Cream Guitars:メキシコ発、鮮烈なルックスとトラッドな木材のギターブランド

[記事公開日]2025/6/28 [最終更新日]2025/6/28
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

Cream Guitars

「Cream Guitars(クリーム・ギターズ)」は、新しい表現のための新しいギターを世に送り出す、メキシコ発のブランドです。2022年発足の若いブランドですが、鮮烈なルックスと革新的な設計に歴史や伝統へのリスペクトも感じさせるギターとして、認知と注目を集めています。今回は、このCream Guitarsに注目していきましょう。

情報協力:株式会社キョーリツコーポレーション

小林健悟

ライター
ギター教室「The Guitar Road」 主宰
小林 健悟

名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。

エレキギター博士

ガイド
エレキギター博士
コンテンツ制作チーム

webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。


水中スピカ「Spica」Official Music Video

異端のCEOルイス・オルティス


Do you want to know what inspired us to create CREAM GUITARS?

Cream GuitarsのCEOを務めるルイス・オルティス(Luis Ortiz)氏は、医学博士号を持つ医師からキャリアをはじめ、いくつもの会社を成功させる実業家に転身した、異色の経歴の持ち主です。幼いころからギターは大好きで人生の中に必ずギターがあったとのことですが、同じモデルのギターから違う音が出るという体験からギターの構造や製作に関心を抱いていきました。3年がかりで完成させたプロトタイプがNAMM2023で好評だったことから、個人ビルダーとしての小規模に運営するより工場を持つ大規模なメーカーとして運営すべきと、実業家らしい判断を下しています。

興味深いことに、Cream Guitarsの海外進出は日本から始まりました。CEOルイス氏は親日家であり、日本人はギターに対する愛や情熱がどの国より強烈だと評しています。

Cream Guitars:サウンドメッセ
2025年サウンドメッセでのCream Guitarsブースの様子。本イベントで一際異彩を放っていた

ISO認証を取得。

新興ブランドでありながら「ISO認証」を取得している点も、興味深いところです。品質管理や製造プロセスにおいて、国際的な基準を満たしていることが認証されているわけです。ISO認証を取得しているギターメーカーには他にフジゲン株式会社(FUJIGEN)とMartinがあり、他ジャンルではIntel、IBM、TOYOTA、HONDAと、そうそうたる顔ぶれです。

Cream Guitarsの特徴


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Cream Guitarsのギターは、初見で「特徴しかない!」と思わせる強力な個性を放っています。しかしギター本体としても音響性能やサウンドバリエーションが考え抜かれた、音楽を演奏する新たなツールとして設計されています。

「革新的で斬新なギターを作りたければ、ユニークで異端でなければならない」という信念のもと、リスペクトしながらもエレキギターの伝統をぶっ壊す、的を得た新しい設計、鮮烈な新しいカラーリング、守備範囲の広いサウンドバリエーションがCream Guitarsの特徴なのです。

《ジョイント部の振動をブリッジに伝達》レゾナンス・プレート

レゾナンス・プレート
Voltage専用のレゾナンス・プレート。モデルごとに設計する細やかさがニクい。

「レゾナンス・プレート」は、ジョイント部とブリッジを厚さ3ミリのブラス板で接続させる、特許取得の独自機構。ブラスはシンバルや管楽器などに盛んに使われる、音響特性に優れた金属です。

CEOルイス氏はギターに聴診器を当てて振動のポイントを探った際、ジョイント部ですべての振動がぶつかっていることを突き止めました。この振動をブリッジに効率よく伝達させることで、音響性能が増幅されて振動の循環が起きます。その結果、倍音豊かでブライトな響きと、伸びやかなサスティンが得られます。

《サスティンを増強し、デッドポイントを解消》レゾナンス・ヘッドストック

ブランドロゴ
透明な中に浮かぶブランドロゴも美しい。

「レゾナンス・ヘッドストック」は、デッド・ポイントを解消させるための秘策です。アルミニウムとレジンで作られた重りでサスティンを増強して、デッドポイントの課題を改善します。ヘッド重量を上げているとはいえボディバランスもじゅうぶんに考慮されているため、ヘッド落ちは起きません。

「デッド・ポイント」はネック内で振動が対消滅してサスティンが不足しがちになるポジションのことで、2弦と3弦の13フレット以上で発生しやすいとされています。この対策としてヘッド重量の増加が有効であることは一般に知られており、そのためのアイテムも販売されています。

レジンとアルミはそんなに重いのか?

ここで、「アルミとレジンだけで、じゅうぶんな重量が稼げるのか?」という疑問に応えるべく、材料の比重を比べてみましょう。

ハードメイプルの比重は約0.70〜0.72、ウェンジの比重は0.79~0.88です。両者とも重い木材ですが、水には浮かびます。これに対し、一般的なエポキシレジンの比重は1.1~1.2、アクリルレジンの比重は1.17~1.20、アルミニウムの比重は約2.70です。アルミもレジンも水より重く、ブロックの形状では水に浮かびません。同じ体積なら、木材だけより遥かに重さが稼げるわけです。

個性的な意匠とトラッドな木材

「ファッションもロックンロールの美学の一つ」という考えから、Cream Guitarsのルックスは超個性的。その最たるものが、レジンで固めたボディ・トップです。トップに貼ったメイプルを掘り込んだ中に、ラメやミラーなどいろいろなものを並べ、レジンで固定します。ギターの美観を希少な銘木に頼らなくてもよくなり、むしろ創意工夫で芸術性を追求できます。カスタムショップ・モデルではドライフラワーや人形などさまざまなものを並べた、工芸品のようなたたずまいです。

このルックスからも判るように、Cream Guitarsはブランドとして革新的であるために異端であることを選択しています。しかしその一方で、ギター本体にはマホガニー、メイプル、ウェンジ、といったギターの材料として信頼されている木材を選んでおり、保守的なプレイヤーにも受け入れやすくなっています。木材はすべてサスティナブルな供給を見据えた森林からのみ調達する方針で、ネックに使用するウェンジはアメリカ産かメキシコ産です。

Cream Guitarsのラインナップ

Cream Guitarsのギターは今のところ2モデルを軸にラインナップを展開しています。強烈な個性を発揮するギターですが人間工学も重視しており、演奏性やボディバランスもしっかり考慮されています。

《全ジャンル対応型の万能モデル》Revolver

Cream Guitars Revolver

「Revolver(リボルバー)」は特に汎用性を追求して開発されたモデルで、弦長25.5インチ、指板R12インチ、音域22フレットというオーソドックスな基本仕様に、SSH配列と特殊配線による多彩なサウンドバリエーションが持ち味。上位機種はピエゾピックアップも備え、アコースティックなサウンドも得られます。

Revolver:ボディバック

木材構成は、ボディに1Pメイプル&1Pマホガニー、ネックにウェンジ、指板にローズウッドが基本です。特に、ボディに1P材を使用している点は注目に値します。Cream Guitarsでは弦と平行に木目の走るボディ材を特別に「Horizontal Grain」と名付けていますが、レゾナンス・プレートが補強としても働くため、横や斜めに木目が走るボディ材も使用できます。

妥協なき電気系


The incredible ‪@arielpozzo‬ testing all the electric sounds of his amazing CREAM REVOLVER

電気系は一流ブランドで固めていて、ピックアップはセイモア・ダンカン製「SSL-1(Vintage Staggered Strat)」2基&「SH-4(JB Model)」、コントロールポットはCTS社製、5WAYセレクタースイッチとアウトプットジャックはスイッチクラフト社製です。

Revolverにはこれに加えて独自のPCB基盤回路を内蔵、選択するピックアップに応じてボリュームポットの抵抗値とトーンポットのコンデンサを自動的に切り替えます。これによりシングルコイルもハムバッカーも、理想的な音色がアウトプットされます。ちなみにシングルコイル選択時に250kΩボリューム&.047μFオレンジドロップ・コンデンサ、ハムバッカー選択時に500kΩボリューム&.022μFオイルペーパー・コンデンサで、PCB回路自体は電池不要です。

現行のPCB基盤は第5世代で、CEOルイス氏がご自身のヴィンテージ・ストラトで250種類の音色を得られるようにしたプロトタイプが初代、2026年のNAMMに向けて第6世代を開発中です。

守備範囲の広いサウンドバリエーション

SSH配列&5WAYセレクタースイッチによるオーソドックスなサウンドバリエーションに加え、ボリュームノブとトーンノブの特殊配線により、個性的なサウンドが得られます。

ボリュームノブのスイッチはフロント&ミドルをシリーズ(直列)接続させることで、HH配列のレスポールのような使い方ができます。トーンノブのスイッチはリアピックアップをコイルタップさせ、かつセレクタースイッチのポジションに関わらず常時ONにします。これによりフロント&リア、ピックアップ全部、といった組み合わせが得られます。

上位モデル(Revolver Deluxe / Revolver Prisma)ではピエゾピックアップのボリュームノブが追加され、プッシュ/プルの操作でSSHとピエゾを切り替えます。

《ロックを強く意識したモデル》Voltage

Cream Guitars Voltage

「Voltage(ボルテージ)」はギブソン的なボディ形状とHH配列、3WAYセレクタースイッチを特徴とする、特にロック系のバンドで演奏されることを想定したモデルです。操作系が手元から比較的遠くに配置されており、誤って触れてしまうことを気にすることなく演奏に専念できます。

このほか弦を通すポイントが低音になっていくにつれて段階的にブリッジに近づいている設計がRevolverとの大きな違いで、低音弦の張りを増強することで低音リフの響きにパンチを加えます。

Voltage:ボディ裏

背面には立体的なカットが施されており、抱えた時のフィット感も充分。弦長25.5インチ、指板R12インチ、音域22フレットという基本仕様はRevolverと共通ですが、電気系はシンプルでPCB回路は非採用です。

Voltage Deluxe:サウンドバリエーション
Voltage Deluxeのサウンドバリエーション。シングルコイル単体では使用できない。


以上、メキシコ発の新興ブランド「Cream Guitars」をチェックしていきました。鮮烈なルックスと新しい設計を両立させた、新しい音楽を演奏するためのギターです。新しい塗料や素材、回路の開発にも積極的で、今後の展開も楽しみです。ぜひ実際にチェックしてみてください。

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