エレキギターの総合情報サイト
──さすがにいろいろなメカが並んでいますね!
今福 フェンダータイプのネックは、「ケガキ」線に沿ってバンドソー(糸のこ)で切り出します。彼は熟練工なだけに、手が速いですね。この速さだから、真っすぐに切れるんです。ここで切り出した木材が、「材料保管室」を経てCNCへ送られます。
──この部屋の中は暖かいですね!
今福 北海道から送られた木材はこの「材料保管室」で数日のあいだ寝かされて、大町の気候に慣らされます。さきほど切り出したネック材など、加工中のものもここで寝かされ、狂いを出し切ります。工程ごとに寝かせることで、製品になってからしっかり状態を維持できるようになるんです。
今は機械で霧を発生させ、加湿しています。乾燥にかけて含水率を下げましたが、それ以後はある程度の湿気が必要なんです。乾かしたり加湿したり、管理はデリケートです。
CNCルータで、ネックのシェイピングやロッドの溝彫りをしています。
削りかすが大変綺麗ですね。鈍い刃物ではこうはいきません。刃物は常に研磨しており、いつも良いコンディションで加工します。刃物のメンテナンスひとつ取っても、精度に大きな違いが出るんですよ。「腕のいい大工は、カンナ屑を見れば分かる」というのと同じですね。
隣の部屋では、指板を貼ったりポジションマークを埋め込んだり、またヘッドのセルバインディングを施したりしています。何枚も重ねる「多層バインディング」は「トメ」と言って、コーナー部分でそれぞれの層が内側でもちゃんと合わさっていなければなりません。このあと研磨をしますから、トメができていないとズれてしまいます。この作業には、高度な技術が必要なんです。
ポジションマークは、指板の穴に接着剤を流し込み、一つ一つ手作業で埋めていきます。まずハンマーで叩いて、それからプレス機で押し込みます。
こちらはショップオーダーのベースで、フレットの溝に木材を挿しこんで「サークルフレットのフレットレス」を作っています。フレットレスベースの生産台数は多く、かつて弊社は「世界で一番フレットレスベースを生産する工場」でもありました。
こちらではローズ指板を貼りつけています。このときトラスロッドを仕込みますが、ギターによってどのロッドを仕込むかが違います。指板には短いバインディング材が仮付けしてありますが、これをガイドとしてきちんと合わせれば、そのままバインディングができるというわけです。
今福 指板面をサンディング(研磨)しているところです。作業員の背後に4種類のベルトサンダーが回っていて、徐々に番手を細かくしていきます。
ガサガサだった指板面(写真奥)が、この工程の後(写真手前)にはツルツルになります。世界中のギター工場で同様の機械が使われていますが、どれもフジゲンのコピーなんですよ。
弊社のエレキギターは、塗装前にナットを取りつけます。特に大きなメリットは無いんですが、フェンダーやギブソンの工法にならっています。
この工場で加工するのはここまでで、あとの仕上げは外注さんに依頼します。
ベース用の「フレットの溝を切る丸のこ」。溝切りはこれで一気に済ませますが、サークルフレットではなく、普通のフレット用です。
「レーザー加工機」。大きなものはコンピュータ制御で、小さなものは画像のスキャンから加工します。細かなインレイワークのピースを切りだすのに使用しますが、ポジションマークを切りだすこともあります。
このような精緻を極めた加工は手作りでは不可能で、レーザー加工機があればこそです。
今福 ここでは、張り合わせる木材の組み合わせを検討しています。色や木目が近いもの同士を3枚貼り合わせて、3ピースネックを作るんです。3枚それぞれの曲がりやすい方向が相殺されるように貼りつけ、それからネックの形に切り出します。
これはベース用の、ウェンジ&ブビンガの5Pネックですね。
ベース並みに幅広ですが、これはアコースティックギターのネックです。ぜいたくな設計ですが、ヘッドの幅を出すためにはこのような太さから削り出す必要があるんです。普通なら「耳貼り」といってヘッドの両端に木材を貼りつけてヘッドの幅を出すんですが、アコギでこれをやると、ヘッド裏の継ぎ目がかっこ悪いんです。
次の作業を待つ、フジゲンのアコースティックギター。美しいヘッド裏ですね。
──「バイオ」って言葉には、なにかワクワクさせられます!
今福 アコースティック向けに導入した「バイオ乾燥室」です。楽器メーカーでこれを導入しているのは弊社だけで、世界にもまだ2台くらいしかありません。製造番号の「11001」は、2011年製の1号機という意味です。
一般的に使われている「ボイラー乾燥」は蒸気を利用することから木に優しいんですが、こちらはもっと木に優しいシステムで、木材の内部構造を破壊せずに乾燥させることができます。遠赤外線を利用して木材の水分を押し出すんですが、押し出された水部が壁ににじみ出てきます。
内部はサウナのようですね。今は「ホワイトエボニー」を乾燥させています。空気が通るように桟(サン)組みをして、狂いを止めるために重りが乗せてあります。普通の乾燥法では2カ月かかるところを、このシステムでは3週間で完了し、しかも従来の手法よりも木のダメージが少ないんです。ただし指板材やアコギのボディ材など、薄い木材に対してのみ有効な設備です。
ここで乾燥させた木材は、鳴りが良くなります。バイオ乾燥室を導入してからというもの、弊社のウクレレの鳴りが良くなったとご好評いただいております。
──「木材の育て方が違う」というのは凄いですね!リリース予定のアコースティックギターが楽しみです!
今福 こちらでは、セットネックモデルのネック取り付けから最終仕上げまでを行っています。接着してしまいますからネックのジョイントはやり直しが利きませんが、左右のズレがなく仕込み角も適正な「理想のポイント」は一つしかありません。そこにいかに近づくことができるかが、技術の分かれ目です。
青い箱は、ここ大町工場と北海道の工場を行き来します。作業が完了したものがこの青い箱で北海道へ送られ、北海道で次の工程を終えたものが、またこの青い箱で送られてきます。
「ラップ塗装」を施した「OS」のボディ。これに色を加えて仕上げます。
今福 自動車業界では塗装のことを「加飾(かしょく)」と呼んでいるので、こちらも同じ言葉を使っています。ここではポリエステル、ポリウレタン、ラッカーの3種類とも施工しますが、大町工場の加飾は高級品のみなので、それほど作業量は多くありません。この工場では1日に80本のギターが生産されますが、ここではそのうちせいぜい5本程度です。
加飾ブースは6部屋あります。
加飾の工程は「スプレー→乾燥→研磨」が基本で、これを繰り返していきます。拭きつけたら乾燥室で翌日まで乾燥させ、それから研磨します。
オーダーものの「FL」を塗装しているところでした。それにしても、すごい杢ですね。
──新しいだけあって、整然とした作業場ですね。
今福 アコースティックギターの部署は、3~4名の作業員が担当しています。
伝統的なアコースティックギターのネックはジョイント部分で終わっていますが、弊社のネックは指板の端まで達しています。ある意味「ディープジョイント」ですが、フルアコ的なコンセプトでジョイント部の強度を稼いでいます。ネックは接着しますが、ネジ留めもして補強しています。それにしても、ものすごく良いスプルースですね。こんなに良いもの使っちゃだめですよ(笑)。
設計は独自ですが工法は伝統にのっとっており、工場生産ながら手工家と変わらない作り方です。私はフジゲン入社の前にアコースティックギターのメーカーに勤務していたんですが、アコースティックギターの工法は効率化しにくくて、なかなか変えようがないんです。
では、次の工場へ行きましょう。
今福 北海道から送られてきたボディ、ネックをここで組み合わせます。
デタッチャブルでもセットネックでも、またグレードの上下にも関係なく、まず初めにフレットのすり合わせに着手し、レベル出しとフレットエッジの処理を施します。フレットエッジの仕上げには3つのグレードがあって、一番手のかかるのは「球面加工」です。メイプル指板の場合は、塗装する前にこの処理を行います。
ストラップピンを取りつけたらいよいよネックをネジ留めしますが、その前にネックポケットの底面を整えます。北海道で仕上げたボディと長野で作ったネックが組み合わさるのに、ジョイントではシムを必要としません。ジョイントが済んだら、残りのパーツを組み込んでいきます。
ネックがつけられたものが運ばれて、パーツ類を全て取り付け、調整を行って、最終チェックして、箱に詰めて出荷までを一連の流れで行っています。
──長野/北海道間で青い箱をやり取りして作っていく、というのが独特ですね!またさすがに巨大メーカーだけあって、さまざまな設備が大活躍していました。
以上、フジゲン株式会社大町工場を今福さんに案内して頂きました!高度な技術が要求される各工程が、効率よく連結されていました。工場見学を一般受付しているので、興味のある人は是非実際に行ってみてください。
Fujigenのギターを…
Aアマゾンで探す
R楽天で探す
Sサウンドハウスで探す
YYahoo!ショッピングで探す
石石橋楽器で探す
※当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品を紹介しています。