《更に磨かれたプロ仕様》American Professional II Stratocaster徹底分析

[記事公開日]2021/8/4 [最終更新日]2021/8/6
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

American Professional II Stratocaster American Professional II Stratocaster (Dark Night)

1986年以来ストラトキャスターの標準機として愛されてきたフェンダー「アメリカン・スタンダード(=アメスタ)」ストラトキャスターは、その30年に及ぶ歴史の幕を閉じました。アメスタに代わって2017年に登場した「アメリカン・プロフェッショナル(=アメプロ)」シリーズは、2020年に「アメリカン・プロフェッショナルII」シリーズとして生まれ変わりました。さらに磨きのかかったプロ仕様のストラトキャスターの、さまざまなポイントをチェックしてみましょう。


American Professional II Stratocaster | American Professional II Series | Fender
磨かれたトーン、向上した演奏性、そしてプッシュ/プッシュスイッチによる追加機能が大きな特徴です。

「アメリカン・プロフェッショナルII」の特徴

「アメスタ(1986~)」は30年の歴史の中で、モダン系上位モデルの仕様を継承する形で進化を続けました。その結果、アメスタは「スタンダード(標準)」とは呼べないグレードにまで育ってしまいました。そこで、新シリーズとして新たにスタートを切ったのが前モデル「アメリカン・プロフェッショナル(2017~)」、この性能をさらに向上させたのが、今回注目する「アメリカン・プロフェッショナルII(2020~)」です。

ネックは演奏性が向上

トラッドな牛骨ナット

American Professional II Stratocaster:ヘッド

「アメプロ」から採用された牛骨ナットは、「II」で引き続き採用です。ナットはサウンドに直結する重要パーツであり、トラッドなスタイルのギターではなおさら、「上位モデルならば、天然素材のナットが当たり前」と考えられています。
ナットの材質の種類と特徴

程よい太さのネックグリップ

モダンCよりやや肉厚、やや太めの「モダン・ディープC」は、「適度に太いネックは力を込めやすい」という人間工学の理屈に基づいています。厚くなったからといって、手の小さい人が弾けなくなってしまうかというとそこまで厚くない感じで、むしろコードもメロディもこれまでに増して自然な弾き心地が体験できるよう、ブラッシュアップされています。また厚みが増すぶんだけネックの強度が上がり、楽器の音も良くなります。
指板のエッジは、握り込んでも痛くならないようていねいに処理されます。ネック裏塗装は「スーパーナチュラル・サテンウレタンフィニッシュ」が採用され、サラサラ過ぎずしっとり過ぎず、文字通り自然な握り心地です。

「ナロー・トール」フレットは引き続き採用

昨今ではヴィンテージ・スタイルのモデルにも採用例がある「ナロー・トール」フレットは、アメプロが起源です。高さを確保することで楽に押弦できるのが現代的なフレットの特徴ですが、「ナロー・トール」フレットは幅を詰めることで、細めで背が低い「ヴィンテージ・スタイル」に感触を寄せています。また、背の高いフレットは「フレットすり合わせ」の具合で、フレット頂点のRを徐々に変化させて「コンパウンド・ラジアス指板」と同じ効果を生み出すことができます。
フレットの種類と特徴

初採用のヒールカットにより、ハイポジ余裕

American Professional II Stratocaster:ネック

手に当たる部分を滑らかにカットしたヒールカットは、「II」で初採用です。カドだけを丸く落とす最小限の加工で、ハイポジションを弾く時のストレスを大幅に抑えています。このヒール部の体積は、サウンドに影響します。加工を最小限にとどめることで、フェンダーらしいサウンドを出来る限り守っているわけです。

このほか、

  • ナット幅1.685インチ(42.8mm)、指板R9.5インチ(241㎜)
  • トラスロッドはヘッド側から調整
  • 軸の高さを変化させ、弦張力を整える「スタガード・ペグ」
  • ネックの仕込み角度を調節する「マイクロティルト」内蔵
  • 指板はメイプルとローズウッドから選べる

などの現代的な仕様は、そのまま受け継がれています。

シンプルかつ実用的な電気系

アメプロでは操作系/ピックアップ両面に大きな変更が加わりましたが、「II」ではもう一歩進化しています。ヴィンテージ・サウンドへのリスペクトを堅持しつつ、現代の楽器としての使いやすさ、サウンドバリエーションが増強されています。

新開発「V-MOD II」ピックアップ

American Professional II Stratocaster:ピックアップ Miami Blue

フェンダーのピックアップは、チーフ・エンジニア、ティム・ショウ氏が設計しています。氏の持つノウハウは「設計図の段階からサウンドを思い描くことができる」ほどだと評され、フェンダー社に20年勤務する前にはギブソン社でもピックアップの開発を手掛けており、「ピックアップの巨匠」と呼ばれています。

アメプロのピックアップ「V-MOD」は、一つのピックアップの中に異なるマグネットを組み込み、ポジションごとのサウンドを最適化しました。「II」のピックアップ「V-MOD II」はこれをさらにブラッシュアップし、ヴィンテージ系の暖かさと歯切れの良い明瞭さを両立させた、完璧なトーンバランスを達成しています。
また、ハムバッカー・ピックアップ「V-Mod II Double Tap」は、通常時にはフェンダーらしい明瞭度を持ったハムバッカー、コイルタップ時には完全なシングルコイルとして機能します。

現代的な操作系と、追加サウンドバリエーション

操作系はストラトキャスター定番の5WAYセレクタースイッチ&1V2Tですが、トーン1がフロントとセンター、トーン2がリアに作用します。また、トーン2にはプッシュ/プッシュ式(押してON、再び押してOFF)スイッチが仕込まれます。このスイッチを入れると、SSS配列機ではフロントピックアップが起動し、通常では不可能だった「フロント+リア」と「シングルコイルぜんぶ」のサウンドが得られます。HSS機では、リアのハムバッカーをコイルタップします。

「トレブル・ブリード」回路

「ブリード(bleed)」には、「出血する、にじみ出る」といった意味があります。ボリューム・ポットに仕込まれた「トレブル・ブリード」回路は、その名の通りボリュームを絞ったときにトレブル(高音域)を適量にじみ出す働きをします。通常ボリュームを絞って音量を落とすとバンドの音に埋もれがちになるのですが、高音域が残されることで埋もれず、はっきり聞き取れるようになります。

この効果はオーバードライブなど歪み(ひずみ)エフェクターを使用している時に特に顕著で、フルボリュームで充分なオーバードライブ、ボリュームを絞るにつれてゲインが下がっていき、クランチ寄りのサウンドになっていきます。バンドサウンドによっては、いちいちエフェクターを踏み変えることなく、ボリュームの操作だけでソロ/バッキングを切り替えることができるようになります。


2017 Fender American Pro Stratocaster HSS Shawbucker
1:40あたりから、トレブル・ブリード回路の効果が確認できます。ボリュームを絞っていくと、リアのハムバッカーもシングルコイル的なトーンになっていきますね。

操作性とサウンドを高めたトレモロユニット

トレモロブロックでサウンドを向上

トレモロユニット Mystic Surf Green

トレモロユニット(ブリッジ)は、アーミングに有利な「2点留め(モダン系の設計)」、鉄板を曲げて作る「ベントサドル(ヴィンテージ系の設計)」を共存させています。ここに、押し込むだけでセットできる「ポップイン・アーム」が採用されています。

この「ポップイン・アーム」は、まず一回「カチリ」と音がするまで押しこむと、力のかかっていないプラプラな設定に、もう一回「カチリ」と言うまで押しこむと、トルクがかかって空中で停止できる設定にできます。トルクのかかり具合は、好みに合わせて設定できるようになっています。

従来の「ネジ」式には、そもそも「アームを着脱する」という考えはなく、付けっぱなしが前提でした。そのためアームを着脱しようと思ったら、シールドを抜いた状態で行わなければなりませんでした。しかし、「ポップイン・アーム」ではそれを考慮する必要が無くなります。

また「ネジ」式の場合、アームを内側から押すスプリングを内蔵していますが、アームを付けていない状態だと、このスプリングが抜け落ちてしまうことがあります。新品のストラトキャスターのブリッジにシールが貼ってあるのは、このスプリングの脱落を防ぐためです。ポップイン式では、このスプリングが不要になります。シンクロナイズド・トレモロはストラトキャスターの大きな特徴ですが、現代ではアーミングを使用しないプレイヤーも多くいます。「ポップイン・アーム」は、アームを使わない状態でも楽器としての価値を失いにくい設計だと言えるでしょう。
アームを使ってみよう!アーミング奏法について

ラインナップは「SSS」と「HSS」の2タイプ

American Professional II Stratocaster SSS AMERICAN PROFESSIONAL II STRATOCASTER(SSS配列、左用あり)

American Professional II Stratocaster:HSS AMERICAN PROFESSIONAL II STRATOCASTER HSS

アメリカン・プロフェッショナルIIストラトキャスターは、オーソドックスなSSS配列機(9色展開)と、パワフルなサウンドを持ち味とするHSS配列機(8色展開)の2タイプあり、SSS機には左用(6色展開)もあります。
ボディ材はアルダーを基本とし、「ローステッド・パイン」ボディカラー機のみ、ローステッド・パイン(北米産マツ)材が使用されます。パインは、アルダーやアッシュ以前からフェンダーで使用された実績ある木材です。加熱処理により、木目が強調された独特のルックスが演出されます。新色「ダーク・ナイト」や「マイアミ・ブルー」、定番色3トーンサンバーストやオリンピックホワイトなど、カラーバリエーションも豊富です。


以上、「アメプロII」ストラトキャスターをチェックしていきました。新開発のピックアップやトレブル・ブリード回路、ヒールカットなどの新しい要素がふんだんに織り込まれていながら、細かなパーツからトラッドな雰囲気も感じることができるギターに仕上がっていますね。この「トラッドな雰囲気」が、最新スペックで固めた上位機種「アメリカン・ウルトラ」との大きな違いとなっています。ショップで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。

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