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Gibson「Theodore Standard(セオドア・スタンダード)」は、2022年にカスタムショップモデルとして限定生産されたTheodoreをレギュラー化したモデルです。原案の描かれた1957年3月18日にちなんで発表は2024年3月18日、仕様は大きくブラッシュアップされ、ギブソンらしい現代のギターに仕上がっています。今回はこのTheodore Standardに注目していきましょう。
名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。
webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。
Theodore Standard最大の特徴は、印象的なボディ形状にあります。花弁の開くようなダブルカッタウェイはハイポジションの演奏性を高く確保するとともに、座奏/立奏ともに良好な抱え心地に寄与します。カッタウェイのホーンはエッジの立った仕上げでシャープな印象、いっぽうエルボー部分は丸く整えられる、単なるフラットなボディとは一線を画した細やかな設計。本体重量は3.2kg近辺で、軽さで知られるSGよりほんのちょっと重いくらいです。
ギブソンのギターは多くのモデルで木材構成や基本構造、電気系が共通しており、ボディ仕様でモデルの違いを出しています。TheodoreはSGよりちょっと重いというところがポイントで、レスポールほど重くなく、SGほど軽やかでもない、ちょうど良い万能なサウンドが得られると言われます。
The Sound Of The Gibson Theodore Standard (Most Versatile Guitar EVER?)
片側6連のヘッドには、重量バランスを考慮してGrover社製小型チューナーを配置。同社のエクスプローラーを思わせるヘッド形状は「シミタール・ヘッドストック」と呼ばれます。シミタール(scimitar)は中東、南アジア、北アフリカに由来する湾曲した片刃の刀剣のことで、馬上での戦闘に適していました。
このほかネック周りの仕様は、マホガニー製スリム・テーパー・プロフィールのネック本体、セットネック接続、バインディングされた12インチRのインドローズ指板、弦長24.75インチ、音域22フレット、というように現代の標準的なギブソンの仕様にならっています。ギブソン系のギターに慣れている人ならば、感触を楽しみながら違和感なく演奏可能です。
ピックアップは王道の’57 Classic&’57 Classic Plusで、操作系は3WAYトグルスイッチ&1V1Tと、シンプルにまとめられています。1957年の原案から生まれたギターなので、’57 Classicは非常に意義深いセレクトだと言えるでしょう。コイルタップなど追加機能はありませんがそれゆえ操作に迷いにくく、的を得たストレートなサウンドが得られます。
実用のためアレンジを加えつつもかなり正確に再現したという、カスタムショップ製「Theodore」。ボディ材のアルダーは原案で指定されていた。このほかの主な仕様は、ごん太ネック、P-90ピックアップに2V2T、バーブリッジ。全世界318本の限定生産だった。
この「Theodore(セオドア)」は本来、1957年3月18日に当時のギブソン社長テッド・マッカーティ氏の書いた一枚のメモが残されていただけの、名もなきギターです。2022年にこれを製品化する際、マッカーティ氏への敬意を込めてTheodoreと名付けられました(テッドはセオドアのニックネーム)。このギターが考案された1957年の情勢、また考案したテッド・マッカーティ氏について考えてみましょう。
テッド・マッカーティ(Theodore McCarty。1909-2001)氏は1950年から16年間、ギブソンの社長を務めたレジェンド的な存在です。レスポールやES-335といった数々のギター、PAFを代表する数々の新しい部品を成功させ、ギブソン社の黄金時代を築きました。1966年の退社までに同社の年間生産数は5,000本から10万本以上に、従業員数は150人から1,200人以上にまで増加しています。輝かしい経歴を持つマッカーティ氏ですが、その裏にはフェンダー社とのライバル関係がありました。
Chuck Berry – Too Much Monkey Business [1957]
チャック・ベリーのギターと言えば、フルアコやセミアコ。ギブソンのソリッドギターは、ロックンロール市場への参入に苦労していた。
ギブソンは1896年の開業から10年もたたないうちに、1833年設立のマーチン社とシェア争いを展開しました。創業から半世紀を経たギブソンは今度は老舗という立場で、新興ブランドのフェンダーとシェア争いを展開していきます。
1950年にフェンダーがブロードキャスター(=テレキャスター)でギター市場を席巻、マッカーティ氏率いるギブソンはこれに対抗して1952年「レス・ポール・モデル」を発表しますが、1954年に発表されたフェンダー・ストラトキャスターが大ヒット、当時の最先端だったロックンロール・ミュージックに浸透していきます。当時のレスポールはジャズやブルースの分野で一定の支持を受けていたものの、新しい音楽にマッチしたニューモデルが望まれました。
新しいギターの開発を模索していた1957年当時、マッカーティ氏の考案したいろいろなアイデアの一つがTheodoreだったわけです。残念ながらTheodoreのアイデアはお蔵入りとなり、翌1958年にはチェリー・サンバーストのレスポール・スタンダード、ES-335、フライングV、フーチュラ(のちのエクスプローラー)の4モデルが発表されました。
フローレンタイン・カッタウェイ(左)とベネチアン・カッタウェイ(右)
ストラトキャスターの革新性の一つに、ハイポジションの演奏性を爆上げする「ダブル・カッタウェイ」があります。対抗心を燃やすギブソンとしては、負けないくらい弾きやすいハイポジションの設計が必須でした。Theodoreはストラトキャスターよりも高い演奏性を目指しましたが、先の丸いベネチアン・カッタウェイのフェンダーに対して、先の尖ったフローレンタイン・カッタウェイで差別化もしています。
このカッタウェイ形状については、ギブソンのソリッドボディ・エレクトリック・マンドリン「EM-200 Florentine(1954-1971)」の影響もあると言われています。当時のエレクトリック・マンドリン市場ではギブソンがフェンダーを凌駕しており、フェンダーに対抗するギターのデザインとしては縁起が良かったわけです。
カッタウェイに寄せるこうした熱い想いとは裏腹に、結果的に発表されたニューモデルがカッタウェイという概念を根底から覆すフライングVとエクスプローラーだったのは、非常に興味深いポイントです。
Gibson 「Les Paul 70s Deluxe Goldtop」
ミニハムバッカーはエピフォンの名残。
1957年はハムバッカー・ピックアップ「P.A.F.」が開発された、ギブソンの歴史にとって非常に重要な年です。またこの年に、ギブソンはライバル企業のエピフォンを買収します。このときギブソンが手に入れたエピフォンの技術や特許の中に、ミニハムバッカーもありました。テッド・マッカーティ氏の残した原案にはP-90に似た細い感じのピックアップが描かれていますが、良く見るとポールピースが片側に寄っています。これはミニハムバッカーです。
エピフォンを買収した1957年5月10日は、Theodoreの原案が描かれた同年3月18日の2カ月後です。しかし企業買収(M&A)には準備や交渉などで数カ月から1年ほど要しますから、3月の時点ではすでに買収に向けて前向きに話が進んでいたと推測されます。レス・ポール氏がテッド・マッカーティ氏にエピフォン買収を進言したのが1950年代中盤と伝えられてもおり、この頃からマッカーティ氏の頭の中ではエピフォンのノウハウで作る新しいギターの構想が練られていたのかもしれません。
以上、一枚の原案から世に放たれた新たなレギュラーモデル、Gibson「Theodore Standard」についてチェックしていきました。原案を描いたテッド・マッカーティ氏の召された現代のTheodoreは、亡くなったアーティストの未発表曲がリリースされるようなエモさを感じさせます。ぜひ実際にチェックしてみてください。
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