HISTORYのギターについて

[記事公開日]2018/9/1 [最終更新日]2022/3/23
[編集者]神崎聡

HISTORYのギター

「HISTORY(ヒストリー)」は、39都道府県に173店舗を構える国内最大手、島村楽器がプロデュースするギターブランドです。島村楽器を身近に感じている人は多く、ギターだけでなくピックなど小物のメーカーとして、HISTORYを身近に感じているという人も多いことでしょう。日本各地の島村楽器で販売しているので、実際に手にとって検討しやすいのは大きなメリットです。そんな身近な存在ながら品質の高さと音の良さが認められており、今や多くのアーティストが愛用するに至っています。今回は、このHISTORYに注目していきましょう。

代表機種に見る、HISTORYの特徴

HISTORY TH-LC

ではさっそく、代表機種「TH-LC」を細部まで見ながら、HISTORYの特徴をチェックしていきましょう。トラッドなスタイルながら、いろいろなアレンジが加えられた現代の楽器として仕上がっています。

木部:ヘリテイジウッドの投入

HISTORY HERITAGE WOOD

70~250年もの間、北米大陸の湖底で眠っていたというメイプル材を、HISTORYでは「ヘリテイジウッド」と呼んで積極的に使用しています。北米開拓時代より以前に、厳しい自然の中でゆっくり育った木で年輪の密度が高く、反りや狂いが出にくいメリットがあります。また永い時間水中に貯蔵されたことで、導管内にある樹脂などの不純物をバクテリアが食べ尽くしています。これにより通常のメイプルと比べ倍音が豊かに響き、力強い低音域と伸びのある高音域を持ち、狂いにくく、しかも軽いという特徴まで兼ね備えています。

最高のネック材として珍重されるヘリテイジウッドですが、TH-LCではこれをボディトップに使用。ヴィンテージギターが作られた当時はボディトップにハードメイプルが使われていましたので、まさに同様の効果が得られます。昨今では模様の美しいソフトメイプルをトップ材として使うのが一般的ですが、TH-LCのワインレッドカラーでは、ヘリテイジウッドの上に杢目の美しいカーリーメイプルの薄板を貼るという、手間を惜しまないサウンドへのコダワリが伺えます。

塗装は「トップラッカー」で、ラッカー特有のしっとりとした触り心地がありながら、木材を保護するアンダーコート(中塗りと下塗り)をポリ系塗料で仕上げているため、四季のある日本での使用を前提に環境変化に動じない安定性も確保しています。

フレット:サークル・フレッティングシステム(CFS)採用

サークル・フレット

「サークル・フレッティングシステム(CFS)」は、フレットを円弧状に設置し、なおかつナットをこれに合わせることで、従来のフレットでどうしても生じていた微妙なピッチのズレを解決した画期的な発明です。弦振動同士の干渉が和らげられることから音の伸びも豊かになりますから、美しくコードを響かせるだけでなく、歪ませたパワーコードやギターソロにおいても音が濁らず抜けが良くなり、力強く迫力のあるサウンドが得られます。

ナット材には伝統的な牛骨を採用し、専属のセットアッパーが1本1本丁寧に仕上げています。使用されるニッケルシルバー製フレットは、バラつきが±0.2%以下という高精度で知られるジェスカー社製です。両端をていねいに処理(Elite Finish /エリートフィニッシュ)することで、その演奏性を更に向上させています。

ヘリテイジウッドとCFSとの組み合わせは今のところHISTORYにしかなく、このブランドの大きな強みになっています。

ネック:性能と演奏性の追求

HISTORY TH-LCのネック

TH-LCのネックは、このタイプとしてはオーソドックスなマホガニー1ピースネック、エボニー指板という仕様が取り入れられています。ヘッド角は14度が採用されています。その意味ではヴィンテージ・スタイルを踏まえた設計ですが、18度を採用したモデルより弦の張力が落ち、 弦が柔らかくなったかのように感じることができます。セラミック磁石を使ったピックアップ(後述)との組み合わせを考えると、このギターは「ドライブサウンドで豪快に演奏することを想定している」ということが推察できます。

ボディとの接続には「ヒールレス・ディープジョイント」という手法が採り入れられています。フロントピックアップの下まで深くネックを挿すことで、ネック&ボディの一体感を高めて音響性能を向上させつつ、ヒール部分を滑らかにカットすることで演奏性を向上させています。ディープジョイントだからヒールを多少削っても剛性に影響は無い、という「合わせ技」の設計です。

ピックアップ:全機種オリジナルモデル

エレキギターの要(かなめ)、ピックアップでもHISTORYはアイデンティティを主張しています。HISTORYではシングルコイルにそれぞれ1モデル、ハムバッカーでは磁石の異なる3モデルを開発、全モデルにそのどれかが搭載されます。

HISTORY:シングルコイル・ピックアップ シングルコイル

ハムバッカーは全機種が「4芯」設計となっており、コイルタップや直列/並列切替(シリパラ)、フェイズなど後からの改造に有利です。TH-LCでは、二つのトーンポットにスイッチが仕込まれており、両ピックアップそれぞれのコイルタップができるようになっています。

TH-LCでは、セラミック磁石を使った「FH4D」が採用されています。きめ細やかな粒立ちと豊かな倍音が持ち味で、特にドライブサウンドとの相性が良く、現代的なロック系からハードロック、さらにはメタルサウンドまで十分にカバーできます。ヴィンテージ・スタイルのギターではとかくアルニコ磁石が採用されますが、このギターは特に現代のロックミュージックを意識して、最初からカスタマイズされているようです。

パーツ類:信頼できるメーカー品を採用

HISTORYのパーツ

ペグ、ブリッジ、アルミテールピースといった金属部品は、世界的な信頼を集めるGOTOH(ゴトー)社製、ボリュームポットにはCTS社製、トグルスイッチやアウトプットジャックにはスイッチクラフト社製、トーンコンデンサにはオレンジドロップ、というように「ちゃんとした楽器には、たいがいこうしたパーツが備わっている」という定番の部品が使われます。TH-LCでは弦を直接支えるサドルに、音響特性が優秀なZinc(亜鉛)製のものが採用されています。

電気部品は故障によって交換する機会が多いですから、どこでも入手できる定番モデルを採用するのは、大変意義深いことです。また回路を収めるキャビティには、導電塗料のノイズ処理が施されます。

セットアップ:美しい仕上がりと良好な調整

セットアップの様子

HISTORYでは、一般的なギターよりも高い水準の品質基準を設けており、出荷前には特別なセットアップが施されます。一見当たり前のように見えるのですが、職人ならではの高い技術と経験によるハイレベルなセットアップで、音や弾きやすさに直結する大変重要なポイントです。この最終段階での「人の手」が、スペックや数値では表れない部分で大きな違いを生んでいます。

  • 1) 事前準備:外観、ネジ締め、電装確認
  • 2) 基本セットアップ:弦高、ピックアップ高さ調整
  • 3) ナット設定:ナット調整、オクターブ調整
  • 4) 個体差に対するセットアップ
  • 5) 最終仕上げ

という5ステップでのセットアップを経て工場から出荷されたギターは、美しい状態で店頭に並び、手に取ったその時から弾きやすくなっています。

検証:サウンドの違い

他のブランドには無いHISTORY最大の特徴は、「ヘリテイジウッドとサークル・フレッティングシステム(CFS)の併用」です。これがサウンドにどこまで影響するのか、検証する動画を見てみましょう。HISTORYのカタログモデルと、ヘリテイジウッドとCFSが非採用である以外はすべての仕様が共通する検証用のギターとの比較です。


HISTORY サウンド検証1 – Line録りバージョン
動画はHISTORY公式サイトより。演奏者は、ご自身もHISTORYを愛用している宮脇俊郎氏です。氏は教則本を何冊も執筆していますから、お世話になっている人も多いのではないでしょうか。

「検証用サンプルギター」は普通のメイプルネックに、普通のフレットが打ってあります。対する「オリジナル仕様ギター」はカタログに載っている通りのストラトタイプ「TH-SV/R」です。演奏者の力量もあるでしょうが、検証用サンプルギターの音はとてもイイ音に聞こえますね。では続いて、オリジナル仕様ギターでの演奏が始まると、どうでしょうか。

この検証を終えて、演奏者の宮脇俊郎氏はHISTORYに対し、

  • 高音の倍音が豊かでレンジが広く、音の輪郭がはっきりしている
  • 自然にワイドに広がる、低域から高域までちゃんと振動している音
  • ピッキングで操作する強弱や音色の変化が、演奏者の理想通りに出る

といった印象を持ったようです(上記はその要約)。あなたはどう感じましたか?

HISTORYと検証用ギターでは、サウンドの違いが明らかです。HISTORYがブランドとして世に訴えるのは、倍音豊かで演奏者のピッキングに明瞭に反応する、音色変化の豊かなギターです。いわゆる「味がある」と言われるウマい人のプレイを支えるにはこのようなギターが必要ですし、このような「ピッキングに敏感なギター」で練習すると、これまで以上に腕前を上げることができるでしょう。

しかしまたHISTORYは、この動画で言う検証用ギターのような「そうではないギター」を否定しているわけではありません。そうでないギターにもプロが仕事で使用できるほどの音質がありますし、ヘリテイジウッドやCFSが非採用のギターもHISTORYからリリースされています。

HISTORYのラインナップ

ではここから、HISTORYのラインナップをチェックしていきましょう。ヴィンテージ・スタイルのギターが中心ですが、どれも現代的なアレンジが施されており、現代の音楽シーンでバリバリ使用できるギターになっています。

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