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フジゲン株式会社の工場は松本市の本社工場(カーパーツ製造)、大町工場(ギター製造)のほか安曇工場(オルゴール、和太鼓、そば道具)があるなど、長野県各地に点在しています。長野県大町市は本社のある松本市から車で1時間ほどのところで、雄大な山に囲まれた自然豊かな地域です。
──敷地の広い、とても大きな工場ですね!フジゲンは、この大町工場で生産を完結しているのでしょうか。
今福 弊社の生産体制は、ここ大町工場と多くの協力会社さんで成り立っています。北海道の協力会社はもともと木材を取り扱う業者で、40年ほどのお付き合いがあります。現在では木材の乾燥/管理、ボディの木工、レギュラーモデルのボディ塗装を行っており、できたものが毎日のようにこちらに運ばれます。大町工場ではネックの加工、箱モノやセットネック仕様など上位モデルの塗装、そして配線や組み込みなどのセットアップを行い、出荷しています。
北海道と大町工場が主な生産拠点で、ほかにフレットの打ち込みやサンディング(磨き)などを、専門業者に「外注」しています。これら外注さんはフジゲンの仕事を受注するための業者でして、弊社の依頼のみ受注しています。このようにいくつかの会社が集まって「企業グループ」を形成し、一つの大きな会社のようなかたちでギターを作っています。
こうした「企業グループ」で生産する体制は楽器製造業ではフジゲン独特のもので、アメリカなどでは「外注」という概念すらありません。たしかにトム・アンダーソンやサドウスキーなどいわゆる「コンポーネントギター」は、パーツ製造や塗装などの工程を専門業者に依頼しています。でもその専門業者は他の会社の注文も受けますから、こちらの感覚では「得意先」と呼んで区別するべきものです。
お客様と工場とをつなぐ窓口になっている「フジゲンカスタムハウス(フジゲンブランド直営店。東京都)」の立ち上げは、私が主導しました。初めはなかなか売り上げが上がらなくて悩むこともありましたが、いろいろなギターを軽快に作れることもあって、あれこれと策を講じることができました。工場を一般公開するのもその一環で、「フジゲンのファンを増やそう」を目標に、現在では月二回の工場見学を受け付けています。専門学校や地元の小中学校の生徒さん達が見に来ることもあり、夏休みなどは見学者でにぎわいますよ。
今福 「ファクトリーハウス」は、木材の乾燥に使っていたボイラー室を改装しています。扉には弊社の「FL」を模したステンドグラスが付けられていますね。
商談やミーティングを行うスペースとして主に使用しますが、特別な銘木を保管する施設でもあり、木材を実際に見ながらオーダーの打ち合わせをするということもあります。
初期の製品を展示しています。置いてあるだけなので音が出るかどうかは分かりませんが、現代よりも発想が自由ですね。
ウェブオーダーで使用するボディ材も、ここに保管しています。一般のお客様の中にも、ここまでいらして木材を選ばれる方がいらっしゃいますよ。
これは「4A」グレードのメイプルで、ショップオーダーやOEM生産で使用します。
「5A」やそれ以上の「超」銘木は、自社ブランドで使用します。弊社は木材を仕入れる量が、圧倒的に多いんです。しかも「いいとこ取り」では買わず、木材業者の提示する条件をほぼそのまま受け入れますから、「良い木材が入荷した」という話を優先的に頂くことができます。
──カーパーツで使用する木材も、同じなのでしょうか?
今福 カーパーツの木材は曲面に貼ることのできる0.2mm厚ですから、楽器用とは別で仕入れています。ちなみにギターに使う付き板は0.6mm厚です。
最近流行している「バール材」ですが、このような分厚い状態で仕入れました。このままではそれほどでもないように見えますが、溶剤を塗ると化けるんですよ。
──うわ!すごいですね!
今福 「ハカ」と書いてありますね。これはハカランダです。
これも「ハカ」ですが、人間の身長より長い「フリッチ材」です。業者さんが70年代に仕入れたものが最近まで眠っていたものですが、これほどのサイズのハカランダは、現在では入手できないでしょうね。指板なら100枚ぶんくらいですが、これをギターに使用する予定はなく、今のところは「見せびらかすための木材」です(笑)。
──こんなものがあるなんて、公表しても大丈夫なんでしょうか。泥棒に入られませんか?
今福 ここは工場ですから、セキュリティは万全です。たまに解除するのを忘れて、警備員に駆け込まれます(笑)。
今福 社員の発案で、端材を利用したいろいろなグッズを作っています。
──贈り物やお土産ににぴったりですね!
今福 イベントなどで販売していますが、なかなか好評です。こうしたグッズの売り上げは、すべて発案した社員のものになります。こうしたものを自主的にプロデュースして商売になれば、それだけ技術が身につきます。会社としても嬉しいわけです。
ポール・ギルバートさんのサインは、東京のカスタムハウスにいらしたときに書いていただいたものです。なぜかテレキャスターのボディですが(笑)。
では、次へ行きましょう。
今福 ここは3、000m級の雪深い山に囲まれています。朝焼けを浴びると真赤になって、とても綺麗なんですよ。しかし山のおかげで日没が早く、真冬なら15時で氷点下になります。寒さで極端に乾燥しますから、木材の管理には気を使わなければなりません。
木材倉庫に向かいます。フォークリフトのタイヤにチェーンが巻かれているのは、寒さの厳しいこの地域ならではですね。
──さすがにでかい倉庫ですね!端が青く塗ってあるのにはどんな意味があるんでしょうか。
今福 青いペイントには、割れ防止などいろいろな意味があります。海外から取り寄せる木材は、コンテナで仕入れます。コンテナ一台分のボディ材で、だいたい3,000~4,000台のギターを作れますね。一度に大量に仕入れることで、効率が良くなります。
今福 木材倉庫では主にOEMやレギュラー生産向けの木材を保管していますが、中にはこんなものもあります。カスタムハウスモデル向けの、アクアティンバー(水中で長期間眠っていた、とても状態の良い木材)のホンジュラスマホガニーです。
こちらは同じアクアティンバーの、メイプル材です。ネック用に木取られていますね。
杢の入ったハワイアンコアは、何年も前から探していたものです。もう手に入れられないと思いましたから、清水の舞台から跳び降りる覚悟で全部仕入れました。
無垢のスプルースは、フジゲンブランドのテレキャスタータイプでボディに使用します。ブックマッチのように見えますが「スリップ」と言って、倍の長さの木材を二等分した組み合わせです。同じ番号同士を貼り合わせ、2Pボディを作ります。
こちらはホンジュラスマホガニーのネック材です。木材業者さんの条件を呑んで大量に仕入れますから、大きなものも小さなものもあって重さもそれぞれですが、選別して分類しています。大きなものからは、同じ木材からダブルネックが作れます。
ファクトリーハウスにもあった、バックアイバールの山です。サンディエゴ産のトチノキですね。
では次に、ネックの加工場へ行きましょう。
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