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《職人の手は、速い》フジゲン大町工場訪問インタビュー

フジゲン大町工場

フジゲン株式会社は1960年からギターの生産を続けており、多くのブランドのOEM生産を引き受けています。1983年には「エレキギターの年間生産量」で世界一になったこともあり、実績に裏打ちされた加工技術と製品の品質が世界的に評価されています。現在では自社ブランド「FUJIGEN(FGN)」も好調で、ネットでセミオーダーできる「ウェブオーダーシステム」を利用した注文が各地から寄せられます。

今回はその生産拠点である「フジゲン株式会社大町工場(長野県大町市)」を訪れ、MI事業部国内営業部課長の今福三郎(いまふくさぶろう)さんに、さまざまなことをお聞きしました。春休みもそろそろ終わる4月初旬というタイミングでしたがいまだに積雪があり、朝晩の冷え込みは氷点下に達するとのことです。


今福三郎(いまふくさぶろう)
フジゲン株式会社MI事業部国内営業部課長。営業としてOEMのクライアントとのやり取りを重ねる中、リリース予定のアコースティックギター開発や銘木を中心とした高級木材の仕入れなど、キャリアや人脈を活かしたいろいろな仕事を担当している。またカスタムショップの職人として、内外のアーティストに渡すギターを何本も製作した実績を持つ。

「フジゲン」ブランドのギターについて

フジゲン・スタジオ 案内された部屋は、バンド練習やサウンドチェックに使用するという新しいスタジオでした。フジゲンの製品がずらりと並んでいますが、ショールームではないため全モデルを網羅しているわけではないとのこと。

──宜しくお願いします。「フジゲン」ブランドでさまざまなモデルがリリースされていますが、どのモデルが人気でしょうか。

MI事業部国内営業部課長今福三郎(以下、今福) 宜しくお願いします。ウェブオーダーで言えば、スーパーストラトの「OS」が全体の80%ほどという割合で、圧倒的な人気です。

OS(Expert ODYSSEY) ウェブオーダー一番人気の「OS(Expert ODYSSEY)」。ウェブオーダーシステムでは木材やカラー、ピックアップ配列などを幅広く選択できます。オプションや特別仕様にも応じてくれるため、自由度の高さはかなりのものです。

レスポールを大幅にアレンジした「FL(Expert FLAME)」。基本的な仕様を受け継ぎながらも、演奏性を飛躍的に向上させています。ボディトップに銘木を使用したセットネック仕様なので、先述「Expert ODYSSEY」よりも高額になりますが、それでも20万円台。

重量感はあるが軽量でバランスも良く
22フレットまで簡単に手が届きます。

私は「FL」が大のお気に入りで、個人的にオーダーしようとも思っています。レスポールを弾いていた時期もあったんですが、重さと演奏性、重量バランスに不満を感じていました。「FL」はネックの仕込み角度を緩やかにすることで弦のテンション感を抑え、ヒールを滑らかにカットすることで最終フレットまでストレスなく使用できます。

「FL」の背面。強度を保ちつつ、滑らかな仕上げによって演奏性を向上させています。

ヒールカットを施すと弾きやすくなりすが、削れば削るほど「低音の明瞭度を損なう」というデメリットがあります。それに対処するため、ヒール部分の厚みを増やし、また深くジョイントすることで、遜色ない明瞭な低音を実現しています。個人的にはレスポールより良いとまで思っています。

ギターの「音」を決めるのは、ピックアップではないんです。ピックアップの仕事は「弦振動を拾う」ことだけで、その「弦振動をどうするか」が最も重要です。

SHARA(石原慎一郎氏。EARTHSHAKER所属)さんは、この「FL」を3本お持ちです。もともと70年代のギブソン・レスポール(重いことで有名)を使用なさっていたんですが、メインギターをいよいよ変更するというときにSHARAさんに向けて製作した「FL」をお見せして、「これを待っていた」というお言葉を頂きました。


「夕星の芒野と消ゆ」MV/EARTHSHAKER

円錐指板「円錐指板」の模式図。フジゲン公式サイトより引用

フジゲンブランドのギターには、どのモデルにも「サークルフレット(サークルフレッティングシステム)」が採用されています。いっぽう「円錐指板(コンパウンドラディアス指板)」は、ストレートヘッド(ヘッドに角度が付いていない、フェンダースタイルのヘッド)のギターにのみ採用されています。

円錐指板はもともと、指板Rのきついフェンダー的なギターのために開発されたものです。指板Rがきついギターは、ハイポジションでチョーキングした時に弦がビビりやすく、弦高を下げられません。しかしローポジションでの演奏性を考えると、きついRを捨てがたいわけです。いっぽう指板Rのゆるいギターではこの問題が起こらないので、円錐指板は採用していません。

ヘッドロゴの使い分けについて

──「フジゲン」ブランドのギターには「FGN」と「FUJIGEN」という二種類のロゴが使用されています。これはどういう使い分けなのでしょうか。

ヘッド「FGN」ロゴ

ヘッド「Fujigen」ロゴ

今福 あくまでも現在ではですが、カタログに載っているレギュラー生産などロットで生産するギターは、すべて「FGN」に統一しています。そして「FUJIGEN」のロゴは、「一本もの」の特別なギターに付けられます。ウェブオーダーのものも一本ものですから、「FUJIGEN」ロゴになっています。

特別仕様機 特殊ペイントが施された特別仕様機は、個性的なギターが立ち並ぶ中でも際立った存在感を放っています。

「ポリエステル」の面目躍如

──カタログを拝見すると、上位モデルにも「ポリエステル塗装」が採用されていると書かれています。ポリエステル塗装は、安いギターに向けたものではないのでしょうか。

今福 それは真逆で、塗料メーカーからするとポリエステルは「最高級の塗料」なんです。保護する能力は抜群で、高品質な仕上がりで値段が高く、設備にも費用がかかります。もちろん低価格な塗料を使うなどすると安いギターに使用できますが、弊社では最高級のポリエステルを最高の設備で使用しています。「ポリエステル」で、ひとくくりにすることはできません。

昔はラッカーしかなくて、家具でもギターでもラッカーが使用されていました。それからポリウレタン、ポリエステルの順に発明されていきましたが、塗料は今なお進化を続けています。

フジゲン本社工場長野県松本市にあるフジゲン本社工場では
カーパーツを作っています。

フジゲンはカーパーツの製造もやっていますが、こちらの分野ではとてつもない品質の仕上がりが求められますし、温度や湿度の変化に耐える高いレベルの「耐候性」が必須です。そんなわけで常に最新の塗料が導入されますが、ギターでも同じ塗装を採用しています。ギターのノウハウから始めたカーパーツですが、カーパーツのノウハウがギターに応用されてもいるんです。

とはいえポリエステルも「万能」というわけではありません。濃い色は良好に発色しますが、ポリエステル自体に色が付いていますから淡いカラーリングではポリウレタンを使用するなど、使い分けをしています。アコースティックギターでもポリウレタンです。

ELAN非売品

ELANボディ バールトップがやたらとかっこいい特別仕様の「ELAN(展示品につき非売品)」。クロアチア産のポプラバールをトップに使用しています。

低価格の理由は?

──フジゲンブランドのギターは、スペックの割に価格が抑えられています。どうしてこの価格が実現できるのでしょうか。また、製品の評判はいかがですか?

今福 工場直販なので中間業者が介在しませんから、他社よりも価格を下げることができます。しかしそれ以外にも、価格を下げる努力は常に怠りません。日本人の人件費は高いと言われますが、生産を効率化させるのにはいつも気を配っていて、効果を上げています。

8年ほど前に海外進出を果たしており、特にドイツを中心としたヨーロッパで確実にシェアを広げています。「フジゲン」は比較的求めやすい価格の「普及品」を得意としています。競合ブランドも多いですが、おかげさまで業績は右肩上がりです。いわゆる大手の「成熟したブランド」はなかなか業績を伸ばしにくいものですが、フジゲンはまだまだ延びしろがたっぷりあるブランドです。私は今年で定年ですが、若いスタッフたちには引き続きどんどん前進して欲しいと願っています。

Neo Classicシリーズのエレキギター 「Neo Classic(ネオ・クラシック)」シリーズとして、伝統的なスタイルのギターもリリースしています。品質と価格のバランスがよく、フェンダーやギブソンの対抗馬として評価を上げているのだとか。

新開発のアコギを触らせていただきました!

──主にエレキギターを生産していたフジゲンが、アコースティックギターを企画していますね。どんなものなのでしょうか。

フジゲン・アコースティックギター ナチュラルカラーのほうはプロトタイプです。

今福 アコースティックギターについては
・シトカスプルーストップ&ローズウッドサイド&バック
・シダートップ&アフリカンマホガニーサイド&バック
という2タイプを、ナチュラル/ホワイト/ブラックの3色で展開していきます。「サークルフレット」も標準仕様です。

アコースティックギターはこの40年というもの生産をしておらず、弊社が得意とする分野ではありません。しかし6~7年前に企画が立ち上がり、何度か試作を繰り返して現在の姿にたどり着きました。製品は工場で着々と生産しており、充分な台数になったら販売を開始する予定です。プロトタイプはピンを使用しないブリッジになっていますが、製品版は木製のブリッジピンを使用しています。

──かわいらしいボディシェイプです。スタンダードタイプではなく、いきなりオリジナルシェイプに行ったんですね!またマットなホワイトは木目が確認できるシースルーで、高級感があります。

今福 オーソドックスなスタイルには安心感がありますが、他社と違うことをしたいのでボディ形状はオリジナルです。他にも独自の設計をたくさん採用しています。

フジゲン・アコギ・ジョイント部分 ハイポジションの演奏性が考慮されているジョイント部。このような設計のアコギは見たことがありません。

フジゲン・アコギ・背面 アコースティックギターとしては大変珍しい、エッジ部にバインディングを持たない背面。

フジゲン・アコギ・ヘッド エレキギターラインナップの流れをくむ、フジゲンらしいヘッドシェイプ。ペグにはGOTOH製の「510」シリーズが採用されています。

今福 「エレキギターのメーカーがリリースするアコースティックギター」をテーマに開発しています。日頃アコギをメインで演奏している人よりも、エレキからアコギに持ち替えて演奏するという人をターゲットにしており、ハイポジションの演奏性が高いヒール形状にしています。L.B.バッグズの「アンセム」を取りつけたエレアコとして、\18万くらいで販売する予定です。エレキギターほどには生産を効率化しにくいため、作る手間は結構かかります。

──確かにこのネックのスリムな感触は、エレキギターのユーザーにとって馴染みやすいと思います。またピックでのメロディ弾きに、不思議な弾きやすさを感じます。チョーキングにもさほど無理がありません。普通にコードをかき鳴らすのも、アルペジオも弾きやすいですし、明瞭なサウンドは弾いていて心地よいです。適度なジャリ感のある音は、バンドアンサンブルでも使いやすそうですね。それにしても、世界的に有名なメーカーが満を持して発表するモデルとしては、かなり攻めた設計ですね!

「サークルフレッティングシステム」について

FUJIGENギターのフレット 「CFS(サークルフレッティングシステム)」を採用している「FL」の指板。ぱっと見ただけでは湾曲しているのが分かりませんが、凝視すると何となくわかります。

──フジゲンの十八番(おはこ)、「サークルフレット」を打ち込む様子は見せていただけますか?

今福 ここ大町工場では一般の方の工場見学も受け付けていますが、サークルフレットの打ち込みは会社の方針としてお見せできないことになっています。そうは言っても、フレットを受け止める溝を円弧状に彫り、その溝にフレットを馴染ませてからは、普通のフレッティングと同じ作業です。フジゲン直営店が窓口になっていますから、こちらにお送りいただければフレット交換ができますし、デタッチャブルネックのギターならブランドを問わず、サークルフレット仕様への改造もお引き受けしています。

サークルフレットについては、弊社は日米中で特許を取っています。しかしあと2年ほどで特許期間が満了となりますから、どの企業でもサークルフレットのギターを生産することができるようになります。

注:現在「ファンフレット(マルチスケール)」を採用しているギターが多く見られるのは、ファンフレットの特許期間が終了したからです。

今福 サークルフレット自体は、一般的なフレッティング技術があれば難しいことではありません。しかし円弧状の溝を掘るための設備には、かなりの費用がかかります。CNC(コンピュータ数値制御)ルータでも可能ですが、それでもコストがかさみます。弊社も初めはCNCで加工していましたが、あまりのコストから工作機械を開発したほどです。いかに特許の期限が切れるからといっても、高いコストを払ってまでフジゲンの後追いをしようなんて工場は、なかなか現れないと思いますよ。

──たとえばファンフレットを取り入れた「マルチスケール・サークルフレット」は可能なのでしょうか。

今福 それは無理というものです。

サークルフレットのコンセプトは、
・1弦から6弦まで、弦長を統一しよう
・弦とフレットを直角に交差させよう
という二つです。

フジゲン公式サイトより引用

ファンフレットは弦と直交しませんね。その意味でサークルフレットとマルチスケールは相反するコンセプトですから、たとえ技術的に可能だったとしても、わざわざやる意味はないと思いますよ。

次の世代に期待すること

──定年を控えているとのことですね。これまでどんなお仕事をしてきましたか?また、次の世代には何を期待しますか?

今福三郎:近影

今福 私はショップの立ち上げから運営、OEMクライアントへの営業、仕入れや開発やギター製作、内外のアーティストリレーションやらカタログ制作やら、それこそ経理以外は何でもやりました。

アーティストさんの依頼で、ギターの1~5弦、ベースの2~4弦を一本のネックに張って、ベースとギターが一度に弾ける「β(ベータ)」という楽器を作ったこともありました。

β(ベータ) フジゲン工場ブログより引用

アーティストにお渡しするギターを作る時は、アーティストさんの望む音を作らなければなりませんから、いつも大変でした。音源を聞いて、プレイスタイルもチェックして、とやっていくと「こういう音が欲しい」という像が分かってきます。それに加えて弾き心地に対する要求にも応じる必要がありますから、そのバランスをとるのには苦労しましたね。そのために弊社のレギュラーモデルやプロトタイプを弾いてもらって意見を伺って、というやりとりを重ねていくわけです。

しかしさすがにもうすぐ還暦ですから、若い人たちに譲っていこうと考えています。今は一人にあれもこれも、という態勢ではありませんが、それぞれの部署から若い世代が育ってきています。ギター製作についても、腕のいいのがカスタムハウスにいます。

会社組織は生き物ですから、人が出たり入ったりという「新陳代謝」がないと停滞してしまいます。一人がどーんと構えているのは、会社としては良くありません。私はこれまで何をするにしても、「フジゲン色」を出しても「今福色」は出さないようにしてきました。私の後を引き受けてくれる人たちにも、今後も「フジゲン」というブランドを高めていく努力を続けてほしいと願っています。

「ストラトのリアの音」や「テレキャスターのミックスの音」みたいな、音だけで分かる「素の音」ってあるじゃないですか。フジゲンのギターでそういう音を作って、「この楽器があったから、この音楽が生まれた」という結果を残せたら、そしてその音楽がたくさんの人の共感を得ることができたら、最高ですね。

──今後、どんな人に入社して欲しいと思いますか?

今福 一言で言うと「まじめな人」です。人の言うことをちゃんと聞いて、理解できる人がいいいです。また代案を出せるくらいの「自分の主張」を持っていてほしい半面、「協調性」も大事です。

OEMだからと言ってもクライアントさんと一緒になって作りますから、どの社員も自分の会社のギターのように思って作っています。もちろん他社のブランドですが、ひとたびフジゲン株式会社の生産ラインに入ったら、フジゲンだろうと他社ブランドだろうと、任されたポジションに対して責任を持ってしっかり仕事をしてくれます。しかし、手間をかけすぎて生産効率が上がらないのもいけません。そういう意味で、フジゲンの社員はまじめで手を抜かないし、それでいて効率よく働いて、望まれた品質をしっかり守ってくれます。

社内にも外注さんにも、私の知っている「職人」の中に、手が遅い人はいません。皆さん手が速く、そして恐ろしい水準の仕事をします。

今福三郎:笑顔

──退職されるのが、なんだかもったいないですね。会社が辞めさせてくれないのではないでしょうか。

今福 退職したら農業をやりたいな、って思っているんですけど、アドバイザーか何かで続投するかもしれませんね。


以上、フジゲン株式会社の今福さんにお話を伺いました。内外の有名アーティストが使用するギターを作ってきたという業績の中で、自分のカラーよりも「フジゲンのギターである」ということを重視したというお話に、工場に勤務するクラフトマンの「職人気質」を見た気がします。

さて次は、今福さんにフジゲン株式会社大町工場を案内して頂きます。