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「フェンダー・デュオソニック」は、1956年に「ステューデントモデル(初心者用)」として、フェンダー・ストラトキャスターの半額近い価格設定で発表されたギターです。同じくステューデントモデルとして発表された「ムスタング」と一味違った雰囲気を持つショートスケールのギターとして知られ、ヴィンテージ市場でもなかなかの人気があります。これまでも再生産や限定生産のあったモデルですが、2016年の楽器ショウ「サマーNAMM」で、「オフセットシリーズ」としてリニューアルしたデュオソニックが発表されました。今回は、このデュオソニックに注目してみましょう。
Liz Phair – Why Can’t I?
デュオソニックをメインに使用しているリズ・フェア女史。こうした可愛らしいギターは、女性が持つと映えますね。
テレキャスターとストラトキャスターを世に送り出したフェンダーは、学生でも買うことのできる価格の、初心者向けのギターの開発を始めます。1956年には、デュオソニックの前身と見られる「ミュージックマスター」が発表されました。これは小ぶりなボディに弦長22.5インチのネックをジョイントし、ピックアップはフロントのみ、という極めてシンプルなギターでした。
その二ヵ月後にデビューしたのが、デュオソニックです。ミュージックマスターにリアピックアップを追加したもので、二つのピックアップが逆巻き&逆磁極で直列つなぎになっており、「両ピックアップON」で疑似ハムバッカーになって太い音が出る、という仕掛けになっていました。「デュオ・ソニック(二重の音波)」というネーミングはこの「ピックアップ二つでヤバい音が出る」という機能を象徴しています。ギブソンがハムバッカーピックアップを発表する前に、すでにこの答えに達していたということになります。さすがに家電修理から身を立てたというフェンダーは如才ないですね。
そこからずいぶん月日が流れ、デュオソニックを出発点としてダイナミックビブラートを搭載した「ムスタング」が1964年に発表されます。弦長は22.5インチと24インチの二つがありましたが、このとき我らがデュオソニックにも弦長を24インチに拡張した「デュオソニックII」が作られます。
それまでは音楽のシーンでもさほど注目されるギターではなかったようですが、1980年代以降、ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで評判となって、オルタナティブ・ミュージックで活用されるようになっていきました。
その後デュオソニックは1990年から1997年まで再生産、また2007年にスクワイアから限定生産されました。そして2016年、小さめのギターに一定の需要がある、という状況に応じる形でリニューアル再生産が始まりました。
Blur – Coffee and TV
イギリスの代表的ロックバンド「ブラー」に所属するグラハム・コクストン氏のデュオソニックにはセンターピックアップが追加されており、いわば「トリ・ソニック」となっています。
生まれ変わったデュオソニックは、つるんとしたシンプルな外観のかわいらしさ、それでもしっかり野蛮な音が出せる確かな性能を併せ持っており、「初心者向け」という枠から飛び出したギターに仕上がっています。それでは、リニューアルしたデュオソニックをチェックしてみましょう。
今回のリニューアルでは、
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DUO-SONIC HSを…
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という2タイプがリリースされています。両機はピックアップだけでなく、ボディカラーや指板材にも違いが設けられています。
1弦側のホーン部に設置されたセレクタースイッチでフロント/ハーフ/リアを切り替えます。シンプルな操作ですが、このためハーフポジションでは一般的なハーフトーンが得られる設計で、直列にはなりません。「HS」のハムバッカーにはコイルタップ機能が備わっており、トーンノブを引くとタップされます。
二つのピックアップ、セレクタースイッチ、ボリューム&トーン、アウトプットジャックまでの電装系が全て一枚のピックガードに載せられているのが大きな特徴です。「ピックガードを外すことで回路を全部外すことができる」というこのような設計は、製造段階での作業が大変スムーズに進行できるというメリットがあります。改造や修理においても同様に、たいへんスムーズに作業することができます。
Fender Offset Duo-Sonic HS | Fender
ナット幅42mm、弦長24インチという寸法は、
といったメリットがあります。しかしこれにとどまらず、弦長が短いぶん弦の張力が落ちることがらチョーキングやビブラートがラクで、1音半や2音といったパワフルなチョーキングも比較的容易にできます。指を大きく広げて音程差の大きなフレーズを演奏したり左手に負担を強いるコードを押さえたりするのも容易になりますから、テクニカルな演奏にもぴったりです。
ネックグリップは標準的なCシェイプ、現代的なギターでは定番となっているミディアムジャンボフットとなっているので、ジャンルを選ばず演奏することができます。
ボディ材にはアルダーが採用されています。右肘部分や脇腹部分にコンター加工は施されていませんが、ギター本体が細身で軽量なため、弾きにくさを感じることはありません。くびれ部分の位置が非対称(オフセット・ウェスト)となっていることから、「オフセット・シリーズ」の名が付けられました。
デュオソニックの発表と同時に新たなムスタングも発表されましたが、デュオソニックとかなり近いモデルに仕様変更されています。どんなところが同じで、またどんなところに違いがあるのでしょうか。
上:DUO SONIC Arctic White、下:MUSTANG Olympic White
ボディの形状はほとんど違わないように見えるが…
新しいデュオソニックとムスタングでは、外観がかなり近い印象があります。ボディ形状は完全に同一のように見えますが、公式サイトではデュオソニックのボディは「デュオソニック」とされ、またムスタングのボディ形状は「ムスタング」と表示されていますから、きっとどこかに違いが隠れているのです。ナット幅42mm、弦長24インチ、ミディアムジャンボフレット、といったネックの仕様が共通していますから、ほぼ同じ感触のギターとして演奏することができます。今回のリニューアルでムスタングはトレモロのない、ハードテイル仕様になりました。そもそもデュオソニックとムスタングの最大の違いはトレモロの有無でしたから、現在この両機は同列の楽器になっています。
デュオソニックでスモールヘッドが採用されているのに対し、ムスタングではラージヘッドとなって「MUSTANG」のロゴマークがあしらわれます。またピックガードのデザインやボディカラーに違いが設けられています。デュオソニックは全ての回路が一枚のピックガードに全て搭載されていますが、ムスタングのボリューム/トーン/アウトプットジャックは、ピックガードとは別の、金属プレートに設置されます。
ピックアップについては、2シングルコイル機は同じもののようにも見えますね。デュオソニックはリアピックアップがブリッジと並行、ムスタングではフロントピックアップと同様に傾けて設置されます。デュオソニックにHSモデルがあるのに対して、ムスタングはP-90タイプのピックアップを備えたモデルがあり、ここには一見して分かる大きな違いがあります。
以上、新しくなったデュオソニックに注目しました。かわいらしいルックスは女性や子供にぴったりではありますが、グランジではいかつい男性ギタリストが狂暴なサウンドを放っていました。そのかわいさと狂暴さの二面性が、このギターの魅力になっています。
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