エレキギターの総合情報サイト
「同期演奏」とは、第一に「伴奏音源(オケ)を鳴らしながら演奏すること」です。その意味で、ライブ会場に流す音楽に合わせて演奏する、いわゆるカラオケも同期と言うことがあります。
しかし!今回注目するのはその次のレベル、「オケを使用するが、自分だけはクリック(メトロノーム)の音も聞く」そしてさらにその次、「オケにギターやベースの音色切り替えをプログラミングしたり、ステージ上からオケを操作したりする」、この二つです。これでどんな音楽表現ができるのか、また何を使えばそんなことができるのか、今回は「同期演奏」をキーワードに、いろいろなことをチェックしていきましょう。
ONE OK ROCK – Wasted Nights (LIVE AT BLARE FEST.2020)
ステージ上はメンバーだけなのに、サビではシンセが鳴っています。同期演奏を活用すると、こんな感じにメンバー以外の音も駆使して、より完成度の高いライブ演奏ができるのです。
人間の演奏とオケを同期させるのが、同期演奏です。3ピースバンドにブラスセクションや合唱団の音源を合わせたり、ロックバンドの演奏にオーケストラの音源を合わせたりと、事前に準備できる範囲で最大限の音楽表現がライブで可能です。
また同期演奏では、オケとは別に、クリックも聞きながら演奏できます。クリック音はインイヤーモニター(イヤモニ)で聞くので、客席はおろかステージにも流れません。すると、オケを使用するにも関わらずドラムのカウントやギターのリフから曲を始めたり、サビのコーラスだけとかシンセのみとか、必要な時に必要な音だけ流したりできるわけです。またクリックを聞きながら演奏するので、テンポの揺れない安定した演奏が可能です。
カラオケは、音楽のみに合わせて演奏します。よって、必ずカラオケの音から曲が始まります。そしてオケと人間がズれないよう、音がなくなる時間を極力少なくしなければなりません。人間の演奏から曲が始まったり、必要な時だけ鳴らしたりという表現ができない、という制限があるわけです。
同期演奏の真髄は、オケをステージと客席に、クリックをイヤモニに送ることにあります。そのためには何が必要なのか、4つに分類して見ていきましょう。
PCとオーディオインターフェイス。「もう一人のバンドメンバー」として、オケを奏でてくれる。
オケとクリックの「再生用デバイス」としては、スマホやタブレット、MTR(マルチトラック・レコーダー)、そしてPCが一般的です。オケとクリックを別々に送りたいので、アウトプット端子がステレオ1系統しかない場合はそれぞれをモノラルで出力することになります。
オケをステレオで送ったり、あるいはオケを何パートかに分けて送ったりするなら、複数系統のアウトプット端子を持つオーディオインターフェイスを増設する必要があります。こちらについてはさらに3つのパターンに分け、後でもう少し詳しく見ていきます。
音楽制作ソフト「CUBASE(キューベース)」の画面。オケをステレオで作っておいて、これに合うクリックを打ち込んでおく。あとはオケをPAに、クリックをイヤモニに送ればOK!
オケを作るためには、CUBASEやLogicなど音楽制作ソフト(DAW)が必要になります。その上で、オケを何トラック使用できるかは、機材のスペックや会場の環境に依存します。スマホでシンプルに同期演奏するなら、右チャンネルにオケ、左チャンネルにクリックのそれぞれ入ったステレオの音源を作ります。
上の画像は、完成させたステレオのオケと打ち込みのクリックが並んでいる状態です。アウトプットが何系統もあれば、複数トラックのオケを使用できます。
クリック音は、イヤモニ(インイヤーモニター)で聞くのが現在では一般的です。リズムの要(かなめ)という役割、また有線のイヤモニで問題が無いという理由で、ドラマーがイヤモニを使うのが一般的です。他のパートの人が使用するなら、ワイヤレスが便利です。一般のイヤモニはイヤホンとの区別があいまいですが、バンドの大音量が鳴り響く中でもちゃんと聞こえる遮音性が強みです。
クリックの他に、オケ、バンドメンバーの演奏、そして自分の音まで、全てをイヤモニで聞けるようにするのが、もっとも良好なモニタリング環境です。そのためには会場のモニタースピーカーに送るシールドをイヤモニ用のミキサーやオーディオインターフェイスにつなぎ替えるなどが必要となり、会場のPAさんの協力が欠かせません。クリックは自分の機材で、それ以外はPAから送ってもらうわけです。
それが難しい場合は、イヤモニで聞くのはオケとクリック、またはクリックのみにして、それ以外はメンバーの直接音やモニタースピーカーの音を聞いて演奏することになります。遮音性の高いイヤモニを両耳に装着すると、イヤモニ以外の音が聞きにくくなります。そのためイヤモニは片耳のみに装着してクリックを聞き、もう片方の耳でモニタースピーカーその他の音を聞く、という手法も取られます。
ステレオミニ延長ケーブル。イヤホン用に持っていると、ものすごく便利。
意外と盲点になるのが、ケーブル類です。例えば、
のようにステージの配置を考えると、ある程度の長さのケーブルが必要になります。
またケーブル類は消耗品であり、ライブ当日など絶好のタイミングで断線します。フォンやキャノンはライブ会場で借りられますが、そうでないケーブルについては予備を持っておくと安心できます。
ではここから、iPhoneやiPad/MTR/PCの3パターンで、実際に同期演奏をするにはどんなものが必要なのかを見ていきましょう。プロの現場では今のところPCを使った同期演奏が常識となっていますが、まずは無理のないところから挑戦してみてください。
1本のステレオミニ端子から2本の標準モノ端子に分ける。これぞYケーブル。
スマートデバイス(スマホやタブレット)とYケーブルを使用するのが、現代では最も手軽な手法です。重要な心掛けとして、通知や通話を受け付けないよう設定し、またバッテリー残量をしっかり確保しておきましょう。
スマートデバイスのPhone端子を利用する場合、まず片側にオケ、反対側にクリックを収めた音源を作成し、音楽プレイヤーアプリで再生します。ここで使用するのがDAWアプリじゃなくてもよいという点も、またお手軽なポイントです。
Phone端子からYケーブルを延ばし、PAとミキサーに振り分けます。PAにはモノラルでオケを送り、ミキサーにはクリックを送ります。イヤモニはミキサーにつなげます。バンド全体の音がPAから受けられれば、理想的なモニタリング環境が得られます。
OYAIDE「d+MYTS Class B(1.5m)」
オヤイデ「d+MYTS Class B」は、存在感のあるカラーリングと確かなサウンド&ビルドクオリティで好評を博しているYケーブルです。ケーブルには高純度無酸素銅が使われ、端子には24K金メッキコーティングが施されます。長さには1.5mと2.5mがあります。
d+MYTS Class Bを…
AAmazonで探す R楽天で探す Sサウンドハウスで探す
現在のMTR(マルチトラック・レコーダー)は、ミキサーとしても機能します。だからうまく使えば、コレ1台で同期演奏ができてしまいます。PCなどで作成したオケとクリックをMTRにインポートして、オケのみをPAに送り、クリックはイヤモニのみに送ります。PAからバンド全体の音を受ける場合、MTRのインプット端子につなげます。
MTRのメリットは、1台で同期演奏のシステムがほぼ完了できるところにあります。オケをステレオで送るのはもちろん、トラック数が許せばリズム体とキーボード類を分けるように複数トラックのオケを用意し、ライブ会場に合わせたバランスを取ることもできます。曲順通りに次々と再生させる機能も付いているので、流れを止めずにライブができます。
またMTRは専用機であり、動作の安定性においてPCやスマホを遥かにしのぎます。途中で固まってしまうとか、不意に通知が来るとかいった心配から解放されるわけです。
MTRでの同期演奏はメリットがいろいろありますが、MTR自体のスペックとしてはMIDI非対応、またフットスイッチの機能が音楽制作に特化しているのが普通です。MTRを使った同期演奏は、オケとクリックを使用するという比較的シンプルなシステムにおいて威力を発揮します。それ以上のことをしようとしたら、やはりPCやタブレットの出番となります。
R8 Recorder: Interface: Controller: Sampler
変更なし: ギターケースに収まるコンパクトな本体に、さまざまな機能を収めています。DAWソフト「CUBASE LE」が同梱されるので、音楽制作への入り口としてもたいへん良好。
ZOOM「R8」は、最大8トラックを同時に再生できるレコーダー、オーディオインターフェイス、DAWコントローラー、ドラムパッド付きサンプラー&リズムマシンを統合した多機能MTRです。
特にメトロノームに関する機能が充実しており、同期演奏に有利です。クリックをヘッドホンにのみ送る機能が、内蔵メトロノームだけでなく任意のトラックにも利用できます。同期演奏のツールとしてはこのR8で充分な印象ですが、マイクをたくさん使うレコーディングなど大規模な音楽制作にも使う予定があれば、上位機種「R16」「R24」がお勧めです。
ZOOM R16を…
AAmazonで探す R楽天で探す Sサウンドハウスで探す
ミキサーを使わない場合。全てのデバイスがオーディオインターフェイスにつなげられる。イヤモニの音量やバランスはPC / iPadのDAWで調整する。PAからバンド全体の音を受け取る場合は、オーディオインターフェイスのインプット端子を使用する。PC、オーディオインターフェイス、イヤモニを1か所に集める配置に向いている。なおこの場合、イヤモニを使えるのは一人だけ。
こちらは、イヤモニの調整用としてミキサーを使用する場合。PCはキーボーディストが操作、イヤモニはミキサーと共にドラムの位置に、といった分散した配置が可能。PAからバンド全体の音を受け取る場合は、イヤモニ用のミキサーにつなげる。オーディオインターフェイスのアウトプット数次第で、イヤモニを多チャンネル化することもできる。
DAWソフトを走らせるPC / iPadとオーディオインターフェイスの組み合わせが、プロの同期演奏では定番となっています。大規模な機材搬入/搬出の労力と引き換えに、今のところ考えられる全てが手に入り、幸せなステージを体験できます。
オーディオインターフェイスのアウトプット端子が4つ(ステレオ2系統)以上あれば、ステレオでオケが使えます。アウトプット端子が2つ(ステレオ1系統)の場合はオケをモノラルで送ることになります。iPadを使用する場合は、オーディオインターフェイスがそれに対応できることが必要です。
PCでDAWソフトを起動し、オーディオインターフェイスからオケを流す。またここからマルチエフェクターを操作する。
オーディオインターフェイスはMIDI信号を送受信できますから、うまく使えばたいへん快適なステージングが可能です。
エフェクター切替をMIDI制御にすると、自分で操作することがなくなる。この写真ではオーディオインターフェイスの上にLine 6「HX Stomp」を積んで、省スペース化している。
オケにエフェクターやキーボードのプログラムチェンジ情報を仕込んでおけば、演奏中は自動的にエフェクターが切り替わる、なんて便利なことができるようになります。ライブ中はエフェクターの踏み替えに悩まされることなく、ライブパフォーマンスに集中できるというわけです。コンパクト派の人も、心配ありません。MIDI対応のプログラマブル・スイッチャーを起用すれば楽勝です。MIDIは最大16チャンネルまで使用できますから、入念な仕込みが必要ではありますが、ギターもベースもキーボードも、メンバー全員の音色切り替えをオートマチック化できます。
また、オケのスタート/ストップなどをMIDIフットスイッチで操作することもできます。会場のPAさんに合図を送って音楽を流してもらうのではなく、指先でポチっと起動させるのでもなく、フットスイッチをガンっと踏んで曲を始めることができるのです。
大規模なシステム構築になりますが、オーディオインターフェイスのアウトプット端子の数だけクリックを送信できますから、イヤモニを多チャンネル化することができます。メンバー全員がイヤモニを使用する、そして各メンバーそれぞれが異なるミックスを受け取ることが可能です。
オーディオインターフェイスやDAWソフトの仕様によっては、ミキサーに頼らずオーディオインターフェイス自身でPAからバンド全体の音を受け、またクリックをイヤモニだけに送ることもできます。普通ならPhone端子は一つしかないので「イヤモニを使えるのは一人」となる代わりに、比較的シンプルなシステム構築が可能です。
完成度の高いライブ演奏のためには、同期演奏は現代の常識にまでなっています。しかし、そんな同期演奏にも注意点はあります。いくつか見ていきましょう。
クリックを聞いてテンポを安定させながらでも、ドライブ感のある演奏は可能です。また演奏中にテンポを変えたければ、そういうクリックを作っておけば良いのです。しかしだからこそ、何周するかわからないアドリブやサビの連呼、ボーカルの気まぐれな合図でバンドの演奏が停止してボーカルだけになるなど、「その場のノリ」を活かした演出は難しくなります。そこをどう解決するかは、工夫のしどころです。
クオリティの高い同期演奏のためには、いろいろな面で入念な準備が必要となります。しっかり完成したオケとクリック、MIDIデータなどはもちろん、それらが間違いなく作動するために本番を想定したリハーサルを重ねましょう。
またシステムが肥大化すると、搬入/搬出の労役とともにステージでの設営/撤収の手間と時間もかかります。対バンのイベントなどでは特に、限られたリハーサル/セッティング時間をいかに使うかが勝負になります。迅速な設営/撤収のための計画や練習も必要となります。
機材に根性論は通用せず、ケーブルが一本ないだけでも正常に作動しません。忘れ物や機材の故障に対しても用心しましょう。第一にPC / iPadが固まらないように、オケは完成させたオーディオデータをそのまま流すようにし、少しでもCPUにかかる負担を軽くしておきましょう。また絶好のタイミングでアップデートが始まる、なんて事態が起こらないよう設定しておきましょう。
PCが同期演奏のメインだが、まさかの時のためにMTRも準備。転ばぬ先の杖。
しかしそれでも、機材トラブルはなかなか完全には防ぎきれません。トラブル回避のシミュレーションは念入りにしておくに越したことはありませんが、万全を期するならば本番用のシステムに加え、まさかの時の代打として第二のシステムを準備しておくのがお勧めです。
同期演奏には、PAの協力が不可欠です。どんなシステムで本番に臨むのか、あらかじめ相談しておきましょう。特に、バンド全体の音をミキサーに送ることができるかどうか、しっかり確認しましょう。会場によってはドラムにモニター用のミキサーが常設されていますし、小規模な会場では回線の本数に限界があって、希望どうりにならないかもしれません。大きな会場では、どこに電源があるのかもポイントになってきます。
以上、同期演奏をテーマに、いろいろなものを見ていきました。メンバーの人数に縛られないサウンドがライブで実現できるほか、オケを使うからこそ、また自動で音色を切り替えるからこその新しい音楽表現も可能になる、明るい未来があります。時には全く使わないという選択もでき、表現の幅がぐっと広がります。ぜひチャレンジしてみてください。
オーディオインターフェイスの売れ筋を…
Aアマゾンで探す
R楽天で探す
Sサウンドハウスで探す
YYahoo!ショッピングで探す
※当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品を紹介しています。