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新たなフラッグシップモデルは、左用のラインナップも手厚い。
フェンダー「アメリカン・ヴィンテージII」シリーズは50・60・70年代の名機を厳選した、同社の歴史を象徴する新たなるフラッグシップです。本体の寸法やピックアップの設計を完全再現するヴィンテージ・リイシューでありつつ、現代のギターとしてのアレンジをほんのりと効かせた「現代のサウンドを作るツール」として仕上がっています。今回は、このアメリカン・ヴィンテージIIシリーズに注目していきましょう。
https://youtu.be/zX_-kKcN0yQ
Introducing American Vintage II | Fender
AMERICAN VINTAGE IIシリーズの発売記念として公開された、60秒間のコラージュ映像。朗読は「パンクの女王」の異名を持つパティ・スミス女史。
AMERICAN VINTAGE II 1973 STRATOCASTER(Lake Placid Blue)
前身の「American Vintage」シリーズ(1982~2018)は、30年以上にわたって支持された人気シリーズでした。ところがレギュラーモデルの価格帯を逸脱せずにはこれ以上ヴィンテージ・スペックを追求できなくなり、またそのためフェンダー・カスタムショップとの住み分けがあいまいになり、惜しまれつつ終了しました。
そこで新たにスタートした「American Original」シリーズ(2018~2021)はヴィンテージ・スペックの追求をほどほどにとどめ、現実的な価格と実用的な機能を備えた新しいヴィンテージモデルを展開しました。
そうこうしているうちにカスタムショップモデルは高騰し、一般ユーザーには入手しにくいグレードになってしまいました。ヴィンテージモデルに年式の特徴を求める声も高くなってきました。こういう情勢から、再現度の高いヴィンテージモデルの再来として「American Vintage II(2022~)」はスタートしました。
年式ごとに並べると、少しずつ変化を遂げているのが分かる。なお、下段は全てCBS期。
ボディやネックの寸法や形状、年式ごとに異なるピックアップ、これらを正確に再現させるのがアメリカン・ヴィンテージII開発の出発点です。サウンドの再現度も高く、ヴィンテージギターや古き良き音楽への憧憬の念を満たしてくれます。また当時の音楽シーンを支えた実績のあるギターと同じ姿をしており、楽器としての格式の高さを感じさせます。
AMERICAN VINTAGE II 1963 TELECASTER(Crimson Red Transparent)
1~2年間だけ作られていたという、マホガニー製ボディ&シースルーレッドの1963年式テレキャスター。よほどのマニアでなければ、こんなものがあったなんて知らなかったに違いない。
年式ごとの特徴は、フェンダーが重ねてきた試行錯誤やチャレンジの結果でもあります。フェンダー社はそれぞれの年式に敬意を以って検討を加速させ、当時のギターを何本も調達して仕様を決定しました。再現する年式の決定には、第一にヴィンテージコレクターや社内のマスタービルダー、当時の従業員に至るまで数多の専門家から知恵を集めました。第二に資料として当時のギターを集め、詳細にデータを起こしました。手作りの工業製品であり個体差が大きいため、同じ年式のモデルを何本も集めています。
年式の選定には、安全策に縛られない攻めた姿勢が見られます。ガチガチの定番もありますが、特別仕様機のあった1963年式テレキャスターやカスタムカラーのあった1973年式ストラトキャスターといった、ニッチな年代にも注目しています。
1957年式(左)と1973年式(右)。ハットノブ外周の数字に注目すると、57年式は小さめで高さにゆとりがある一方、73年式は高さを目いっぱい使った大きめの数字が使われているのが分かる。ここまでやるとは、フェンダーは本気だ。
アメリカン・ヴィンテージIIでは、ピックアップはもちろんのことボディシェイプやコンターの深さ、コントロールノブに書かれるフォントやピックアップカバーの面取りなどマニアックにも程があるところまで、年式のディテールを再現しています。
これまでも、ピックアップについては年式ごとにレシピを再現していました。さらにアメリカン・ヴィンテージIIではネックシェイプでも、「1972 “C”」「1973 “C”」「1975 “C”」というように1年単位で年式を再現しています。これは全世界に製品を供給する大量生産の工場でありながら1年単位の違いをキッチリ出せるという、高い加工精度を誇示した仕様だと言えるでしょう。
ヴィンテージギターのイメージを演出するため、ネックのメイプルは経年変化を再現した飴色に染められる。70年代当時はネックと指板がポリ塗装でヘッド面だけラッカー塗装だったので、ヘッドが濃く変色するところまで再現している。
AMERICAN VINTAGE II 1977 TELECASTER CUSTOM(Olympic White)
フェンダー社は1965年に会社をコロンビア放送システム・コーポレーション (CBS) に売却し、いわゆる「CBS期(1965~1985)」に入った。この時期は製造の効率化を重視するあまり品質の低下を招いたと見られているが、現代技術による高クオリティの復刻で名誉回復できそう。
1970年代のギターがヴィンテージとして注目されてきたという状況もあってか、アメリカン・ヴィンテージIIでは70年代のギターを4モデルも復刻しています。この時代のモデルは重心の低い、またエフェクターのかかりが良い派手めなサウンドが持ち味です。
また70年代モデルはヘッド側からトラスロッド調節でき、マイクロティルト機構によりネックの仕込み角度を調節できます。
アメリカン・ヴィンテージIIでは年式ごとにいちいちピックアップを開発しているが、このワイドレンジハムバッカーは全ての年式で同じものがマウントされる。なおこの「CuNiFe Wide Range Humbucker」は、単体でも販売している。
ギブソンの名ピックアップ「PAF」の生みの親セス・ラバー氏が1970 年に開発した「ワイドレンジハムバッカー」ピックアップは、フェンダーのシングルコイルと同じように磁石でポールピースを作る設計が特徴です。高域の輝くフェンダーサウンドを維持しつつ中域を大幅に増強させた音色には音楽的な透明感があり、ドライブサウンドでのコードプレイで特に有用です。
普通の磁石は脆くて割れたり欠けたりしやすく、ハムバッカーのネジ式ポールピースには使用できません。これに対してCuNiFe(クニフェ)はワイヤーにできるほどの粘性があり、ワイドレンジハムバッカーのポールピースに絶対的に必要な磁石と見られていました。
しかし近年までなかなか入手できず、代わりの材料でどうにか再現していました。安定的な供給元を確保してようやく完全復刻したワイドレンジハムバッカーは、アメリカン・オリジナル「 ’70s テレキャスターカスタム(2020)」でデビューします。アメリカン・ヴィンテージIIでは、この完全復刻盤のワイドレンジハムバッカーがふんだんに採用されています。
AMERICAN VINTAGE II 1966 JAZZMASTER(3-Color Sunburst)
歴史上の名機はフェンダーの財産ですが、現代のメーカーとしては悩みの種でもあります。ヴィンテージが優れているという信念に縛られていては、ブランドの未来はないからです。そういうことからアメリカン・ヴィンテージIIでは、高い再現度と現代的な実用性とのバランスが考慮された設計が採用されています。
工業製品としても現代に求められる高いクオリティを達成しており、高精度のネック接続、ナットやフレットの滑らかな処理など、ていねいに作られます。
平たい指板が標準化している現代において、フェンダーは丸みのある指板の存在意義を提唱した。
アメリカン・ヴィンテージIIでは、ほぼ全てのモデルで「7.25″(184.1mm)」の指板Rが採用されています。この丸みを帯びた指板は最初のテレキャスターからずっと採用されてきた、フェンダーを象徴する仕様です。握り込むフォームでの演奏性に優れ、バレーコードを押さえるのにも有利です。また親指で6弦を押さえたりギターを低く構えたりするスタイルにも良好です。この指板を採用したレオ・フェンダー氏が、如何に正しかったのかを感じることができます。
一方で丸みのある指板は、チョーキング時のビビりをなくすためには弦高を落とすことができませんでした。これに対してアメリカン・ヴィンテージIIでは細めで背の高い「ヴィンテージ・トール」フレットを採用し、弦高を下げなくてもぜーんぜん気にならない良好な演奏性を実現しています。
操作系の配置こそそのままだが、配線は現代標準。
テレキャスターの「ブレンド回路(1951)」や「ブラックガード配線(1952~1967)」はギターがベースの役割を担うような時代のものです。またストラトキャスターの「3WAYセレクタースイッチ(1954~1977)」はハーフトーンを得るのに特別な技術が必要で、現代の感覚で使いやすいとはなかなか思えません。
そんなわけでアメリカン・ヴィンテージIIの操作系には、実用性を重視して現代的な配線が採用されています。
1951年式及び1963年式テレキャスターの電気系は、「3WAYセレクタースイッチ&ボリューム&トーン(1967~)」が採用されています。またすべてのストラトキャスターに「5WAYセレクタースイッチ(1977~)」が採用され、さらにトーン1がフロント&ミドル、トーン2がリアにかかる現代仕様になっています。
AMERICAN VINTAGE II 1961 STRATOCASTER LEFT-HAND(Fiesta Red)
これまで極めて限定的だったレフトハンドモデルのラインナップが豊かになり、全人類の10%と言われる左利きの人が選ぶ楽しさを感じられるようになりました。テレキャスターは1951年式の1択ですが、ストラトキャスターには1957年式と1961年式があり、右用と同じ価格、同じカラーバリエーションで展開しています。
ではアメリカン・ヴィンテージIIのラインナップを見ていきましょう。1951年式テレキャスター以降はカラーバリエーションが3つずつあり、華やかな製品群となっています。
ロックンロールがまだ生まれていない時代、カントリー/ウェスタンのジャンルを想定して作られた全く新しいギター。それ以前のどのギターとも違う、信じられないほど明るくクリーンで歯切れの良いサウンドが高く評価された。
1951年式テレキャスターは、フェンダーによるイノベーションを象徴する重要なモデルです。1951“U”シェイプのネックとPure Vintage ’51 Telecasterピックアップにより、当時のフィーリングとサウンドがしっかり再現されています。なお、カラーはバタースコッチブロンドの一択です。
全てマイナスネジだった1951年から、1952年を過渡期とし、1953年には全部プラスネジになった。ブラス製3連サドルは、50年代を象徴する仕様。
すべてのネジがマイナスネジだった1951年だけの仕様はもちろん、12フレットのドットインレイがちょっと狭い間隔で埋設されるところなど、マニアックなところもしっかり追及しています。
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ストラトキャスターは1954年の発明以来、実用的なギターとしての地位を築いてきた。1956年にはバタフライ型ストリングツリー、アルダーボディ、Vネックといった仕様が登場、翌1957年にはプラスチックパーツがミントグリーンのABS樹脂製になった。
1957年式のストラトキャスターは、3基の「Pure Vintage ‘57 Stratocaster」ピックアップと1957″V”シェイプのネックにより、当時の音と感触を楽しむことができます。Vシェイプは親指を出す握り方に特に良好で、チョーキングを多用するブルース系のプレイヤーに特に好まれます。
カラーバリエーションは3タイプ。ヴィンテージ・ブロンドではアッシュ製ボディとなる。
50年代のストラトキャスターは、8点留めの単層ピックガードがルックス上の大きな特徴です。ここにピックを挟むことができるのを好んだプレイヤーもいましたが、経年変化で歪んでくることもあって1959年には11点留めに改められました。
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3カラーサンバーストの導入とUシェイプネックへの回帰(1958)、ローズウッド指板への変更と11点留め3層ピックガード採用(1959)を経て、1961年には現代に通じる薄めのCシェイプネックになった。
1961年式ストラトキャスターはアルダー製ボディとローズウッド指板の組み合わせで、3基の「Pure Vintage’61 Stratocaster」ピックアップと1961″C”シェイプネックがオリジナルのサウンドとフィーリングを再現しています。ピックガードのエッジが斜めに切られるのも特徴で、セクシーな曲線を引きたてる演出になっています。
カラーバリエーションはフェスタレッド、オリンピックホワイト、3カラーサンバーストの3タイプ。
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ピックガードを黒から白に変更(1954)、ポールピースの高さを弦に合わせ、セレクターノブをトップハット型に変更(1955)、バタフライ型ストリングツリー(1956)、カスタムカラー導入(1958)、8点留めピックガードとローズ指板採用(1959)、3層ピックガード採用(1963)といった変化と並行して、3連サドルはブラスから鉄製(1954~)、鉄製ネジ状(1958~)へと変遷した。
1963年式テレキャスターは、アルダーボディ&ローズウッド指板、3連の鉄製スパイラルサドルという組み合わせで、シースルーレッドのみマホガニーボディです。「Pure Vintage’63 Telecaster」ピックアップと1963 “C”シェイプネックがリアルなサウンドとフィーリングを演出しています。
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ジャズマスターは1958年の発表以来、ピックガードやバインディングといったドレスアップ意外の仕様変更をほぼ経ずに過ごした。フェンダーがCBS傘下となった翌年のジャズマスターは、ブロックインレイとネックバインディングを採用して高級機としての風格を演出した。
1966年式のジャズマスターは、アメリカン・ヴィンテージIIのラインナップの中では唯一、ネックバインディング、ブロックインレイ、マッチングヘッドといったドレスアップのあるモデルです。操作系の設計はオリジナルのままで、ソロ/バッキングの切替などに便利なスライドスイッチが備わっています。
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3WAYセレクタースイッチの設定をフロント/ミックス/リアに変更(1967)、ボディ軽量化のためテレキャスター・シンライン開発(1968)、ワイドレンジ・ハムバッカーを備えた第二世代シンラインを開発(1971)、翌年量産化。
1972年式テレキャスター・シンラインは、Fホールを持つアッシュボディ、ハードテイル・ストラトキャスターから転用した6連サドル、そして2基のワイドレンジ・ハムバッカーが大きな特徴です。遂に復刻したCuNiFeワイドレンジ・ハムバッカーと1972″C”シェイプネックにより、当時のサウンドとフィーリングを味わうことができます。
Exploring the American Vintage II 1972 Telecaster Thinline | American Vintage II | Fender
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CBS傘下のストラトキャスターは、ラージヘッドと3点留めネックジョイントを採用(1966)、ペグをFキーに変更(1967)、ラッカーからポリエステルへ塗装を段階的に変更(1968)、マイクロティルト機構とブレット・トラスロッドの採用(1970)などの変更を受けた。
1973年式のストラトキャスターはアッシュボディとラージヘッドを大きな特徴とし、ローズウッド指板は指板Rに合わせる「ラウンド貼り」です。1973年はフラットポールピースが採用される前の年で、「Pure Vintage `73 Staggered Pole」ピックアップはその名の通り弦の出力に合わせたスタガード・ポールピース仕様になっています。
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これまでフェンダーにはなかった「ソリッドボディ+2ハムバッカー」仕様として、テレキャスター・デラックスは1972年に開発された。バックコンターはテレキャスターの歴史では初採用。デビュー以来目立った仕様変更はなかったようだが、今回の復刻で1975年式が選ばれたのは調達した実機の中で1975年製がいちばん好感触だったからだと考えられる。
1975年式テレキャスター・デラックスは、ラージヘッドと2基のワイドレンジハムバッカー、G社スタイルの操作系を備える異色のテレキャスターです。アメリカン・ヴィンテージIIのラインナップにおいて、本機だけが9.5″ (241 mm)指板Rとミディアムジャンボフレット仕様であり、またステンレス製ブロックサドルを採用しており、現代に通じるモダン感があります。
Exploring the American Vintage II 1975 Telecaster Deluxe | American Vintage II | Fender
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60年代にはすでに、フロントにハムバッカーを載せる改造が流行していた。この情勢を受けて1972年、フロントにワイドレンジハムバッカーを備えたテレキャスター・カスタムが開発された。6連サドルの採用は1974年から。今回の復刻で1977年式が選ばれたのは、実機のカラーが良かったからなのだとか。
1977年式テレキャスター・カスタムは、メイプル1Pネックとラウンド貼りローズウッド指板の2タイプあります。ワイドレンジハムバッカーとリアのシングルコイルという組み合わせは、フェンダー内はおろかギター全体でも稀有な存在です。6連サドルにより各弦に対してシビアなセッティングが可能です。
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以上、フェンダー「American Vintage II」シリーズに注目していきました。トラッドなスタイルのギターにはヴィンテージギターへの憧れや過去の音楽へのノスタルジーを感じさせますが、歴史上の名演を支えた実績と信頼のあるスタイルでもあります。現代の技術でしっかり作った工業製品なのでハードワークにも耐えられる、あらゆる用途に対応できる汎用性の高いギターです。過去からのインスピレーション、ぜひ実際に受けてみてください。
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