ギブソン・レスポール・スペシャル徹底分析

[記事公開日]2022/8/8 [最終更新日]2024/8/22
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ギブソン・レスポール・スペシャル

1955年に発表された「Gibson Les Paul Special(ギブソン・レスポール・スペシャル)」は、前年デビューしたレスポール・ジュニアのアップグレード版として開発されました。入門機としてリリースされましたが、シンプルかつストレートな本体と音色が、特にロック系のアーティストに支持されています。P-90を2基というピックアップ構成もあって、ジャズ/フュージョン系のギタリストに起用されることもあります。今回はこの、レスポール・スペシャルに注目していきましょう。


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多重録音を駆使した壮大なハードコアの旗手。大ヒットとなったデビューシングル「天体観測」は、その後の音楽シーンに大きく影響しました。レスポール・スペシャルをトレードマークとする藤原基央氏は歌詞の評価も高く、このカルマではゲームのタイアップだったにもかかわらず「数えた足跡なぞ、気付けば数字でしかない」と強烈な皮肉を披露しています。

レスポール・スペシャルの特徴

レスポール・スペシャルは年式によりダブルカッタウェイ化したり、TOMブリッジが採用されたり、操作系を整理したりとマイナーチェンジを繰り返していますが、「マホガニー製ボディにマホガニー製ネックをセットイン、ローズウッド指板を貼り付けた本体に、P-90ピックアップを2基マウントしたギター」という特徴は一貫しています。マホガニーの個性が立った独特の音響特性があり、また軽量で価格も抑えられています。同じギブソンの他のギターと比較して、そのアイデンティティを探ってみましょう。

レスポール・スペシャルの歴史

レスポール・スペシャル・ダブルカッタウェイ

1954年に高級機レスポール・カスタムと共にデビューした入門機レスポール・ジュニアの売れ行きが好調となり、翌1955年にフロントピックアップを装備したアップグレード版として、レスポール・スペシャルはデビューします。1958年にはジュニアとともにダブルカッタウェイ仕様にモデルチェンジしますが、レスポール自体の売り上げ不振により、1960年に生産が終了します。その後1974年から再生産が始まり、時代に応じたアレンジを重ねて現在まで生産されています。

ダブルカッタウェイのレスポール・スペシャルはギタービルダーであるポール・リード・スミス氏のお気に入りで、後にギブソン/フェンダーと肩を並べるギターメーカーにまで成長を遂げるPRSギターの原型になっています。

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グレード的な立ち位置

レスポール・スペシャルは「スペシャル(特別)なジュニア」として開発されましたが、1958年の資料では、

  • $120:レスポール・ジュニア(TVイエローは10%アップ)
  • $179.5:レスポール・スペシャル(ジュニアのほぼ1.5倍)
  • $247.5:レスポール・スタンダード(ジュニアのほぼ2倍)
  • $375:レスポール・カスタム(ジュニアのほぼ3倍、スタンダードのほぼ1.5倍)

このような価格が付けられており、レスポール・ジュニアとレスポール・スタンダードの間を埋めるモデルとして開発されていたようです。

他モデルとの設計上の違い

レスポールスペシャル・SGスペシャル 左から、Les Paul Special、Les Paul Standard 50s P90、Les Paul Junior、SG Special。

ギブソンはボディ構造の違いでモデル展開するブランドです。同じP-90ピックアップを搭載する他モデルとの違いを探してみましょう。

レスポール・スタンダードとの違い

レスポール・スペシャルのボディは、レスポール・スタンダードのバック材をそのまま使用しています。そのぶんスタンダードより軽量で、価格も大幅に抑えられます。音響的には硬質なメイプルの個性が追加されない分だけ軽く、比較的柔らかなサウンドになります。スペシャル発表当時には、スタンダードも同じP-90ピックアップを備えていました(注:レスポール・スタンダードの呼び名は1958年からで、スペシャル発表時は単に「レスポール」と呼ばれていました)。

レスポール・ジュニアとの違い

lespaul-p90 左:ドッグイヤータイプのP-90、右:ソープバータイプのP-90

レスポール・ジュニアは、リアに「ドッグイヤー型」P-90ピックアップを1基搭載したギターです。レスポール・スペシャルがフロント/リアに備えるP-90は「ソープバー型」です。両者は電気的に同じ設計のピックアップですが、設置法に違いがあります。ドッグイヤーは「両耳」でボディトップにネジ留めされ、高さ調節ができません。これに対し、ソープバーは本体を貫くネジでピックアップキャビティ(孔)の底面にネジ留めされ、高さの調節ができます。

また、スペシャルはジュニアの上位グレードという立ち位置から、意匠にも違いが設けられます。

レスポール・ジュニアのヘッド レスポール・ジュニアのヘッド部(現行モデル)。Gibsonロゴはシルクスクリーン印刷で、ネックバインディングは非採用。開発当時のロッドカバーは黒1Pだった。

レスポール・スペシャルのヘッド レスポール・スペシャルのヘッド部。Gibsonロゴはパールインレイで、ネックバインディングあり。ロッドカバーは最初から黒白の2P。

SGスペシャルとの違い

レスポール・スペシャル/SGスペシャルのサイド 上がレスポール・スペシャル、下がSGスペシャル。一見して明らかに違いの分かる、「4:3」というボディ厚の比。ネックの仕込み角やストラップピンの位置などにも違いが見受けられる。

SGのボディ厚は約33ミリで、レスポール・スペシャルのボディ厚は約44ミリです。この厚みの差は重量感だけでなく、サウンドにも影響します。極薄ボディのSGは、ドライブサウンドととても相性の良い軽やかな響きを持っています。スペシャルのボディはSGに比べてやや肉厚となったぶん響きが引き締まり、クリーンやクランチで特に気持ちの良いサウンドが得られます。


リライト(live)/ASIAN KUNG-FU GENERATION
アジカンの後藤正文氏もスペシャルの使用率が多いギターボーカルです。後藤氏の制作するアニソンは、単独の楽曲としてもきちんと成立する格好良さがありながら、歌詞で原作の内容をきちんと踏襲しているところが神がかっています。

敢えて選ぶ、旧式の「バーブリッジ」

バーブリッジ 「真一文字」というシンプルな設計により弦ごとの微調整はできないが、全体の高さ調節と大まかなオクターブ調節までは可能。

オクターブ調整、おおまかな弦高調整、弦の張力の調整までを可能とした高機能ブリッジいわゆる「チューン・O・マチック(略称はTOM。正確には「ストップテールピース&チューン・O・マチック・ブリッジ)」がレス・ポールに採用された1956年(カスタムではデビューした1954年から)以降も、レスポール・ジュニアとレスポール・スペシャルでは伝統的なバーブリッジが採用されてきました。メーカーとしてはグレードの違いを明確にすると云う意向があったものと思われます。しかしこの1ピースのパーツでできているバーブリッジのシンプルな構造により、弦からボディへの振動伝達の効率がよく、ピュアな響きが得られると云うジュニア/スペシャルのキャラクターが立つ結果となりました。

Les Paul Junior Special P-90 ブリッジがチューン・O・マチックのラインナップもリリースされたことがある。

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レスポール・スペシャルのラインナップ

では、レスポール・スペシャルのラインナップを見ていきましょう。定番カラーのTVイエローは、白黒テレビで放映された時の見栄えの良さを計算した色調です。

Original Collection「Les Paul Special」

Les Paul Special

現代版のレスポール・スペシャルは、ヴィンテージモデルを作る「オリジナル・コレクション」に属し、名機の姿を可能な限りそのまま現代によみがえらせるほか、電気系がハンドワイアリングされます。ネックは50年代式の丸みと厚みのある握り心地になっており、白ボタンのクルーソンペグは軽量で、ヘッド落ちしません。

Les Paul Special (Cherry) シングルカッタウェイのチェリーは現行モデルのみで、カスタムショップでは生産されてない。

Custom Shop「1957 Les Paul Special」

1957 Les Paul Special 1957 Les Paul Special Single Cut Reissue VOS

ギブソン・カスタムショップからは、ヴィンテージ市場で人気の高い1957年式を正確に再現したモデルがリリースされています。マホガニー単板1枚板のボディ、肉厚なマホガニー1Pネック、インド産ローズウッド製指板が全てニカワで接続される徹底ぶりで、塗装面は経年変化を再現したVOS仕上げが施されます。

1957 Les Paul Special Single Cut TV Yellow Ultra Light Aged

エイジング専門の「マーフィー・ラボ」からリリースされる1957年式は、ほぼ新品のまま何十年も眠っていた感じのウルトラライトエイジド処理が施され、若干くすんだ色調に。パーツ類もイイ具合に育った感じをかもし出しており、ヴィンテージギターそのもののたたずまいになっています。

Custom Shop「1960 Les Paul Special Double Cut Reissue」

1960 Les Paul Special Double Cut Reissue

1960年式ダブルカッタウェイ仕様機は、TVイエローとチェリー・レッドの2色で展開しています。当時の仕様そのままの木材構成と工法は1957年式と同様ですが、こちらのネックは細身なスリムテーパーとなっており、テクニカルな演奏に向いています。なおモデル名に表示はありませんが、こちらも経年変化を模したVOS仕上げになっています。

Custom Shop「Les Paul Special Double Cut Figured Top」

左から、Bourbon Burst、Cobra Burst、Blue Burst。定番色を敢えて外した、新しい色調。

「レスポールスペシャル・ダブルカット・フィギュアドトップ」は、PRSを代表とするさまざまなギター開発の礎となったレスポール・スペシャルの歴史的な役割を踏まえ、「ギブソンが同じ事をしたらどんなギターができるか」の問いに応えた新しいギターです。
フラットなボディやピックガードのデザインなど、レスポール・スペシャルの基本設計の多くを引き継ぎつつも、フィギュアドメイプルあしらった美しいボディトップには3層のバインディングを巻き、アルニコIII使用のカスタムバッカーを2基マウントしたHH配列、グローヴァー社製ペグとTOMブリッジを採用した、ギブソンらしい高級機に仕上がっています。


以上、レスポール・スペシャルについてチェックしていきました。入門機という立ち位置ながらちょっと値の張るギターですが、シンプルな構造の楽器ならではのストレートかつ豊かな響き、そして独特の何とも言えない愛らしいルックスが、特にロック系のプレイヤーからの厚い支持を受けています。サウンドの幅も広い魅力的なギターですから、ぜひロック以外の音楽にも起用してみてください。

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