《日本製フェンダーの新しい挑戦》Fender Aerodyne Special シリーズ

[記事公開日]2022/11/6 [最終更新日]2023/9/30
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

Fender Aerodyne Special シリーズ

フェンダー「エアロダイン・スペシャル(Aerodyne Special)」シリーズは、フェンダー・ジャパン時代の名機「エアロダイン」シリーズから脈々と受け継がれてきた、日本発モダン系フェンダーの最新モデルです。今回は、このエアロダイン・スペシャルシリーズに注目していきましょう。

Aerodyne

空気中を通過することで揚力を得る、空気より重い航空機(Heavier-than-air aircraft, deriving lift from dynamic motion through the air./Wikipedia英語版より。)。
エアロダインは一般に「重航空機」と呼ばれ、航空機、ヘリコプター、グライダーなど空気より重い、翼の揚力を利用して飛ぶもの全般を指します。ロケットやミサイルなどエンジンの推進力を利用する者は除外されます。また気球や飛行船など、空気より軽くなって飛翔する「軽航空機(Aerostat)」と対になる言葉です。

「Aerodyne Special」シリーズの特徴

初代「エアロダイン」、「エアロダインII」、派生モデル「MIJモダン」を経て、エアロダイン・スペシャルは第4世代となります。歴史を経て現代向けにアップデートされた、新しいエアロダインの特徴を追ってみましょう。

「名は体を表す」ボディ形状

Fender Aerodyne Special:ボディ AERODYNE SPECIAL STRATOCASTER HSS(Speed Green Metallic)

代々のエアロダインは航空機の翼を意識した「カーブド・トップ」を採用しており、エアロダイン・スペシャルもこの伝統にのっとっています。このトップ面は独特の美しさがありますが、削ったぶんだけボディ重量が絞られて軽量になるメリットもあります。またこのトップは特に立って弾くとき、ピックを持つ手がラクになると考えられています。フェンダーではなかなか珍しいボディ・バインディングも、ボディエッジの立ったクールな印象を演出しています。

斬新かつこだわりのあるルックス

Fender Aerodyne Special:外観 左:AERODYNE SPECIAL STRATOCASTER HSS(Dolphin Gray)
右:AERODYNE SPECIAL TELECASTER(California Blue)

ストラトキャスター/テレキャスター共に、ピックガードを用いないスタイルで、プレイヤーの個性を演出するカラーリングが多く採用されています。それぞれのカラーリングごとにピックアップカバーやバックパネルといった、プラスチックパーツの色調が統一されているところにも外観へのこだわりが伺えます。

ク-ルなデザインのヘッド

Fender Aerodyne Special:ヘッド

歴代エアロダインの伝統にならい、エアロダイン・スペシャルでもボディとヘッド面が同色の「マッチングヘッド」が採用されています。ロゴにはメタルシートを使ったブランド名とモデル名のみという、多くを語らない洗練された意匠です。フェンダー・ジャパン時代より、日本製フェンダーのギターはヴィンテージ・スタイルに限られてきました。エアロダインIIはその中で「日本のオリジナルモデル」として生き残ってきた稀有なギターです。そのオリジナリティを象徴するため、ヴィンテージモデルと違った意匠が施されているわけです。

全モデルでBABICZ社製「FCH」ブリッジを採用

BABICZ FCHブリッジ Babicz「Z-Series FCH-2 Point Trem」。従来のブロックサドルとも違う独特のルックスも持ち味。
BABICZ(バビッツ)社の「FCH(Full Contact Hardware)」ブリッジは、ブロックサドルがブリッジプレートに面で接する「eCAMサドル」が最大の特徴です。イモネジの先端が接する従来の方式に比べて50倍とも言われる面積でブリッジプレートに接することで、かつてない安定性とサステインの向上を達成し、いわゆる「鳴りの良さ」に寄与しています。
エアロダイン・スペシャル・シリーズでは、フェンダーでは初めて、全モデルでこのFCHブリッジを採用しています。フェンダーがレギュラーモデルで他社製ブリッジを採用するのは極めて珍しく、おそらくFRT以来の2例目となります。


Babicz Full Contact Hardware String Adjustment on Telecaster Bridge
内部機構の回転を弦高の上下に転化させる。頭イイ。

日本製フェンダー伝統の木材構成と、一味違ったネック仕様

Fender Aerodyne Special:ネック 裏から見ると、従来のテレキャスターとなかなか区別がつかない。

バスウッド製のボディにメイプル製ネックをプレートジョイントする、フェンダー・ジャパン時代からの伝統的な基本構造です。なおメイプル指板モデルは、エアロダインの歴史では初採用です。
ルックスこそモダンなギターですが、ジョイント部に特別なカットを採用しないことでオーセンティックな雰囲気を演出しています。専用のジョイントプレートには、ミリタリー・ステンシル調の書体で「AERODYNE」と刻まれています。
ネック仕様はモダンCシェイプ、弦長25.5インチのフェンダースケールに、ナット幅43ミリ、指板R12″(300R)、ミディアムジャンボフレット、音域は22フレットです。やや幅広いナット幅とやや平滑な指板Rというこの組み合わせはフェンダーでは珍しく、逆に他社の現代的なエレキギターでは幅広く採用されている仕様です。フェンダーに慣れた人にとっては新しく、他社製のギターから持ち替える人には抵抗なく受け入れられる弾き心地になっています。

新規開発した専用ピックアップ

Fender Aerodyne Special:ピックアップ フェンダーは世界的なギターメーカーであるとともに、世界的なピックアップメーカーでもある。

ストラトキャスター用シングルコイル、ハムバッカー、テレキャスター用シングルコイル共に、ビンテージ・ボイシングを施したピックアップ新たに設計しています。ストラト用シングルコイルは、3弦と4弦のポールピースが突出している伝統的なスタイルに倣っています。ハムバッカーはオーソドックスなPAFタイプ、テレキャスター用リアピックアップは初期型のフラットポールピースのスタイルです。
新鮮なルックスと新しい設計を取り入れたギターですが、伝統に根ざした正真正銘のフェンダーサウンドが得られます。操作系の設計も伝統的で、シンプルにまとまっていながらじゅうぶんなサウンドバリエーションが得られます。

重厚な金属パーツ

Fender Aerodyne Special:パーツ

エアロダイン・スペシャルでは、BABICZ社製ブリッジをはじめとする重厚な金属部品が採用されています。
ロック式ペグは、今やモダン系エレキギターの標準仕様です。チューニングの安定が期待できるとともに、短時間での弦交換が可能です。堅牢なロトマチックタイプで、整った倍音感とサスティンの確保が期待できます。
このほか、金属部品は反射光がキラキラとまばゆいクロームパーツで統一されています。

Fender Aerodyne Special:ノブ ストラトキャスター及びストラトキャスターHSSに採用されている金属製ハットノブも、重厚かつ新鮮な印象。

Fender「Aerodyne Special」のラインナップ

Aerodyne Special Stratocaster


Exploring the Aerodyne Special Series Guitars | Fender

「エアロダインスペシャル・ストラトキャスター」は、独特なルックスや個性的なパーツで武装していますが、基本設計は純然たるストラトキャスターとしてシンプルにまとまっています。なお、トーン1はフロント&ミドルにかかり、トーン2はリアに効きます。
ルックスには3タイプあり、指板材やパーツカラーにも違いが設けられています。

Aerodyne Special Stratocaster Chocolate Burst チョコレート・バースト(Chocolate Burst):ローズ指板、クリーム色バインディング、プラ部品は黒

Aerodyne Special Stratocaster Bright White ブライト・ホワイト(Bright White):ローズ指板、黒バインディング、プラ部品も黒

Aerodyne Special Stratocaster California Blue カリフォルニア・ブルー(California Blue)メイプル指板、白バインディング、プラ部品も白

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Aerodyne Special Stratocaster HSS


Exploring the Aerodyne Special Series Guitars | Fender
ストラトキャスターHSSでのデモ演奏。ハムバッカーの肉厚なサウンドが確認できる。

「エアロダインスペシャル・ストラトキャスターHSS」は、クリーンからディストーションまで幅広く使いたい人にお勧めのギターです。SSSモデル同様、トーン1はフロント&ミドルにかかり、トーン2はリアに効きます。
なお、リアピックアップにコイルタップは非採用です。
やはり3タイプのボディカラーに合わせて、指板やパーツカラーが振り分けられています。

Aerodyne Special Stratocaster HSS Hot Rod Burst ホットロッド・バースト(Hot Rod Burst):メイプル指板、クリーム色バインディング、プラ部品は黒

Aerodyne Special Stratocaster HSS Dolphin Gray ドルフィン・グレイ(Dolphin Gray):ローズ指板、クリーム色バインディング、プラ部品もクリーム色

Aerodyne Special Stratocaster HSS Speed Green Metallic スピードグリーン・メタリック(Speed Green Metallic):メイプル指板、白バインディング、プラ部品も白

Aerodyne Special Telecaster


Exploring the Aerodyne Special Series Guitars | Fender
テレキャスターでのデモ演奏。

「エアロダインスペシャル・テレキャスター」は、概観こそ斬新ながら基本設計はオーソドックスで、純然たるテレキャスターとして安心して演奏できます。ストラトキャスターでのメタルノブは新しい印象ですが、テレキャスターでは昔からメタルノブが基本です。

Aerodyne Special Telecaster Dolphin Gray ドルフィン・グレイ(Dolphin Gray):メイプル指板、クリーム色バインディング、プラ部品は黒

Aerodyne Special Telecaster California Blue カリフォルニア・ブルー(California Blue)ローズ指板、白バインディング、プラ部品も白

Aerodyne Special Telecaster Hot Rod Burst ホットロッド・バースト(Hot Rod Burst):メイプル指板、クリーム色バインディング、プラ部品は黒

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《旧モデル》Fender Aerodyne II Stratocasterのラインナップ

先輩モデル「エアロダインII」シリーズは生産終了となっていますが、デッドストックや中古品は市場に散見できます。
「エアロダインII」シリーズの本体は、カーブドトップのアルダー製ボディ、メイプル製「スリムC」シェイプネック、9.5″指板Rのローズウッド製指板という基本設計で構成されています。細いネックは純粋な握りやすさのほか、ストラップを長めに使って立って弾く時の演奏性にも貢献します。
またピックアップ構成によってネック仕様に違いを設ける、こだわりの設計です。

MADE IN JAPAN AERODYNE II STRATOCASTER

MADE IN JAPAN AERODYNE II STRATOCASTER

「エアロダインII」の、アルダー製カーブドトップ仕様のボディ/ボディ/バインディング/塗りつぶしカラー/マッチングヘッドといういでたちは、一見「木のぬくもり感」とは対照的なクールな印象です。光を浴びるとギラっと反射する、しっかりとステージ映えする存在感があり、立奏に有利な演奏性のある、ライブで活きるギターです。カラーは「アークティック(北極)ホワイト」「ブラック」「キャンディアップル・レッド」「ガンメタリック・ブルー」という重厚な4色です。

MADE IN JAPAN AERODYNE II STRATOCASTER HSS

MADE IN JAPAN AERODYNE II STRATOCASTER HSS

HSSモデルはSSSモデルに対し、5%スリムで、弦長は約3%短いネックを採用しています。このネックは体格に自信のない人の選択肢として大いに魅力的であるばかりでなく、深く握り込んだり大きく指を開いたりする、高度なスキルを要する演奏にも有利です。ミディアムスケールは通常のフェンダースケールに比べて弦張力が抑えられるため、押弦やチョーキングにも有利です。カラーはSSSモデルと同じ4色が用意されています。

SSH機には、ヒールカットが施される。


以上、フェンダーの個性派「エアロダイン・スペシャル」シリーズを見ていきました。伝統のサウンドを継承しながらも新鮮なルックスをまとった新しいギターで、話題のBABICZ社製「FCH」ブリッジの性能も気になるところです。
歴史上フェンダーは他社製ブリッジをレギュラー採用した事はなく、各モデルに独自のブリッジを開発してきました。確かにFRTを取り入れることもありましたが「FRT搭載機もあるよ」というバリエーションモデルからは逸脱しませんでした。BABICZ社製「FCH」の採用は、フェンダー伝統の縛りから比較的フリーな立場にある個性派モデルだからこそ可能な、新しい試みだと言えるでしょう。ぜひ実際にチェックしてみてください。

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