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「ワイヤレスシステム」は今や身近な存在となり、メーカー各社がしのぎを削る群雄割拠の情勢です。そんな中、デジタルワイヤレスをリードするLine 6の「Relay(リレー)G10S」をチェックしました。どんな特徴があるのか、ファミリーモデル「Relay G10」とはどう違うのか。気になっているという人も多いであろうLine 6のニューモデルに、今回は迫っていきましょう。
ギター博士が自らのボードに「Relay G10S」を組み込み、スタジオや野外で実際に使ってみました。ワイヤレスシステムとは何か、どれほど便利なものか、G10Sはどうやって使い、どれほどの性能があるのか、シールドを使った時の音と違いはあるのか、「ケーブルトーン」とは何かなど、基本的なことがよくわかる内容となっています。ここから先の記事ではこの「Relay G10S」について、もう一歩踏み込んだ紹介をしています。
Line 6といえば、
といった製品を核とする、「ギター用デジタルモデリング機器のメーカー」というイメージが浸透しています。特に1998年に発表された「POD」は、世界中のレコーディング環境に革命を起こしました。
日本国内での取り扱いは最近の話ですが、Line 6のワイヤレス参入は古く、デジタル・ワイヤレス部門の前身であるXWire社を含めると20年以上の歴史を持っており、2009年リリースの2.4GHz帯を利用したこのRelayシリーズも最初から、プロでなくても手に入れられる比較的低価格な「コンパクトなワイヤレスシステム」に注目していました。Line 6こそは、ギター用ワイヤレスシステム普及の功労者なのです。この10年の間に、Line 6は気軽に使用できるコンパクトなものから大規模なライブステージを支える完全プロ志向のものまで、ワイヤレスシステムのラインナップを充実させています。
ギター用ワイヤレスシステムは「Relay(リレー)」の名でシリーズ化されており、最もコンパクトな「Relay G10」から完全プロ仕様の「Relay G90」まで、8モデルがリリースされています。我らが「Relay G10S」はG10と同じトランスミッター(送信機)を使う、手軽に使える自宅~ライブ向けのモデルです。
Relay G10とG10Sではどこに違いがあるのでしょうか。仕様から相違点を探してみましょう。
G10(左)とG10S(右)の受信機(レシーバー)。この時点ですでに、G10Sは機能が増えているのが分かります。
Relay G10 | Relay G10S | 備考 | |
使用する送信機(トランスミッター) | Relay G10T | Relay G10T | 受信機に装着すると充電開始。フル充電で約8時間使用できる。 |
伝送範囲 | 見通し15m | 見通し40m | 使用場所の状況により変動。 |
レイテンシー | 2.9ms未満 | 同左 | G10Tから送信するまでにかかる時間。1万分の29秒未満なので、ほんの一瞬。 |
複数楽器の切替対応 | × | オート/マニュアルでチャンネル切替え | バンド内でチャンネルを棲み分けできる。 |
受信機(レシーバー)の電源 | マイクロUSBの1系統 | マイクロUSB、エフェクター用9Vの2系統 | |
コントロール類 | × | チャンネル(1-11)選択、オートでチャンネルスキャン及び選択、ケーブルトーン | 「ケーブルトーン」は、シールド利用時の電気抵抗による音質劣化を再現したもの。 |
ダイナミックレンジ | 110dB | 112dB | 値が大きいほうが、強弱がきれいに出る。 |
表:G10SとG10の仕様比較
まず、両機の送信機(トランスミッター)は共通です。単体でも手に入れられるトランスミッターG10Tのレイテンシー「2.9ms未満」は、上位機種G30、G50、G55並びに最上位モデル「Relay G90」と共通なので、本番用のG90と家庭/リハ用のG10S、のように使い分けても、レイテンシー的には同じ感覚で演奏することができます(このレイテンシーが気になるということはまずないと思いますが、より小さなレイテンシー「1.5ms未満」という性能を達成している「G70」や「G75」もあります。)。
G10(写真左)とG10S(写真右)。接続端子類に違いが確認できますが、何より本体の高さに大きな違いが。
G10SとG10では、受信機(レシーバー)に違いがあります。G10Sはレシーバーの機能が増え、性能が向上しているのがわかりますね。より遠くまで行くことができ、バンドでも使いやすく、音質が向上した、というわけです。ではいよいよ、このG10Sの特徴を具体的にチェックしていきましょう。
G10T(送信機)とG10S(受信機)
「Relay G10」は主に自宅練習を想定したシンプルなモデルでしたが、新たに発表された「Relay G10S」は、エフェクターボードに組み込みやすく、自宅練習のみならずリハーサルやライブに持ち出してしっかり使える、というところを目指したワイヤレスシステムです。では、その特徴をひとつずつチェックしていきましょう。
G10Sのレシーバーは、第一にエフェクターボードに組み込みやすく設計されています。占有面積はG10と大差ないですが、G10Sは
させます。これによりトランスミッターを装着している状態でも全体の高さが抑えられ、エフェクターボードのフタを問題なく閉じられる、というわけです。
G10Sには、ボードに組み込みやすい工夫がまだあります。トランスミッターはレシーバーにドッキングした状態で「電源ON」になりますが、そのまま位置をずらすことで、電源を切った状態で待機させることができます。万が一電源を切り忘れていても、一定時間で「スリープモード」に切り替わり、電池の消耗を和らげることができます。
また、トランスミッターの不意の脱落や紛失を防ぐため、G10S本体にラッチ(留め具)がついています。ラッチを押し込むと、トランスミッターを簡単に取り外すことができるという仕組みです。エフェクターで使用する9ボルト電源を利用できるのもポイントです。
G10Sは信号をキャッチする性能が高く、遮るものがなければ、レシーバーから40m離れても演奏できます。半径40mは演奏しながら移動できるというのですが、この「半径40m」という数値がどれほどのものか、いろいろなものと比較してみましょう。
こうした数値をみていくと、伝達距離の「半径40m」という性能は、実際の使用を考えるとなかなか頼もしい、ということが分かりますね。
これはバンド内で何人もワイヤレスを使用する際に、大変有用な機能です。ギターは1、もう一人のギターは2、ベースは3、というようにパートごとにチャンネルを割り当てておけば、互いの信号が混線する危険を大きく回避できるわけです。
電源アダプターを繋ぎ、トランスミッターG10Tをギターに繋ぐと、電波状況と電池残量がインジケーターに表示される。どちらも3本がグリーンに点灯し「電波状況もよく電池残量も十分にある」状態。最長8時間は安心して使える。
G10Sの向かって左側にある二つの出っ張りがアンテナで、位置を高く持ってきていることでボード内のエフェクターにアンテナが埋もれてしまう懸念を回避しています。レシーバーには3つの「受信LED」と、同じく3つの「バッテリーLED」が備わり、通信の状態とトランスミッターの電池残量を常に確認することができます。「受信LED」は最も良好な状態で緑が3本点灯します。これが赤に変わっても2本までは通信可能で、3本になったら通信できない状態です。「バッテリーLED」は「時間的に、あとどれくらい電池がもつか」を表示します。緑が3本点灯した状態で、最長8時間使えます。赤の点滅が1本になったら、30分以内に電池切れが起こります。
「Relay G10S」はギターからの信号を電波で受ける装置なので、エフェクターボードに組み込む場合には、必ず「最前段」に設置することになります。エフェクターボードのパワーサプライが利用できるため、スッキリと格納できます。
G10Sにはキャノン出力がついており、ダイレクトボックス(DI)としてライブ会場のPAやミキサー、レコーダーに直接信号を送ることができます。だからといってキャノン端子を使用してG10Sをダイレクトボックスとして使おうと思ったら、エフェクターは使えなくなってしまいます。このキャノン端子は、エフェクターを使わずPAにそのまま接続する、エレアコやベースでの使用を想定しています。
トランスミッターG10Tは充電式で、G10Sとドッキングさせると充電開始です。新品フル充電で8時間使用できるので、自宅で満タンにしておけばリハーサルから本番まで充電せずにやりきることができます。だからといって「それでも心配だ」という人も、スマホと同じで「いつもフル充電じゃないと気が済まない」という人もいるでしょう。ライブの出演待ちの間に、楽屋でエフェクターボードを開けてどこかの電源につないで送信機を充電、というのも、いつでもできるとは限りません。「自宅でボードを開けて充電するのは面倒だ」と思う人もいるでしょう。いざという時のために、G10S以外の充電法を持っておくのがベストだと言えます。
トランスミッターG10T専用の、充電用USBケーブルです。PCに挿したりスマホの充電器を利用したりすることで、G10Tの充電に対するハードルがぐっと下がります。
「ワイヤレスは音が悪くなる」という話は、音を圧縮しなければならなかったアナログ方式時代の昔話です。G10Sは求めやすい価格帯の製品でありながら、
という音質を実現しています。しかもデジタルですから、G10Sが受信できさえすれば、40m離れていても音質の劣化がありません。シールドを使う場合、ケーブルは長くなれば長くなるほど電気抵抗が増えて、音質が劣化してしまいます。これを思うと、デジタルワイヤレスは画期的なデバイスだと言えるでしょう。
とはいえ多くの名曲や名演の音源は、シールドを通ってわずかに劣化した音で録音されています。デジタルワイヤレスの音質がいかに優れているとはいえ、「耳慣れたあの音」とは距離があるのです。この課題を解決させた機能が「ケーブルトーン」で、デジタルゆえに劣化の全くないハイファイなサウンドから高域をわずかにロールオフさせ、あたかも実際にシールドを使っているかのように聞こえさせます。
G10Sのケーブルトーンには3段階あり、
ケーブルトーンを使用すると、「40m先のアンプから、3mのケーブルを使った時の音を出す」なんていう芸当が可能です。なお、30フィートは約9mですが、日本国内では「ちょうど9mのケーブル」はなかなか手に入りません。そういう事情もあってか、G10Sの取扱説明書では、手に入れるハードルの低い「10m」のケーブルと同じだと述べられています。
以上、最新モデルのLine 6「Relay G10S」をチェックしていきました。手に入れやすい価格帯の製品ながら、エフェクターボードに組み込んで本番のステージに立てるだけの性能がある、とても頼もしいワイヤレスシステムです。自宅練習用アンプに同社の「スパイダーV」など、ワイヤレスシステムの受信機能を持ったアンプを持っていれば、エフェクターボードを広げなくても、気軽にワイヤレスで自宅練習できてしまいます。ワイヤレスシステムは、ギターライフに革命をおこします。G10Sで、ぜひその革命を体験してみてください。
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