《蘇った稀代のレアモデル》Gibson RD Custom

[記事公開日]2025/5/8 [最終更新日]2025/5/9
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

Gibson RD Custom

Gibson RD Customは、ヴィンテージ市場でカルト的な支持を受けるレアモデルに光を当てた、ギブソン・カスタムショップの新しいモデルです。クラシックなデザインとギブソンらしさの両立した、そして同社の他モデルとは違うキャラクターを持つギターです。今回はこのRD Customに注目していきましょう。

小林健悟

ライター
ギター教室「The Guitar Road」 主宰
小林 健悟

名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。

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webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。

Gibson RD Customの特徴

特徴的なボディにギブソンらしい意匠

RD Custom:ボディ

RD Custom最大の特徴はこのボディ・デザイン。エクスプローラーやファイヤーバードの系譜に属するシルエットは、エレガントでありキュートでもあります。全面ブラックのグロス仕上げ、ヘッド/指板/ボディにバインディング、指板のブロックインレイとヘッドのダイアモンドインレイ、ゴールドパーツという意匠はレスポール・カスタムを思わせる精悍さを帯びています。

薄型ボディで演奏性良好

ボディの厚み

RD Customのボディはジャックプレートがギリギリ収まるくらいの薄型で、バックコンターが施されてもいるので良好な抱え心地です。ただし面積は広いので、本体重量はレスポールに近い4キロほどあります。ちなみに軽量級の代表選手のSGやフライングVだと3キロ前半程度、エクスプローラーで4キロ未満くらいです。

ギブソン王道の基本仕様に加え、ロングスケールを採用

Gibson RD Customの基本仕様は、

  • マホガニーボディ&ネック、エボニー指板という木材構成
  • 音域は22フレット、弦長はギブソンでは珍しい5インチ
  • 490R & 498Tピックアップ、操作系は3WAYトグル、2V2T

です。ギブソンのソリッドギターでは唯一となる25.5インチという弦長は、1977年に発表された初号機の仕様を受け継いでいます。ギブソンで標準的な弦長24.75インチに比べ、弦の張りが強くブライトに響くほか、半音下げなどダウンチューニングにも有利です。

そもそも、「RD」とは何か


椎名林檎 – NIPPON

ルックスのインパクトが強いRDの発表された1970年代後半、それは世界がギブソンのデザインセンスにようやく追いついた時代でもありました。この時までに、デビューが早すぎて短命だったフライングV(1967年復活)、ファイヤーバード(1972年以降散発的に復活)、エクスプローラー(1975年復活)といった変形ギターが市民権を得ていたのです。「新しい発想を持ってデビューするニューモデルには、新しいボディ形状が必要だ」という発想も、自然な流れでした。

大きなボディは、アクティブ回路を内蔵するためでもあった


Nirvana – Lithium (Official Music Video)
RD Standard Bassは2011年、ニルヴァーナのアルバム「Never Mind」の発売20周年を記念し、ベース奏者クリス・ノヴォセリック氏のシグネチャーモデルとして限定的に復刻された。

「RD」は「Research and Development(研究開発)」を意味します。RD開発当時の音楽シーンでは、エフェクターやシンセサイザーなどエレクトロニクスが目覚ましい進歩を遂げており、エレキギターとエレクトロニクスの融合が積極的に模索されました。この時代に発表されたRDはギターとベースで計5モデルを展開、ギターでは多機能な最上位機種RD Artist、機能を絞った上位機種RD Customの2モデルにアクティブ回路を採用し、標準機RD Standardはパッシブモデルでした。

当時のアクティブ回路は現代ほど小型化できず、大ぶりのRDのボディに対してなお、1弦側ホーン先端からボディエンドまで、そしてブリッジ後方までL字型にくり抜いてようやく収まるようなサイズでした。

アクティブ回路は、かのロバート・モーグ博士が設計

当時のギブソンはノーリン社の傘下にあり、グループ企業にはMOOG(モーグ)もありました。MOOGの創設者ロバート・モーグ博士はシンセサイザーを発明した人物で、このほか現代に通じる数々の功績があります。RDに搭載するアクティブ回路を設計したのが、このモーグ博士です。RDのために開発されたアクティブ回路は、切り替え可能なブライト・モードやトレブルとベースのブースト、コンプレッション、エクスパンションといった積極的なサウンドメイクを目的とした、当時としては画期的なものでした。

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しかしこのアクティブ回路で得られるサウンドはあまり評価されず、RD StandardとRD Customは1979年に、RD Artistは1982年に生産終了します。なお、RDの不振がボディ形状のせいだという考えからRD Artistのアクティブ回路をレスポールに埋め込んで1979年に発表されたLes Paul Artistも振るわず、1981年に終了します。

RDはじわじわと再評価されていった


In Flames – Riffs from the new album Siren Charms

RDに魅力を感じる声は常に一定数あり、ギターではニコラス・エンジェリン氏(In Flames/ The Hello Effect)、ベースではクリス・ノヴォセリック氏(Nirvana)が、愛用者として特に有名です。2000年代に入ってからはギブソンでも散発的かつ限定的にRDを再生産しており、特にロック系のアーティストに訴求するギターとして認知されていきました。しかしアクティブ回路が求められることはありませんでした。


以上、ギブソン・カスタムショップの新たなラインナップとして生まれ変わったRD Customについて、またその先祖であるRDシリーズについて見ていきました。これまでギブソンは常に時代を先行し、さまざまなモデルをアグレッシブに生み出しました。時代は常にギブソンの後れを取り、現在では王道のレスポールですら、一時期は不人気で生産終了の憂き目にあっています。そんなわけで満を持してレギュラー入りを果たしたRD Custom、ぜひ実際にチェックしてみてください。

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