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2013年に発表されたFishman(フィッシュマン)「Fluence(フルエンス)」ピックアップは、大きな驚きと共に迎えられました。アコースティック専門と誰しもが思っていた同社が開発したエレキギター用ピックアップが、あまりにも革新的で高性能だったのです。
発表から10年を経た現在、Fluenceは特にヘヴィ志向のプレイヤーに浸透する一方で、多彩なサウンドバリエーションや高い音質が必要なプレイヤーの重要な選択肢にもなっています。今回は、このFishman「Fluence」に注目していきましょう。
FISHMAN – Fluence Modern 8 string guitar Demo
ピックアップ単体で音色を切り替えることができ、クリーントーンの減衰を楽しめるほどの高い静粛性を持っている。
Larry Fishman on the History of Fishman – AMS Exclusive Interview Pt. 1
音大に進学する前、ラリー氏は機械工学を修めていた。現在では計測器の分野を中心に40以上の特許を取得している。
マサチューセッツ州に本拠を構えるエレクトロニクスメーカー「フィッシュマン」は、現社長ラリー・フィッシュマン(Larry Fishman)氏が1981年に創業、高品位なアコースティック用ピックアップおよびアンプのメーカーとして、世界的な支持を得ています。特にピックアップシステムの評価が高く、MartinをはじめFenderやGuild、Ibanezほか、さまざまなブランドの製品に組み込まれています。
創業者ラリー・フィッシュマン氏ご自身は幼いころから音楽が大好きで、バークリー音楽大学でチェロを学んだのちウッドベースに転向、プロの演奏家としてオーケストラやジャズバンドに所属しました。ジャズの現場でピアノやギターが電化とともに大音量化していく中、ラリー氏はエレキベースへの転向を拒否、自宅の地下室にこもり、1980年ついに自分用のアコースティックベース用ピックアップを試作します。翌年の会社設立、その翌年にはMartinから受注、という怒涛の流れから、氏の試作品がいかに優れていたのかが類推できます。
フィッシュマン「Fluence」ピックアップには、航空/宇宙/通信といった分野の技術を応用した、最新のテクノロジーが投入されていると言われています。どんな特徴があるのかを見ていきましょう。
「Fluence Core」を真上から見たところ。中央の空洞に棒磁石が通る。
Fluence最大の特徴は、コイルを「Fluence Core(フルエンス・コア)」に置き換えた基本構造にあります。Fluence Coreは48枚のプリント基板を重ねた、いわば電子的に巻いたコイルです。この工法には、バラ付きなく均一な製造ができる、耐久性や安定性を高められる、という工業製品としての利点があります。しかしそれ以上に、これまでの常識にとらわれない、例えば「外側から内側へ巻く」といった巻き方もできる、高い高い自由度が大きなメリットです。
また、Fluence Coreの中心に棒磁石を配置するという基本構造が、従来のピックアップから逸脱していない、という点も注目に値します。Fluence Coreは画期的な発明ですが、コイルが歩んだ歴史の先にあるものなのです。
フィッシュマン社ではFluenceを「パワード・ピックアップ」と考え、アクティブ/パッシブという分類と切り離しています。Fluenceピックアップでは、Fluence Coreとプリアンプの両方が電力を必要とします。プリアンプを備え、ローインピーダンス信号を出力するという点は一般的なアクティブ・ピックアップと同様ですが、コイル部分にも給電するという方式はFluence以前にはなく、従来の「アクティブ」とは区別する必要があるわけです。
サウンドもアクティブ/パッシブの分類に収まっておらず、アクティブのブライトなサウンドばかりでなく、パッシブのオーガニックなサウンドも出力できます。またデジタルモデリングに頼らず、磁石&コイル代わりのFluence Core&プリアンプの組み合わせで音を作る、アナログ方式です。
シングルコイルにも、2種類のキャラクターが収められている。
Fluenceピックアップは内蔵するFluence Coreを切り替えることで、サウンドキャラクター(Voice)を切り替えることができます。ストラト用シングルコイルならVoice 1がヴィンテージ系でVoice 2はオーバーワウンドしたテキサス仕様、モダンハムバッカーならVoice 1がアクティブサウンドでVoice 2がパッシブサウンド、というように、あたかもギター自体を持ち替えるかのようなキャラクター変更が可能です。また、最新型ではVoice 3を新たに追加することで、サウンドバリエーションを拡大させています。
Fishman Fluence – Defined
動画48秒あたりで、Fluenceの内部構造を見ることができる。片方でVoice 1、もう片方でVoice 2のサウンドを担当する2枚の「Fluence Core」が収められる。Voice切り替えでそのどちらかを選択するが、両方を同時に駆動させることはない。
Fishman Fluence Modern Humbucker – Metal
ピックアップに由来するノイズが極端に少ない、この性能はやはりヘヴィ系のプレイヤーにとってかなり有益。
Fluence は「それ以前のどのピックアップよりも静か」と言われるほどのローノイズ化を達成しています。従来型の銅線を巻いたコイルは、それ自体が特有のノイズを発することから自ずとローノイズ化に限界がありました。これに対してFluenceピックアップは、銅線巻きコイルをFluence Coreに切り替えることで、コイルから生じるノイズの影響を最小化させることに成功した、というわけです。
さまざまな追加機能は、本体背面の端子を利用する。この配線図では、フロント(左側)でVoice 1 Lo Gainを効かせている。
Fluenceピックアップにはモデルごとにさまざまな機能が備えられています。利用するには配線の知識がちょっと必要になりますが、追い込んだサウンドメイクの一助となる追加機能をざっと見していきましょう。
E-II「SN-3」
モダン志向のギターに搭載されるFluenceピックアップは、今のところVoice 2仕様機が主流。
ストラトタイプのシングルコイルは、SSS配列での使用を想定した「for Strat」と、ハムバッカーとの組み合わせを想定した「for HSS, HSH & HS」の2タイプがリリースされています。
「for Strat」は、SSS配列での使用を想定したシングルコイル3個セットです。Voice 1「Vintage Single-Coil」は甘さと温かさを持ったヴィンテージ・トーン、Voice 2「Hot Texas Single-Coil」はオーバーワウンドしたパワフルなストラトの音色に設定されています。
「for HSS, HSH & HS」はその名の通り、ハムバッカーと組み合わせて使うためのシングルコイルです。Voice 1とVoice 2はピーク周波数の異なるヴィンテージライクなサウンドに設定されており、ハムバッカーとの音量差を調節するため、音量を3デシベル持ち上げる「+3dB」機能が備わっています。SSA(アクティブ)とSSP(パッシブ)の2タイプがあり、HSH配列とHS配列ではSSAを、HSS配列ではフロントにSSP&ミドルにSSAを使用することで正常に機能します。
Fluenceシングルコイルを…
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「クラシック」ハムバッカーは、ネック/ブリッジ共にVoice 1でヴィンテージ P.A.F.の王道ハムバッカーサウンドを提供し、ネックのVoice 2「Clear, airy chime」は幻想的な高音域、歌うような中音域、そしてタイトな低音域を表現するオンリーワンなネックトーン、ブリッジのVoice 2「Classic Hot Rod」は余計なものを一切省いて強化させたブリッジ・ハムバッカートーンに設定されています。
なお、ブリッジ用の弦間ピッチは、トレモロ仕様機への搭載を想定した52.6mmに設定されています。
「モダン」ハムバッカーはアルニコとセラミックの2モデルで、6弦/7弦/8弦まであります。アルニコのVoice1「Modern Active」は豊かな丸みにかつてないキレとダイナミクスを加えた理想的なアルニコ・サウンド、Voice 2「Crisp, clean and fluid」は耳障りな金属音を取り除いた歯切れの良い生々しいサウンドです。
いっぽうセラミックのVoice 1「Modern Active High Output」は鮮明で焼け付くようなクランチの得られる、理想的なアクティブ・セラミックハムバッカーの音色、Voice 2「Modern Passive Attack」は、オーガニックかつ高出力で、反応の良いパッシブ・セラミックハムバッカーの音色に設定されています。
いずれもバー・ポールピース仕様なので弦間ピッチを気にする必要が無く、ネック側/ブリッジ側どちらのポジションでも使用できます。ちなみにフィッシュマン推奨のセッティングは、ネック側にアルニコ、ブリッジ側にセラミックです。
Fluenceハムバッカーを…
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上:スコット・レページ氏シグネイチャー・ギターIbanez「KRYS10」、下:ティム・ヘンソン氏シグネイチャー・ギターIbanez「TOD10」
Fluenceは様々なアーティストがシグネイチャーモデルをリリースしていますが、今のところ国内では、プログレッシブロックバンド「Polyphia(ポリフィア)」の両翼を担うお二方のVoice 3モデルが流通しています。
Polyphia Australia Tour 2023
野太いグルーヴから澄み渡ったアルペジオまで、あらゆる表現に及んでいる。
スコット・レページ氏のシグネイチャーモデルは、オープンタイプのClassicハムバッカーを出発点に、サウンドの微調整を施しています。王道のハムバッカーサウンドに加え、コイルタップではない純然たるシングルコイルのサウンドが得られます。
ティム・ヘンソン氏のシグネイチャーモデルは、オープンタイプClassicハムバッカーの本体に氏のアイデンティティを詰め込んで、多用性と強烈な個性を併せ持っています。かつてはアコギに持ち替えなければならなかった音色まで実装していますが、アナログでここまでやるフィッシュマンの凄まじさが伝わってきます。
左から、「Rechargeable Battery Pack for LES PAUL」、「Universal Rechargeable Battery Pack」、「Rechargeable Battery Pack for STRAT」。
Fluenceには、バッテリーパックも開発されています。ストラトキャスターとレスポール用にバックパネルに置き換えられる設計のモデルがあるほか、アッセンブリに組み込むことのできるユニバーサル・タイプがあります。
ミニUSBケーブルでバッテリー切れから約3時間でフル充電、LEDインジケーターを備えるので充電時期が事前にわかり、Fluence以外のアクティブピックアップにも給電可能です。
以上、フィッシュマンの開発した革命的なピックアップ「Fluence」をチェックしていきました。Fluence Coreという全く新しい構造を発明することで、コイルを巻く従来型ピックアップの物理的な制約や電気的な限界から解放された、サウンドメイクの自由度と電気的性能の両面に優れたピックアップです。気になるギターに載っているFluenceピックアップ、ぜひ実際にチェックしてみてください。
(情報提供:FISHMAN、株式会社黒澤楽器店)
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