Kino FACTORY「mort」Custom《レビュー》

[記事公開日]2019/4/12 [最終更新日]2024/10/16
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

Kino FACTORY mort Custom
Kino FACTORY「mort」Custom

あなたはカスタムメイド・ギターブランド「Kino FACTORY(キノ・ファクトリー)」をご存知でしょうか。丁寧な作りと特許取得のネック構造で、じわじわと支持を伸ばしている新興ブランドです。しかしSNSでの露出こそあれ、今なお公式サイトはなく、まだまだ謎に包まれたブランドでもあります。そんなKino FACTORYは今年2019年の展示会「サウンドメッセ」に出展が決まり、その準備を着々と進めています。

今回、Kino FACTORYのオーナーさん曰く「これ以上ない!」というほど、気合の入りまくった特別なモデル「mort(モート)」のカスタムモデルに触れる機会がありましたので、この「mort」がどんなギターなのかをレビューします。

Kino FACTORY「mort」各部をクローズアップ!

Kino FACTORYの「mort」は、

  • 伝統的なテレキャスターのスタイルを継承しつつ、
  • 現代的なカスタマイズを施し、
  • 独自設計のアルミフレームをネックに内蔵する

というギターです。
では、mortのいろいろなところをアップで見ていきましょう。

オリジナルデザインのヘッド


Kino FACTORY共通デザインのヘッドストック。

Kino FACTORYのギターは全モデル共通して、先端が二股に分かれたオリジナルデザインのヘッドストックが採用されています。ブランドロゴにはマザーオブ・パールが使われており、只者ではない高級感を帯びています。「ネックからヘッドの先までまっすぐ」というヘッド角のない設計ですが、ストリングガイドがありませんね。なぜでしょうか。そうです。


ペグの軸は段階的に低くなっている。

ペグはGOTOH社製ロック式ペグ、しかもストリング・ポスト(軸)の高さを設定できる「H.A.P-M」タイプが採用されています。ナットから遠ざかっていくにしたがって軸の高さが落ちていくので、ストリングガイドを使わなくても、ペグからナットへの弦角度がしっかり作られています。

なんとも良好なネック


目のきれいな指板とキラッキラなフレット。握り心地はシルクのよう。

一見シンプルな、メイプル1ピースネック+ハカランダ指板。おそらく日本人サイズに合わせたのであろう、スリムな印象ながら細すぎないネックグリップ。指板Rはほどほど、フレットは大きめです。弦高は低すぎず、コードをガシガシ弾いてもソロをバリバリ弾いても良好な、ちょうどいいところに収まっています。強力なPRはしない、しかしそっとフォローしてくれる、そんな優しさを感じさせるネックです。


指板エッジには滑らかな処理が。

そして、フィンガリングのスルスル具合を左右する指板エッジ。フレット・エッジも指板エッジも丸すぎずキリっとした、しかしトガってもいない、ストレスを感じさせない丁寧な仕上げです。サイドポジションには畜光素材が使われています。

トラッド+モダンなジョイント部


なめらかに加工されたヒール部。

ジョイントヒールは、ネックの曲面がそのままジョイント部につながっているかのような、セットネックを思わせる滑らかな形状です。メタル/テクニカル志向のギターで見られるがっつり削り込んだヒールと異なり、しっかりと厚みを残しています。

ヒール部はネックからの振動を受け止め、ボディへ伝える重要な働きをします。「しっかりとしたヒール」は弦楽器における伝統的な設計で、コシのある弦振動を生むのに重要な要素です。mortのヒール部は伝統的な寸法を意識しつつ演奏性を向上させた形状となっており、1弦最終フレットの1音チョーキングがラクにできるほど、ハイポジションの演奏にストレスがありません。

大変ぜいたくな、ハワイアンコア製ボディ

ハワイアン・ミュージックを演奏するオーナーさんのオーダーで、ボディ材にはハワイアンコアが指定されています。昨今のウクレレ人気、相反するハワイの販売量制限によって、ハワイアンコア材は高騰の一途をたどっているのだとか。同じ量のホンジュラス・マホガニーよりも高額だし、たとえお金があっても絶対数が少ないからなかなか手に入れられない、という話です。


mortの背面。

モダン系テレキャスター・タイプの例にもれず、背面にはコンター加工が施されています。普通のテレキャスターのゴツゴツ感も良いんですが、このようなフィット感を稼ぐ設計は、ストラトタイプに慣れた身体にはとてもなじみやすく感じます。


ボディ側面。中央に3層の薄板が。

このハワイアンコア材をトップ側/バック側に分割し、間にウォルナット+メイプル+ウォルナットという3プライの薄板を挟んでいます。

ふつうサイズのテレキャスター・タイプよりちょっと小さめ


普通サイズのテレキャスター・タイプとmortの体格を比較。ボディの幅に目立った違いがあるのがわかる。

ふつうサイズのテレキャスター・タイプと並べてみました。これに比べるとmortはちょっと小さめで、右ひじ部分に滑らかなカットが施してあるのも確認できます。ストラトタイプではボディをサイズダウンしたものに「スーパーストラト」という通称がついていますが、これに対して小さめテレは「ディンキーテレ」と呼ばれることがあるらしいです。抱えやすく、構えていてもストレスがありません。

板状のパーツは、全部埋め込み


プレート状のパーツは、すべてボディ面まで落とし込み。

これはオーナーさんからの特別なオーダーだったそうですが、ピックガード、ブリッジプレート、コントロールプレート、ジョイントプレート、ジャックプレートが、ボディ表面の高さまで落とし込まれています。ピックガードではネジもしっかり落とし込まれており、いろいろなパーツが搭載されていながらも、ボディ表面は平滑な「面」を形成しています。

モダンとトラッドを融合させたブリッジ


モダン+トラッドなブリッジ&サドル。

両側に壁のない、肉厚なブリッジプレート(モダン)+ブラス製3連サドル(トラッド)というブリッジ。モダン志向であっても、テレキャスターでは3連サドルが依然として人気です。「3連サドルはオクターブ調整に限界がある」というのが一般的な考え方ですが、本機搭載の「弦を受け止めるミゾの切り方に、ひと工夫された3連サドル」は、この課題を見事にクリアしています。調整はかなりシビアに追い込んでいるらしく、ピッチに関する心配は全くありません。それどころか「どのポジションでも、オクターブ奏法がウネらずキレイに響く」という珍しい体験ができました。

シンプルかつ独特な操作系


操作系はシンプル。コントロール・ノブがオシャレ。

コントロールプレート上には、

  • 3WAYセレクタースイッチ
  • ボリュームポット
  • フロントピックアップをタップするミニスイッチ
  • トーンポット

という順番で操作系が配置されています。3WAYセレクタースイッチは一般的な設定で、フロント/ミックス/リアの切り替えです。ボリュームポットは、こだわりのテレキャスターならコレしかないだろう、という1M(通は「メガ」と呼ばない。「メグ」と呼ぶ)Ωの可変抵抗器が使用され、「スリムテーパー+ハイパスフィルター」という回路が組み込まれており、ボリュームノブを絞ったときの「音の小さくなり方」がスムーズで、音もスッキリとキレイに響きます。

では肝心のサウンドは?

サウンドは輪郭のハッキリとしたモダンなもので、

  • キューっと引き締まった、しかし欲しい存在感は十分にある低域
  • 前にポーンと飛んでくる中域
  • 痛くない、しかししっかりキャリっと来る高域

という質感の美しさがあり、ネックのアルミフレームに由来するであろう、金属の影響を感じさせる独特の温かさがあります。「金属」といってもシンバルやグロッケンのような鋭い感じではなく、金管楽器やビブラフォンのような、丸くて温かい印象です。さらにこれに予想を軽く上回る豊かなサスティンがあり、新しさを感じさせます。

オリジナルパーツ「金属製弦ブッシュ」


サスティンに寄与する「金属製弦ブッシュ」。

このギターは、とにかくサスティンが良く伸びます。サスティンで言えば、厚さ17mmの「弦ブッシュ」もこれに寄与しています。この分厚い金属の塊がボディ背面から弦を受け止め、振動をボディに伝達するわけです。

つぶしの効く高級ピックアップ


ベアナックル製ピックアップは、ヴィンテージ志向のものを指定。

Kino FACTORYでは、ベアナックル社製ピックアップが標準装備されます。本機のフロントハムバッカーは、ギブソンES-335を思わせる「ファットかつ芯のある、リッチでツヤッツヤなサウンド」で、クリーンでも歪ませても太く、また伸びのある、存在感十分のトーンが得られます。リアシングルは「テレキャスターど真ん中のトゥワンギーなサウンド」で、クリーンではチャリチャリと小気味よい、歪ませるとギャンギャン言う攻撃的なサウンドになります。ピックアップマウント用のネジをわざわざマイナスネジにしているあたり、かなり粋です。

ボディ内部は、スジ状の空洞をいくつも空けた「チャンバー構造」


貼り合せる前のボディ材。
写真提供:Kino FACTORY

ハワイアン・コア材のボディの内部にも一工夫あり、スジ状の空洞をいくつも空けた「チャンバー構造」はKino FACTORYの特徴的な仕様です。本体が軽量化され、ほんのりエアー感のある豊かな鳴り方をします。製造段階では、トップ材/バック材の内側を切削し、間に挟む3プライに同じ形の穴を空けてから接合します。たいへん緻密な、精度の高さが要求される構造です。とはいえ今回の個体はそれでもソリッドギターと代わらない重量感があります。ハワイアンコアって、なかなか重いものなんですね。

実はサウンドにも寄与する、木製ピックガード


オリジナルデザインのピックガード。プラスチックが標準だが、本機では厚みのある3層の木製。

木製ピックガードにはなかなかの厚みがあり、しかも3層構造です。同じものをハワイアンコアでも作っているのですが、見栄えのするメイプル製のピックガードが選択されています。通常は一般的なプラスチック製のものが使われるピックガードですが、突き詰めると「ピックガードチューン」という言葉に行き着くくらい、とてもディープなパーツです。プラスチック製ピックガードはボディの振動をちょっと抑える働きをしますが、木製ピックガードはボディと一緒に振動します。一般に「木製ピックガード仕様は、サウンドの明瞭度と音抜けに若干優れる」とされています。

専用シールドが付属する!

付属の専用ケーブル。ステレオジャックをギターに挿し、モノラルジャックをアンプ側に挿す。ノイズのノの字も出したくないシビアなサウンドメイキングにかなり有効。

そもそもかなりノイズの少ないギターですが、その仕上げとして、3mの「専用シールド」が付属します。ケーブル本体は「オヤイデ」社製、プラグは「ノイトリック」社製です。

ギター側がステレオジャック、アンプ側がモノラルジャックになっており、ギターから発するノイズを、ギターサウンドと混ざらないようにうまいこと逃がす設計です。ノイズが減るとともに、ギターサウンドが更にもう一歩クリアになります。もちろん、このギターは普通のシールドも使用できます。この設計はピックアップの仕様に依存し、「アース線」のあるピックアップなら採用可能です。

エレキギター博士的、mortの大きなポイント

実際に触って感じた、Kino FACTORY「mort」の特筆すべき点をピックアップしてみました。

ネックが最大のポイント!!

Kino FACTORYのギター最大の特徴は、「アルミフレーム内蔵ネック」にあります。ギターのサウンドは全体的なバランスでできているわけですが、この「mort」では、ネックに起因する要素がそうとう大きいのではないかと感じさせられます。

特許取得構造「内部のアルミフレーム」

ネックと指板の間に格子状のアルミフレームを仕込む新しいネック構造は、特許を取得しています(設計はKino。発案と特許取得は付き合いのある別会社)。このアルミフレームは

  • ネックの剛性を飛躍的に向上させ、
  • ネック鳴りを整える

という働きをします。剛性はかなりのもので、弾いていても状態が変化する感じのしない安定感があります。チューニングも落ち着いており、ずーっと弾いていられます。またいわゆるデッドポイントが見当たらない、どこの音を出しても同じようにしっかり鳴ってくれる均一さがあります。

独特なトーンの効き方

トーンの効き方がなかなか独特で、フロントでは高域を徐々に削って甘いサウンドを作るという聞きなれた効き方ですが、リアでは中域が強調され、半分くらいまで絞るとワウペダルを途中で止めたような「半開き」サウンド、絞り切るあたりで70年代に大流行したいわゆる「ウーマントーン」が得られます。どんな特別な回路が組み込まれているのかというと、実は「ふつうのトーン回路」なのだとか。

「音を逃がさない」という考え方

この独特なトーンの効き方も、「アルミフレーム内蔵ネック構造」の影響です。ふつうのネックは「ネック鳴り」という言葉があるように、弦の振動を受けて共振します。このネック鳴りは、ヴィンテージまたはヴィンテージ・スタイルのギターでは必要な、特に注目される鳴り方です。しかしモダン系のギターでは敢えてそこから脱却し、いろいろな設計でネックの強度を上げてネック鳴りを抑え、よりストレートなボディへの振動伝達を目指します。「ネックに伝えられる音のエネルギーが一部、ネックを鳴らすことに消費される」、すなわち「鳴りでネックが動くと、逃げる音がある。そこを逃したくない」という考えがあるからです。

アルミフレームを内蔵したネックはネック鳴りが整理され(それでもネックの振動は感じます)、ネック鳴りで失われるはずだった音が逃げず、ボディへと伝達されます。その「逃げなかった音」が本機の音色に寄与し、特にトーンポットを操作したときに面白い効き方として現れるのです。


以上、Kino FACTORY製「mort」カスタムモデルのレビューをお届けしました。同社は日ごろギター関連のOEM製造を請け負っており、その通常業務の合間を縫って自社製品の製造を行っているそうです。そのためまだまだ生産台数は多くはありません。今のところなかなか実機に触れる機会のないギターですが、サウンドメッセのような展示会ではしっかりチェックすることができます。

日本のものづくりを支え続けて積み上げた経験や技術を後ろ盾に、また数々の独自構造による新しい鳴りを武器に、プレイヤーにそっと寄り添う優しさを感じさせるギター「Kino FACTORY」、ぜひ触れてみてください。

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