エレキギターの総合情報サイト
「理想のギターを手に入れたい!」
「メイン機に満足してはいるけど、もう一歩、自分の好みに近づけたギターを手に入れてみたい!」
なんて考えたことはありませんか?もしくはそこまでいかないまでも、
「この色でリリースしてくれないかなぁ」
「左用が売っていないんだよなぁ」
こんな感じに市販のラインナップに不満を抱いたことはないでしょうか。今回は、そういう想いや悩みに答えを出す「ギターのオーダーメイド」のお話です。「高そうだし、自分には縁がない」と考える人も多いでしょう。しかし、オーダーだから値上げするなんてことはありません。セールなど値引きがないだけで、正当な価格で希望通りのギターを手に入れることができるのです。
そんなわけで今回の記事では、スギギターズ(Sugi Guitars)でエレキギターをオーダーメイドする模様をご紹介します。まずは「打ち合わせ編」として、どんな感じに打ち合わせするかを見て行きましょう。どの工房でも本記事と同じようにオーダーするわけではありませんが、オーダーに興味がある人はぜひ参考にしてみてください。
「スギギターズ」は、長野県松本市にて2002年創業、オリジナルのハイエンドモデルを手作りしている会社です。創業者の杉本眞(すぎもと・まこと)御大は、内外でキャリアを積み上げた「ギターレジェンド」として知られています。
スギギターズでは、基本モデルから仕様変更する「カスタムオーダー」を受け付けています。「フルオーダー」を受けることは、今のところありません。この二つの注文方法については、何となく知っておきましょう。
- カスタム(custom):注文の、特注の(形容詞)
- カスタマイズ(customize):注文に応じて作る(他動詞)
「ギターをカスタマイズする」など、ついつい「改造」みたいなニュアンスで使っちゃう「カスタム」ですが、英語にその意味はなく、欧米人には通じないので注意が必要です。
スギギターズでは、木材構成、本体のカラーリング、ヘッド角、パーツカラーなどがカスタムできます。具体的にどんなことができるかは、WEBカタログで公開されています(英語)。
メーカーごとに呼び方は違いますが、オーダーには大きく2種類あります。
カスタムオーダー | カスタムメイド、セミオーダー、単にカスタムとも。メーカーの基本モデルに対して、木材やカラーやパーツなど部分的な仕様を選択する。選択肢の全てが想定されているため、オーダーごとに図面を引くことはない。 |
フルオーダー | 今までにないボディ形状や特殊な弦長など、根本的にまったく新しいギターを注文する。そのためほとんどの場合、設計図から作成する。 |
表:2種類のオーダー比較
カスタムオーダーは製品化したギターが出発点なので、「完成品をイメージしやすい」のがメリットです。またいちいち設計や開発をやり直す必要がほぼなく、「ギターの値段だけで手に入れることができる」のもメリットです。
いっぽうフルオーダーは、多くの場合「設計図から新たに作成する」ことになります。ここで作成した設計図は他へ使いまわすことができず、メーカーは設計費をオーダーギター1本の売り上げで回収することになります。フルオーダーでは、「ギター本体の価格に設計費が上乗せ」され、必然的に高額になるという覚悟が必要です。
ついにその時を迎えました。前回の取材と同じ応接室に案内され、社長の杉本眞(すぎもと・まこと)さん、国内販売 マネージャーの丸野内哲平(まるのうち・てっぺい)さんに応対していただきました(以下、敬称略)。
日本のギターレジェンド杉本眞御大と、オーダー主さん(手前)。杉本御大はその偉大な功績とは裏腹に、とても気さくにお話させてくれます。この人柄に惚れてオーダーを決めた、という人も多いようです。
白紙のオーダーシート。打ち合わせで空欄を埋めていき、注文内容を確定させます。「もちろんこれがこのギターの全てではありません。全部書こうと思ったら、A3用紙が細かい字で埋まってしまいます。そこから変更できるところを抜き出してまとめたのが、このオーダーシートなんです。ちゃんとした基本のモデルがあって初めて、このようなシンプルなオーダーシートが活きてきます(杉本御大談)。」
オーダーシートを埋めて、注文の内容を確定させるのが打ち合わせの目的です。「好きなことを書いて提出したら終わりじゃないの?」とはいきません。注文通りなのに「思っていたのと違う」なんてこともないわけではないんです。内容の確認は、ひじょうに大切なプロセスです。
スギギターズでは担当者がオーダー主(ぬし)と対面で打ち合わせを行い、
を確認します。担当者は時に専門家の立場からアドバイスを出し、注文内容の再検討を提案することがあります。
何しろオーダー主の思いがこもった注文だし、高い買い物です。こだわりの少ない注文なら打ち合わせも短くなるそうですが、スギギターズの場合
ここまでやりますから、1時間程度かかるようです。
丸野内:オーダー会ではだいたい1時間で区切らせていただいています。これをですね、販売店さんと商談する時には4店舗15本なんて規模でやるので、丸一日がかりの大変な作業になるんです。
打ち合わせが始まりました。オーダー主さんのリクエストをヒアリングして、オーダーシートの空欄を埋めていきます。確認、確認、確認。次々と行なわれる確認作業ですが、ここではその内容をかいつまんで見て行きましょう。
「どのモデルを出発点にカスタマイズするか?」
本当に「そもそも」の部分から確認していきます。今回は、
というリクエストだったので、「DSF496L」が基本モデルとなりました。一見するとFホールがある以外は定番機種「DS496」と同じですが、いろいろなところに違いがあるので別モデルという扱いです。
左:DS496
緩やかなアーチを描くボディトップ。ソリッドボディ。「ホロウチャンバー」仕様では、ボディに小穴をたくさん空けて、トップ材で塞ぐ。バックコンターあり。右:DSF496
フラットなボディトップにFホールが付く。大きな穴をあけてセミホロウ化する。バックコンターはなく、そのかわり脇腹部分を丸く整える。
DSF496のボディ写真
ギターではたいへん重要な木材構成。今回は、
という注文内容です。
また、DSF496を基本としながらも「よりヘヴィな音への可能性」を求め、指板をエボニー、ボディをアフリカンマホガニーにというリクエストがありました。これについて杉本御大からは「ヘヴィに行くならホロウ構造では難しいのではないか」という指摘がありましたが、「フロントピックアップでジャズ的な音を出したい」という考えもあったので、このまま採用となりました。
杉本:ヘヴィとホロウってのは相反するものです。Fホールが付くとサウンドは軽くなりますから、ヘヴィに行けるかどうかは難しいと思います。メタルを重視するなら、重たいマホガニーでソリッドボディがいいですよ。でも、オーダー主さんはアルダーボディDSFの音を体験しているので、大丈夫だと思います。
丸野内:お客様の要望に対して、こちらとしては相反する仕様だと思われるものについては、じゃあどこに落とし込んでいけば良いのか、打ち合わせでしっかり相談するわけです。「どうやって共存させるか」という考え方もあるし、「どっちを重視して、どこに寄せていくのか」という考え方もあります。
スギギターズでは、弦長をヘッドの角度に応じて設定しています。
ヘッド角なし(ヘッドとネックが平行) | 弦長はロングスケール(フェンダースケール) |
ヘッド角あり(10度と18度が選べる) | 弦長はミディアムスケール(ギブソンスケール) |
表:スギギターズにおける、ヘッドと弦長の関係
「そうじゃない組み合わせを試してみたい」と考えるのは、自然なことではないでしょうか。オーダー主さんは「ヘッド角ありのネックでロングスケール」にできないか訊いてみたのですが、それはできないとのことでした。
丸野内:技術的には可能なんですが、前例がないためお受けできません。ヘッドに角度がついて、弦長が伸びて、ということだと弦長力は「増し増し」になります。その増し増しがイメージ通りになるのかならないのか、検証していない私たちにはお答えできないんです。弊社としては、検証が済んだ仕様のものを、責任をもってお客様にお出しするというスタンスです。高いお金をいただいておいて出たとこ勝負、という商売はできません。
杉本:現在のラインナップはシェイプを変更せずにずっとやってきているので、ここを替えたらこうなるだろう、という想像がつくんです。ですから荒びた音が欲しいとか、レゾナンスが欲しいとか、そういった要望に対してはお答えできます。しかし、ボディシェイプひとつとっても、ちょっとでも変更したら設計はイチからやり直しなんです。お客さんでギャンブルはできないんですよ。
ピックアップ配列はSSHやHHなど、一般的なものが選択できます。今回は「フロントがジャズ、リアでメタル」というコンセプトで、
という注文です。
丸野内:弊社は「この仕様なら、こうなります!」とは会社の姿勢として断言できませんが、「Fホールありで、ヘヴィ方向にどこまでいけるんだろう」っていうのは楽しみなところですよね。
ちなみに弊社のピックアップでは、「カバードとオープンは別モデル」という扱いです。カバーを取り付ける前提で含侵(がんしん)したり調整したりするなど、それぞれ違った工程を経ているんです。
どんなブリッジを載せるのか、パーツカラーは何を選ぶか。スギギターズではGOTOH製を使用しており、機能に心配はありません。ブラックもかっこ良かったんですが、ここでは「CK(コスモブラック)」に決まりました。
これはベース用のブリッジですが、パーツカラーの確認には実物を目の前にするのが一番です。
左:GOTOH 510TS-SF1、右:Wilkinson VG300。こちらは右用のブリッジ。左用のパーツはメーカーへの在庫確認が必須です。
ペグにもいろいろな色調が。GOTOHのブラックは最近復活したものなのだとか。
杉本:80年代ののブラックパーツは「ジンク」って言って、亜鉛を使った緑がかった黒だったんです。やがてそれが環境に悪いとのことで使えなくなり、しばらくGOTOHのラインナップからブラックは消えていました。現在のブラックパーツは本当にきれいに真っ黒です。
オーダーシートには
というように、大変細かいところまで注文できるようです。しかし細部の仕様はスギギターズの判断にお任せして、ようやく仕様の確認作業が終了し、オーダーシートが埋まりました。
丸野内:木材の選択や仕様による「傾向」はあります。しかしこれに「木材の個性」が加わりますから、結果としてどんなギターになるかは「できてからのお楽しみ」という要素を大いに含んでいて、これがオーダーのだいご味でもあります。
だからサウンドを確認したいのなら、実は完成品をチェックして気に入ったものを選ぶのが一番なんです。今回は左利きで十分な選択肢がないがゆえに頂いたオーダーなんですが、それでも「自分のイメージに対して、結果的にどんなギターができてくるか」を楽しんでいただけると幸いです。
杉本:スギギターズとして胸を張ってお出しできる、楽器として音楽に使えるギターを、私たちは作ります。しかし、完全にイメージどおりの音が出るかどうかまでは調整できません。アベレージは把握していますが、深く突っ込んだディテールまでは、神のみぞ知るところです。
スギギターズ自慢の木材倉庫。「この部屋に入り、オーダーしなかった人はいない」という言い伝えがある、通称「魔性の部屋」。
トップ材とカラーリング、しっかり選びたいところです。スギギターズではサイトにトップ材そのものの写真を掲載しており、販売店でのオーダーではそこから選べます。オーダー会には実際の木材が持ち込まれるので、実物を見て選べます。いろいろ見て行くうち、最初の想定と違うものに着地する人も多いのだとか。
今回は取材でもあるということで特別に、工場の木材倉庫に入らせていただきました。基本的には販売店スタッフを伴う打ち合わせ、「ファクトリーツアー」の特典など、販売店を通してのみ来場できます。
何とも美しいバール柄。予想を越える木材ばかりです。
スギギターズ公式サイトで確認できるトップ材も、こちらに保管しています。
とてもハッキリした杢の、ひじょうにグレードの高いフレイムメイプル。
こりゃ何ともかっこいい。しかし両サイドにシミが出てますが?
杉本:テンプレートを当てると完成品がイメージしやすいですね。両側のシミは、強い色を付けると消えてしまいます。このフレイム柄は深くて、かっこいいですね。
こちらはカラーサンプル。「全く同じものはできませんが、塗装のイメージを持って頂けると思います。一部はがしてありますから、だいたいどんな厚さの塗装膜なのかもわかります。(丸野内談)」
今回は「BSBK(シースルーブラック)」が希望ですが、「じゃあ、どんなBSBKなのか?」を木材の選択で突き詰める、というのがスギギターズのやり方です。
杉本:黒い色をしっかり出すのか、杢の陰影を出したいのかですね。陰影を出すなら、色が淡いところには木材の色が出ます。
丸野内:トップ材にまったく同じものはありません。同じ塗料で同じように塗っても、木材によって見え方が変わってきます。「これと同じものを」というオーダーも頂くんですが、なかなか難しいんです。ですから「材料が違うので、同じ塗料で同じ手法で塗装しても、まったく同じ色にはなりません。似た色でご了承ください」とお伝えしています。
いろいろ見て行くうちに、やはり予定外の木材に着地しました。どんな木材かというと…?
こ、これは…?何メイプルと呼べばいいのでしょうか?
杉本:こんなのはどうですか?入ってきたばかりの「エキゾチックメイプル(EM)」のなかでも、特別な「EMプレミアム」です。特別な材なのでコストに響きますが、バール柄も入っていて、濃淡がしっかり出ます。
こりゃまた何とも素晴らしい!!
杉本:この材なら、淡い色から濃い色まで、どんな色でもかっこよく仕上がります。
以上で全ての仕様が確定しました。しばらくの待ち時間を経て、見積りが出ます。オーダー主さんはそれを確認し、支払方法についての説明を受けます。
意向がしっかり反映された打ち合わせでしたが、実際のサウンドはできてからのお楽しみ。予想外のトップ材に出会ったことで、誰も見たことのない左用DSFが作られます。1月末ころ完成予定とのことです。さて、どんなギターが出来上がるか、楽しみですね!
スギギターズにおけるオーダーのポイントをまとめてみました。
これはあくまでスギギターズの例であって、メーカーごとに違いはあります。しかしオーダーシートを作成して依頼する、というところはどこでも同じようです。
今回は、メーカー側の提案により想定外のトップ材に出会うことができました。対面で打ち合わせることで、構想の範囲を越えるギターがオーダーできたわけです。また「ヘヴィとホロウは相反する」という指摘に対して「でもやはりジャズっぽい音が欲しいからホロウで」というように、当初の構想そこ変えませんでしたが、これから作るギターに対して想いを新たに、また深くする場面もありました。こういうところに「メーカーと一緒にギターを作る」ことの面白さが感じられます。
また「オーダーだからといって、全ての想いがかなうわけではない」、ということもわかりました。「できてからのお楽しみ」を楽しんでいきましょう。この件に関し、「サウンドを確認したいのなら、実は完成品をチェックして気に入ったものを選ぶのが一番」という意外なコメントが印象的でした。「ギターの完成を楽しみにできる、信頼できるメーカーや職人さんにオーダーする」というのが、オーダーメイドの真髄なのかもしれません。
オーダーできる国内メーカーのギターは、楽器店や各種展示会などで試奏できます。展示会などイベントにはメーカーのスタッフが出張することも多いですから、気になっている人は足を運んでみてください。
「《オーダーメイド体験》Sugi Guitarsにギターをオーダーする」前編はここまでです。後編では実際にどんなギターが出来上がったのか、完成品をチェックして、オーダー主さんにギターのレビューをしてもらいます。オーダーメイド後編記事をお楽しみに!
《オーダーメイド体験》Sugi Guitarsにギターをオーダーする:後編
Sugi Guitarsを…
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