エレキギターの総合情報サイト
「1台でいろいろなことができる多機能なギター」と聞いて、あなたは何を想像するでしょうか。シングルコイルとハムバッカーの両方が使える?アーミングができる?まさか、エフェクター内蔵?いえいえ、もっとイロイロできてしまう画期的なギターが開発されました。そんなわけで今回は、「インテリジェント(頭が良い)ギター」を提唱するGTRS「S800」と「S801」に注目していきましょう。
GTRS Intelligent Guitar Commercial Video
アナウンスは英語ですが、ギター本体に夢の詰まったメカ的なものが埋まっていること、またスマホやタブレットとの連携で、とにかくギタリストの欲するたいがいのことができてしまうっぽい、ということが何となく伝わりますね。
「GTRS」は、このごろメキメキと頭角を現しているエフェクターブランド「MOORE(ムーア)」が新設した、ギター専門ブランドです。MOOREは革新的なテクノロジーと音色の柔軟性という哲学のもと、極小サイズのプリアンプ「Micro Preamp」シリーズやフロア型ギタープロセッサー「GE」シリーズなど、目の付けどころが違う製品群を低価格でリリースしています。約10年の歳月をかけ、同社はギター/アンプ/キャビネットをシミュレーションするための技術を磨き、製品に反映させてきました。低価格といえど第一線のプロミュージシャンに一軍起用される例があるなど、品質も高く評価されています。
「Mooer」のエフェクター一覧 – Supernice!エフェクター
長いギターの伝統を尊重しながら最新のオーディオテクノロジーを提供することを目指して、エレキギターの開発は2019年10月に開始されます。2021年初頭あたりからいろいろな情報が提供され、クラウドファンディングが注目を集めたこともあり、MOOREのプロデュースする新ブランド「GTRS」のギター第一号は発売前からギタリストの期待を高めています。
いろいろ細かく見ていく前に、GTRS「S800」と「S801」(以下、GTRS)でどんなことができるかをざっと並べてみましょう。「代わりに弾いてくれる」以外、ギターでやりたいたいがいのことができてしまいます。
従来のモデリングギターやデジタルギターとは、一線を画す多機能ぶりです。各種の機能を無線接続したスマホで一括管理できるというのですから、かなり便利ではないでしょうか。
GTRSはギタリストの練習環境と演奏環境を変え、そしてなにより機材持ち運びの手間を大きく軽減させる可能性があります。それぞれについて考えてみましょう。
ヘッドホンを使った練習では通常、ギターをアンプやエフェクターに挿し、ヘッドホンもそこに挿します。メトロノームやドラム音源に合わせて練習するなら、別にオーディオをつなげる必要があるかもしれません。しかしGTRSは、ヘッドホンをギターに直接つなげられ、これにスマホを加えるだけでメトロノームやドラム音源に合わせて練習できます。
この状態でアンプやエフェクターもがっつり利用できて、かついろいろなギターの音を切り替えて練習できることを考えると、準備と片付けの手間が恐ろしく軽減されます。ギター/エフェクター/アンプ/キャビネットの組み合わせを研究したり、ダウンロードしたセッティングをチェックして用例を勉強したりできるため、機材の使い方をしっかり身につけることも可能です。
GTRSは、ギター本体にエフェクターとアンプ&キャビネットシミュレーターを内蔵しています。よって、ギターから直接PAに挿してライブ演奏ができるため、機材のセッティングが秒で完了します。
アンプもエフェクターも置く必要がなくなり、ステージを広く使えます。またライブハウスに限らず結婚式場や集会場など、もともとギターアンプを置いていない会場であっても音響設備さえあれば、爆音でエレキギターを鳴らせます。
ギターとアンプ、エフェクターをまとめて持ち運ぶには、やはり自動車が必要になることでしょう。これに対してGTRSは、ギター本体を持っていくだけで必要な機材の一式をまとめて持ち運ぶことができます。専用のBluetoothフットスイッチもスリムなデザインで、ギグバッグのポケットにすっぽりと収まります。自転車や公共交通機関で、ライブ一本分の機材を気軽に持ち運べる、というわけです。
GTRS S800(ヴィンテージホワイト)
GTRSのギター本体は、オーソドックス感のあるSSHストラトとしてまとめられています。木材としては、ローステッドメイプル製ネックがポイントです。加熱処理によりネック本体の安定度が高まるとともに、乾いた感じのサウンドが得られます。サテンナチュラル塗装が施されており、サラサラの触感です。指板は、S800でローズウッドが、S801でローステッドメイプルが使用されます。ボディはクセ無く軽量なバスウッドです。ネックジョイント部は厚みが落とされており、ハイポジションの演奏性は良好です。
GTRSは、最大の特徴である「GTRSインテリジェント・プロセッサー」を起動しなくても、例え電池が切れていても、ふつうのSSHストラトとして使用することができます。
アルニコ磁石を使用したSSH配列のピックアップはスタンダードであること、また柔軟に音作りができることを目指して設計されています。5WAYセレクタースイッチ、1V1Tのコントロールノブといった電気系はパッシブ回路で、万が一の電池切れにもへこたれずに演奏を続行できます。
ペグは軽量かつトラディショナルなクルーソンタイプです。シンクロナイズド・トレモロユニットは現代的な2点支持タイプで、軽快な作動とチューニングの安定度に優れます。トラスロッドはネックの根元に開口しており、ホイールナットが付いているのでネックを外さなくても調整ができます。肉厚なギグバッグが付属し、ギターを安全に運搬できます。
写真中央の黒いノブが「スーパーノブ」で、これを押したり回したりすることでプリセット切り替えやマスターボリューム調整など、さまざまな操作を行います。スーパーノブを逆時計方向に回しきった状態が電源OFFの、ふつうのSSHストラトの状態です。これを時計方向に回すと電源が入り、回していくにつれて音量が上がります。起動中はアウトプットジャックにヘッドフォンを挿すことができ、この時スーパーノブはヘッドフォンの音量になります。
スーパーノブの色は、現在のエフェクターの状態を現しています。押すにつれて青、紫、オレンジ、水色の順に切り替わり、エフェクターも切り替わっていきます。設定次第でギターシミュレーターを起動することもでき、アプリかフットスイッチが接続されている状態であれば、長押しでチューナーが起動します。また電池残量がさびしくなってくると、ゆっくりとした点滅で知らせてくれます。
ボディエンド部に埋め込まれたメカ。左側が充電池、右側が最新のテクノロジーを詰めた「GTRSインテリジェント・プロセッサー」。
GTRS最大の特徴は、ボディエンド部に組み込まれた「GTRSインテリジェント・プロセッサー」です。電子制御の全てがここで行なわれます。こんどはこっちの特徴をチェックしていきましょう。
サウンドメイキングの全てが、スマホアプリで完結できる。
GTRSはこれまでにリリースされたMOOER社のオーディオアルゴリズムを継承しており、19種のオーバードライブ/ブースター、52種のアンプモデル、コンプレッサー、ノイズゲート、ワウ、15種のモジュレーション、6種のディレイ、5種のリヴァーブ、そしてルーパーという合計126種類のエフェクターを自由に組み合わせることができます。
プリセット(完成したサウンド)はABCDの4つを1組(バンク)として管理します。バンクは0から9まで10組あり、0Aから9Dまで最大40個のプリセットを保存できます。同一バンク内のプリセットはスーパーノブのプッシュで順番に呼び出せますが、専用Bluetoothフットスイッチがあれば1発で呼び出せます。
05 Effect chain editing
接続順だって、ちょちょいのちょいで入れ替えられます。
MOOREではギターの個性を記憶して、別のギターで再現してしまう「Tone Capture GTR」というエフェクターをリリースしています。GTRSには「ギターシミュレーション」としてそのテクノロジーが活かされており、’58レスポール、’52テレキャスター、60sストラトキャスター、アコギなど9本のギターをシミュレートできます。Shur(サー)やMUSICMAN JPといった、モダン系ハイエンドモデルまで収録されているのが面白いところです。発売前の段階ですが、今後のアップデートでギターシミュレーションの追加が予告されています。
ギターシミュレーションは5WAYセレクタースイッチの各ポジションに割り当てることができますから、リアに’58レスポールのハムバッカーサウンド、リア+センターに60sストラトキャスターのハーフトーン、なんていうウルトラ贅沢なセッティングが可能です。
アプリの操作で、スーパーノブをギターシミュレーション切り替え用に設定できます。この場合、スーパーノブをプッシュするごとにふつうのSSHストラトとギターシミュレーションを切り替えられます。
06 Guitar Simulation
ずらりと並んだ高級ギターを前に、むふふ、どれにしようかな、なんてことができるわけです。
中華ブランドの開発したアプリだが、英語表記に切り替えることができる。日本語設定もあるが、今のところこのようにところどころ英語表記になる。
スマートデバイス専用の無料アプリ「GTRS APP」は、GTRSを一括管理します。やることが変わるたびに、いちいちアプリを切り替えることはありません。GTRS APPでは、プリセットの作成と管理、ギターシミュレーションの設定、スーパーノブの機能選択、フットスイッチの設定、チューナー機能、コード辞書、メトロノームとドラムマシン、クラウドにアクセスしてプリセットのアップロードとダウンロードなどが可能です。
スリムなデザインで、ギターケースのポケットにラクラク収まる。
Bluetoothを利用したワイヤレスフットスイッチ「GWF4」があれば、より高いライブパフォーマンスができます。こちらの設定もアプリで行いますが、2種類の使い方ができます。
コントロールモード「1」
コントロールモード「1」は、出荷時のセッティングです。4つのフットスイッチがABCDの各プリセットを呼び出し、ABやCDの同時押しでバンクを順番に切り替えます。
コントロールモード「2」
コントロールモード「2」は、フットスイッチAとBで0Aから9Dまでの全プリセットを順番に呼び出し、CとDにTAPやチューナー起動などいろいろな機能を割り当てることができます。
「S800」はローズ指板のSSHストラトタイプで、ヴィンテージホワイト、シェルピンク、サーフグリーン、ソニックブルーの4色で展開しています。執筆時点で公式サイトに表示はありませんが、ローステッドメイプル指板仕様の「S801」も、同様の4色展開をするようです。
以上、ギタリストがやりたいことの全てを1台で実現させてしまう驚愕のインテリジェントギター、GTRS「S800」と「S801」を見ていきました。ちゃんとしたギター本体にここまでの機能を詰め込んで、どれだけのお値段になるのかという話ですが、7万円近辺という価格設定です。ギター、ギターシミュレーター、エフェクター、アンプシミュレーターをまとめて調達することを思うと、驚くべき値付けだと言えるでしょう。発売前にしてさまざまな動画が公開されていますから、いろいろチェックしてみてください。
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