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ゼマイティス・カスタムショップ「パール・フロント」と「メタル・フロント」を弾いてみた!

ゼマイティス・カスタムショップのラインナップ

カスタムショップのラインナップは一見多岐にわたっているようですが、楽器的には大変シンプルにまとめられています。

カスタムショップのギターはどれもが

  • 厳選されたアフリカンマホガニーボディ&ネック
  • 極めてグレードの高いエボニーを使用した指板
  • ディマジオ製DP103ピックアップ
  • ジュラルミン製ブリッジ&テイルピース
  • ラッカー塗装

など、高級な仕様で丁寧かつ高精度に造りあげられますが、楽器本体の基本設計は共通しており、ボディ・トップがどうなっているかでモデルが分かれます。

  • パール・フロント:トップに貝殻を敷き詰める
  • メタル・フロント:トップにジュラルミン製プレート
  • スーペリア:トップ材は無く、インレイ等で彩る

各モデルでは彫金デザインやシェルの並べ方にバリエーションがありますが、何しろ月産30本で世界に流通させているギターなので、カタログで見て気に入ったデザインが簡単に手に入れられる、というわけにはなかなかいきません。
詳しくは、「ゼマイティスのラインナップ」を参照してください。

カスタムショップのみに許された、数々のこだわり

ゼマイティス・カスタムショップのギターには、このグレードだけのこだわりがたくさん込められています。それらのこだわりについて、神田商会・岐阜事業所の工場長、石川祐太(いしかわゆうた)さんより、あらためて深い解説をいただきました。

1) 木材やパーツなど、全ての品質の追求

石川祐太氏(以下、敬称略) 木材は、実際に木材屋に行って選びます。出来る限り良い物だけを仕入れ、さらにその中で重さや木目などによる弊社独自のグレードを付け、その中から寄り分けられた、超ハイグレードの物しか使用しません。

メタル・フロントのエボニー指板 指板に使用されるエボニーは、木目が均一に詰まっていて真っ黒な色調の物に限られるという徹底ぶり。木材をたくさん仕入れても、その中から使用に耐えるものは僅かです。

メタルプレート、ブリッジ、テイルピースなどのパーツについては、ヴィンテージ・ゼマイティスのデザインを基に、現代風にアレンジしています。アレンジに際しては、楽器としての精度をさらに向上させること、美しいデザインにすることにこだわりを持っています。

パール・フロントのブリッジ&テイルピース パール・フロントのブリッジとテイルピース。機能性が高いうえに形状は複雑です。また、エスカッションにまで彫金デザインが施されます。

2) CNCを駆使した高精度な作り

石川 3DのCADで緻密なデザインを作り上げ、3軸のCNCで形にしていきます。
求める精度は常に最上級を目指しており、CADもCNCも1/100mmの精度で動かしています。

3) うっすらドーム状のボディトップ

石川 カスタムショップのモデルは下位のラインナップとは違い、ボディトップをアーチ状に仕上げております。立体的なボディは、見る者を魅了する高級感と造形美を兼ね備えます。またアーチトップにする事で、ブリッジからボディの中央に伝わる弦振動を外側までしっかり伝達し、ボディ全体で音を奏でるようにしています。そうすることにより、メタル・フロント、パール・フロントなどのモデルは特に個性的な音が生まれます。

ぱっと見では判別しにくいですが、ほのかに湾曲させてあるトップ。光の反射具合に奥行きが感じられます。

4) ヘッド裏のボリュート(膨らみ)

石川 補強の為はもちろん、美しいラインで作ることを意識しています。そしてプレイヤーが握った時、違和感を覚えさせないよう仕上げていきます。

CS24PF LITTLE RING:ペグ この個体には、シャーラー製のペグが付けられています。ヘッドの先が斜めにカットされ、ヘッドの根本にはふっくらとした厚みが残されています。

随所にアールを付けることによって、ギターの造形美が増しています。しかし見た目だけの加工ではなく、ヘッド裏の先端はネックに対するダメージを減らすことができたり、ボディホーンはプレイヤーにダメージが無いようにしたりと、いろいろ考えられています。

5) ヴィンテージ・ゼマイティス同様のマイナスネジ使用

石川 作業性は非常に悪いのですが、ヴィンテージ・テイストを演出しています。味わい深い雰囲気を出すための重要部品です。

ジュラルミンのプレートも、マイナスネジで留められます。マイナスネジは、電動ドライバーが使えないためひとつひとつ手で絞めていきます。

6) バックパネルなどのプレートは、彫金を施した金属製

石川 360度どこらか見ても美しい、というギターを目指しています。ギターの裏側だからと言って手を抜くことはしません。プレイヤーのテンションを上げる要素にもつながります。細かい所までこだわり、手に取ってくれる人の気持ちを考えながら製作しています。

CS24PF LITTLE RING:ボディ裏 バックパネルもアルミ。美しい彫金ができるうえに、ノイズ対策としても非常に有効です。

7) 手作業により、同じ仕上がりは二つとして無い

石川 いくら機械作業で精度よく加工しても、相手は自然の物です。同じ木目、重量などは存在しえません。ですからそれぞれの材に目を凝らし、耳を傾け向き合って行かなければなりません。作り上げるギターどれもが私たちが納得するものであり、手に取るすべての人たちに感動を与えられるよう目指しています。

どの個体も共通して、高水準の仕上がりを追及していますが、ヴィンテージ・ゼマイティスの帯びる「手作り感」を重要視しており、このようなシェルの配列も手作業です。例えデザインが同じでも、シェルの配列は個体ごとに様々です。


石川さん、ありがとうございました。石川さんへのインタビューも、ぜひ読んでみてください。なかなか見られない、カスタムショップの工場見学レポートもあります。
《伝統を、ただ守るのではなくて》神田商会ゼマイティス訪問インタビュー

ゼマイティス各グレードの違い

現在のゼマイティスでは、ヴィンテージ・ゼマイティスの雰囲気を再現する「カスタムショップ」「アンタナス」「カシミア」という3シリーズと、ゼマイティスのイメージを残しつつ自由なモデル展開を見せる「Z」シリーズの、合計4シリーズでラインナップを展開しています。
このうちグレード差にもなっている「カスタムショップ」「アンタナス」「カシミア」の3シリーズの違いに注目してみましょう。メタル・フロントが各シリーズからリリースされているので、それぞれのメタル・フロントを比較してみます。

カスタムショップ アンタナス カシミア
モデル名 CS24MF A24MF C24MF
価格 (※1.) ¥550,000 ¥280,000 ¥180,000
ボディ&ネック材 厳選アフリカン・マホガニー アフリカン・マホガニー ナトー
指板材 エボニー ローズウッド ローズウッド
金属板 ジュラルミン製 アルミ製 アルミ製
指板仕様 弦長25インチ
指板305R
ミディアムフレット
弦長25インチ
指板305R
ミディアムフレット
弦長25インチ
指板350R
ミディアムフレット
ピックアップ DiMarzio PAF Dragon Classic D5 Classic

表:ゼマイティスのメタル・フロント3グレード比較(※1. 価格は2017年10月時点)

材料において、明らかに大きな違いが出ていますね。各グレードは、材料のグレードだけでなく、どこで製造するか、またどこまでの仕上がりを求めるかでグレードが付けられています。ただ、スペックの表からだけでは分からないこともたくさんありますよね。

そんなわけで、各グレードについて、現在ゼマイティスをプロデュースしている株式会社神田商会にメールでのインタビューをお願いしたところ、同社企画室の千坂信之(ちさかのぶゆき)さんよりご回答を頂きました。各グレードのゼマイティスを検討しようという人にとって、とても重要な内容となっていますよ。

【神田商会メールインタビュー】ゼマイティス各グレードに関するちょっと深い質問

──メタル・フロントの仕様について、お伺いします。メタル・フロントは、現在3シリーズからリリースされています。ボディ・シェイプとネック・グリップについては同じか、かなり近いように思いますが、共通点や相違点には何があるでしょうか?
ジョイント法については、カスタムショップでボックス・ジョイントが採用されていますが、これはカスタムショップだけの仕様でしょうか。またジュラルミン製のブリッジ&テイルピースや金属製のエスカッション、ヘッドの金属板の仕様については、いかがでしょうか。

千坂信之氏(以下、敬称略) ボディ・シェイプに関しては基本的に同じ形状で、ネック・ジョイントについても、現状すべてのグレードでボックス・ジョイントを基本としています。いっぽうネック・グリップではそれぞれのグレードで微妙に異なる形状にしており、材料の質、製作拠点の技術、想定される演奏者のレベルなどに合わせた基準を設けています。

メタル・フロントのボディトップは、カスタムショップではジュラルミン製です。ジュラルミンはアルミ合金の1つで、高い硬度を誇っています。それ以外のグレードではアルミニウム・プレートを使用しています。エスカッション、ヘッドのZエンブレム・プレートは共通してアルミニウム製です。
なお、近年のブリッジ・サドルはブラス素材にクロームメッキです。

メタル・フロントサドル溝 メタル・フロントのブリッジをアップで見たところ。サドルの溝が褐色に見えるのが、ブラスを使っている証拠です。サドルにメッキを施すことで、ゼマイティス本来のイメージをしっかり守っていますが、弦を支える部分のメッキを剥がしており、弦振動をブラスサドルで直接受け止められるようになっています。

トニー・ゼマイティスの発案した独自のブリッジ&テイルピースを元に、現代でも通用する形状にモディファイして辿り着いた形が現在のオリジナル・ブリッジ&テイルピースです。ジュラルミンを含めたアルミ素材による特徴的な音響特性が、ゼマイティス独特のキレのあるサウンドやロング・サスティーンに寄与しています。

──アンタナスのハムバッカーピックアップについて、お伺いします。カスタムショップで採用されているハムバッカー「Dimarzio DP103」は、ヴィンテージ・レスポールのハムバッカーを再現したものと認識していますが、アンタナス・シリーズで採用されているオリジナル・ピックアップ「ドラゴン」は、何を狙ったピックアップでしょうか。
• Dragon Classic:ヴィンテージ・タイプ
• Dragon Burst:「Classic」のオープン・タイプ
• Hyper Dragon:「Classic」のブラックカバー版
• D5 Classic:「Dragon Classic」のカシミア版
かと推察しましたが、狙ったサウンドやパワーなどに違いはあるのでしょうか。また、ピックアップの名称に「ドラゴン」を選んだのには、何か由来があったのでしょうか。

千坂 ピックアップの種類に関しては上記の通りで、サウンドやパワーはスペック上では同じです。但し、オープン・タイプとカバードでは構造の違いから微妙に磁力の違いが生じますので、出力が若干変わります。
弾いて下さる方の音楽ジャンルやプレイスタイルなどは人それぞれですから、一連のDragonモデルは一般的に広く受け入れられるサウンドになっています。ピックアップの仕様を決めるにあたっては、ヴィンテージ・ピックアップなどを基準にしたのではなく、神田商会の自社ブランドである「グレコ」で長年培った、オリジナル・ピックアップのノウハウを用いて、素直でバランスの取れたピックアップになるようにデザインしています。

「ドラゴン」は、ゼマイティスの彫金やインレイに多く使用されてきたモチーフのひとつです。ゼマイティスのイメージに合い、力強さを示すドラゴンという名称を採り入れています。

──カシミア・シリーズについて、お伺いします。現在カシミア・シリーズからはフレット数の異なる二つのメタル・フロントがリリースされています。24フレット仕様は見慣れたメタル・フロントですが、22フレット仕様には新鮮味を感じますね。この22フレット仕様は一般的なレスポール・タイプに近いアプローチのギターかと存じますが、24フレット仕様と比べて、フロントピックアップだけでなく、リアピックアップの位置も変更していないでしょうか。また現在ではゼマイティス唯一となった22フレット仕様機の反響はいかがでしょうか。

千坂 トニー・ゼマイティスも実際に22フレット仕様モデルを作っていましたが、24フレット仕様に人気があるようですから、一般的に認知されている「ゼマイティス」は24フレットなのかもしれませんね。ヴィンテージ・ゼマイティスの完全再現を目指しているグレード「Tony’s Collection」にも、「S22MT」などの22フレット仕様があるんですよ。これももちろん、トニー・ゼマイティスの作ったボディ・シェイプを基にしています。22フレットと24フレットは、例えばストラトキャスターとテレキャスターくらいの違いがあります。ピックアップの位置についても、それぞれのモデルに合わせているので違いが出ています。
22フレットの需要はそんなに多くはないと見ていますが、市場の要望が強いと感じましたら、今後22フレットのラインナップも増えていくかもしれません。他にもトニー・ゼマイティスがデザインした独創的なボディ・シェイプは数多くありますが、あまりに多くのボディ・シェイプを市場に投入したところでゼマイティス・ブランドのイメージが散漫になるだけですから、現時点ではその他のシェイプを製品化する予定はありません。


「ボックス・ジョイント」はシンプルなジョイント法ですが、それゆえに高い精度で施工するのが難しいと言われる工法です。しかしそれが全グレード共通の基本仕様となっているのだ、という話は注目すべきところではないでしょうか。

日本のエレキギターを支えてきたグレコのノウハウを活かし、また現代を見つめながらアレンジを加えていく、という姿勢には、伝統を守るだけではない、現代のギターブランドとしてのアイデンティティを感じますね。

【メールインタビュー】ゼマイティスの扱いについて

──ギターのケアについて、お伺いします。楽器本体のケアについては、一般的なギターの管理法で問題なかろうと推測いたします。シェルやメタルのトップは長年の仕様を経て味が出てくるものと予想しますが、反対に美しく保つ、あるいは汚れなどを取り除いて新品同様に回復させるには、どういったケアが必要でしょうか。たとえば「ジュラルミン」で検索すると「耐食性に問題が」という情報が得られますが、金属を錆びさせてしまいやすい体質だったり環境にいたりするオーナーにとって、トップやブリッジ&テイルピースに対してはどういうケアがお勧めでしょうか。また、シェルのトップを自ら研磨する人もそうそういないと思いますが、シェル表面の汚れを落とすには、どういったケアがお勧めでしょうか。

千坂 普通に使用している分には、一般的なのギター(カスタムショップの場合はラッカー仕上げのギター)のケアと変わりありません。また、長年の使用によって変化したものは、元に戻すことは出来ません。例えば、ヴィンテージのギターの塗装やバインディングが黄変したり、ラッカー仕上げに良く見られるクラックが入ったりしたものを、新品同様に戻そうとは思いませんよね。ゼマイティスに限らず、どのような物質でも使用していることで経年変化は起こります。

パール・フロントは一枚一枚のシェルの間の目地が汚れてくることがあると思います。お風呂のタイル張りと同じで、汚れが溜まり易い場所です。使用後はすぐに汗や油脂を乾拭きすることで、この汚れの原因を排除し、進行を遅らせることは出来ると思います。

メタル・フロントも同様で、薬剤などは使用せず柔らかな楽器用クロスなどでの乾拭きを推奨しています。彫金の溝に入った墨を取り除かないように優しく水分や油分を取り除く用にすれば、美しさは保たれます。他のアルミ・パーツなども同様で、汗が入りこんだ状態で放置すると、汚れや劣化が目立つようになるので、使用後はすぐに水分・油分を拭き取るのが美しさを保つ方法です。

いずれも汚れに対する進行度合いを遅らせるだけであって、常に新品同様と言うわけではありません。例えば、ストラトキャスターなどのブリッジ・サドルの高さ調整用のイモネジなど、演奏スタイルによって最も手に触れている部分の一つです。この部分に手の汗や油脂が付けば、メッキ処理した金属でもいずれは錆びなどが発生しますね。

ゼマイティスで使用されるジュラルミンを含むアルミ合金素材には、特殊な性格があります。これは「ガルバニック・コロージョン (異種金属間腐食)」と言い、「異なる素材の金属が接触した部分に水分や塩分が加わると、腐食が進みやすい」と言ったものです。航空機や船舶など人命に関わる乗り物などでジュラルミンが使用される場合、このガルバニック・コロージョンに気をつけなければなりません。これは長期にわたって水分や塩分に晒されると起こるもので、海に墜落したジュラルミン製の戦闘機が、何十年後に引き上げられると機体がボロボロになっている、というのはこのためです。
『「ジュラルミン」で検索すると「耐食性に問題が」』
というのは、このような場合に言われるのだろうと思います。

1970年代に製作されたトニー・ゼマイティス作のギターのアルミ・パーツも、腐食が進んでボロボロになる、ということはなく健在です。アルミ素材はイオン化傾向が強い性質の金属ですが、変質したように見えても、表面に酸化アルミニウムが形成され、一気に中までは浸食しないことも特徴です。したがって、汗や水分、油脂などを常に拭きとるというのがベストな対策となります。ちなみにその点も改良を加え、最も手の触れやすいブリッジ・ベースのアルミ素材には「アルマイト処理」を施すことで、腐食を防いでいます。

コレクターとは違った価値観ですが、道具として使用している以上、多少の劣化は避けて通れません。例えば、好きなブーツを履かずに大事にしておけばいつまでも美しいままですが、履き込みことでレザーは柔らかく、汚れも手伝い質感に変化が出てきます。こちらを楽しむのが、本来の「ブーツを愛している人」ではないでしょうか。ゼマイティスも同様です。弾き込んで起こる変化を、ぜひ楽しんでください。


ゼマイティス・カスタムショップに注目して、さまざまなことをチェックしていきました。どんな音がする、またどんなギターなのか、イメージがつかめたでしょうか。

イギリスの偉大なビルダーが築き上げ育てたた「ゼマイティス」というブランドは、はるばる海を渡って日本にやってきました。日本で再開したゼマイティスは、過去の栄光に拘泥するのではなく、現代のブランドとして受け継いだものを大事に守りながら、現代を見つめてより良いギターを作っていくよう日々取り組んでいます。ゼマイティスのギターは、一人のギタリストが心を奪われるに相応しい逸品です。機会に恵まれたら、ぜひゼマイティスに触れてみてください。