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愛着のあるギターのそんな悩みは、「ネック交換」で解消するかもしれません。そんなわけで今回は、愛機の修理に来た依頼主さんの了承のもと、ギターのネック交換を密着取材しました!
石橋良市(いしばし・りょういち)株式会社レッドハウスギター代表取締役社長
ギターメーカー勤務から26歳で独立。ヴィンテージギターのリペアやギターオーダー受注に加え、ハイエンドオーディオを扱った実績もある、木工と電工のノウハウをバランスよく蓄積する名工。音や演奏性を狙った一見オーソドックスな本体に遊び心がチラ見するその作風は、プロアマ問わず多くのファンを虜にしている。奥様は40冊以上の著作を手掛けた菓子研究家、石橋かおりさん。
「レッドハウス(Red House)」は長野県塩尻市に拠点を構えるギター/ベースメーカーで、OEM生産のほかオーダーギターやオリジナルギターを作っています。愛用者にはプロミュージシャンもいて、特にストラトタイプを突き詰めるブランドとして高い知名度を誇っています。またリペアショップ/プロショップでもあるため、予約制ですが土日もオープンしています。今回はここ、レッドハウスに依頼します。
いよいよここからが本番です。石橋さんにギターの状態をチェックしてもらいます。20年近く弾きこんできた愛機は、どんな状態なのでしょうか。そして、本当にネック交換が必要な状態なのでしょうか?
レッドハウス石橋氏(以下、RH):配線など電気的な話は、厳密にはお使いのシールドやエフェクター、アンプまであって初めてできます。まずギター本体で確認したい事は、弦振動の状態です。ネック交換のご検討ならばまず、フレットの状態、トラスロッドの状態、楽器のバランスはどうか?、音量があるかないかなど、生音と弦振動をチェックしていきます。
2000年頃の、フェンダー・アメリカンデラックス(アメデラ)・ストラトキャスターLH。交換されたピックアップとボディのダメージが歴戦を語る。
しっかり弾きこんだおかげで、指板エッジが丸く削られている。
スカンクストライプから亀裂が走っている。コレは心配。
今回はネック交換のオーダーなのですが、そもそも本当にネック交換が必要なのか?というところからチェックしてくれました。
RH:(ネック裏を叩く)ネック内でトラスロッドが鳴っていますね。トラスロッドのガタ付きで振動が吸われていて、タイトな音になりにくい状態です。
量産機の設計では、製造の作業性も重要です。この個体はトラスロッドに対して、溝の幅にゆとりがある作りのようです。鳴き止めにチューブを被せる例もあります。各社に考え方や仕事へのアプローチがありますし、それは理解できます。弊社のネックはチューブレスのロッドを使い、ロッドとほぼ同じ幅の溝を掘ります。良いネックを作るには、こういうところが肝心と考えています。
弦の音で言えば、そんなに悪い状態ではないと思います。しかし、望まれる「クリスピー感」というよりは、現在の状態はウェットに感じます。立ち上がりやクリアさはネックに負うところが大きいので、トラスロッドの状態、フレットの摩耗等を考慮して「ネック交換はアリ」だと思います。
依頼主さんのオーダーは以下のとおりです。
こうした依頼主さんの想いに加え、石橋さんは音楽性や演奏スタイル、チューニング、使用する弦まで質問し、欲しい音のイメージをすり合わせていきます。打ち合わせの結果、依頼主さんはドロップDチューニング、ロック系、コードプレイ主体で、カラっとしたクリスピー感のある音が欲しい、ということが確認できました。ではここから、どんなネックを作るのかを具体的に煮詰めていきます。
ネック交換というオーダーでしたが、石橋さんはネック以外のコンディションも確認してくれます。
RH:「クリーンが濁る」という症状については、ピックアップの高さにも原因が考えられます。このギターは弦振動に目で見て分かるブレが確認できますから、やはりちょっとピックアップが高かったようですね。万が一「高さの調整だけで満足したから、ネック交換はしない」という結論でも、問題が解決すればそれでオッケーです。(笑)
弦とピックアップの距離は、音量と音質、バランスに関わってきます。特にロック系では、弦に近づけてパワフルなサウンドにしたくなりますね。しかし、ピックアップが近いと弦への磁力の影響が増すので、弦振動が不自然なります。そうすると生音に影響が出ます。ピックアップの磁力が、弦振動を邪魔してしまうんです。この現象は、ハイポジションに行くほど顕著です。ピックアップは「生音の心地よい距離を保つ」のが良いセッティングです。特にピックアップが3つあるストラトキャスターでは少し下げ気味にした方が、よりストラトらしいトーンを楽しめるかと思います。
また、ピックアップが弦に近いと音が太くなりすぎて、音像がボヤけて聞こえることがあります。でもゲインは欲しいからあまり遠くしたくないという場合は、ハムバッカー限定ですがピックアップ本体を少し下げ、その分少しポールピースを上げると良いでしょう。ニュアンス程度のかすかな違いですが、音像がクッキリして、エッジが立ちます。
工房にあるサンプルのギターと自分のギターを弾き比べて、具体的な仕様を決めていきます。
依頼主さんのストラトキャスターLH(中央)と、レッドハウスのサンプルギター(両側)。フレットは演奏性を左右するので、こうして実際に感触を比べると決めやすい。
RH:弊社はネックもボディもたくさん作っており、「こう作ったらこの方向に行く」と言う傾向が分かっていますから、お求めの方向へ狙って作ることができます。「楽器の音に対する方向付け」を提供できるのが、レッドハウスの強みだと思っています。
このギターはボディの鳴りはしっかりしていますから、ネックで今よりブライトな感じと立ち上がりの良さを出していきましょう。とはいえあまりカンカンにキツいものではないしっかり詰まっている、ごくごく普通のメイプル材が良いと思います。また、ドロップDの張りを残したいから、剛性はしっかりさせましょう。
ストラトキャスターはもともと板目のネックを使いますから、今回のネックオーダーには、標準的な板目で良いと考えています。どうしても柾目やトラ杢などスペックに注目しがちですが、高級な木材でもサウンドや硬さには個体差があります。
さて打ち合わせの前に、いろいろな材料を見せていただきました。こうした中から好きなものを選ぶことができますが、特にこだわりがなければ石橋さんの経験とセンスに頼った方が安心です。
板目、柾目、ロースト、カーリー、バーズアイ、マッカーサーという各種のメイプル。
RH:ネック材は板目と柾目が選べますが、この二つは「木取り」の問題であって、性能ではありません。木材自体が硬いか柔らかいか、重いか軽いかなどありますから、そこまでこだわらなくても良いと私は考えています。しかし「やはりそこは外せない」というお考えなら、その中で最高の結果を出せるように努力します。どういうスペックでも求める方向に振れますが、お任せいただいた方が結果的にはご納得頂けると思います。
ホンジュラスマホガニーのネック材なんてのも!
左:近年流行している、ツヤ消しのネック裏。サラサラの感触
右:伝統的な、ツヤありのネック裏。適度にグリップ感がある。
RH:マット(ツヤ消し)とグロス(ツヤあり)の2タイプあり、色を付けることもできます。木部をヴィンテージ調の飴色にもできます。
グリップについては、今ので気にならなければそのまま同じ感じを目指します。「少し弾き込めば慣れますから」っていう人は多いですよ。逆にシュレッドの人や具体的なイメージを持っている人はこだわりますね。仮組みしてチェックしながら調整するということもありますし、もちろんストラップを付けて立ってのチェックもします。お客様の欲しいところには、なるべく応えています。
物凄く硬いことで知られるウェンジ。コレでベースのネックを作ったこともあるのだとか。
RH:弊社の指板は、ローズかメイプルが標準です。ローズ指板の音は甘く、メイプル指板の音は硬い、というイメージが一般的ですが、やはり木材の個体差でサウンドは変わりますし、音だけで指板材を判別できる人はそうそういないのではないかと思います。欲しいサウンドに合わせて木材を選びますから、メイプルかローズかはお好みで選んでください。その後で、ご希望の方向に向くような個体を選んでいきます。ご要望があれば、マダガスカルローズやハカランダ、ウェンジ、エボニーなんかもありますよ。
指板のRを決める道具。コレにサンドペーパーを付けて、正しい指板Rを付けます。
RH:クラシカルスタイルでの演奏では平たくする事もありますし、握り込んで弾く人は丸い指板を好む傾向がありますね。好みで選んで頂いて大丈夫です。今流行のコンパウンドラディアス(円錐形指板)にも対応しています。
指板Rは各種指定できますが、今まで問題がなければ慣れたものが無難です。また、ストラトタイプの基本フレット数は21Fか22Fで選べます。
通常弦長の変更はお勧めしませんが、弊社の25.25インチと25インチのネックは、普通のストラトキャスターでしたら最小限の加工で付け替えられるように出来ています。お気軽にご相談ください。
各社各サイズのフレット。ギタリストはこだわりたいところ。
RH:ブランドもサイズも選べます。耐久性やメンテナンス性でステンレスを選ぶお客様もいらっしゃいますよ。フレットは弦振動の支点になる重要箇所で、耐久性や音の立ち上がりも左右します。ですからフレットの足に合わせた適切な溝を切り、慎重に打ち込むように特に気を付けて作業します。
また質量が大きいと金属的なタイトな音に、小さいと「木の音」が感じやすい傾向にあります。しかし演奏性を大きく左右しますから、慣れているもの、あるいは弾きやすいと感じられるものを選ぶのが良いでしょう。
ケリー・サイモン氏モデルのネックサイド。畜光ドットの外周は黒く縁取る。
RH:メイプル指板には黒が基本ですが、アバロンや白喋貝、木製、ターコイズも選べます。サイドポジションには畜光素材もあります。クラシックギターみたいに「サイドなし」も面白いし、5Fと12Fだけとか遊び心でも選んで良いところです。
え!!今回のご希望はメイプル指板に白丁貝ですか、、、、、(笑) 有りです!!
ふつうのもロック式も。メーカーにあるものならカラー指定も自由。
RH:クルーソンタイプとロトマチックタイプは重量が大きく違いますから、使い分けで音を方向づけることもできます。振動体の端っこに重たいものを取り付けるわけですから、この違いは大きいですよ。軽くクリスピーな感じに持っていきたかったら、クルーソンタイプの方がよりイメージに近いでしょう。
左から、ブラス、オイル漬け牛骨、漂白した牛骨、非漂白の牛骨、カーボン。
人工象牙「TUSQ(タスク)」にもバリエーションが。
RH:カーボン、TUSQ、各種牛骨、ブラスから選べます。やはり牛骨が人気ですし、間違いがありません。漂白、非漂白、オイル漬けの順で油分が増えていきます。オイル漬けは滑りに優れ、音は丸くなる傾向があります。TUSQは高域の伸びがきれいです。お使いの弦に合わせて溝を切りますし、弦間ピッチの指定も大丈夫です。
プレート(左)とブッシュ(右)。レッドハウスの標準はブッシュジョイント。
RH:ジョイント法は、クラシカルなプレートジョイントと現代的なブッシュジョイントが選べます。プレートジョイントは、あとで交換するなど遊びの要素が楽しいですね。
ロッドまで指定する顧客はそうそういないとのことだけど、しっかり用意しているあたりはさすが。
RH:手前の二本は2WAY(両効き)ですが、ネックが重くなるので通常は使用しません。国産のミリ規格が弊社の標準ですが、ヴィンテージ系のご要望があればインチ規格も使用します。全長にも違いがあり、軽量なチタン製もあります。
当社は強度のためではなくネックの振動をコントロールするため、奥にあるカーボンバーをネックに仕込むこともあります。
ヘッドの強度、振動という観点から、ロッドの調節部分はエンド側が良いと考えています。しかし調整のたびにジョイント部分を外すとセッティングが変化しやすく、それに従ってサウンドも変化してしまいます。その点、ホイールナットはネックを付けたまま調整ができて便利です。シビアなセッティングで弾きたい人でも、ご自分で常にベストなポジションへ持っていけます。
ストラトのラージヘッド(ちょっとだけ小さめ)には、何やら埋まっているようだが?
RH:弊社オリジナルのヘッドもありますが、伝統的なデザインも指定できます。ヘッド形状はいろいろ選べるし、色も付けられますから、遊び心で選んでください。RedHouseでは、ロゴのカラーも4種類から選べます。リバースヘッドはナットからペグへの弦長が逆になるから6弦が長くなり、「体験的に、低域が膨らむ傾向がある」という話があります。しかし細かい話はさておき、とにかくカッコイイですね。(笑)
写真のKellySIMONZ(ケリー・サイモン)氏のシグネチャーヘッドは、裏側に強化材を埋めてヘッドの振動をコントロールする、弊社の独自構造「HVC(Head Vibration Controller)」を採用しています。
欲しいところを確認し、細かいところはお任せして、オーダーシート(仕様書)を埋めて仕様を確定します。確定した仕様の見積りを確認し、前金の支払いがあってからの作業開始です。レッドハウスの場合、だいたい納期は3~4カ月とのことです。
「こうしたい」と言う気持ちはお客様それぞれで、正しいも正しくないもありません。音であれ、弾きやすさであれ、お客様の「主題」を汲んで、そこを外さない結末に持っていくのがリペアマンのお仕事です。弾き手にしか分からない小さなことでも、気のせいではありません。投げてもらえれば原因を考え、改善策をご提案できる事も多いです。
相談はサラっと終わることもありますが、2時間以上になることも珍しくありません。急がず、ゆっくりご相談できます。納得できるリペアを受けるには、気持ちが通じるリペアマンに出会うのが一番です。弊社でも良いですが、ぜひお近くのショップに足を運んでみてください。ただし、パーツをいくつか交換したところで、楽器本体の持つキャラクターをガラッと変えることまではできません。「ストラトからレスポールの音を」とかは、たぶん無理です(笑。
打ち合わせを済ませ、ギターを預けてあとはお任せしました。出来上がりを待つわくわくの間、石橋さんから作業の経過が写真で送られてきます。
リプレイスメント用ネックを…
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