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サドルを交換したレフティ・ジャガー。交換によって弦落ちはほぼ無くなる
フェンダー・ジャガーとフェンダー・ジャズマスターに共通して搭載される「フローティング・トレモロ」システムは、両モデルの象徴的なパーツです。アームの動きに連動してブリッジを前後させることで滑らかなアーミングを実現している高性能なパーツではありますが、多くのユーザーが「弦落ち」に悩まされると言います。
フェンダー・メイドインジャパン・ジャガーのブリッジ。溝が浅く弦が外れやすい
「弦落ち」とは、「演奏時に弦がサドルから外れてしまうこと」です。ジャガー/ジャズマスター本来のサドルは、円柱にネジの溝を切って作ります。ネジの溝が浅いのに加え、サドルからボディエンドに向かう弦の角度が緩やかなので、弦をサドルに押し付ける力が他のギターに比べて弱くなっています。ジャガーの場合ネックがショートスケールなので、よけいに弱くなります。ですから思いっきりコードを掻き鳴らしたり、力いっぱいチョーキングをしたりするときに弦がサドルの溝から外れてしまうことがあるのです。最悪の場合にはサドルそのものから弦が外れてしまうこともあり、演奏が続行できなくなってしまいます。
「弦落ち」はソフトなプレイを心がけていれば未然に防ぐことができますが、ビビって弱気にしか弾けないのはロックではありませんよね。やはり思い切りガーン!と弾きたいけど、そうすると「弦落ち」してしまいます。「弦落ち」はジャガー/ジャズマスターを愛用する者の「宿命」なのでしょうか。
この「弦落ち」しやすい構造は設計ミスなのか?というと、決してそうではありません。このジャガー/ジャズマスターがデビューした60年代には、エレキギターの弦は現在のものよりもずっと太くて(1弦が0.12″からのゲージが当たり前でした)張力が強く、またブリッジの位置を高くしてアコギ並に弦高を高くするのが普通でした。サドルには、弦を押しつける力が十分に働いていたわけです。現代では昔に比べれば細い弦が主に用いられ、低い弦高が好まれるのが普通ですから、ジャガー/ジャズマスターにとっては弦の張力が不足しがちになります。両モデルが「弦落ち」しやすいというのは、あくまでも現代の常識的なセッティングだからなのです。
ならば、当時の設計そのままのジャガー/ジャズマスターを、現代のセッティングに対応できるようにセットアップし直せばいいのです。「弦落ち」の危険を気にしながらでは、樂しく演奏できません。どんな改造を施したら「弦落ち」しなくなるのでしょうか。多くの人々が、この問題に取り組んできました。その結果、現在では「弦落ち」に悩まされることのなくなる「定番の改造法」がいくつか発明されています。
ジャガー/ジャズマスターを愛用してきた先人たちは、どのような知恵で「弦落ち」を乗り切ってきたのでしょうか。定番となっている対処法を見ていきましょう。
ジャガーのブリッジをムスタング用ブリッジ「Montreux MG Bridge set No.8381」に交換した様子。これで溝にしっかりと弦が噛んでいるため、弦落ちしにくい。
「サドル交換」は、「弦落ち」対策の定番中の定番です。ネジの溝が切ってあるだけのサドルを外し、しっかりと溝が刻まれているサドルに交換します。
「ブリッジのサドルをムスタング用に交換」するのが、現在最も有名な改造法です。フェンダー・ムスタングのサドルは溝が深く、弦落ちしにくくなっています。その上ジャガー/ジャズマスターのサドルと同じ規格で作られているので、とくにこれといった大きな工事をすることなく交換することができるのです。
ただし、ムスタングのサドルは高さの調節ができないので、弦ごとにシビアな高さ調節を施すことはできません。現在フェンダーの純正パーツは販売されていないようですが、その代わりいろいろな会社からリリースされています。高さ調節の機能を持たせないものもあれば、高さが調節できるようにアレンジを施しているものもあります。
「オールパーツ・ジャパン」のムスタング用サドルセットはストラトキャスターやテレキャスターのサドルのように2本のイモネジが付けられているため、弦高調節ができるようになっています。同社からは普通のサドルを備えたムスタングのブリッジ「MG BRIDGE SET」もリリースされており、多くのジャガー/ジャズマスターに愛用されています。
MG Adjustable Saddle Setを…
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ムスタング用のチタン製サドルセットです。素材の持つ音響特性によって、中音域に豊かさが加わります。サドルの高さを調節できない本来のムスタングサドルの設計を踏襲しながらも、タイトに作られているのでブリッジに隙間なく整列し、ガタつきが起きません。その結果長いサスティンを得ることもできます。
KTS「PR-Mu」を…
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「ザ・スミス」のギタリスト、ジョニー・マー氏名を冠するジャガーは、本人が愛用している65年製ジャガーをベースにしつつ、二つのシングルコイルの直列/並列まで選択できるピックアップセレクターとブライトスイッチを備えた高機能なギターに仕上がっています。ピックアップには、62年製ジャガーをベースにしたというジョニー氏自身のシグネイチャーモデルを搭載しています。
「Queens of the Stone Age」のギタリスト、トロイ・ヴァン・リューウェン氏のシグネイチャーモデル。デュアル回路切り替えスイッチを通常のスライドスイッチから、操作性に優れるトグルスイッチに交換しています。「弦落ち」対策のためムスタング用に変更されているサドルは、音響性能をアップさせるためにブラス製のものが採用されています。
Troy Van Leeuwen Jazzmasterを…
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「ジャガー/ジャズマスターにはムスタングのサドルを」というのが大定番となっている世の中なので、ジャガー/ジャズマスター専用のアップグレードパーツはむしろ異彩を放つ存在になっています。
「グラフテック」は、
この二種類の素材を活かした交換用パーツで知られています。
それぞれの素材でジャガー/ジャズマスターの交換用サドルがリリースされていますが、ムスタング用のサドルのように、しっかりとした溝が切られています。タスクは新品時点で薄いベージュですが、使いこんでいくうちに飴色に変わっていくところまで象牙の特性を再現しています。
上述したムスタング用サドルよりも価格が抑えられているところが魅力ですが、ストリングセイバーもタスクも電気を通さない物質なので、ブリッジから「弦アース」を取ることができません。ですからこうした場合、テールピースからアースを取るように配線にも手を加える必要があります。
「PS-8108-00」「PQ-8108-00」を…
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「モントルー(Montreux)」の交換用サドルは、本来のルックスを維持したまま、弦の収まる溝をしっかりと切ってあります。サドルにはネジの細い溝も刻まれているので、ジャガー/ジャズマスターの雰囲気をどこも崩すことなく、「弦落ち」を防ぐことができます。
JG/JM saddle setを…
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以上、ジャガー/ジャズマスターの定番改造「サドル交換」にお勧めのサドルを紹介しましたが、近年リリースされているものの中には、
これらのように、しっかりした溝を切って「弦落ち」しにくくなっている「進化したサドル」を採用しているものがあります。この「進化したサドル」もネジの溝を利用した従来のサドルも、公式サイトなどでは共通して「6-Saddle Vintage-Style Adjustable」と表示されているので、注意が必要です。「進化したサドル」を搭載しているギターの場合、「弦落ち」対策のためにサドルを交換する必要はありません。
ムスタングやジャガー/ジャズマスターのサドルはガタつきが生じたり特定のピッチに共振したりする場合があり、たとえ「弦落ち」しなくても演奏中にビリビリと振動してしまって不愉快な音が出てしまうことがあります。こういったところもギターの特性、また魅力の一つではありますが、だからこそいっそのことブリッジごと高性能なものに交換してしまおう、という改造もしばしば行われます。
GOTOH製ギター用ブリッジ「GE103B」の寸法。
全てのメーカーがこのように寸法の詳細を公開しているわけではない。
ギター用パーツには「インチ規格」と「ミリ規格」があり、微妙に寸法が違います。交換用のブリッジで特に重要なのが、画像に赤で囲った「スタッドの横幅」です。この寸法が既存のパーツと一致しなければ、そのまま交換することはできません。検討しているブリッジがご自分のギターにそのまま取り付けられるのかどうかは、しっかり確認する必要があります。
なお、仮に寸法が合わずそのまま取り付けられなくても、ギター側のネジ穴をいったん埋めて、また空け直せば取り付けることはできます。
上:ジャガーのブリッジ、下:ムスタング用ブリッジ「Montreux MG Bridge set No.8381」
ブリッジ全体をムスタング用のものに交換するという方法です。ブリッジ部分をそのまま交換するだけなので作業も非常に簡単です。「Montreux MG Bridge set No.8381」は数あるムスタング用ブリッジの中でもリーズナブルなモデル。日本製フェンダー・ムスタングのサイズに適合しているため、日本製ジャガー/ジャズマスターに装着することが出来ます。
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「TOM(チューン・O・マチック)ブリッジ」はギブソンのギターに多く用いられ、「ナッシュビルタイプ」とも称されます。ニルヴァーナのカート・コバーン氏や、ダイナソーJr.のJ・マスシス氏が採用している改造法です。このタイプのブリッジは頑強にできており、ガタつきや共振が起きにくいのが特徴です。
ただしジャガー/ジャズマスター本来のブリッジと規格が合わないため、取り付けのためには取付用のネジ穴を空け直すなど、大掛かりな改造を施す必要があります。また、TOMブリッジはギブソンなどに見られる指板Rの大きいギターに適合するように作られているため、指板Rのきつい伝統的なフェンダーの指板では弦高調整に限界があります。
Kurt Cobain Jaguar
フェンダーの「カート・コバーン・ジャガー」は、TOMブリッジの換装、2基のハムバッカーピックアップなど、カート・コバーン氏のジャガーをしっかりと再現したギターです。TOMブリッジに合わせて指板Rを9.5”に拡大しており、快適な演奏性が確保されています。カート氏は、自身のムスタングもTOMに交換していました。
「マスタリー・ブリッジ」は、ジャスマスター、ジャガー、ムスタング、Bass VIなどに適合した交換用ブリッジです。「M1」がインチ規格です。ボディにしっかり固定する設計なので安定しており、ガタつきも起きません。フェンダーの伝統的な指板に対応した設計になっているので、取り付けには大掛かりな改造は不要で、ブリッジを交換するだけです。
Mastery Bridgeを…
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次の記事ではMastery Bridgeほかいくつかのアップグレードパーツを実際に検証しています。こちらの記事も参考にしてみてください。
「弦落ち」しにくいサドルやブリッジに交換するだけでかなりの効果がありますが、さらに弦の張力を上げることで弦がサドルにしっかり押しつけられて、「弦落ち」の宿命から確実に開放されると言われています。弦のゲージを上げたり弦高を上げたりすれば張力は上がりますが、ゲージも弦高もそのままで張力だけアップさせる便利なパーツが出ています。
「バズ・ストップ・バー」は、簡単な取り付け作業で弦の張力を増強し、張力不足に起因する「弦落ち」や共振などを解消するアイテムです。パーツ交換で性能を上げたブリッジと「バズ・ストップ・バー」の組み合わせによって、ジャガー/ジャズマスターの「弦落ち」対策は完成します。
MONTREUX Buzz Stop Bar 8057
今のところ「バズ・ストップ・バー」は2社からリリースされており、いずれもトレモロユニットのネジを利用してボディに固定します。弦にバーの下をくぐらせることによってブリッジまでの弦の角度がきつくなって、弦の張力が増強されます。「弦落ち」しなくなって共振も抑えられますが、そのぶんサウンドがブライトになり、演奏性も変化します。
Buzz Stop Barを…
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以上、「弦落ち」に挑む先人たちの知恵として、パーツ交換を中心にさまざまな対処法を見ていきました。フェンダーも伝統的な仕様のものばかりでなく「弦落ち」対策を講じたサドルのギターをリリースしていますから、今からジャガー/ジャズマスターの購入を検討しているという方はチェックしておくことをお勧めします。
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