱を注いでいたことがうかがえますね。
「タキシードに似合う」というコンセプトにあるように、最初はジャズ向きのギターとして開発されました。ジャジーなフレーズをスムーズに演奏できるよう、低くて幅のある「フレットレス・ワンダー」と呼ばれるフレットが採用されましたが、そのため現代のロック的な演奏は想定されておらず、チョーキングには不利でした。

1957年モデル

True Historic 1957 Les Paul Custom 57年モデルを再現した「True Historic 1957 Les Paul Custom」


Peter Frampton – Do You Feel Like We Do
ピーター・フランプトン氏は英国の代表的なミュージシャンですが、トレードマークにしていた3ハムバッカーのレスポール・カスタムを1980年の貨物機の事故で失ってしまいました。ところが30年以上経過した2012年、大掛かりな捜査の甲斐あって見事に発見、本人のもとに届けられた、というエピソードがあります。このギターは1957年モデル同様の仕様となっていますが、1954年モデルに手を加えた改造レスポール・カスタムでした。

この年にはレスポール/カスタム共に、ハムバッカー「P.A.F」ピックアップが新たに採用されます。フロント・リアの2基搭載を採用したレスポールに対し、レスポール・カスタムではセンターピックアップを加えた3基搭載となっており、ピックアップ・セレクターの設定は、
1)フロントピックアップ単体
2)リア+センターのフェイズアウト(細い音になる)
3)リアピックアップ単体
というものでした。1958年までにペグはグローヴァー社製のロトマチックタイプに切り替わります。この仕様は、いったん生産終了となる1960年まで維持されました。

ベースとなったレスポールに「スタンダード」の名前がつけられるようになったのは1958年からで、このカスタムや同じく1954年に発表されたエントリーモデル「レスポール・ジュニア(Les Paul Jr.)」との区別のためだと言われています。

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1968年/1969年モデル

68年モデルを再現したCustom Shop「1968 Les Paul Custom VOS」

エリック・クラプトン氏の偉業から再評価され、生産再開となったレスポール・スタンダードとレスポール・カスタムでしたが、復刻されたレスポール・カスタムは50年代のものとは異なる姿をしていました。全身ブラックや多層バインディングといった意匠は受け継ぎながらも、ピックアップはフロント/リアの2基、ボディ構造はメイプルトップ、マホガニーバックという二層構造で、むしろレスポール・スタンダード「バースト」の再来とも言うべきギターでした。「バースト」との違いは外観以外ではエボニー指板だけでしたが、それゆえタイトなサウンドには良好とみなされ、ロック志向のギターとして人気を博しました。

翌年1969年はギブソン社が「ノーリン」に買収されたこともあり、いろいろなモデルで仕様変更が模索されます。レスポール・カスタムはヘッドがやや大きくなり、ネックが3ピースに変更されました。ヘッドの重量が増すこと、多層ネックにして剛性を上げることは、いずれも音が引き締まる効果を生むことから、よりタイトなサウンドになっています。この年の後半から1977年まで、ボディバックがいわゆる「パンケーキ」となり、マホガニー+薄いメイプル+マホガニー」という三層構造となりました。海外でも高く評価されている日本のロックバンド「シーナ&ザ・ロケッツ」所属の鮎川誠氏のトレードマークは、この1969年後半のブラック・ビューティです。

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1970年代


Blue Murder – Valley Of The Kings
ジョン・サイクス氏と言えば、この1978年製です。氏のレスポール・カスタムは、プラスチックパーツをクロームパーツに変更した、独特のドレスアップが特徴です。

1974年には「レスポール発表20周年」を記念し、ブラック、ホワイト、チェリーサンバースト、ハニーバーストの4色からなるアニバーサリーモデルのレスポール・カスタムが発表されます。ボディ構造はメイプルトップの「パンケーキ」でした。1975年~1982年には、ネックが3ピースメイプルに変更されますが、マホガニーネックの生産も続けられていました。この年からしばらくは、メイプル指板モデルも生産されています。1976年までに、ブリッジは従来のARB-1からより堅牢なナッシュビルタイプに変更されます。

1980年代以降

ギブソン社は1984年にカラマズー工場を閉鎖し、ナッシュビルに移転します。また、1986年にはHenry Juszkiewicz氏ら投資家グループに売却されます。ノーリン時代には合理化一辺倒の経営方針が取られていましたが、新体制ではそれより品質に主眼を置く方針に転換されます。レスポール・カスタムはヘッドのサイズが元に戻り、マホガニーボディ&ネック、メイプルトップ、エボニー指板、ナッシュビルブリッジという仕様で生産が継続されます。
時は進んで2004年、レスポール・カスタムはレギュラーラインから外れ、カスタムショップでのみの生産に切り替わります。ここでレスポール・カスタムは、カスタムショップの容赦ない品質重視の設計と熟練工によるていねいな作りに加え、証明書とともにカスタムショップ標準のハードケースで出荷されます。2012年には指板材がエボニーからリッチライトに変更されますが、特別なモデルではエボニー指板が存続しています。


以上、レスポール・カスタムについてチェックしていきました。このギターはギブソン社にとって特別な意味があって、今なおカスタムショップのみの生産となっています。なかなか気軽に手に入れられるものではありませんが、ショップで見かけたら是非手に取ってみてください。

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