ギブソン・レスポール・ジュニア徹底分析!

[記事公開日]2022/8/9 [最終更新日]2023/10/1
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ギブソン・レスポール・ジュニア

「Gibson Les Paul Jr. (ギブソン・レスポール・ジュニア)」はレス・ポールの廉価版として誕生したモデルですが、本家とは全く異なる鋭いトーンからロック専用機として定着しており、全く違うギターとして認識されています。廉価版とはいえ、50年代当時のものは

  • ホンジュラス・マホガニー1ピースボディ/ネック
  • ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)指板

という現在ではほぼ考えられないマテリアルであり、キャラの立ったトーンも相まってヴィンテージ市場で高値で取引される他、ギブソン・カスタムショップで復刻されるなど人気の高いモデルです。
現在のレスポール・スタンダード廉価版としては、よりレスポール・スタンダードの仕様に近い「レスポール・スタジオ」がラインナップされています。

レスポール・ジュニアの歴史

レス・ポールモデルが発表された2年後となる1954年、「タキシードの似合うギター」というコンセプトの高級機レスポール・カスタムと同時期に、学生にも手が届く「学生モデル(=入門機)」として「レスポール・ジュニア」は誕生しました。人気プレイヤーレス・ポール氏の名を冠する求めやすいギターだということで、レスポール・スタンダードの2〜3倍のペースで売れたといいます。因みにレス・ポール氏本人は、ジュニアの開発には関わっていません。

デビュー当時のカラーはサンバーストでしたが、学生モデルというメーカーの思惑が外れ、プロミュージシャンに愛用されるようになりました。そこで翌1955年より白黒テレビでも映える色調「TVイエロー」のモデルが登場します。

1958 Les Paul Jr. Double Cut VOS 1958年当時のモデルを忠実に再現した 1958 Les Paul Jr. Double Cut VOS

ハイポジションの演奏性を向上させるべく、1958年には22フレットまでボディから出ているダブルカッタウェイに仕様変更されます。ベースとなったレスポール・スタンダードのセールスが振るわないことから、1960年にレスポールのシリーズは全面生産終了となりましたが、左右対称に近いダブルカッタウェイのボディシェイプは、後に続くSGの原型になりました。


The Rolling Stones – Midnight Rambler – Live in Shanghai OFFICIAL
キース・リチャーズ氏が弾いているのは’58年製のレスポール・ジュニアとのことですが、オクターブ調整のためブリッジはバダスに換装しています。

レスポール・ジュニアの特徴

lespaul-p90 左:ドッグイヤータイプのP-90、右:ソープバータイプのP-90

レスポール・ジュニアはドッグイヤータイプ(ネジ止めするための”耳”が付いている)のP-90ピックアップがリアに1基、フラットなマホガニーボディに直接マウントされています。パワフルかつトレブリーなサウンドキャラクターが特徴で、特にロック系のコード弾きに良好です。ピックアップ1基、ヴォリューム/トーンも1つづつという操作系は極めてシンプルであり、また軽量で疲れないためギターボーカルに特に好まれます(なお、ドッグイヤーのP-90はピックアップ本体の高さ調節ができません。弦ごとの音量バランスは、それぞれの弦を狙うポールピースの高さで調節します。)。

コストダウンの結果行き着いた、完成された設計

「安いギターを作る」というテーマに対して、現代の感覚では

  • 安い材木&安いパーツを使う
  • 人件費の安い国で生産する

という戦略が選ばれます。しかし50年代のギブソンには材木やパーツのグレードという概念がまだなく、また海外に工場を持っている訳でもありませんでした。当時のギブソンは新たに安い材料を手配したり、新たに安いパーツを開発したりすることなく、現在あるものをフル活用することで「安いギターの設計」に取り組みます。

第一に選択されたのは、レス・ポールモデルのバック材をそのままボディにすることでした。トップのメイプルを貼らない事で材費を、そしてフラットトップにした事でアーチ加工の人件費を削減できた訳です。
ネックの接続についても変更されました。ネック側に「ほぞ」を切る昔ながらのテノン・ジョイントではなく、ネックの幅そのまんまの穴をボディに開ける「ボックス・ジョイント」が考案されました。これも作業の簡略化に大きく寄与した工法です。

レスポール・スタンダードとジュニアの比較 レスポール・スタンダードとの比較:ジュニアではバインディングを省略、インレイもシンプルにしてコストダウン化を図る

また、バインディングを廃し、ドットインレイを採用、ヘッドのロゴはデカールに変更するなど、装飾に関しては徹底的な合理化が進められました。昔ながらのバー・ブリッジもパーツ点数を減らし、また取り付け作業を軽減する工夫です。

ボディに直接マウントされるドッグイヤーのP-90は、レスポール系では初めての搭載となりますが、これも新開発のものではなく、元来ES-175などアーチトップギターに使用されていたものです。ハムバッカーのようにエスカッションを使用しないことで、パーツ代を削減しています。またマウント用のネジがピックアップを貫通させるソープバーP-90よりも、キャビティの加工が楽で取付けの手間も軽くなります。

こうしてギブソンは新たなパーツを開発することなく(ピックガードは板を切るだけですから)、価格を抑えたギターを開発することに成功しました。これらコストダウンのための工夫が、本来のレスポール・スタンダードとは異なった個性を発揮するギターを誕生させる結果となっています。「姿形が多少変わっても基本ができていて、目的が達成できていればOK」というアメリカ人らしい合理的な考え方が反映されていますね。

gibson-melody-maker レスポール・ジュニアよりもさらに低価格化が施された、ギブソン・メロディーメーカー

このあと台頭したフェンダーの廉価版ギター「ミュージックマスター(’56年)」、「デュオソニック(’56年)」に対抗すべく、レスポール・ジュニア以上の低価格化を目指して’59年に発表された「メロディーメーカー」は、さらにボディが薄くなり、ヘッド形状もギブソンの通常のものより小型化させることで木材を節約、ピックアップやペグなどのパーツを廉価モデル専用に新たに開発しています。

「ピックアップ直付け」による全身マイク効果

ギターのピックアップは弦の振動のみを拾うマイクですが、内部のコイルが本体の振動を受けるとトーンに反映されます(マイクロフォニック効果)。これがハウリングの原因にもなるため、多くのピックアップは「ポッティング(ロウ漬け)」という工程でコイルを強固に固定します。しかしポッティングを施すと高音成分が削られてしまうため、ギブソンのピックアップは伝統的にポッティングが施されません。その代わりレスポールやSGでは、エスカッションやピックガードにピックアップを吊るすことでボディから切り離し、ボディの振動にコイルが影響されないようにしています。

いっぽうレスポール・ジュニアはP-90をボディに直接マウントしており、ボディの振動の影響がトーンに反映されます。他のラインナップにはないこの設計により、楽器全体の振動までアウトプットするダイレクト感が付加されます。なおかつピックアップにポッティングを施さないことでトレブルの抜けがよいので、クランチ/オーバードライヴが心地よく響きます。ただしハウリングと隣り合わせなので、ドライヴと音量のセッティングには気を使う必要があります。

ロックバンドと相性のいいサウンド


Mountain – Don’t Look Around (1971)
レスポール・ジュニアでバリバリとリードを取るギタリスト代表、レスリー・ウェスト氏。かなり低く構えていますが、ボリュームノブにはギリギリ手が届く模様です。

シングルコイルのスッキリ感、コイルサイズによるハイパワーな太さ、両方を備えたトーンを持つP-90ピックアップは、中域の固まった独特の音色が印象的で、特にロックバンドで必要とされるコード弾きやリフ弾きとの相性がよく、サイドギターやギターボーカルに広く受け入れられています。その意味ではフェンダー・テレキャスターに近いポジションにある楽器だとも言えるでしょう。もちろんリードをバリバリ演奏する楽器としても優秀で、マウンテンのギターボーカルであるレスリー・ウェスト氏を始めとする多くのプレイヤーがそれを証明しています。

テレビ写りを意識したカラーリング


Green Day: Live At Irving Plaza, w/ Nokia Music and AT&T
レスポール・ジュニアは、ロック系やパンク系のプレイヤーに特に愛用されるギターです。ボーカリストが使用する例が多く、ストラップは長めに使うのが様式美です。

レスポール・ジュニア/スペシャルの特徴的なボディカラーに「TVイエロー(ライムド・マホガニー)」があります。発表当時のテレビは白黒放送ででしたから、いくら「高級に見える」という理由でレス・ポール氏が指定したゴールドトップであろうと、今ひとつな写り方でした。これに対して最もテレビで映えるカラーリングはイエローであるという考えから、ジュニアの「TVイエロー」が誕生しました。
このボディカラーが他のレスポールに使われる事は無く、そのためスタンダードならチェリーサンバースト、カスタムならブラック、ジュニア/スペシャルならイエローと言える、このモデルの定番カラーになりました。

レスポール・ジュニアのラインナップ

レスポール・ジュニアのラインナップは、ギブソンUSAのレギュラーモデルとカスタムショップの復刻モデル、そしてヴィンテージギターそのものの風貌を再現したマーフィー・ラボからそれぞれリリースされています。

Gibson USA「Les Paul Junior」

Gibson USA Les Paul Junior

現行モデルのレスポール・ジュニアは歴史上の名機を現代によみがえらせる「オリジナル・コレクション」に属しており、マホガニー製ボディ&ネックとローズ指板という王道の木材構成にP-90ピックアップとバーブリジを備える、また電気系を昔ながらのハンドワイヤリングした、貫録のあるギターに仕上がっています。
本来のロッドカバーは黒の1Pでしたが、黒白2Pのカバーを他モデルから流用することで、廉価版というコンセプトを守っています。

カラーバリエーションはサンバーストとエボニー。人気のTVイエローはカスタムショップ製のみリリースされています。

Gibson Custom shop「1957 Les Paul Junior Reissue」

1957 Les Paul Junior Reissue

カスタムショップ製の1957年式レスポール・ジュニアは、ボディ/ネックともに1Pのマホガニーが使われ、インドローズ製の指板やネック接続にはニカワが使われる、当時の工法のままの贅沢な作りが特徴です。カラーバリエーションに人気のTVイエローがあるほか、左用もリリースされています。

1957 Les Paul Junior Single Cut TV Yellow Ultra Light Aged

1957 Les Paul Junior Heavy Aged 1957 Les Paul Junior Single Cut TV Yellow Heavy Aged

マーフィー・ラボからは、TVイエローのウルトラ・ライトエイジドおよびヘヴィエイジドがリリースされています。基本仕様はカスタムショップのレギュラーモデルと同じですが、本物のヴィンテージギターさながらの風格を帯びています。なお、こちらは右用のみです。

Gibson Custom shop「1958 Les Paul Junior Double Cut Reissue」

1958 Les Paul Junior Reissue

ダブルカッタウェイ仕様のレスポール・ジュニアは、最終フレットまで運指を邪魔するものが何もない、ハイポジションの良好なアクセスが大きな特徴です。ボディ形状以外の仕様は1957年式と共通で、マホガニー1Pのボディ&ネック、インド産ローズウッド指板といった、現代の感覚では廉価版だとはとても思えない贅沢さです。なおこちらも左用がリリースされています。

1960 Les Paul Junior Double Cut Ebony Ultra Heavy Aged

マーフィー・ラボからは、1960年式のウルトラ・ヘヴィエイジドがリリースされています。長年の間さまざまな現場を潜り抜けてきた貫録のあるいでたちが最大の特徴ですが、この年式の特徴であるスリムテーパー・ネックプロフィールが採用されており、スリムな握り心地になっています。


以上、レスポール・ジュニアについてチェックしていきました。シンプルで可愛らしくもあるルックスに、凶暴性も帯びた特徴あるサウンドがあり、ロック系/パンク系を中心に多くのギタリストに支持されているギターです。何でもできるわけじゃない。だが、そこが良い。そういう気持ちに少しでもなったら、ぜひ実際に触れてみてください。

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