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2017 MUSIC CHINA
「ワッシュバーン(Washburn)」のブランド立ち上げ(1883年)はグレッチと同じで、ギブソン(1896年工房設立)よりも古く、アコギやマンドリン、バンジョーといった分野で大変長い歴史があります。エレキギターではヌーノ・ベッテンコート氏の愛機「N4」が特に有名で、それゆえハードロック/ヘヴィメタル志向のイメージが濃厚ですが、始めたばかりの初心者から世界を飛び回るプロミュージシャンにまでギターを届ける、たいへん幅広い製品群を誇ります。今回は、このワッシュバーンに注目していきましょう。
※「Washburn」はふつう「ウォッシュバーン」と表記しますが、ギターブランドのWashburnに限って「ワッシュバーン」と表記するのが通例となっています。
Extreme – Get The Funk Out
ハードロックの分野にファンク要素を取り入れた、強烈なグルーヴ感。愛機「N4」を演奏するヌーノ氏のギタープレイは、ロックギターのかっこよさに溢れています。しかし演奏には「ロックギタリストならよくやる手癖フレーズ」を絶妙に外した、難解な指遣いが要求されます。この「ムズいフレーズを涼しい顔で弾く」のがヌーノ氏の魅力だと言われますが、本人にとってはむしろ弾きやすいのかもしれません。
現在のワッシュバーンは、「JAM Industries USA」社の傘下、「US Music(USM)」社が保有しています。USM社はこのほかデジテック(エフェクター)、エデン(アンプ)、ハグストローム(ギター)、マーシャル(アンプ)、ランドール(アンプ)、ワーウィック(ベース)といった超有名ブランドを保有しており、各分野で世界的なシェアを誇っています。
現在までのワッシュバーンの歩みを、ざっと見てみましょう。
西暦 (年号) |
ワッシュバーンの出来事 | 日本の出来事 |
1883年 (明治16年) |
1864年から楽譜店を運営していたジョージ・ウォッシュバーン・リヨン氏とパトリック・ヒーリー氏が、シカゴで楽器メーカーを設立。「ワッシュバーン」の名でギターやマンドリン、「Lyon & Healy」の名でピアノやオルガン、金管楽器、打楽器など幅広く製造する。 | 国賓らの社交場「鹿鳴館(ろくめいかん)」落成 |
1889年 (明治22年) |
アメリカ最大のマンドリンメーカーとなる。会社は年間総生産数10万台を記録。この年、Lyon & Healyでグランドハープを製造開始(ハープブランドとして現在も存続)。 | 大日本帝国憲法発布 |
1920年代 (大正9年以降) |
競合各社との競争や娯楽の多様化に苦しみ、会社の合併やブランドの売却などを経て、生産数は落ち、1940年には沈黙する。 | 1923年(大正12)関東大震災 1925年(大正14)NHKのラジオ放送開始 |
1972年 (昭和47年) |
ロサンゼルスにベックメンミュージック社が設立、ワッシュバーンのブランドを取得。ワッシュバーンは蘇った。1974年には日本製のアコースティックギターを展開。 | 東鳩オールレーズン発売 |
1977年 (昭和52年) |
シカゴのフレッテッド・インダストリー社がブランドを買い取り、ワッシュバーンはシカゴに帰ってきた。生産を日本のヤマキに依頼する形でエレキギター製造開始。 | 月刊コロコロコミック(小学館)創刊 |
1990年 (平成2年) |
ヌーノ・ベッテンコートシグネイチャーモデル「N」シリーズ開始。 | TVアニメ「ちびまる子ちゃん」放送開始 |
2002年 (平成14年) |
ワッシュバーン社がUSM社を買収&逆合弁する。2009(平成21)年にJAM Industries USA」社がUSM社を買収。そして現在に至る。 | TVアニメ「NARUTO -ナルト-」放映開始 |
年表:ワッシュバーンの略歴
ワッシュバーンは絶大な結果を残した由緒あるブランドで、現在は巨大企業の開発力と生産力を武器に、世界中に販路を広げています。高度成長期の日本が深くかかわっているのが印象的です。
Rig Rundown – Jennifer Batten
伴奏にまでタッピングを使用する名手、ジェニファー・バトゥン女史。故マイケル・ジャクソン氏のワールドツアーに3度参加、1999年から2年間ジェフ・ベック氏とツアー&レコーディングを行ったことでも有名です。彼女のギターにはワンタッチで開放弦をミュートできる装置「ストリング・ダンパー」が必ず装備されています。
Washburn N4 Authentic Nuno Bettencourt Signature Model
ワッシュバーンといえばヌーノ、ヌーノといえばN4、というくらいN4はワッシュバーンの象徴的なモデルです。「N4」とはどんなギターなのでしょうか。現行パーツを使うという制限はありつつも、汚れ方やキズの付き方まで、ご本人モデルを完全再現した」という精巧なレプリカ「N4 Authentic(オーセンティック)」をピックアップして、その特徴をチェックしてみましょう。
N4オーセンティックで再現しているのはN4の初号機で、ステファン・デイヴィス氏が仕上げた個体です。デイヴィス氏の工房では1991年から1992年にかけて、同じ仕様のN4が1500本ほど、一般向けに生産されています。ファンの間では、ヌーノ氏ご本人のものも合わせて「DAVIES(デイビース)」と呼ばれています。現在手に入る普通のN4との細かい違いが多く、濃いファンはこのデイビースを頑張って探し出し、ご本人が施した修理や改造を再現して使うようです。
ヌーノ氏のN4「デイビース」は、出来上がった状態からも数々の試行錯誤を経て、また長期間の酷使を耐え抜き、このN4オーセンティティックの状態にまで育ちました。N4オーセンティックには本物をトレースしたエイジド処理ががっつり施され、現場で使われた汚れやキズのひとつひとつまで、また「N4」のステッカーの削れ方まで、子細に再現されています。
存在感のあるヘッド形状は、ヌーノ氏ご本人によるデザインです。リバースヘッドは下からつまむようなスマートな動きでチューニングできるほか、先端が天を衝くような形になりロック的だと言われます。なお、ギター職人ならざるヌーノ氏の設計だったためか、ペグ同士の間隔が狭く、チューニングしにくいと感じるかもしれません。N4オーセンティックではご本人と同じく、
この二つが再現されており、長きにわたり修理や改造が繰り返された歴史を思わせます。
これまで流通されてきたN4は、ほどほどに厚みのあるシェイプを採用してきました。しかしご本人のギターを3DスキャンしたN4オーセンティックでは、ほどほどにスリムなシェイプになっています。手が大きめとはいえ、ギターをかなり低く構えるヌーノ氏ですから、やはりスリムなネックが弾きやすかったんですね。
このネックは
という特徴があり、特にSECが大きなポイントです。
ワッシュバーンは「バジーフェイトン・チューニングシステム(BFTS)」のライセンスを取得しており、グレードの高い機種に採用されます。ギターの響きが美しくなるというBFTSの効果を体感するには対応するチューナーが必要になりますが、かの名手ラリー・カールトン氏をして「初めてチューニングが合った」と言わしめる美しい響きが手に入ります。
この特徴的なネックジョイントが、やたら長い名前の「ステファンズ・エクステンデッド・カッタウェイ(SEC)」です。シアトル在住のギター職人ステファン・デイヴィス氏の発明によるもので、ネック接合部のヒールを完全に失くしてしまうという大胆な設計です。ことハイポジションにおいて、左手を邪魔するものが何一つない画期的な発明です。
アマ時代のヌーノ氏は、ストラトタイプのボディを自らカットし、自分モデルのギターを作っていました。N4のボディはそれを再現したもので、小ぶりというよりスリムな形状になっています。アッシュやパドック(カリン)などいろいろなボディ材を使ったN4が生まれていますが、N4オーセンティックではご本人所有のN4同様に無塗装のアルダーボディで、長期間の酷使に耐えたキズや汚れで立派に育ち切っています。
という電気系は、N4各種の基本仕様となっています。「パッシブのハムならばダンカンかディマジオ」という時代にビル・ローレンスをセレクトするあたり、ヌーノ氏の独特のセンスが思われます。リアのエスカッションはダミーで、リアピックアップはボディ裏から直付けされています。
オリジナルのフロイドローズ・トレモロシステム(FRT)が搭載され、ボディにはアームアップ可能なザグりが入れられますが、内部に木製ブロックを詰めて、アームアップできない、アームダウンのみできる状態です。これは「Dチューナー(D-tuna)」を使用する際に必要な仕様です。DチューナーはFRT機でも一瞬で6弦をダウンチューニングできますが、アームアップできる状態(フローティング)では弦全体の張力が崩れてしまうわけです。
Nuno Bettencourt Signature Guitar – Washburn N4 Authentic Guitar
ヌーノ氏ご本人はほとんどアームを使わないのですが、このようにグワングワン使っても大丈夫。Dチューナーを使ってもチューニングが破綻しないのは、アームアップを封じているからです。
ワッシュバーン社自信はオーソドックスなスタイルからセミアコ/フルアコまで膨大なラインナップを持っています。そのうち日本で流通しているのは、ロック志向のモデルが中心です。やはりヌーノ・ベッテンコート氏の影響は無視しがたいものがありますが、現行の主なラインナップを見て行きましょう。
N2-Nuno
ヌーノ氏の代名詞「N4(4N)」はメイドインUSA、それ以外の価格を圧縮したモデルはアジアで生産されています。いろいろなボディ材でN4を使ってきたヌーノ氏ですが、現在では定番のアルダーと、インパクト充分のパドックの2タイプがリリースされています。カスタムショップから限定版がリリースされることもありますが、現行のN4は以下の4タイプに収まっています。
ピックアップなど基本仕様はおおむね共通しています。
いっぽう価格を抑えたモデルでもSECが搭載されることがあり、あなどることができません。指板材はローズウッドに変更されますが、リアのビル・ローレンスL-500は全モデル採用されています。
モデル名 | 特徴 |
N2 Nuno | SECは非採用。バスウッドボディにメイプルネック、指板はローズ。 |
N2 Nuno Padauk | 上記N2をパドック調に塗装して雰囲気を出したもの。 |
N24 Nuno Vintage Matt | SEC採用。アガチスをボディ材に。 |
N24 Nuno Vintage Padauk | 上記N24をパドック調にカラーリングした。 |
N61 | SSH配列で、ピックガード付き |
表:低価格帯のヌーノモデル一覧
「パララックス(PARALLAXE)」はワッシュバーンのロック/メタル向けシリーズで、日本国内では特にスーパーストラトタイプのモデルが流通しています。
「M10FRQ」は、パララックス最上位に君臨する高機能モデルです。「N4」とはまた違ったスタイルのスリムなボディはマホガニー製で、キルテッドメイプルがトップに貼られ、見るからに高級です。メイプルネックにエボニー指板、24フレットあり、さらにはSEC搭載によりハイポジションの演奏性が恐ろしく確保されています。また、操作系とブリッジはボディに沈めるように低い位置に設置され(ロー・セッティング)、技術レベルの高い演奏を強力にサポートします。
セイモア・ダンカン製ハムバッカーピックアップが2基、ボディへダイレクトマウントされていますが、トーンポットのプッシュ/プルで両ハムバッカーのシリーズ(直列。通常のハムバッカー)/パラレル(並列)を切り替えられます。パラレルのサウンドは通常のハムバッカーより細く、しかしコイルタップより太いのが特徴ですが、「ハムキャンセル効果」が働くためノイズに強いという大きなメリットがあります。
FRTにも仕掛けがあり、イナーシャブロックに36mm厚のブラス製を採り入れるほか、トレモロスプリングが共鳴しないようにミュートがかけられています。ブラス製のブロックは倍音が豊かに響き、中域のエッジが立つと言われます。スプリングのミュートは余計な残響を防ぎ、演奏にキレを生み出します。
Washburn Parallaxe PXM10 – Feared “End” + Backing track
こうした動画で演奏者がウマいのはそりゃ当り前なんですが、何とも美しい音色です。
弦長27インチの8弦ギター「PXM18EB」は、アルダーボディにメイプル+マホガニーの5層ネック、エボニー指板、EMG製ピックアップ2基、という仕様です。ここまでは普通の8弦ギターとまあまあ代わりませんが、ここにSECとBFTSの両方を採り入れ、
というメリットが得られる、ワッシュバーンにしかできない仕様が盛り込まれています。
どこからどう見てもメタル仕様の「S10E」は、アルダーボディにメイプルネック、エボニー指板、裏通しブリッジという本体ですが、「ネックの裏まで黒く塗られる」という点で、昨今のボルトオン仕様のギターでは珍しい全身真っ黒の機体です。ピックアップはEMGの85&81をボディにダイレクトマウントというメタルの王道で、やはりSECとBFTSの合わせ技でワッシュバーンらしさを前面に打ち出しています。
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