Infinite:構造とアイデアで作る、高性能なモダンギター

[記事公開日]2025/9/1 [最終更新日]2025/9/2
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

Infiniteギター

「Infinite(インフィニット)」は大阪に拠点を構えるギターリペア・ギター修理専門店、株式会社ハイエンドミュージックが企画/製造するブランド。木工と組み込みというギター製造における技術部分の原点にこだわりつつも、数々の独自構造を含む斬新なアイデアや新しい技術を積極的に取り入れています。同社のギターはレンジの広いサウンドが得られる音響性能、良好な状態を長期的に維持できる安定性、二つの両立に成功。従来品とは一線を画す性能と新しいルックスが、モダンプレイヤーの支持を集めています。

情報協力:Infinite(株式会社ハイエンドミュージック)

小林健悟

ライター
ギター教室「The Guitar Road」 主宰
小林 健悟

名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。

エレキギター博士

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エレキギター博士
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webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。


LOVEBITES / Liar [Official Live Video taken from “Knockin’ At Heaven’s Gate”]

《考えうるアイデアを最大限に盛り込む》Infiniteの特徴

Infiniteのギターは「最高のギターであり続ける」ことを目指し、製造技術の原点を見直し、現在考えうるアイデアを最大限に盛り込んでいます。特に独自のジョイント法と指板の設計が有名で、高い音響性能から「低域から高域までバランスよく響く」「豊かなサスティンが得られて弾きやすい」など、各地で高い評価を得ています。数々の特徴をざっと見していきましょう。

特許技術「小菊ロジック」とエクストラ・ディープジョイント

小菊ロジック
英語表記は「Kogic Logic」で、韻を踏んでいる。ネック側にはブラス製のブッシュを埋め込んでおり、ボルトの食いつきを強化させている。

Infinite最大の特徴が、特許を取得した独自のジョイント法「小菊ロジック」。ジョイント部分をフロントピックアップの向こう側まで延長、ボディとネックの間にエボニー製の3本の「ほぞ」を咬ませます。この構造により、従来のボルトだけでのジョイントではどうしても払拭できなかった、ネックのぐらつきやセンターズレ、またハイ起きを極限まで抑制することに成功しました。

またこの恩恵でジョイント部の安定性が飛躍的に向上、豊かなサスティンが得られます。サスティンの豊かなギターは演奏時に力みにくく、弾きやすいといわれます。またネックを深々と挿入する(エクストラ・ディープジョイント)ことから、剛性と音響性能を損なわずにヒール部を大胆にカットでき、ハイポジションの演奏性が高められます。

4点留めはこの配列が、Infiniteのベスト

4点留めネックジョイント
ヘッド側のボルトがかなり接近した配置。1つをボディ側に移動した4点留め、あるいはココを1点留めにした3点留めでは、なぜいけなかったのだろう。

ネックとボディの接地(圧着)バランスから、ボルトを台形に配列させたこの4点留めがベスト、という考えです。ヘッド側のボルトを1つにした3点留めでも小菊ロジックの恩恵でズレは生じにくかったのですが、トルクバランスが取りにくいことが確認されました。現在の4点留めは接点の圧着具合にバランスが取りやすく、サウンドとセッティングバランスの両面で良好です。

独自接着の強固なネック

ネック
ネック側の「ほぞ(凸)」と指板側の「ほぞ穴(凹)」が、シッカリと咬みあっているのが分かる。なお、この工法にはまだ名前はない。

ネック設計も独特。Infiniteではネック側に設けたレール状の「凸」と指板側に刻んだ「凹」を咬み合わせます。これにより指板の接着がより強固になるとともに、一本のネックとしての強度も向上、環境変化に堪える高い安定性を達成しています。

演奏性のためにあらゆる仕様を採用

フレット溝
フレット溝は、NC加工により両サイドを1.5ミリ残して掘削。これにより指板本体の剛性を維持しながら、美しく仕上がる。

フレットはジェスカー社製ステンレスフレットが基本で、両サイドは球面仕上げ。指板サイドを丸く整えるラウンド・エッジ、指板の10”-14”コンパウンド・ラジアス、バジーフェイトン・チューニングシステム(BFTS)採用と、現在知りうる高性能な仕様を全て採用しています。また近年ではplek(プレック)も導入しており、全ポジションでの良好な弾き心地と美しい響きを獲得しています。

ペグの1mm落とし込み

ペグ溝

ヘッドストックの厚みをヘッド裏の方向に1mm増し、これに合わせてペグを1mm落とし込んでいます。これによりヘッド自体の基本設計を保ったまま、ナットへの弦角度を稼ぐことができます。巻き数が極端に少なくなるロック式ペグでも、弦張力は不足しません。

トレモロマウントプレートとブラスブロック

ブラスブロック
トレモロマウントプレート(左)とブラスブロック(右)

ブリッジ側では縁の下の力持ちとして、金属部品を配備。まず2点支持トレモロユニットに対しては、スタッドを支えるトレモロマウントプレートが埋設されます。スタッドが倒れるのを防ぐ効果があるほか、良好な音響性能が得られます。固定式ブリッジに対しては厚みのあるブラスブロックが埋設され、弦を受け止めます。従来とは一線を画した音響性能が得られるほか、ギター本体の重量バランスが整います。

自社製ピックアップや高品位な金属部品

ピックアップ
二つ目のトーンノブがブレンダーとして機能し、リアやフロントを疑似ハムバッカーとして使用可能。

ピックアップについては著名ブランドの製品を採用していたところ、近年では個体差やノイズへの対策、またギター本体との相性など総合的に考え、自社開発しています。シングルコイルやハムバッカー、P-90など各モデルはそれぞれ、Vintage、Hybrid、Modernの3タイプを開発。Vintageは出力抑えめ、Modernは出力高め、Hybridはその中間にセットされています。

配線についても様々なアイデアが傾注され、コイルタップやシリーズ(直列)/パラレル(並列)、センターとフロント/リアを直列で混ぜるブレンダーといった特殊配線で、サウンドバリエーションを増強しています。なお、ギター本体の音響性能により低域がしっかり出ることから、コントロールポットの抵抗値についてはシングルコイルでもハムバッカーでも500KΩに統一されています。

ペグとブリッジについては、日本のGOTOH製が基本です。GOTOHの金属部品は精度と安定性に優れ、世界的に信頼を集めています。

ハードテイル・ブリッジ
ハードテイル・ブリッジについては、トレモロ・ブリッジと同じ弦間ピッチ10.8mmを特注している。一般的なストラトの弦間ピッチを身体にしみ込ませているプレイヤーが、違和感なく演奏できる。

さまざまなカスタマイズやオプション

ネック材など木材

板目材と柾目材
コンセプトで使い分ける、板目材(左)と柾目材(右)。

Infiniteは高価値な希少材で勝負するブランドではありませんが、やはり木材には深いこだわりが。メイプルのネック材については木取りで板目材と柾目材、杢ではプレーンのほかバーズアイメイプルやフレイムメイプル、またロースト処理をするかしないかなど幅広い選択肢があります。

Lami仕様
Lami仕様。この個体の場合、アルダー2Pボディに4Aフレイムメイプルとウェンジをラミネート。表側に見えているのが、フレイムメイプルとウェンジの2層。

ボディ材についてはオーソドックスなところを押さえつつ、アッシュは基本的に1Pで使用します。このほかホンジュラスマホガニー、ローステッド・アッシュ、リンバウッド、ヒノキなどさまざまな樹種を使用した実績があります。

「Lami」仕様は、ラミネートにより多層化したボディ構造です。独特の美しい外観が得られるほか、ボディ鳴りが整理された、コンプ感のあるモダンな音響性能が得られます。

「スタビライズドウッド」とは?

スタビライズドウッド
スタビライズドウッドをボディトップに採用。一見すると木地着色のようだが、着色した樹脂を含侵させている。他に類を見ない模様の複雑さばかりでなく、硬化による音響性能も期待できる。

「スタビライズドウッド」は、真空状態で木材の芯まで樹脂を含浸(がんしん)させて硬化させた新素材です。
木材由来の素材ですが木材と樹脂を均等に混ぜたハイブリッド(混合物)として扱われ、ナイフのハンドルやペン軸など比較的小さなものに採用例が多くあります。柔らかい木材もカッチカチにできることからギターの分野でも将来性が期待されていますが、大きな木材をスタビライズ化させるには大規模な設備が必要です。

Infiniteはいち早くこのスタビライズドウッドに注目、自社でネック材やボディ材をスタビライズ化させることに成功し、他社に先駆けてオプションに組み入れています。

斬新なカラーやエイジド加工など、センスの爆発する意匠

ライトエイジドのメタリック塗装
ライトエイジドのメタリック塗装にペイズリー柄のピックガード。コレをセンス爆発と言わずして何と言おう。

個性的な意匠についても、Infiniteは積極的です。ライトからヘヴィまで各段階のエイジド処理にはじまり、各種カスタムカラー、木目を主張させる表面処理など、さまざまなチャレンジを重ねています。特に紫外線で塗料を硬化させるUVプリントを駆使したペイズリー柄は、他に類を見ないインパクトを放ちます。

ホロウボディ、セットネック

ジョイント部
Trad Fullsize Dinky STのジョイント部。形状こそ他モデルと同様だが、ネック接続にボルトが使われないセットネック仕様。

全モデルで、内部を空洞化したホロウボディ仕様が選択可能。外周に沿ってホーンの先まで、ボディエンドはセンター部のタテ一文字だけ残して彫り込みます。そしてジョイント部分からブリッジまではソリッド、という設計です。

また近年では、セットネックも選択可能です。一般的にセットネック工法は、センターずれが生じやすいことから接着に高度な技術を要します。また通常は接着してからブリッジの位置出しと穴あけを行うため、ボルトオンジョイントより工程が増えて、価格が上がりやすいのが注意点です。
一方、Infiniteのセットネックは小菊ロジックによりセンターずれが起きないため、ボルトオンジョイントと同様に接着前に全ての穴あけを済ませることが可能。価格への影響を最小限に抑えています。

Infiniteのラインナップ

Infiniteのラインナップはオリジナルシェイプの「Modernize」、オーソドックスなスタイルを基本に日本人に本体の寸法と弦長を合わせた「Trad」、寸法と弦長をUSA仕様に戻した「Trad Fullsize」の3シリーズで展開。全モデルで一貫して、小菊ロジックを筆頭とするInfiniteの特徴を兼ね備えています。

Modernize bendtop/STD

Modernize bendtop
Modernize bendtop(black×gray)

「Modernize(モダナイズ)」はエレキギターに対するInfiniteの哲学をすべて傾注した、同社のフラッグシップ。一般的なミディアムスケール(“24.75)より僅かに短い628mm(”24.7244)という弦長を出発点に開発されたモデルで、立っても座っても良好に演奏できるボディバランスと、従来のギターでは考えられないほどのハイポジションのアクセシビリティを備えています。

緩やかな曲面を描くボディトップとボディ直付けのHH配列を基本に、エルボー部分のコンター加工に添わせるように厚さ11㎜のトップ材を貼り付ける「bendtop(ベンドトップ)」、トップ材を使用しない「STD」の2タイプがあり、インレイの曲線を境に塗分ける独特のカラーリングも大きな特徴です。


Infinite インフィニット Modernize ハイエンドミュージック
ギタリストが構えた時にこそ美しさを発揮する、絶妙なボディライン。

Trad Series

「Trad(トラッド)」シリーズはフェンダー系のスタイルを約94%ダウンサイジングした、日本人に良好なサイズ感が特徴。弦長はModernize同様の628mmが基本で、ピックアップ配列にはさまざまな自由度があり、Infiniteの柔軟性を象徴するかのような華やかなバリエーションを展開しています。

Trad Fullsize Series

「Trad Fullsize(トラッド・フルサイズ)」シリーズは、オーソドックスなギターの本来の寸法を採用した、弦長648mmのギターです。慣れたギターに近い寸法感から持ち替えにストレスが無く、弦長が長い分だけ弦張力が確保でき、よりパンチの効いたサウンドが得られます。

以上、大阪に拠点を置く新進気鋭のブランド、Infiniteをチェックしていきました。
「現在考えうるアイデアを最大限に盛り込み、最高のギターであり続ける」ことを目指すだけあり、小菊ロジックや独自の指板接着で根本的に新しい構造のギターを生み出し、ステンレスフレットやコンパウンドラジアスなど現在のモダンギターに人気の高い仕様を多く盛り込み、スタビライズドウッドやUVプリントなど新しいものを積極的に採用しています。ぜひ実際にチェックしてみてください。

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