《トラッドな最新兵器》Fender American Performer Telecaster

[記事公開日]2019/8/17 [最終更新日]2024/6/23
[編集者]神崎聡

アメリカン・パフォーマー・テレキャスター

フェンダー「アメリカン・パフォーマー」シリーズは、2019年初頭にフェンダーUSAの最も求めやすいグレードとして発表されました。これまで愛されてきた「アメリカン・スペシャル」を受け継ぐものですが、これまでのストラトキャスター/テレキャスターに加え、ジャズマスターとムスタングまでカバーする、豊富な製品群を構成しています。今回はその中から、テレキャスターをピックアップしてみましょう。


Dylan Mattheisen Introduces The American Performer Telecaster | American Performer Series | Fender
かなり変態的なプレイですが、この人にとってはコレが普通。アメリカン・パフォーマーはジャンボフレット採用なので、派手なテクニックが映えます。

American Performer Telecasterの特徴

数あるエレキギターの中からテレキャスターを選ぶ人は、特に旧式のスタイルを好む傾向があります。アメリカン・パフォーマー・テレキャスター(以下、パフォーマー・テレ)は、

  • 最新と旧式の両方が共存する設計
  • バンドでの使いやすさを強化した性能

が目立ったキャラクターで、ヴィンテージ・スタイルに最新の性能を加えています。各部の特徴を見て行きましょう。

ヘッドには各年代の面影が

American Performer Telecaster:ヘッド

パフォーマー・テレのヘッドは50年代、60年代、70年代の特徴を共存させた、フェンダーの歴史の上に立った意匠となっています。

  • ’70仕様:ヘッドロゴとモデル名のフォント、ヘッド側に開口したトラスロッド
  • ’60仕様:ストリングガイドが5弦ペグの位置に1個(70年代は2個)
  • ’50仕様:ヘッドロゴの色調(銀文字の黒い縁取りは、この時代の特徴「スパゲティ・ロゴ」のもの)

特に、「’70フォントで銀文字」がシリーズ共通の意匠で、分かる人はヘッドだけでアメリカン・パフォーマーだと判別できます。

現代的なスリムネックに、このシリーズだけのフレット

American Performer Telecaster:ネック

パフォーマー・テレのネックは、

  • フェンダーの標準的な仕様:弦長25.5″(648mm。フェンダースケール)、モダンCシェイプ、指板R9.5″(約240mm。フェンダー現代仕様)
  • 特徴的な仕様:ナット幅1.650″ (42 mm。ちょっとスリム)、ジャンボフレット

という仕様で構成されています。フェンダー標準仕様にナット幅とフレットをアレンジしたのがネックの特徴と言えるでしょう。

テレキャスターの「ナット幅42mm」は、ヴィンテージ・スタイルとしては標準、現代テレキャスターの中ではスリムな部類に入ります。0.5mm/0.8mmというわずかな差ではありますが、欧米人より小柄な我々日本人にとって「チョーキングで踏ん張れるか」、「6弦2フレットに親指が届くかどうか」がこの皮一枚の差で決まることがあります。

ナット幅 採用モデル
1.685″ (42.8 mm) American Elite、American Professional
1.675″ (42.5 mm) Made in Japan Hybrid(50s、60s)、Made in Japan Modern
1.650″ (42 mm) American Performer、American Original、Made in Japan Traditional、Made in Japan Hybrid(Deluxe)、MEX全般

表:フェンダー・テレキャスターのナット幅(レギュラーモデル)

また、ジャンボフレットを採用するレギュラーモデルは、このパフォーマー・テレだけです。フェンダーらしくないフレットという評もありますが、押弦と指技に有利で、これから上達していこうという人や、リードプレイが多い人には特にお勧めです。

ジャンボフレットについては、同シリーズのストラト記事で詳しく紹介しています。

《使いやすく、弾きやすい》Fender American Performer Stratocaster

これぞまさにテレキャスター、というボディ

American Performer Telecaster:ボディ

現代仕様のテレながら、ボディは伝統的なスタイルです。
「バックコンターなし、エルボーカットなし、ヒールカットなし」
という平面的なボディは、現代的な演奏性を否定しているようです。しかしそのゴツさこそがテレキャスターの矜持であり、今なお多くのギタリストに愛される重要な仕様です。

新ピックアップと、回しがいのあるトーン回路

このシリーズのために新たに開発されたピックアップは、フェンダーらしい音、テレキャスターらしい音をしっかり出しながら、「ポジションごとの音量差」を追求した設計です。標準的なテレキャスターなら、

  • リアに比べてフロントの音量がやたら小さい
  • フロントをハムバッカーにすると、こんどはリアが小さい

こういった悩みが付きまとうものです。しっかり歪ませてしまえば少々の音量差は気になりませんが、クリーン/クランチではかなり重大な課題です。これに対し、パフォーマー・テレではこの音量差をしっかり均一化することで、特にバンドアンサンブルで使いやすくなっています(構造など詳細は後述)。

トーンに「グリースバケット」回路が仕込まれるのは、アメリカン・パフォーマー・シリーズの標準仕様です。高域を絞りつつ、中域はしっかり残し、低域もうまいこと整えることで、甘く太い、かつ音抜けを維持したサウンドが得られます。

ヴィンテージ・スタイルのクールな金属部品

American Performer Telecaster:ペグ

ペグにはクルーソンタイプ、ブリッジにはブラス製3連サドルという仕様は、どこからどう見てもヴィンテージ・スタイルです。

ペグについては、ギア比を18:1(ツマミを18回まわしたら、軸が1回転する)に上げ、チューニング精度を向上させています。標準的なペグは14:1ですから、精度が3割ほどアップした計算です。そのかわり弦交換でツマミを回す回数も3割アップしますが、軸にスリットが入っているので外すのは一瞬です(なお、クルーソンタイプではありますが、パーツ寸法はロトマチックタイプを踏襲しています。ネジ穴以外は加工なしでロトマチックタイプへの交換が可能です)。

「ブラス製3連サドル」は旧式ながら、現代テレキャスターの人気仕様です。特にこのパフォーマー・テレでは「サドル高を調節するイモネジ」と「サドル位置を調節するネジ」に、あえてマイナスネジを採用しています。ヴィンテージ・スタイルの演出に拍車をかけ、好きな人をニヤっとさせる仕様です。

アメリカン・パフォーマー・テレキャスターのラインナップ

では、パフォーマー・テレのラインナップをチェックしていきましょう。定番のスタイルとハムバッカー搭載機の2タイプがリリースされています。

American Performer Telecaster

American Performer Telecaster

小さめフロントピックアップと大きめリアピックアップという組合わせの、定番スタイルのテレキャスターです。ピックアップ各ポジションの音量が整えてあり、特に歪み量の少ないセッティングでの使いやすさが強化されています。また現代仕様なので、ピックガードを外さなくてもフロントピックアップの高さ調節ができます。このフロントは、シェラックでポッティングしたこだわりの作りになっています。

カラーリングは新色「Penny(1セント硬貨の色)」、定番色「Vintage White」を含む4色で、ボディカラーに応じて指板材とピックガードのカラーリングが設定されています。


Fender American Performer Series Telecaster | Mason Stoops Demo
アメリカではカントリーミュージックの層が厚く、ロックやポップスではなかなか見られない謎の指弾きを見ることができます。ストレートに飛んでくる、パリパリとしたテレキャスターサウンドが気持ちいいですね。

American Performer Telecasterを…
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American Performer Telecaster HUM

American Performer Telecaster HUM

フロントピックアップに新開発の「ダブルタップ」ハムバッカーを備えた、強化版のテレキャスターです。トーンポットにスイッチが仕込まれており、引き上げるとコイルタップを起動、シングルコイルのサウンドが得られます。本来なら音量が半減するコイルタップですが、本機は秘密のレシピで作られており、コイルタップしてサウンドキャラクターを変化させても音量差は気になりません。

新色「Aubergine」は野菜のナスを意味する言葉ですが、アメリカ人の目にナスはこの色に見えるようです。やはりボディカラーに合わせ、指板材とピックガードのカラーリングが設定されています。


Fender American Performer Series Telecaster HS | Nicholas Veinoglou Demo
パフォーマー・テレのサウンドが確認できる動画ではありますが、演奏中にピックを右手に収納して指弾きに以降、またピックを取りだしてピック弾き、という見事な切り替えが見られるというオマケ付きです。ウマい人は、いろいろな演奏スタイルを身につけているものですね。

【徹底分析!】アメリカンパフォーマー・テレキャスターのピックアップ

パフォーマー・テレで新たに採用された「Yosemite(ヨセミテ)」および「Double Tap Humbucker」両ピックアップについて、もうちょっと突っ込んでチェックしておきましょう。

新開発「Yosemite」ピックアップ

「アメリカン・パフォーマー」シリーズの「Yosemite(ヨセミテ)」ピックアップは、世界的なピックアップメーカーでもあるフェンダーの心意気を発揮したニューモデルです。フェンダーの歴史的バックボーンを前提に、見た目は普通でも中身には新しいアイディアが注がれています。

開発には同社のピックアップ専門家、ティム・ショウ氏(ハムバッカーピックアップ「ショウバッカー」など、実績は多数)が担当、

  • アルニコIVマグネット(1960年代に、いろいろなメーカーが使っていた)
  • シェラックによるポッティング(1960年代にはフェンダーで実施していた)

この二つに注目しています。

アルニコIVマグネットはアルニコIIとアルニコVの間にある磁石で、「アルニコIIよりも鮮明で、アルニコVほどアタックが強くない」というバランスです。ティム・ショウ氏は「忠実度が高い」と判断したとのことで、「アメリカン・パフォーマー」シリーズでは、ピックアップのどれか一つ以上でアルニコIVが使われています。

「ポッティング」はピックアップを液に浸してコーティングする工程で、ハウリング対策として重視されます。現代の工法では「乾きが早く仕上がりが美しい」という理由でロウを使用していますが、古典的なシェラックの方がティム氏には「呼吸が多い」サウンドに聞こえるといいうことで、「アメリカン・パフォーマー」シリーズでは、一部を除いた全種類のピックアップがシェラックでポッティングされます。

シェラックとは

ラックカイガラムシ、およびその近縁の数種のカイガラムシの分泌する虫体被覆物を精製して得られる樹脂状の物質である。セラックとも。(Wikipediaより)

モデル名 磁石 ポッティング
Yosemite TELE(フロント) アルニコV シェラック
Yosemite TELE(リア) アルニコIV ロウ
Double Tap Humbucking アルニコIV ロウ

表:パフォーマー・テレのピックアップ一部仕様

そんなわけで、パフォーマー・テレに採用されているピックアップの磁石とポッティングは、このような分布になっています。さっき「一部を除いた」と述べたその一部とはまさに、テレキャスター用リアとダブルタップハムバッカーのことです。シェラックは美しい仕上がりになりにくいことから、ピックアップカバーを使用しないテレキャスター用リア、カバーを外すかもしれないハムバッカーには非採用と判断されたようです。

特許出願中「Double Tap Humbucking」

新開発「ダブルタップ」ハムバッカーも、Yosemite同様にティム・ショウ氏の仕事です。オーソドックスなハムバッカーサウンドを持ちながら、コイルタップすると本格的なシングルコイルのサウンドが得られます。ここまでは他社のハムバッカーと同じですが、ショウ氏はさらに、コイルタップした時の音量変化に注目、コイルタップしても音量変化が起きていないように聞こえる新しい設計を編み出しました。

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