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「鬼才(人間とは思えないほど、才能がイロイロとヤバい)」とは、フランク・ザッパ(Frank Zappa)氏のためにある言葉です。52歳で亡くなるまでにリリースされた62枚ものアルバムは様々なジャンルを横断しつつ、全てにザッパらしい強烈な個性や実験精神が反映されました。
売れ筋とは別次元の作風でチャート入りも稀でしたが、「カウンターカルチャーとアンダーグラウンド・ロックの象徴的存在」として厚く支持され、数々の芸術作品のヒントになりました。また実験精神が多くの科学者に敬愛され、新しく発見されたクラゲやクモ、細菌などのほか絶滅した生物や小惑星にまで「Zappa」の名が付けられました。
ベルリンには、「フランク・ザッパ通り」がある。
IQ172といわれるハイスペックな頭脳を持ち、空港でも作曲のためペンを走らせていたほどの作曲の鬼でありながら、作品には皮肉や風刺、時にお下劣な歌詞など、ユーモアがたっぷり込められました。このほか自転車を楽器として使用したとか、ステージで食糞に及んだとか及ばなかったとか、さまざまなぶっ飛んだ伝説があります。
Frank Zappa – Inca Roads (A Token Of His Extreme)
普通に楽曲が進行していくと思いきや、1:05〜あたりから急に語りが入ったり大胆なキメが入るなど、奇想天外な展開
フランク・ヴィンセント・ザッパ氏は1940年、メリーランド州ボルチモアで生まれました。氏の父親は化学兵器施設で働く化学者/数学者で、水銀やガスマスクが身近にある生活でした。
ドラムを始めた12歳ごろに両親が蓄音機を購入し、のちに膨大な枚数になるレコードの収集を始めます。流行りの音楽やクラシックのほか、不協和音実験で知られる作曲家エドガルト・ヴァレーゼ氏など、実験的な音楽を特に愛好します。
Edgard Varèse, Ionisation – Ensemble intercontemporain
エドガー・ヴァレーゼ(1883-1965)。新しい音楽は常にノイズと呼ばれてきたと考え、音楽とは何かを世に問い続けた作曲家。ザッパ少年はヴァレーゼ作品に夢中で、15歳の誕プレが「ヴァレーゼご本人宅へ長距離電話する許可」だったほど。音楽の可能性を拡張したヴァレーゼ氏の実験精神は、ザッパ氏に受け継がれた。
ハイスクールではドラマーとしてバンドに加入していますが、ジョニー・ギター・ワトソン氏の楽曲に振れたことでギターへの関心が高まり、17歳の時に最初のギターを手に入れます。作曲と編曲への関心も高く、在学中に前衛的なオーケストラ作品を書いています。
19歳で家を出ると、ザッパ氏は音楽の制作や演奏で生計を立てようと奮起します。モノラルかステレオでの録音が普通だった当時、仲間のスタジオにはマルチトラックレコーダーがあって多重録音ができました。音楽制作で1日12時間以上作業しながら地元のバーで演奏するような生活でしたが、アーティストのプロデュースや低予算ながら映画音楽を制作するなど、一定の収入を得ていました。
ザッパ氏のバンドは注目を集めましたが、「売れそうもない」という理由からなかなかメジャー契約は取れませんでした。しかし25歳の時、ボブ・ディラン氏やサイモン&ガーファンクルのプロデューサーとして名を馳せたトム・ウィルソン氏に「発見」され、ザッパ氏のバンドは「the Mothers of Invention」の名でデビューを飾ります。
Help, I’m A Rock
楽器の音はいかにも60年代だが、何かが決定的に他とは違う、不思議な感覚になる個性的なサウンド。
時には年に5枚というクレイジーなペースでアルバムを発表し続けたザッパ氏ですが、癌を患い52歳で帰らぬ人となります。遺族は「作曲家のフランク・ザッパが土曜日の午後6時直前、最後のツアーに出かけた」と公に発表しました。
『ZAPPA』予告編
ザッパ氏の音楽活動やその想いについては、ドキュメンタリー映画「ZAPPA(2020)」で述べられています。
ギタープレイヤーとしてのザッパ氏は超のつく一流で、サウンドは甘く美しく、リードプレイではさまざまな音階を駆使しました。非常に豊かなフレージングが持ち味で、ライブのギターソロだけを集めた2枚組「Guitar(1988)」がリリースされたほどです。
Frank Zappa – Strictly Genteel – 10/13/1978 – Capitol Theatre (Official)
ザッパをギターだけで論ずることはできない。この演目では指揮者としてバンドを統率している。
しかし、ザッパ氏の本質は作曲と編曲にあると言っていいでしょう。確かに演奏する楽器はギターでしたが、演目によっては一切弾かないこともあります。氏の音楽はさまざまなジャンルを横断し、時にとんでもないところへ冒険する音楽世界を構築しました。しかしアルバムの中で同じモチーフがいろいろなところで使われるなど、各曲の個性とアルバムのトータル面を考慮した、知的な音楽作りが見られます。
そのぶんバンドメンバーには極めて高い演奏技術が求められ、バンドのリハーサルには多大な時間を要したと伝えられます。メンバーには、スティーヴ・ヴァイ氏、エイドリアン・ブリュー氏、テリー・ボジオ氏(Ds)、ヴィニー・カリウタ氏(Ds)、またブレッカー・ブラザーズ(Tp & Sx)ら名だたる達人もいました。
ザッパ氏のギターは時代によりさまざまでしたが、著名なものをピックアップしていきましょう。
Frank Zappa – Deathless Horsie – 10/13/1978 – Capitol Theatre (Official)
アリゾナで謎の男が楽屋に持ってきたのを500ドルで買ったという、ギブソンのレプリカ。偽物とはいえなかなかよくできたギターで、永年のお気に入りとなった。
「ベイビー・スネークス」は1970年代からずっとお気に入りだったという、ザッパ氏を象徴するギターです。弦長25インチで音域が23フレットという変則的な仕様で、5フレットと12フレットにカスタムインレイが埋められています。長く使用する間にカスタムメイドのピックアップに交換されるほか、最大18デシベルのブーストができるプリアンプ、フェイズ、コイルタップといった機能が追加されています。
Frank Zappa – Montana (A Token Of His Extreme)
元ドラマーゆえか、ザッパ氏のバンドは打楽器部隊が厚い。
アルバム「Roxy & Elsewhere(1974)」で使用されたことから「ロキシー」と呼ばれたSGスペシャルは、70年代のキャリアで盛んに使用されました。降板したのは空輸時にぶっ壊れたからという説がありますが、今ではご子息のドゥイージル・ザッパ氏が使用しています。
白いヘッドストックとビグスビースタイルのビブラート・テールピースが特徴です。ピックアップは何度も交換され、コイルスプリットとフェイズのスイッチが増設されています。
Frank Zappa – Conehead – 10/13/1978 – Capitol Theatre (Official)
ギターソロではちょうど良いところにフィードバックがかかる。ザッパ氏はスピーカー配置やブースターにより、自由にフィードバックをコントロールできたと伝えられます。
焼けただれたボディが印象的なフェンダー・ストラトキャスターは、かのジミ・ヘンドリクス氏がステージで火をつけたもので、人から人へと渡っていくうちにザッパ氏の元にやってきたものだと言われています。折れたネックは交換され、EQやプリアンプ、ピエゾピックアップまで増設され、時にミラーピックガードに交換されます。
ザッパ氏は細い弦を低弦高のセッティングで演奏するのを好みました。はじめアーニーボールの08~や09~を使用していましたが、ある時からドイツOPTIMA社の24金メッキ弦に切り替えています。
ザッパ氏のシグネイチャーモデルは1弦から「08-10-13-24w-32-46」というゲージで、かなり細めの高音弦からちょっと太めにした4弦5弦、もっと太くした6弦、という個性的な組み合わせです。
Frank Zappa – Stink-Foot (A Token Of His Extreme)
マーシャルと思しきアンプヘッドが2台積まれているのが確認できます。動画後編の粘土アニメはザッパ氏の変態性をいかんなく表現しています。
ザッパ氏はワウをはじめさまざまなエフェクターを使用したと伝えられますが、アンプに関してはほぼ固定でした。Marshall「Major」、Marshall「MK II Lead 100w」、Vox「Beatle Super Reverb」という3台のアンプヘッドそれぞれに12X4のキャビネットを接続するという大規模なもので、音色ごとにアンプを切り替えて使っていました。しかし、2つや3つのアンプを同時に鳴らすようなことはなかったようです。
死後も含めると、ザッパ氏のアルバムは120枚を超えます。生前の代表作をいくつか見ていきましょう。
1966年に作られたとはにわかに信じがたい、マザー・オフ・インヴェンションのデビューアルバム。メロディアスでありながら、スタジオワークも駆使した個性的なロックミュージック。
ビートルズの「サージェント・ペパーズ」より1週間ほど前にリリースされたセカンドアルバム。ロックと現代音楽とが程よく融合され、ユーモアと皮肉のセンス、社会的な矛盾を高度な音楽で茶化しまくった作品。
ザッパ作品の中で最も親しみやすいアルバムと言われる、70年代の傑作。超絶展開のファンク曲「Inca Roads」、強力な8ビート「Can’t Afford No Shoes」、ジャズインスト「Sofa No 1」と、アルバム冒頭から立て続けにいろいろな方向に振りまわしてくれたうえ、いよいよ4曲目「Po-Jama People」でザッパ氏御大の弾きまくりソロが聴ける、という壮大な展開が楽しめます。なお、タイトルの「One Size Fits All」は、和製英語「フリーサイズ」の正しい英訳です。
いろいろなライブテイクからギターソロだけを抜き出したという、32曲2時間オーバーの2枚組。カットイン&カットエンドという荒っぽい編集で冗談半分にリリースしたと伝えられますが、ザッパ氏のギタープレイヤーとしての面をフォーカスするには、うってつけの資料となるでしょう。またいろいろな演目のおいしいところだけを集めたダイジェスト版ともいえるので、ザッパ氏の天才ぶりというか奇人変人ぶりというか、そういうところを手っ取り早くチェックできます。
Sexual Harassment In The Workplace
参考資料:Wikipedia(EN)、Guitar Lobby、Guitar.com、EMEAPP、
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