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「ギブソン・レスポール・カスタム(Les Paul Custom)」は、「タキシードに似合うギター」をコンセプトに
というドレスアップを施した特別仕様モデルです。
フォーマルな高級感と裏腹に派手な、また硬派なイメージもあり、ロック系のギタリストに特に愛用されています。今回は、このレスポール・カスタムに注目していきましょう。
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1: レスポール・カスタムの特徴 1.1: 「ブラック・ビューティー」 1.2: 「ブラック」へのこだわり 1.3: 高級感を演出する意匠 1.4: マホガニー1Pボディ、エボニー指板という木材構成 2: レスポール・カスタムのラインナップ 2.1: Les Paul Custom W/ Ebony Fingerboard Gloss 2.2: Les Paul Axcess Custom 2.3: 1957 Les Paul Custom Reissue 2.4: 1968 Les Paul Custom Reissue 3: 《資料編》レスポール・カスタムの歩み 3.1: 1954年モデル 3.2: 1957年モデル 3.3: 1968年/1969年モデル 3.4: 1970年代 3.5: 1980年代以降
黒いレスポール・カスタムには「ブラック・ビューティー」という愛称が付けられています。これは本来、トーン回路に搭載されていたコンデンサ(キャパシター)であるスプラグ社製「160P 0.47μF/400v」、通称「ブラック・ビューティー」が由来です。
しかし1954年に発表された当時のカラーリングは艶のあるブラックのみであり、漆黒のエボニー指板、深く滑らかなアーチを描くボディ・トップの美しさのもあいまって、今ではこの楽器自体に相応しいニックネームだとして定着しています。
このコンデンサ「ブラックビューティー」には中低域がブーミーにアウトプットされる特性があり、現代でも高価ながら新品が手に入ります。またこれを忠実に再現したコピーモデルも生産されています。カスタムに限らずギブソンギターのトーン回路はポット(可変抵抗)の前段にコンデンサが配置されていますが、ポットの後段にコンデンサが配置されているフェンダーよりも、コンデンサの影響がサウンドに反映されます。コンデンサに何をセレクトし、どう配置するのかは、エレキギターの開発/改造においてマニアックながら重要なポイントになっています。
エレキギターにおけるボディトップの高級感というと「メイプルやアッシュなどの模様の美しい木目」や「スプルースなどの真っすぐで均一な木目」を連想するのが現代の感覚です。
しかしながらピアノに代表される、全面「艶のあるブラック」もスタイリッシュな高級感を醸し出す要素であり、それゆえ当初のレスポール・カスタムは黒一色でした。もちろんマホガニーの木目に高級感を感じないというのも理由の一つではありますが、後から開発されたメイプルトップの仕様であっても、美しいフレイムメイプルを塗りつぶしてしまうことがありました。
1968年以降のモデルではブラックに対するホワイト、メイプルトップを活かしたサンバーストなどカラーリングが多様化します。ランディ・ローズ氏がトレードマークにしたホワイトなど人気がありますが、今なおレスポール・カスタムといえばブラックという印象が強いようです。
X Japan – I.V. (official music video) HD
X Japan所属の名手PATA氏はデビュー以来、一貫してレスポールにこだわり続けており、ヴィンテージをステージで使用したこともあります。この楽曲「I.V.」はホラー映画「ソウ4」の主題歌として採用されていますが、亡きHIDE氏の未発表音源をサンプリングして使用することで、5人での演奏を実現させています。この映画「ソウ」シリーズは「痛い表現の限界に挑む」というコンセプトで制作されていると伝えられており、苦手な人には絶対にお勧めできない内容となっています。
高級感を演出するためにゴールドトップが採用されたレスポールでしたが、レスポール・カスタムはまた違った高級感を演出するべく開発されました。
ボディとヘッドには何層ものバインディングが巻かれ、ピックガードまでも多層構造を成しており、ステージ上での存在感が強調されます。金属パーツはゴールドが基本で、ヘッドには「スプリット・ダイアモンド・インレイ」が輝きます。
レスポールの「台形」から「長方形」に変更された指板インレイは1フレットから取り付けられ、カラーリングやパーツ交換などでレスポール・スタンダードと見分けが付きにくくなった場合の決め手となっています。これらはギブソンにおけるアーチトップ(フルアコ)最上位機種「スーパー400」の意匠を受け継いだものですが、レスポールの上位機種にこのイメージを投影することで、歴史あるギブソンの高級な雰囲気が演出されています。
20世紀少年 ―第1章― 終わりの始まり
この映画が公開されたことで、T-REXの代表曲「20 Century Boy」が改めて広く知られることとなりました(動画では8秒から)。パワーコード「E」を基調とした印象的なイントロは、初心者が生まれて初めて演奏するロックのフレーズとして最適です。「Get It On」、「20 Century Boy」など数々のヒットで知られるグラムロックの代表「T-REX」のマーク・ボラン氏(1947-1977)のレスポールは厳密にはカスタムではなく、スタンダードのボディにカスタムのネックを差した改造レスポールでした。しかしながら指板のインレイを見ればどう見たってレスポール・カスタムに見えることもあってか、シグネイチャーモデルが「レスポール・カスタム」として生産されたことがあります。
ドレスアップモデルというコンセプトではありましたが、レスポール・カスタムは本体の設計もレスポール・スタンダードとは異なっています。デビュー当時はメイプルを貼らない1Pマホガニー製ボディに1Pマホガニーネックをセットインし、エボニー指板を貼りつけるという木材構成で、レスポール・スタンダードとはちょっと違った音響特性がありました。
とはいえ年代によりメイプルトップに変更されたりネック材が3Pになったりと、時代ごとの仕様変更を経ています。現在では「レスポール・スタンダードとの違いはエボニー製の指板のみ」という理解が一般的です。
エボニーは「濃淡のはっきりした、鋭く澄んだ音色」と言われ、バイオリン属の指板として必須、またフルアコなどでも重宝する指板材です。しかしながら入手がとても困難であり、十分な量を安定的に確保できなくなった時期には「リッチライト」という人工木材が採用されたこともありました。メンテ不要で演奏性、サウンドともにエボニーと区別が全くつかないと言われる材料ではありましたが、現在ではエボニーに回帰しています。現行のレスポール・カスタムは「リッチライト指板じゃないよ!」と主張するかのように、「Ebony」がモデル名に添えられます。
現在のレスポール・カスタムはギブソン・カスタムショップでのみ生産されています。フィニッシュについてはピカピカの「グロス」、ちょっとくすんでいる「VOS」、エイジング専門部署マーフィー・ラボによる各種「エイジド」というようにバリエーションこそあれ、ほぼ全機種ブラックという黒光りしたラインナップを展開しています。
カスタムショップは多くのモデルが限定生産となっていますが、ここでは原稿執筆時点(2022年8月)で公式サイトにて紹介されているものをピックアップしています。
現代版のレスポール・カスタムは、9ホール式重量調整を施したメイプルトップ&マホガニーバックのボディ構造、ディープジョイントのマホガニーネック、ミディアムジャンボフレットを打ち込んだエボニー指板という本体に、ハードウェアにはグローヴァー社製ペグ、ナッシュビルタイプのTOMブリッジ、スピードノブといった現代的セレクト。
電気系には490R/498Tハムバッカーピックアップ、CTS社製ポット、スイッチクラフト社製アウトプットジャックといった王道系を装備した、まさに現代のレスポール・カスタムと呼ぶにふさわしいギターに仕上がっています。完全な新品として出荷されるので、エイジング処理は一切なく、バインディングも真っ白です。
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Les Paul Axcess Custom W/ Ebony Fingerboard Floyd Rose Gloss
Les Paul Axcess Custom Figured Top W/ Ebony Fingerboard Gloss
「レスポールアクセス・カスタム」は、伝統的なスタイルを継承しつつ演奏性やサウンドバリエーションを強化させた、新しいレスポール・カスタムです。490R/498Tのハムバッカーピックアップはこのギターのために4芯仕様に再設計されており、トーンポットのプッシュ/プルでコイルタップが可能です。
アクセス・カスタムからは、FRTを装備した何でもアリ仕様と、TOMブリッジのフィギュアドメイプルトップ仕様がリリースされています。
ハイポジションのアクセスを思い切り向上させたジョイント部と、びくともしなさそうなヘッド裏のボリュートが大きな特徴。
現代のレスポール・カスタムのお手本となった1957年式は、重量調整が非採用の1枚板マホガニーボディをはじめ、パールノブのクルーソンペグ、ハットノブ、ワイヤ無しABR-1ブリッジなど当時の仕様を完全再現し、ややくすんだ感じのVOS(Vintage Original Spec)フィニッシュで仕上げています。ピックアップはアルニコIII磁石を使用したカスタムバッカーで、ロウ漬けを施さないところまで当時の仕様をしっかり受け継いでいます。
標準的な2ハムバッカー、センターピックアップを追加した3ハムバッカー、そこにビグスビー追加、という3タイプがあります。なお3ハムバッカー仕様機のサウンドバリエーションは、フロント単体/センター+リアのフェイズ/リア単体となり、センターポジションでは細く鋭いサウンドが得られます。
1957 Les Paul Custom 2-Pickup Ebony Ultra Light Aged
1957 Les Paul Custom 3-Pickup With Bigsby Vibrato Ebony Light Aged
エイジング専門部署マーフィー・ラボにてヴィンテージギターそのものの姿を再現したモデルも、2タイプがリリースされています。
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1968年式レスポール・カスタムは、メイプルトップ&マホガニーバックのボディ構造が最大の特徴です。金属ノブのクルーソンペグ、ワイヤ付きのARB-1ブリッジなど、当時の仕様がしっかり採用されています。ヘッドのダイアモンドインレイやボディ&ヘッドのバインディングに経年変化を思わせるカラーリングが採用されているものの、塗装はピカピカのグロスで仕上げられています。
1968 Les Paul Custom Ebony Ultra Light Aged
マーフィー・ラボからリリースされている1968年式は、全体的にうっすらとくすんでいるウルトラ・ライトエイジド仕上げになっています。
かつて全世界35本という限定生産機だったピーター・フランプトン仕様機は、アーティストコレクションとしてレギュラー入りしました。ちょっと古くなった感じのVOS仕上げこそ施されていますが、マホガニー1Pボディには9ホール式重量調整が施されており軽量で、ジャンボフレットが採用されており押弦がラクチンです。
3基のカスタムバッカーを主軸とする電気系は個性的な配線になっており、マスターボリュームとマスタートーン、そして3WAYセレクタースイッチがフロントとリアに効きます。センターピックアップはこれらと独立しており、専用のボリュームとトーンが備わります。
ではここからは、レスポール・カスタムがどのような変身を遂げてきたかを見ていきましょう。ヴィンテージ市場では何百万円というプライスが付けられている当時のレスポール・カスタムですが、それでも一番人気のレスポール・スタンダード「バースト」よりは「圧倒的に安い」ので、頑張ったら買えるかもしれません。
54年モデルを再現したCustom Shop Historic Collection「1954 Les Paul Custom VOS」
レスポール・カスタムは、1952年に発表された「レス・ポール(Les Paul)」の高級仕様として、1954年に発表されます。
メイプル/マホガニーの二層ボディを持つレスポール(この時代、「スタンダード」の名前はありません)に対して、レスポール・カスタムにはホンジュラスマホガニー1ピースボディが採用されています。ピックアップはフロントに「アルニコV」、リアに「P-90」を搭載しています。この「アルニコV」は最上位機種「Super400」に採用されていたピックアップで、レスポールへの採用例はありません。
また、新たに開発された「ABR-1(TOM)」ブリッジの採用も、レスポールに先駆けています。標準機のボディ構造が2層だったのに高級機ではマホガニー1枚だったことに「失敗だった」とレス・ポール氏が嘆いたと伝えられていますが、ハードケースにも違いが設けられていたと伝えられており、レスポール・カスタムの開発に対して、ギブソン社が並々ならぬ情熱を注いでいたことがうかがえますね。
「タキシードに似合う」というコンセプトにあるように、最初はジャズ向きのギターとして開発されました。ジャジーなフレーズをスムーズに演奏できるよう、低くて幅のある「フレットレス・ワンダー」と呼ばれるフレットが採用されましたが、そのため現代のロック的な演奏は想定されておらず、チョーキングには不利でした。
57年モデルを再現した「True Historic 1957 Les Paul Custom」
Peter Frampton – Do You Feel Like We Do
ピーター・フランプトン氏は英国の代表的なミュージシャンですが、トレードマークにしていた3ハムバッカーのレスポール・カスタムを1980年の貨物機の事故で失ってしまいました。ところが30年以上経過した2012年、大掛かりな捜査の甲斐あって見事に発見、本人のもとに届けられた、というエピソードがあります。このギターは1957年モデル同様の仕様となっていますが、1954年モデルに手を加えた改造レスポール・カスタムでした。
この年にはレスポール/カスタム共に、ハムバッカー「P.A.F」ピックアップが新たに採用されます。フロント・リアの2基搭載を採用したレスポールに対し、レスポール・カスタムではセンターピックアップを加えた3基搭載となっており、ピックアップ・セレクターの設定は、
というものでした。1958年までにペグはグローヴァー社製のロトマチックタイプに切り替わります。この仕様は、いったん生産終了となる1960年まで維持されました。
ベースとなったレスポールに「スタンダード」の名前がつけられるようになったのは1958年からで、このカスタムや同じく1954年に発表されたエントリーモデル「レスポール・ジュニア(Les Paul Jr.)」との区別のためだと言われています。
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68年モデルを再現したCustom Shop「1968 Les Paul Custom VOS」
エリック・クラプトン氏の偉業から再評価され、生産再開となったレスポール・スタンダードとレスポール・カスタムでしたが、復刻されたレスポール・カスタムは50年代のものとは異なる姿をしていました。
全身ブラックや多層バインディングといった意匠は受け継ぎながらも、ピックアップはフロント/リアの2基、ボディ構造はメイプルトップ、マホガニーバックという二層構造で、むしろレスポール・スタンダード「バースト」の再来とも言うべきギターでした。「バースト」との違いは外観以外ではエボニー指板だけでしたが、それゆえタイトなサウンドには良好とみなされ、ロック志向のギターとして人気を博しました。
翌年1969年はギブソン社が「ノーリン」に買収されたこともあり、いろいろなモデルで仕様変更が模索されます。レスポール・カスタムはヘッドがやや大きくなり、ネックが3ピースに変更されました。ヘッドの重量が増すこと、多層ネックにして剛性を上げることは、いずれも音が引き締まる効果を生むことから、よりタイトなサウンドになっています。
この年の後半から1977年まで、ボディバックがいわゆる「パンケーキ」となり、マホガニー+薄いメイプル+マホガニー」という三層構造となりました。海外でも高く評価されている日本のロックバンド「シーナ&ザ・ロケッツ」所属の鮎川誠氏のトレードマークは、この1969年後半のブラック・ビューティです。
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Blue Murder – Valley Of The Kings
ジョン・サイクス氏と言えば、この1978年製です。氏のレスポール・カスタムは、プラスチックパーツをクロームパーツに変更した、独特のドレスアップが特徴です。
1974年には「レスポール発表20周年」を記念し、ブラック、ホワイト、チェリーサンバースト、ハニーバーストの4色からなるアニバーサリーモデルのレスポール・カスタムが発表されます。
ボディ構造はメイプルトップの「パンケーキ」でした。1975年~1982年には、ネックが3ピースメイプルに変更されますが、マホガニーネックの生産も続けられていました。この年からしばらくは、メイプル指板モデルも生産されています。1976年までに、ブリッジは従来のARB-1からより堅牢なナッシュビルタイプに変更されます。
ギブソン社は1984年にカラマズー工場を閉鎖し、ナッシュビルに移転します。また、1986年にはHenry Juszkiewicz氏ら投資家グループに売却されます。ノーリン時代には合理化一辺倒の経営方針が取られていましたが、新体制ではそれより品質に主眼を置く方針に転換されます。レスポール・カスタムはヘッドのサイズが元に戻り、マホガニーボディ&ネック、メイプルトップ、エボニー指板、ナッシュビルブリッジという仕様で生産が継続されます。
時は進んで2004年、レスポール・カスタムはレギュラーラインから外れ、カスタムショップでのみの生産に切り替わります。ここでレスポール・カスタムは、カスタムショップの容赦ない品質重視の設計と熟練工によるていねいな作りに加え、証明書とともにカスタムショップ標準のハードケースで出荷されます。2012年には指板材がエボニーからリッチライトに変更されますが、特別なモデルではエボニー指板が存続しています。
以上、レスポール・カスタムについてチェックしていきました。このギターはギブソン社にとって特別な意味があって、今なおカスタムショップのみの生産となっています。なかなか気軽に手に入れられるものではありませんが、ショップで見かけたら是非手に取ってみてください。
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