ギブソン・ファイヤーバード(Gibson Firebird)

[記事公開日]2025/4/15 [最終更新日]2025/4/30
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ギブソン・ファイヤーバード

今でこそ人気のあるギブソン・フライングVギブソン・エクスプローラーですが、発売当初は人気が出ず、廃盤の憂き目を喫します。いっぽうフェンダー社は好調で、ギブソン社は焦りを感じていました。そこでギブソンはフェンダーに対抗するニューモデルの開発に着手、1963年に発表されたのがFirebird(ファイヤーバード)です。

優美な流線型のボディラインはカーデザイナーであるレイ・デートリッヒ氏が設計、高域特性に優れたトーンを持つミニ・ハムバッキング・ピックアップ、そしてスルー・ネック・ボディ構造を特徴とする、従来のギブソンとは全く異なる、しかしギブソンらしさを感じさせるギターに仕上っています。

小林健悟

ライター
ギター教室「The Guitar Road」 主宰
小林 健悟

名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。

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webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。

ファイヤーバードの特徴

1963年に発表されたファイヤーバードは1965年の過渡期を経て同年後半にモデルチェンジを果たしたものの、1969年にいったん生産終了となります。デビュー当時のファイヤーバードは上下を反転させたかのようなボディシェイプとリバースヘッドというスタイルで「リバースモデル」と呼ばれます。1965年に姿を変えたファイヤーバードはこのリバースモデルからボディもヘッドも反転した「ノン・リバースモデル」と呼ばれます。おのおのがどのようなギターだったのかを見ていきましょう。

1963-1965(Reverse Model)

1963 Reverse Model
Gibson Custom Shop「1963 Firebird V」

ルックスのインパクトが強いファイヤーバードですが、設計面でもギブソンの他モデルと一線を画していました。片側6連のリバースヘッドには軽量なバンジョー用のペグが取り付けられ、見た目にスマートな印象です。このヘッド形状はブリッジからペグまで弦が一直線に伸びるため、ナットにかかるストレスが緩和されます。ネックはボディエンドに達するスルーネック。薄型のボディは中央を1段高くした、段差のある形状。新設計のミニハムバッカー。以上のすべてが従来のギブソンにはない特徴であり、ファイヤーバードというギターがどれだけ突き抜けた個性を持っているかが伺えます。

この時代のファイヤーバードは仕様別に4モデルで展開、番号で区別しました。ミニハムバッカー3基の「VII」もセレクタースイッチは3点式で、フロント単体/センター+リアのミックス/リア単体、というサウンドバリエーションです。

モデル名 ピックアップ数 ブリッジ 指板インレイ ネックバインディング
Firebird I ミニハム×1 Wraparound ドット 無し
Firebird III ミニハム×2 Gibson Vibrola ドット 有り
Firebird V ミニハム×2 Maestro Vibrola 台形 有り
Firebird VII ミニハム×3 Maestro Vibrola ブロック 有り

表:ファイヤーバード・リバースモデルの仕様比較

1965-1969(Non-Reverse Model)

1965 Non-Reverse Model
Gibson Custom Shop「1965 Non-Reverse Firebird V w Vibrola」
1969年にモデルチェンジしたファイヤーバードは、ボディもヘッドも旧モデルを反転させたノン・リバースモデルです。このほか標準的なギター用ペグ、セットネックジョイント、大きなピックガード、全グレードにドットインレイ、ネックバインディング非採用という仕様で生産コストの抑制を狙いました。旧モデルと同じナンバリングで4モデルを展開しましたが、2モデルでP-90を登用しているところが特徴的です。

モデル名 ピックアップ数 ブリッジ 指板インレイ ネックバインディング
Firebird I P-90×2 Gibson Vibrola ドット 無し
Firebird III P-90×3 Gibson Vibrola ドット 無し
Firebird V ミニハム×2 Deluxe Vibrola ドット 無し
Firebird VII ミニハム×3 Deluxe Vibrola ドット 無し

表:ファイヤーバード・ノン・リバースモデルの仕様比較

独特のミニハムバッカー

ミニハムバッカー

ファイヤーバードのミニハムバッカーは、コイルの中央に棒状の磁石を横たえてポールピースとしても機能させる、いわばフェンダーと同じコンセプトの設計です。これまでギブソンのピックアップはコイル底面に磁石を配置し、ネジ状の金属製ポールピースを立てるという構造でした。この磁石の配置の違いにより、ピックアップから展開する磁界の広がり方が変わります。ファイヤーバードのミニハムバッカーは狭く集中した磁界を展開、この後に開発されるレスポール・デラックスのミニハムバッカーよりもトレブルの立つ、ブライトな音色を持ち味としています。発表当時はセラミック磁石が使われていましたが、現代版のファイヤーバードではアルニコV磁石が使用されます。

ファイヤーバードのラインナップ

Firebird Platypus

Firebird Platypus
左から、Ebony、Tobacco Sunburst、Vintage Cherry。

レギュラーモデルとしてはしばらく沈黙していたファイヤーバードが2025年、遂に復活しました。1965年、リバースからノン・リバースへ移行する過渡期のファイヤーバードを再現した、「Firebird Platypus(プラタパス)」です。

1965年当時のギブソンがプラタパス(カモノハシ)の呼称を使ったわけではなく、エレキギター愛好家必読の書と評価された「American Guitars: An Illustrated History(​Tom Wheeler著。1992年)」で使われた表現だと言われています。カモノハシは哺乳類ですが、カモのような嘴(くちばし)を持ち卵で生まれる、鳥類の特徴も兼ね備えています。哺乳類と鳥類の特徴を併せ持つカモノハシの名前をリバースとノン・リバースの仕様を併せ持つファイヤーバードに使うあたり、このワードセンスは飛びぬけて秀逸だと言えるでしょう。ヘッド形状もどことなくカモノハシの頭部っぽさを感じさせます。

リバースのボディとノン・リバースのヘッドという本体の設計が最大の特徴で、軽量な小型ペグ、軽やかな鳴りを生むアルミ製TOMブリッジ&テールピース、アルニコ5磁石を使用するミニハムバッカー、という仕様。ノン・リバースはネックバインディング非採用ですが、過渡期のモデルではこのようにネックバインディングが施されていました。

旧モデル

現代のファイアーバードは、ギア比が1:1で正確なチューニングが困難だった従来のバンジョーペグから、スタインバーガー製のギア比40:1を誇る超高精度のギアレス・チューナーに変更されています。このギアレスチューナーにより、基本的なルックスを大きく変更する事無くシビアなチューニングができるようになりました。またこれによりヘッドの重量が軽くなり、ヘッド落ちが大きく改善されています。

項目 Firebird V 2015 Firebird V 2016 HP 変更点
価格 $2,099 $1,449 とてもお安くなりました
ボディ マホガニーの両翼。ボディ重量は 2.82ポンド(1.279Kg) マホガニーの両翼。ボディ重量は 2.69ポンド(1.220Kg) わずかに軽量化
ネック マホガニー&ウォルナット9層スルーネック。スリムテーパー・プロフィール マホガニー&ウォルナット9層スルーネック。ファイアーバード・プロフィール グリップ名は異なるが、ネック本体の厚みは同じでスリムな握り心地
ナット ブラス製ゼロフレット・ナット。ナット幅約45.9mm チタン製ゼロフレット・ナット。ナット幅約44.3mm 2015年に幅を広くしたが、2016年には元に戻った
ペグ スタインバーガー・ギアレスチューナー 自動チューニングシステム「G Force」 ギアレスチューナーはTモデルに採用
ジャック 2接点の高性能ジャック 金メッキを施してさらに高性能になったジャック 金メッキが使用され、伝導率が向上
ノブ Black top hat w/Silver Supreme grip speed knobs HPモデルのノブは新型に統一
ケース ハードシェルケース HPギグバッグ

表:2015年モデルと2016年モデルの比較

搭載されるパーツがアップグレードされているのがわかりますね。付属するケースがギグバッグとなりましたが、価格が大幅に落とされ、求めやすくなっています。

リードプレイに特化した幅広いネックは、かつてのギブソンらしい「スリムテーパー」ネックに戻されています。これまでファイアーバードVに対して「ヘッドからはみ出さないペグ」にこだわってきたギブソンですが、このたび自動チューニングシステムを搭載することで、ついにヘッドからペグのキー(つまみ)がはみ出ることになりました。このルックスはエピフォンなどからリリースされるファイアーバードではもうおなじみですが、とうとう本家ギブソンがこうなった、というのは歴史上の大きな転換と言えるでしょう。

このほか

  • カラーバリエーションはヴィンテージサンバーストの一色のみで、ハイグロス(つやつや)ラッカー仕上げ
  • セラミックマグネットを使用した、495R/495Tミニハムバッカーを搭載
  • 振動伝達に優れるザマック(亜鉛合金)製のブリッジ&テールピース、チタン製のサドル
  • 真珠貝を使用した指板インレイ

このような仕様がそのまま受け継がれています。

HPとTの違い

HPモデルは、Tモデルより350ドル高い上位機種という扱いです。場合楽器本体のグレードには違いがありませんが、搭載されるパーツや機能、付属するケースなどにグレードの差が設けられています。では、その相違点を見比べてみましょう。

モデル名 Firebird V 2016 HP Firebird V 2016 T
指板インレイ 真珠貝 アクリル
ナット チタン製「ゼロフレット・ナット」
ナット幅1.745インチ(44.3㎜)
テクトイド(摩擦係数を軽減したグラファイト)製ナット
ナット幅1.695インチ(43.0mm)
ペグ つまみがザマックになった、次世代型自動チューニングシステム「G Force™」 グローヴァー製クルーソンタイプ。伝統的な「グリーンキー(緑色のつまみ)」
電気回路 金メッキにより伝道効率を向上させた、高性能特殊ジャック 接点を増やして伝導率を向上させた高性能ジャック
コントロールノブ Supreme grip speed knobs Black Tophat Silver Inserts
ブリッジ ザマックTOM&チタンサドル ザマックTOM
ケース 大きなポケットを持つ「HPギグバッグ」 通常のギグバッグ

表:HPモデルとTモデルの違い
自動チューニングシステム「G Force」、ゼロフレットナットといった機能面だけでなく、インレイの素材やコントロールノブの種類にまで、グレードの違いが反映されています。HPはG Forceの搭載によりヘッド周りの外観が大きく変わりましたが、ヘッドからはみ出さないペグのスタイルはTモデルに継承されています。

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