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ギブソン「レスポール・デラックス(Les Paul Deluxe)」はピックアップをミニハムバッカーに変更した、1970年代を代表するレスポールです。ピート・タウンゼンド氏(The Who所属)やスコット・ゴーハム氏(Thin Lizzy所属)らが一時的に一軍起用しましたが、「ミニハムのレスポール・デラックスならこの人」という名手の出現は未来に託されています。2015年に再びレギュラー入りしたデラックスは、他とはちょっと違う個性派として、むしろ「新しいレスポール」として、認知度を上げています。今回は、このレスポール・デラックスに注目していきましょう。
The Who – Baba O’Riley (Shepperton Studios / 1978)
伝家の宝刀「ウィンドミル奏法(腕をぶん回してストローク)」をトレードマークとする激しいステージングは、若きタウンゼンド氏の必殺技です。タウンゼンド氏は1972年から1979年まで、レスポール・デラックスをメインに使用しました。1976年からはこの動画のように、センター位置にディマジオ製ハムバッカーを追加しています。
なお、氏が実際に使用した1973年製レスポール・デラックスが、メトロポリタン美術館(ニューヨーク市マンハッタン)に所蔵されています。
現在では「最高のエレキギター」として呼び声も高い58年〜60年のレスポール・スタンダード、いわゆる「バースト」ですが、発表当時は販売が振るわず、1960年に一旦生産が止まってしまいます。しかしエリック・クラプトン氏の名演(Blues Breakers With Eric Clapton/John Mayall/1966)によりレスポールが再評価され、中古市場が活気づくとともにギブソン以外のブランドがコピーモデルを生産し始めます。
Les Paul Standard 1968年製:引用元 www.vintageandrare.com
この状況を受けてギブソンが1968年にリイシュー(再生産)したレスポール・スタンダードは、何故か「ゴールドトトップ+P-90ピックアップ」という仕様で、「スタンダード」の名が付けられる前の’56年型「レス・ポール」であり、「サンバーストカラー+ハムバッカーピックアップ」の仕様で「レスポール・スタンダード」ではありませんでした。これについては「市場調査が甘かった」と批判されていますが、ギブソンの思惑としては、
というラインナップでレスポールの再生産を展開したかったのだろうと考えられます。本来マホガニー1ピースボディだったレスポール・カスタムは、スタンダードと同様のメイプルトップ/マホガニーバックボディに仕様変更しており、リイシューと云うよりはむしろ「バーストの継承者」でした。とはいえクラプトン氏の使用したバーストが欲しかったギタリスト達は、当時仕方なくカスタムを買っていったそうです。
「ハムバッカーのレスポール・スタンダードが求められている」という状況を見て、P-90サイズのピックアップキャビティに収まるサイズの小さなハムバッカー(ミニハムバッカー)をマウントして1969年にリリースされたのが「レスポール・デラックス」です。ゴールド1択だったカラーバリエーションは、1970年にはチェリーサンバーストとワインレッドが追加され、ブルースパークルやレッドスパークルなどカスタムカラーも作られました。
Thin Lizzy – Bad Reputation
今なお「アイルランドの英雄」として愛されているロックバンド、シン・リジイは、ツインリードのスタイルで後に続くバンドに大きな影響を及ぼしました。上手(かみて)を務めるスコット・ゴーハム氏は、シン・リジイ加入時に1969年製レスポール・デラックスを手に入れ、重さに耐えられなくなるまでメインギターとして使用しました。
70年代中盤までサンバーストのレスポールはデラックスのみで、バーストと同一仕様のレスポール・スタンダードがレギュラーラインに復帰するのは’76年ころです。「そんなにスタンダードを再販するのがイヤだったの?」という疑問が湧きますが、これについては「ミニハムの在庫整理」説が有力視されています。
ミニハムバッカーはもともと、エピフォンの多くのモデルで使われていたピックアップです。エピフォンがニューヨークに本部を構えていたことから、「ニューヨークハムバッカー」とも呼ばれていました。当時すでにエピフォンはギブソン傘下にありましたが、エピフォンのギターはアメリカでの生産が終了し、代わりに日本で生産されていました。ギブソンは手元に大量のミニハムバッカーを在庫しており、使い道を探していたのではないか、というわけです。
レスポール・デラックスは70年代中に35,000本以上を出荷するヒット作になりましたが、満を持してレスポール・スタンダードが復活すると、たちまち多くのギタリストがデラックスからスタンダードに持ち替えるようになり、デラックスの売り上げは低迷、1985年に生産が終了します。
Gibson Les Paul Deluxe 2015 GoldTop
レス・ポール氏生誕100周年の2015年、抜本的なモデルチェンジが施されたギブソンのラインナップの中にレスポール・デラックスが加わったのは、ちょっとしたニュースになりました。
復活したデラックスは、ポールピースを持たないミニハムバッカー、コイルタップ対応、+15dBのブースター内蔵、という現代的な多機能モデルでした。
ROLLY/タイムマシンにおねがい(full version)
独特のキャラクターで知られるROLLY(旧:ローリー寺西)氏は、90年代にロックバンド「すかんち」で活躍した達人ロックギタリストです。ミニハムのスマートな印象とスレンダーなROLLY氏のイメージが見事にマッチしていますね。
この年の春から、ギブソンのラインナップはヴィンテージモデルの「オリジナル・コレクション」と現代志向の「モダン・コレクション」の2方面を軸に展開しています。われらがレスポール・デラックスはオリジナル・コレクションに属するモデルとして、デビュー当時の姿を意識したギターになっています。
デビュー当時のレスポール・デラックスは、ボディ&ネック構造、ピックアップという重要な2件において、大きな特徴を持っていました。
3層のバック材
ボディの「パンケーキ構造」は、オリジナルレスポール・デラックスの大きな特徴です。薄いマホガニー材で1mmほどの厚さのメイプルを挟んで3層にしたバック材が、横から見るとパンケーキを重ねているかのように見えます。またネックもマホガニーを3本貼り合わせた3ピースネックになり、一時期はメイプルに置き換わります。トップのメイプルも中央で二分割した2Pではなく、不揃いな3Pが普通でした。個体の重量は増し、5キロを超えるレスポールも出てきました。
ボディとネックの多層構造について、当時のギブソンは「剛性を高めるため」と表明していました。しかし一方で、仕入れやすい薄い木材を使って製造の合理化を図ったとも見られています。
1971年製レスポール・デラックスのヘッド裏。よく見ないと3層構造だとは分からない。ヘッドの根元にはしっかりボリュートができている。
当時の3層ネック構造とヘッドの根元を隆起させる「ボリュート」は、ネック剛性のために合理的な設計だったと言えるでしょう。しかし折れるときには折れるので、油断は禁物です。また、フェンダーのラージヘッドに対抗するかのように、ヘッドが大型化しました(参照:ヘッドの役割/ペグの種類と交換について)
以上のようなボディ&ネックの多層構造は現在のギブソンでは見られない、この時期だけの特徴です。
ファイヤーバードのミニハムと異なり、ポールピースで持ち各弦ごとの感度を調節できるようになっている。
レスポール・デラックスを象徴するミニハムバッカーは、エスカッション(枠)と一体化させた設計が特徴です。普通のハムバッカーと比べてマウント用のネジが少なくなり、スッキリとした印象です。両側のネジで高さを調節しますが、エスカッションごと上下します。
弦に近づけるため、リアピックアップは高め。フロントピックアップと比べると、エスカッション自体が持ち上がっているのが分かる。
コイルのサイズが小さくなった分だけターン数を増してパワーを増強しており、実際には当時の普通のハムバッカーよりも高出力で、かつ鋭さのあるトーンを持っていました。そのためレスポール・スタンダードのサウンドを欲するギタリストの間で、ピックアップキャビティを拡大し、普通サイズのハムバッカーをマウントするという改造が流行しました。
Kiss – Shout It Out Loud (Live On Letterman/2012)
KISSのエース・フレイリー氏がデビュー当時愛用していたタバコサンバーストのレスポールが、実際にはデラックスのピックアップを交換したものだと云う話は有名です。この情報を元にX-Japanの故HIDE氏は初めてのギターにレスポール・デラックスを選択、後でピックアップが交換されていたということを知るや、彫刻刀でピックアップキャビティを拡大してダンカンのハムバッカーを載せようとした、という逸話が残っています。
では、現在のレスポール・デラックスがどんなギターかを見ていきましょう。カラーバリエーションは「70’sチェリーサンバースト」と「ゴールドトップ」の2タイプです。
他のレスポール同様、ボリュートは非採用。
多層構造を特徴としたデラックスですが、現行モデルでは他のレスポール同様のメイプルトップ&マホガニーバック、マホガニーネックという構成です。トップのメイプルには杢のないプレーンなものが使われます。「Rounded C」ネックプロフィールは50年代式レスポールに近い、丸くて肉厚な握り心地です。
3Pネックやパンケーキ構造が非採用となったほか、ネック裏のボリュートも非採用です。ヘッドの大きさも他のレスポールと同じになっています。
コントロール・ノブは、70年代の特徴である「リフレクター・ノブ」です。またブリッジには、ナッシュビルタイプのTOMブリッジが採用されています。ヴィンテージ・スタイルとして支持されるTOMブリッジ「ARB-1」が使われたのは1954年から1975年までで、それ以後の主力となったのが「モダンブリッジ」とも言われるナッシュビルタイプです。ARB-1と比べて大型化して頑丈になり、オクターブ調整の可調範囲が拡大されています。
デラックスの代名詞「ミニハムバッカー」は、往年の姿をそのまま再現しています。ピックアップ自体は小型ながら、コイルのターン数などさまざまな工夫でPAFタイプのハムバッカー同様の出力があります。一方でピックアップの幅それ自体がサウンドに影響するため、PAFタイプよりクリアでブライトな音色です。
配線は「オリジナル・コレクション」のフォーマットにのっとりハンドワイアリングで、コンデンサには定番のオレンジドロップを採用、コイルタップなど特殊配線は非採用のシンプルな構成です。
以上、レスポール・デラックスについていろいろ見てきました。歴史の上では時代の波に飲まれてしまった不遇のギターではありますが、現代のレスポール・デラックスは、辛い過去など気にしない、キャラの立った新しいレスポールとして再スタートを切ったわけです。ネジの少ないミニハムのスマートなルックスと、ブライトでパワフルなサウンドには、ちゃんと個性があると言えます。ロック系もファンク系もカバーできる、守備範囲の広いギターです。
スラッシュ氏やジミー・ペイジ氏のレスポール・スタンダード、ランディー・ローズ氏やジョン・サイクス氏のレスポール・カスタム、レスリー・ウェスト氏のレスポール・ジュニアなど、レスポールはさまざまなギタリストのアイコンとなってきました。しかし「レスポール・デラックスをアイコンとするギタリスト」の席は、まだ空いています。そこに座るのは、あなたかもしれない!
レスポール・デラックスを…
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