アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」登場人物の使用機材

[記事公開日]2023/4/21 [最終更新日]2023/4/22
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ぼっち・ざ・ろっく!

アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」は大ヒットとなり、本作に触発されてギターを手にする人が多く現れ、またバンド経験者からは演奏する人物のリアルさが大いに称賛されました。またリアルに描写された機材が話題になりいろいろなものが売り切れるほか、「STARRY」のモデルとなったライブハウスがファンの間で聖地に認定されるなど、さまざまな社会現象が起こっています。そんなわけで今回はアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」より、主人公らの使用したギター/ベース系の機材をチェックしてみましょう。


TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」オープニング映像/「青春コンプレックス」
並いる有名アーティストが楽曲提供したという劇中曲も多くのファンを獲得した。詞/曲/アレンジ共にクオリティは高く、プレッシャーによるぎこちない演奏(第5話)のために敢えてヘタクソな演奏をレコーディングしたこともあり、音楽に対する気合いの入り方は尋常ではない。

ぼっち(後藤ひとり):Gibson「Les Paul Custom」→YAMAHA「PACIFICA 611VFM」


【LIVE映像】結束バンド「星座になれたら」LIVE at 秀華祭/ 「ぼっち・ざ・ろっく!」劇中曲
廣井きくり氏の持参したワンカップの瓶による、起死回生のボトルネック奏法。この回の放映後、「ボトルネック奏法」が検索キーワード上位に躍り出た。後藤氏はいろいろな事態をなんだかんだ自力で突破してきたが、多くの場面に廣井氏のアシストがあった。

主人公の後藤氏は、コミュ障の陰キャでも輝けるという期待感から、中学の3年間1日6時間の練習を欠かさず続け、近年の流行曲のほとんどを演奏できる演奏技術を持つに至っています。彼女のメインギターは父親から借りているギブソン「レスポール・カスタム」で、12話で代替機として特別仕様のYAMAHA「パシフィカ611VFM」を手に入れています。なお作中で使っている赤いピックはGHS社製と言われていますが、12話では青いピックに持ち替えています。

Gibson「Les Paul Custom」

ギブソン・レスポール・カスタム 1968 Les Paul Custom Reissue

後藤氏のレスポール・カスタムは、父親が学生時代に愛用していたものです。大事に使いながらもクラックが入るなど歴戦を物語る育ち方をしており、ヘッドのインレイやバインディングが黄色く変色しています。またキーストーン型のペグボタン、金属板がはめ込まれたハットノブという特徴から、現ラインナップでは1968年式がもっとも近いと言えるでしょう。ただし後藤氏のカスタムはセレクタースイッチのノブも黄色で、かつスイッチワッシャーも黄色に交換されています。黄色いスイッチワッシャーは市販されたことがないため、これは自作パーツかもしれません。

ギブソン・レスポール・カスタム徹底分析!

Epiphone「Les Paul Custom」

エピフォン・レスポール・カスタム Epiphone「Les Paul Custom Ebony」

後藤氏のレスポール・カスタムが注目されると同時に、現実的な価格で入手できることから大いに注目を集めたのがエピフォン版のレスポール・カスタムです。余りの人気ぶりから、黒のカスタムが国内欠品するという社会現象まで起こりました。

エピフォン・レスポール徹底分析!

YAMAHA「PACIFICA  611VFM」

YAMAHA PACIFICA
YAMAHA「PACIFICA 611VFM」
12話で後藤氏が注目したパシフィカの上手側に展示されていたのが、このトランスルーセント・ブラック。

12話で後藤氏が一目ぼれしたギターは、YAMAHA「PACIFICA 611VFM」です。作中では楽器店のショップオーダーという設定で、フロントピックアップのカバーとピックガードがブラックに、また本体のカラーリングも強めのブラックに変更されています。レスポール・カスタムと同様にこのギターも大いに注目され、やはり一時国内欠品しました。

YAMAHAパシフィカのフラッグシップ「PACIFICA600」シリーズ特集
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8話の「青いエフェクター」は本当にBD-2なのか?

BOSS BD-2
後藤氏ご愛用と言われるBOSS「BD-2(Blues Driver)」。フットスイッチの形状が作中の青いエフェクターとは異なるようだが・・・?

後藤氏のエフェクターとして最も注目されているのが、8話でバンドの雰囲気を変えるきっかけを作った青いエフェクターです。原作を根拠にコレはBOSS BD-2(Blues Driver)」であるという見方が一般的ですが、果たして本当でしょうか。何より作中の青いエフェクターには機械式のフットスイッチが備わっており、電子スイッチのBOSSとはまるで見た目が違います。

しかし電子スイッチでは、踏み込んだ時に「カチっ」というイイ音がしません。青いエフェクターの起動は、バンドの流れを一気に変えさせる決定的な瞬間でした。この場面を最大限に演出させるためには機械式スイッチの音が必要だと考えたアニメ制作陣が、敢えて機械式スイッチ仕様のBD-2を誕生させたのかもしれません。


【LIVE映像】結束バンド「あのバンド」LIVE at STARRY / 「ぼっち・ざ・ろっく!」劇中曲
この「カチっ」に胸を撃たれる。大変効果的な演出。

後藤ひとりのペダルボード

BOSS MS-3
BOSS「MS-3」
3系統までのループを一括管理できるが、単体でも十分なバリエーションのエフェクターを収録している。

12話で登場する後藤氏のペダルボードは、Proco「RAT2(ディストーション)」、機械式スイッチ仕様のBOSS「BD-2(オーバードライブ)」、Jim Dunlop「Cry Baby(ワウぺダル)」をBOSS「MS-3(マルチエフェクター&スイッチャー)」のループに接続、すべてをCUSTOM AUDIO JAPAN 「AC/DC Station」で給電するという、シンプルながら機能的なシステムです。

BOSS「MS-3」は3系統までのエフェクターのON/OFFを一括管理できるほか、内蔵エフェクターも充実しておりディレイやコーラスなどさまざまな効果を追加できます。

BOSS MS-3
Proco RAT2
BOSS BD-2 Blues Driver
JIM DUNLOP CRYBABY GCB-95
Custom Audio Japan AC/DC STATION – Supernice!エフェクター

喜多郁代:Gibson「Les Paul Junior DC(Pelham Blue)」


【LIVE映像】結束バンド「ギターと孤独と蒼い惑星」LIVE at STARRY / 「ぼっち・ざ・ろっく!」劇中曲
ライブハウスのオーディションでは、まだギコい演奏だった。最終話で立派に演奏する喜多氏の姿には、多くのファンが涙したに違いない。

ギターと間違えて6弦ベースを買ってしまうくらいギターの事を知らなかった喜多氏ですが、物語の進行と共に腕前を上げていきます。5話ではぎこちなかった右腕の動きに、8話では手首の柔軟性が増し、12話ではしっかり脱力した柔軟なストロークを見せています。またストラップの長さに試行錯誤したようで、5話では教科書通りの標準的な高さ、8話ではやや低め、12話ではやや高めに構えています。

Gibson「Les Paul Junior Double Cut」

ギブソン・レスポール・ジュニア 1958 Les Paul Junior Double Cut Reissue
現行でDC仕様のジュニアはカスタムショップのみで、エピフォンからもリリースされていない。しかし両ブランド共に、ペルハム・ブルーではないにせよレギュラーモデルとしてリリースされていた時代もあった。

ギターボーカルを担当する喜多氏のギターは、メンバーから借りているペルハム・ブルーのレスポール・ジュニアです。このギターについては作中でブランドロゴにピントが合うことが1度としてなく、またヘッド形状がデフォルメされているため、安易にギブソン製とは断定できません。しかし11話の後半でヘッドの「Paul」の文字が明瞭に判別できる場面があり、ギブソンかエピフォンのどちらかだと絞り込むことができます。

ギブソン製ペルハム・ブルーのレスポール・ジュニアDCは、ヴィンテージ市場で100万円近いレアギターです。いくら金持ち設定の山田氏の持ち物にしても自分で購入したとは考えにくく、本物だとすれば山田氏が個人的に譲り受けた大切なものかもしれません。

喜多郁代の使用エフェクター

Proco「RAT2」

8話まではProco「RAT2」を単体で使用していた喜多氏ですが、12話ではシンプルなエフェクターボードを持参しています。作画でデフォルメされている可能性もありますが、その内容はtc eletronic「POLYTUNE(ペダルチューナー)」、Proco「RAT2(ディストーション)」、機械式スイッチ仕様のBOSS「BD-2(オーバードライブ)」を直列でつなぎ、それぞれを電池駆動させているようです。

リードギターと同じドライブペダルを使用するのは、2台のギターのサウンドを近づけてまとまりのあるアンサンブルを構築する狙いがあると考えられます。また喜多氏はギターを始めたばかりだったので、後藤氏と同じエフェクターを使うことによって使用法の指南を受けたのかもしれません。

なお、12話の演奏ではリズムギターにコーラスやワウがかかっていますが、喜多氏のボードにこれを実現させる機材はなく、我々の耳にそう聞こえるだけです。

山田リョウ:Fender「Precision Bass」


【Lyric Video】結束バンド「忘れてやらない」/ TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」第12話劇中曲
ドラムに貼り付くような堅実さを維持しながら、野蛮なリックを果敢にぶっ込んでいくのが山田氏のプレイスタイル。物静かな変人という普段の姿とは対照的だが、人格とプレイ内容が相反するのはベーシストあるある。

ベースと作曲を担当する山田氏の楽器についてはヘッドの文字が一切作画されず、ブランドを読み取ることができません。しかしトラスロッドがヘッド側に開口しているのは判別できるため、トラッドな外観を残しながらも現代的なアレンジが施されたモデルだということが読み取れます。またペグはオープンタイプで、ネックにはスカンクストライプが見られます。

いっぽう運搬に使用するギグバッグの形状から、少なくともフェンダー製のギグバッグを使っていることが分かります。このギグバッグは楽器に付属するものではなく、わざわざフェンダーのギグバッグを買ってまで運ぶベースは、やはりフェンダー製ではないかと推測できます。


FENDER「FB620 ELECTRIC BASS GIG BAG」
先端部の形状が斜めになっているのが特徴。

Fender「Player Precision Bass」

フェンダー・プレシジョン・ベース
Fender「Player Precision Bass(Polar White)」
この画像の指板は白っぽい印象だが、木材の色調にも個体差がある。

現行のラインナップで作中のベースに最も近いと思われるのが、Fender「Player Precision Bass」です。正統派のスタイルに現代的なアップデートを加えた普及価格帯のモデルで、専用ピックアップは王道のフェンダートーンにエッジを加えたサウンドを持っています。

金遣いの荒い金持ちという設定の山田氏ならばもっと高額なモデルを使っているかもしれませんが、作中で確認できる仕様を満たすプレベは今のところこれしかありません。ほかのベースも持ってはいるが、結束バンドの音にはこのベースがベストだと判断したのかもしれませんね。

フェンダー・プレシジョンベースの選び方/各年代毎の特徴 – ベース博士

ベースアンプの意図的な作画

Ampeg「SVT-CL」

作中に登場するベースアンプはAmpeg社製の300Wオールチューブ・ベースアンプ「SVT-CL」で、1話から登場しています。このアンプは上手側に「POWER」と「STANDBY」という2基のスイッチが並んでいるのですが、作中のアンプにはそのスイッチが1基しかありません。これは作画ミスではなく、「機材のリアリティは重視しているけど、必ずしも完璧を目指しているのではないからそこんとこは勘弁してね」という製作側のメッセージだと読み取ることができます。

事実、作中では機械式スイッチ仕様のBD-2やレスポール・ジュニアDCの不思議なヘッド形状など、架空の機材がいろいろと見られます。演出やその他の事情により、場合によってはリアリティの追及を放棄するということが、1話からすでにほのめかされていた訳です。


以上、アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」より、主人公らの使用したギター/ベース系の機材をチェックしていきました。お話の面白さや楽曲の良さのほか、少なくともメンバーに対しては目を見て会話できるようになる後藤氏と、短期的にみるみる上達していく喜多氏の成長も楽しめます。はまじあき氏による原作もまだ続いており、今後の展開が楽しみです。ぜひ実際に、主人公たちが愛用した機材の感触を確かめてみてください。

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