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長野県松本市「スギギターズ(Sugi Guitars)」の工房を尋ね、約1時間の打ち合わせを経て正式に依頼、そして待つこと数か月。ついに念願のオーダーギターが完成しました。
このリクエストに対し、打ち合わせに応対くださった社長の杉本御大と国内販売マネージャー丸野内さんは、
このようにお話しくださいました。
さて、相反するリクエスト、できてからのお楽しみ、しかしスギギターズとして胸を張って出荷するギター、どんなギターができたのでしょうか。
今回はギターオーダー体験記事の後編として、完成のお披露目と、しばらくこのギターを弾いてきたオーダー主さんのレビューをお届けします。前編を読まれてリアルに何か月もお待ちになってくださった皆さん、お待たせしました。前編をお読みでない人は、ぜひそちらもチェックしてください。
《オーダーメイド体験》Sugi Guitarsにギターをオーダーする:前編
ホロウボディを特徴とする「DSF496L」。ボディトップには工房で出会った「EM(エキゾチック・メイプル)プレミアム」、指板はエボニー、時にジャズ的なニュアンスも欲しいカバードのフロント、パワフルに響かせたいオープンのリア、という構成。
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ボディトップと同じメイプルをあしらったヘッド。左右対称的なボディトップに対し、こちらは思い切り斜めに杢が走る。反する流れを見せる木製ロッドカバーと相まって、たいへん動きのある意匠。「ホロウとヘヴィ」という相反するコンセプトを象徴するかのよう。
ロック式ペグを指定。ヘッド形状に合わせ、1弦と6弦のペグは僅かに傾けて設置。
弦張力が必要だったので、ヘッド角は18度を指定。10度と18度が選べる。
5層のネックは、「センターAT5P(メイプル+マホガニー+アクアティンバーメイプル+マホガニー+メイプル)」。両サイドのメイプルは板目材、センターのアクアティンバーメイプルは柾目材。
ヘッド角を持つネックだが、ヘッドの先からネックの根元まで一本の木材が通る、大変ぜいたくな設計。適度にツヤを抑えたネック裏は、サラサラでありながらしっとりと手になじむ。
木目が確認できないほど目の細かい、真っ黒なエボニー指板。アバロン貝のインレイは、模様の密度が揃っているものを選定しているらしい。
エッジが丸く整えられているフレットは、わずかにネックからはみ出さない絶妙な寸法。指板エッジはていねいに面取り加工されており、手に優しい。
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ホーンの先からじわじわと模様の角度が緩やかになっていき、リアピックアップ地点でほぼ水平、そこからボディエンドに向けてまたじわじわと反対の角度がついていく、なんとも個性的な杢。カラーは「BSBK(シースルーブラック)」で、光の具合によってはトップ材本来の色もうかがえる。
奇跡的な出会いだったこのEMプレミアムは、フレイムともキルトともバールとも違う、極めて珍しい複雑かつ美しいトップ材。
Fホールの周囲には、バール的な杢のおいしいところがちょうどよく並ぶ。絶妙にこうなるよう狙った木取りのようだが、それにしても大自然の偉業に畏敬の念を払わずにはおれない。
バインディングに見えるボディの外周だが、トップ材のココだけをナチュラルに仕上げる、「塗り」の技術による美しい意匠。
烈しい表面とは裏腹に、つるんと可愛らしい背面。
空洞部分の容量を確保するためにバックコンターは無いが、脇腹に当たる部分が緩やかに処理されており、抱えやすい。
こんな美しいギターを自宅に迎える幸せは、計り知れない。
オーダー主:期待を凌ぐ素晴らしい仕上がりで、どう表現していいか、なかなか言葉がみつかりません。
好みの弦高に合わせ、弦のゲージを1つ上げて、完全に自分好みのサウンドが出せるギターになりました。2ヶ月ほどじっくり、このギターと向き合ってきました。弾けば弾くほど、私のリクエストに合わせて作っていただいた、そんな実感が湧いてきます。
サウンドの印象
素晴らしいサウンドです。空洞を持つボディ構造によるものであろう、中音域に特徴のある、エアー感のある、それでいてみっちりと詰まった音です。リアピックアップはタイトで元気のいい音、フロントは甘いふくよかな音です。ミックスではフロントとリアの良いところがブレンドされ、色気と奥行きを感じさせます。
ホロウ構造に求めていた、まさにイメージ通りの音です。「ホロウとヘヴィは相反している」と指摘されていましたが、完成したギターは見事に「ホロウ構造のエアー感」と「ヘヴィなリフに対応できる重量感のある音」を達成しています。
ルックスの印象
こんなギターは、今まで見たことがありません。ボディトップの躍動感に、今も圧倒されています。木目が水平ラインになっているのが1箇所あるのですが、ここがリアピックアップの中心を通っていて、しびれます。このトップに対し、これ以上ない良い加減の濃淡が水墨画のようで、嵐のようにも見え、嵐が去った後の雲のようにも見えます。ヘッドの杢も印象的で、ロッドカバーの杢とのコントラストも面白いです。
真ん中のネック材、凄くみっちりして硬そうな材です。こんな美しい木材が、長期間にわたって水中で眠っていたとは驚きです。
このギターとの付き合い方
このギターは世界に一本、唯一無二の芸術品であり、私が持つギターの中で一つの頂点になりました。希少価値のある貴重なギターですが、大事にしまっておくのではなく、積極的に弾きたい、このギターでステージに立ちたい、そう思わせてくれます。このギターに相応しいプレイヤーになりたい、と感じています。素晴らしいギターをありがとうございました。
以上、どんなギターが出来上がったか、オーダー主さんが何を感じたかをお伝えしました。「前編」で白熱したと言ってよいほど言葉を交わして仕様確認した打ち合わせと違い、出来上がったギターに対してスギギターズは多くを語りません。ホロウとヘヴィという相反するリクエストに応じるのは、スギギターズにとってひとつのチャレンジだったはずなのに、です。しかしそのサウンドにもルックスにも、オーダー主さんはじゅうぶん以上の満足が得られ、「自分の意向を汲んで、このギターを作ってくれた」ということを感じ取ったようです。職人は言葉で語らず仕事で語り、顧客はそれをしっかり受け取りました。
また、「弦高を上げるのはたやすいが、下げるのには高い加工精度が必要。いちばん低い弦高で出荷すれば、誰でも後から好きな弦高に調整できる」との考え方から、スギギターズでは弦高をかなり下げて出荷します。たとえオーダーメイドのギターであっても、その方針を崩すことはありませんでした。オーダー主さんはそこを分かった上で、買ったばかりの高額なオーダーギターの弦高と弦のゲージを好みに合わせ、自分のギターとして完成させました。
オーダー主さんの思い描いた理想のギターは、ブランドのアイデンティティと職人のこだわりが上乗せされ、予想を凌ぐギターとして実現しました。さてこのギター、実際にはどんな音がするのでしょうか。オーダー主さんはこのギターを一軍起用していくそうなので、どこかのライブで、または何かの動画で、このギターを見つける時が来るかもしれません。
Sugi Guitarsのギターについて
《将来ヴィンテージと呼ばれるギターを創りたい》Sugi Guitars 訪問インタビュー
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