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ピックを作って半世紀《一爪入魂》池田工業訪問インタビュー

池田工業:訪問インタビュー

名水どころとして知られる岐阜県郡上市に居を構える「池田工業株式会社」はピック専門メーカーとして内外に知られており、国内に限らず世界中からの注文を受けてピックを生産しています。これまでは受注元のブランド名で生産する「OEM生産」専門だったのですが、2016年に「L’s TRUST」とのパートナーシップのもとオリジナルブランド「MASTER 8 JAPAN」を立ち上げました。できたばかりのブランドにもかかわらず、さっそく数多くのアーティストがこぞって使用し、アーティストモデルまで作られています。ギター博士もこのピックに心底惚れ込んでいて、特にオーバードライブサウンドで演奏するときには無くてはならないアイテムになっています。

今回はこの池田工業に取材する機会をいただきまして、代表取締役の池田俊雄さんと国内営業部マネージャーの奥野浩一さんから、自社ブランド「MASTER 8 JAPAN」について、またその他ピック製作について、さまざまなお話を伺いました。

池田社長、奥野マネージャー 池田社長(右)と奥野さん(左)。奥野さんは「MASTER 8 JAPAN」のマネージャーも兼務しています。応接室の壁には、近年受注したオーダーピックがずらりと並んでいます。

※今回は回答者がお二人いますが、区別する必要がある場合を除いて「IKEDA」の仮名でコメントを統一しています。

造花業からの転向

──宜しくお願いします。以前とある音楽イベントでギター博士が奥野さんから「MASTER 8 JAPAN」のサンプルを受け取ったんですが、博士はその一枚がとても気に入って、それ以来メインに使っているんです。そういったご縁をいただいておりますので、今回の取材は大変嬉しく思っています。ここに来る前に間違えて旧工場に着いてしまったんですが、そこはもぬけのカラでした(笑)。国内のピック専門メーカーは、この池田工業一社のみだそうですね。

IKEDA 国内のメーカーは少ないですね。板状の材料から昔ながらの「型抜き」で作っている専門メーカーは弊社だけのようですが、「インジェクション成形(プラモデルのように材料を型に流し込んで作る)」で生産するメーカーさんが東京にいますので、ピック専門は正確には一社だけではありません。

先代(池田正夫氏)はもともと自宅を工房にしていた造花職人だったんですが、ピック生産に転向してから旧工場を立ち上げています。転向したのは1970年でしたが、当時はギターが売れて売れてしょうがない時代でした。どちらかといえば弊社はその波に乗り遅れて参入したんですが、当時中京地区にたくさんあった他のピックメーカーさんがどんどん他のパーツ生産に移行していくなかで、最後に残ったのが弊社でした。現在ではシルクスクリーンや滑り止め印刷などの「後加工(あとかこう)」で生産を助けてくれる業者さんのおかげで、弊社単独の能力以上に製品を作ることができております。こうした業者さんとのお付き合いは、もう20年ほどにもなります。

池田工業:周辺環境
5年前に移転した現在の工場をバックに。工場の正面には雄大な自然が広がっています。

しかしいろいろな機械を導入したこともあって手狭になってきたので、5年前に現在の工場に移転しました。当時は従業員が休憩するスペースもなく、お客さんが来てもお迎えする部屋すらなかったんですよ。旧工場は入り組んだ古い町の中なので、道幅もずいぶんと狭いです。従業員は地元の人が多いものですから自転車で通勤する人も多く、狭い道でも全く問題がありませんでした。しかし4トントラックがギリギリの道幅でしたから、製品を納入するときには業者のトラックがUターンできず、来た道をそのままバックで戻ってもらっていました。バックが苦手なドライバーさんの場合には近くの広場に停車してもらって、こちらの軽トラでそこまで届けるということもありました。

──4トントラックがギリギリの狭い道から、全世界に向けてピックが出荷されていたわけですね。胸が熱くなります。

IKEDA 全世界は大袈裟ですが(笑)、旧工場時代の業務はメーカーさんのOEM生産のみで、かなりの枚数を出荷していました。月産80万〜100万枚ほどだったと思います。現在ではOEMに加えて一般のユーザーさんやアーティストさんからのご依頼も受けておりますが、出荷枚数でいうと旧工場時代の方がまだ多いです。

今年の冬頃になりますが、旧工場に改めて機械を入れて、「成形専門の第二工場」として生まれ変わらせる予定でいます。「MASTER 8 JAPAN」の「INFINIX(インフィニックス)」は「型抜き」ではなく「成形」で作ります。現在では板でない素材のピックも増えてきており、むしろ「成形」でないと作ることができないピックもあるんです。

池田社長

IKEDA(池田) 私が事業を継いだ当時は、私たちが作ったピックは本当に使っていただいているのか、いつも不安に思っていました。インターネットもない時代ですから、出荷した製品のその後の情報を得る手段がなかったんです。シカゴのNAMMショウなどでブースに置いてあったりするのは実際に見ているので、少なくとも流通はしているんだな、とは思っていました。何しろ田舎の工場なので営業力はなかったんですが、貿易に特化した業者さんと国内販売に強い業者さんに助けられています。

満を持して立ち上げた自社ブランド「MASTER 8 JAPAN」

MASTER 8 JAPAN 全ラインナップ 応接室の壁に掲示されていた「MASTER 8 JAPAN」現在の全ラインナップ

──自社ブランドを立ち上げたきっかけは何だったんでしょうか。

IKEDA(奥野) 自社ブランドに対する夢は、ずっと持っていたんです。しかし私たちはOEMが全てでしたから、自社ブランドを立ち上げると今までご注文を下さってきたギターメーカーさんたちと競合することになって、ご迷惑がかかってしまうのではないか、と心配していたんです。そんな中Zepp Tokyoの8周年記念コンサートに出演する「vistlip」さんのライブを観に行ったところ、ギターテックとして来ていた「L’s TRUST」のスタッフさんと知り合ったんです。


vistlip ニューシングル「Period」PV 2014.4.9リリース/話題のゲーム『幕末Rock』 テーマソング
vistlipのギタリスト海氏が池田工業でオリジナルピックを作っていたことが、池田工業とL’s TRUSTが出会うきっかけになりました。

L’s TRUSTさんとやりとりの中で「池田さんは、自社ブランドを持たないの?」と聞かれました。そこからさらに共同でブランドを立ち上げるお誘いをいただきまして、L’s TRUSTさんは人脈を活かしてアーティストリレーションの構築やメディアとの連携にまわり、弊社は開発&製造&販売という共同運営の体制でオリジナルブランドを立ち上げることになったんです。

販売店さんのピック売り場を見ると、今や海外メーカーのピックが半分以上を占めています。国内メーカーのピックがずいぶん減ってしまっているので、どうにかして日本製の勢いを取り戻したいという気持ちを込めて、ブランド名に「JAPAN」の文言を付けて「日本製」を強調しています。海外メーカーでもサムピックやフィンガーピックは弊社が作っているんですが、平らなピックは価格の折り合いがつかないようで、中国で生産されるケースが増えています。中国製の安さには敵いませんが、「MASTER 8 JAPAN」の「INFINIX」は新素材です。安さではなく品質と「音」で勝負できます。

池田工業:奥野

実際のところ、私の心配は取り越し苦労でした。ブランド立ち上げの準備をしていた時に、どこからか情報をキャッチした取引先様から「何か面白いことやろうとしてるんじゃない?全国の直営店で販売するから、ちゃんと卸してね?」というありがたいお言葉をいただき、各店舗の店長さんにお話を通していただきました。おかげさまでその取引先様系列のお店には、各店に電話一本でプロモーションが済みました。たいしたプロモーションができているというわけでもありませんが、行けるところには販売店さんに直接お伺いして、お話させていただいています。

来月から海外の大手通販業者さんで取り扱っていただく話も進んでいて、ちょっと一回アメリカにも行かせていただいて、反応を見ようと思っています。しかし国内でしっかり地盤を築いていくのが第一だとも思っています。SNSでの拡散も試みておりますが、徐々に広まっていると思います。弊社のフォロアー数はそれほどでもないんですが、呟いてくれるメディアがあったりアーティストさんがリツイートしてくださったりで拡散された結果、お店に問い合わせが来る、という動きになっているようです。プロミュージシャン向けには、レコーディングスタジオやリハーサルスタジオにサンプルをドンっと置かせていただいております。

IKEDA(池田) ブランド立ち上げ自体は5年ほど前からあったんですが、ここ1年でいろいろな人とご縁をいただいて、こうして立ち上げることができました。あとは売れることを願うだけです。

新素材「INFINIX」の感触を体験!

MASTER 8 JAPANのピック
まるで宝石のような、「MASTER 8 JAPAN:INFINIX」のピック。試奏させてもらいましたが、未体験の感触と弾き心地。生音からでも違いが分かります。

──「INFINIX」のピックは不思議な感触ですね。指に吸い付く感じというのは文章で伝えにくいんですが(笑)、糊がついているわけでもギザギザが刻んであるわけでもないのに、指の間でしっかりステイして「指との一体感」が得られる感じです。ラインナップは厚みで色分けをしているようですね。どうやってこの「INFINIX」に行きついたんでしょうか。

IKEDA 厚みに関しては三段階あり、

Thin(薄い/黒) Medium(普通/赤) Heavy(厚い/青)
Jazz 0.88mm 1.0mm 1.2mm
ティアドロップ 0.6mm 0.8mm 1.0mm
トライアングル 0.6mm 0.8mm 1.0mm

各形状での相対的な厚みで色分けをしており、ジュラコンのピックでは白、茶、黒に色分けしています。

素材については材料メーカーさんにお願いして、インジェクション成形でピックを作る材料を提案してもらったんです。候補となる材料には6種類ほどあって、それらをすべてアーティストさんにチェックしていただいたんですが、この「INFINIX」がダントツに好評だったので採用となりました。本来はメガネのフレームに使用されていた素材で、ピックに使われるのは「MASTER 8 JAPAN」が初めてです。ちなみに近年人気を集めているウルテムも本来はメガネのフレームの素材ですが、「INFINIX」の方が弾力があり、粘りや食いつきが良くなります。

「吸い付く」感触の秘密

IKEDA ものすごく指に吸い付くので、これなら滑り止めは必要ないという方も多くいます。製造過程で「研磨をしない」というところも、指への吸い付きに重要なポイントになっています。研磨は表面を荒らしてしまうので、キレイに仕上げても必ずサラサラとした感触になります。「INFINIX」もその例に漏れず、研磨すると滑るんです。同じ材料でもこのように工法の違いでキャラクターが変わって面白いんですが、こういったことも含めて今年の楽器フェアの前あたりにラインナップを大幅に増強しようとたくらんでいます。

MASTER 8 JAPAN
バリの痕は残るが、一枚一枚滑らかに整えられている。

ただし未研磨の成形ピックには「バリ」が残るので、ピック屋としては研磨してしまいたい衝動に駆られるんです。ユーザー様の中にはこの「バリ」が気に入らないという人もいると思いますが、それでも研磨しないのは、吸い付きだけでなく音に「ドライブ感」が生まれるからです。よく達人プレイヤーは「ピッキングで歪ませる」と言われますが、「INFINIX」はピックでギターの音を演出できます。


バリエーションは今後も続々

master8-picks:Medium
トライアングル型では、滑り止めのサンドでブランドのシンボルマークを描く。サンドの付けられ方はピック形状ごとに違いが。

IKEDA 現在のラインナップは、「INFINIX」とジュラコンという二つの素材で、それぞれ滑り止めのないものと滑り止め用のサンド(砂)が付いているものの2パターンで展開しています。「INFINIX」が滑りにくいとはいえ、滑り止めの感触が好きなプレイヤーも多いですし、サンドでブランドのマークを描くなど、デザイン的な面白さがあるんです。

ジュラコンは海外ブランド製品で世界的に支持されている一般的な材料なんですが、「MASTER 8 JAPAN」のジュラコン製品は敢えて競合するブランドと同様の仕上げにして、「当て」に行っています。また新素材を打ち出すとはいえ、定番の素材はブランドとしても押さえておきたいところなんです。現在のジュラコン製品には「D-801」というシリーズ名がついているんですが、これにさらに研磨をくわえたものを「802」シリーズにするなど番号でシリーズ化していこうと思っています。「D-801」はライブ向けのピックと言われていますが、「レコーディング用のシリーズは何番」というように、「用途」に合わせたラインナップ展開をしていきたいです。

まだピックに使われていない「新素材」はたくさんあるんですが、まずはこの「INFINIX」をしっかり普及させて、落ち着いたところで何か違うものを出せたらと思っています。5月の頭からスタートしたんですが、月曜の朝がいつも楽しみです。こちらは工場ですので土日はお休みなんですが、販売店さんでは来客のピークで販売が伸びます。ですから月曜日は追加注文をたくさんいただけるんですが、今日も(取材に伺ったのは月曜日でした)合計で1,000枚ほどの注文をいただきました。

──それぞれのピックの厚みには、由来があるんでしょうか?

IKEDA もともとの厚みは、材料となるセルロイド板が由来です。ピックの材料に使っていたセルロイド板の厚みには、0.5mm、0.75mm、1.0mmという3種類のゲージがあります。ジュラコンのピックを開発する時にはエレキギター用にと考えていたので、厚みを少し足して0.6mm、0.8mm、1.0mm、1.2mm、1.5mmという4種類のゲージにしています。海外ブランドのピックはインチをミリに直していますから、0.96mmなどのような中途半端な数値になります。

IKEDA(池田) 実は、私たちはギターが弾けないんです(笑)。私たちが弾けなくてもまわりにプロの人やメーカーさんがいっぱいいますから、サンプルができたらすぐに送って使ってもらっています。私たちは弾けないからこそ、返ってくる意見を素直に聞くことができます。意見を受け入れるのが、ピック屋の本業です。弾ける人には大なり小なりこだわりが生まれてくるもので、「ピックはこうでなければならない」のような考えが自分に根付いてしまうかもしれません。そうなってしまうと主観が邪魔してしまい、お客様の意見を素直に聞けなくなってしまうかもしれません。

アーティストの音を作るピック

──アーティストそれぞれに、それこそいろいろな意見があると思います。恐らく全部バラバラだと思うんですが、製品にはどのようにフィードバックさせているのでしょうか。

IKEDA それで現在、困っているところです(笑)。アーティストさんによりけりで、もっと角を落としてほしいとか、逆にもっと尖らせてほしいとか、本当にさまざまです。型抜きで作るものは、研磨時間を長くすると角がどんどん取れて丸くなっていきますが、成形で作ったものを研磨すると感触が変わってしまいます。成形するための「型」は高価なので気軽に作るわけに行きませんから、レギュラーモデルは自分たちで「コレでいく」と決めたものに絞っています。

crossfaith-hiro-pick coldrainのSugiモデル(左)とCrossfaithのHiroモデル(右)。いずれも素材やエッジの処理など、レギュラーモデルとは設計から異なる。

アーティストモデルに関しては現在CROSSFAITHのHiroさん、coldrainのSugiさんのモデルをリリースしていますが、いずれもご本人にしっかり監修していただいて、愛用していたピックを完全に再現した上に、痒いところをケアしたことで、思い通りのものをお作りすることができました。ライブ会場でリハーサルの時にサンプルをテストしてもらって、そのフィードバックを反映させたサンプルを次の会場に送って、ということを重ねています。リリースからまだ1週間ほどですが、もう3,000枚ほど出ています。


Crossfaith – ‘Monolith (Live At Download Festival 2014)’

Hiroさんは「音の立ち上がり」に対して深くこだわる方なので、どうすればあと一歩速くなるのか、そこを追求して作りました。研磨を控えてエッジを極限まで残していますから、通常のピックよりもドライブ感が増します。


coldrain – Fire In The Sky (Official Music Video)

Sugiさんのモデルは材料に「PEI」を使用し、しっかり研磨しています。一見ブラックですが半透明の素材で、硬質で弦の滑りが良いです。

今のところこのお二方のシグネイチャーモデルをリリースしていますが、秋にまた2件、新たなアーティストモデルの発表を予定しています。もちろん既製品のデザインを変えただけのようなものではなく、その人のリクエストを完全に反映させるためにイチから開発した、音楽のための「ガチ」なやつになります。

一方でレギュラーモデルをお使いいただいているアーティストさんも多くいらっしゃいまして、いずれご自身のオリジナルデザインを施したシグネイチャーモデルを展開していきたいとも思っています。ただし、現状では「INFINIX」を普及させることが第一の目標となりますので、一般のお客様からの「INFINIX」を使用したオリジナルピックのオーダーについては、今のところお断りさせていただいております。

クールなデザイン

──「MASTER 8 JAPAN」のロゴマークはロック的なイメージのある攻めた意匠だと感じるのですが、どういったコンセプトでデザインされたんでしょうか。

MASTER 8 JAPAN スタッフTシャツ スタッフTシャツ(非売品)の背中を埋めるブランドロゴマーク。

IKEDA デザイナーさんに口頭でブランドイメージをお伝えして何パターンか試作していただいたんですが、20種類ほどの中から一瞬で「コレだ」って決まりました。先代がもともと造花職人だったことから「花」をモチーフにしたいということは常々お伝えしていたんですが、そこからいろいろと肉付けをしてもらい、タトゥーの模様をイメージさせるようなクールな出来映えになっていると思います。

カタログについてもロゴマークと同じ方にお願いして、電話とメールのやりとりで完成させました。製品写真は東京の写真家さんにピックを全種類送って撮影してもらったんですが、きれいに並べるよりも上からバラバラと落とす感じとか、躍動感のあるイメージをお伝えしています。一般的な商品カタログのようなものは作りたくなかったんです。

今後の展開としては、11月の楽器フェアに出展する前に、ニュースとなるような新しいラインナップ、また新しいアーティストモデルを発表して、ちょっと注目していただいたところでドンっと出展するつもりです。

苦労話や失敗談を訊いてみました。

──製作に苦労したピックにはどんなものがありましたか?

IKEDA 「10万枚のピック一枚一枚にシリアルナンバーを付ける」というオーダーがあったんですが、これには苦労しました。あるアーティストさんのファンクラブ特典だったんですが、一枚ずつ会員番号を印刷するんです。ビッグアーティストのファンクラブだったものですから、番号は7桁まで行くんですよ。しかしこちらが印刷するのは通し番号ではなく「現在在籍している会員の番号」なので、ところどころ飛ぶんです。単純な作業としても大変だったんですが、記念品であって特別なものですから、その一枚に間違いがあってはならないんです。10万枚もありますから念のためもう一枚ずつ作るというわけにもいかず、それはそれは気合いを入れて間違いの無い仕事をしました。

形状はどうにでもなるんですが、ピック生産で大変なのは数量と印刷です。納期に間に合わせなければなりませんし、外注さんに手伝ってもらうための準備などもあります。またこちらは田舎ですから、夜には商品の箱に虫が入ってくることもあります。それはそれで普通と言えば普通だったんですが、食玩用のピックを注文いただいた時には、かなりシビアな衛生管理が求められました。こちらは食品については専門外だったため、基準を満たすのに苦労しましたね。

ピックは演奏だけでなく、CDにおまけとして封入するなど記念品としても使われます。だからキズがあっては困る、というオーダーもいただくんですが、40万枚作ったうち5万枚がNGというように、製品に無駄が多くなってしまうのが悩みですね。研摩の工程は研磨剤や石と混ぜて削っていくので、どうしてもキズが付きます。また印刷をするときでもそのためにピック本体を動かす以上、こすれるキズが付くものなんです。弊社はもともと楽器としてピックを作っており、素材、厚み、エッジなどのポイントで「音」を重視しています。ですからいまのところは「いかにしてキズのない美しいピックを生産するか」については頑張っているといいますか、苦労しているところです。

──ピックは強烈に音楽をイメージさせるデザインである上に単価がとても安いので、ノベルティーグッズのテーマとしては最強クラスですからね。特典やおまけにするピックはお金で買えないので、価値がありますよね。

IKEDA アイドルの企画で限定のノベルティーグッズを請けたこともあったんですが、ネットで1枚2万円などという価格がつくこともあったようです。そのときに採用された「ヘアライン」の加工は特にキズが付きやすいんですが、アイドルのグッズということで細かいキズも見逃さない、1000枚納品して半分返品されるくらいの勢いで非常に厳しくチェックされました。

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IKEDA(池田) 私は古い人間なものですから、ピックにそこまでの美しさを求める風潮には抵抗を感じています。印刷が多少欠けていても、それで弾きにくかったり音が悪かったりはしないですよね。海外メーカーのピックだと、印刷の欠けや汚れ、ピック本体の反りなど弊社基準なら出荷できないものまで問題なく店頭に並んでいて、正直羨ましく思いますよ(笑)。

──今だから笑える失敗談はあるでしょうか。

IKEDA アーティストさんにお渡しするピックが間に合わなかったから、東京まで直接持っていった、ということはありましたね。前の日に送ったと思っていたら送れていなかったので、新幹線に乗って渋谷まで持って行きました。しかしその話には「お釣り」があって、楽屋でフリーパスをいただいて、NHKホールの本番を観させていただきました。ほかには鹿児島まで、軽トラのチャーター便を使ってわずか100枚のピックを届けたこともありましたが、こういう話は結構ありますね(笑)。

アーティストさんの身の回りはものすごいスピードで進行していきますから、私たちの作業速度で追いつかないこともあります。ほかの商品も作りながらなので、あまりに急ぎの注文だとお受けできないことがあるんです。量にもよりますが、10万枚程度なら2ヶ月ほど時間をいただければ安心できます。実は印刷にいちばん時間がかかるんですが、昔は他社さまのピックをお持ち寄りになって、これにアーティスト名を印刷するという注文もありました。弊社はピック屋なのであって、印刷屋じゃないんですが(笑)。

海ガメのべっ甲

──ちなみにもしかして、コレは本物のベッコウですか?

IKEDA そうです。ウミガメの甲羅です。こういったものを取り扱うには、政府の許可証(環境省の指定する「特定国際事業者」)が必要なんですよ。

日常的な仕事内容について

──日頃はどんな仕事をしていますか?

IKEDA(池田) デスクワークは息子たちに任せていまして、私はベッコウの研磨職人として現場に入っています。

IKEDA(奥野) 私はデスクワークがメインですが、手が空いたら現場を手伝っています。その日のスケジュール管理をしていますから、皆に作業計画を伝えながら日々の作業を進行させています。

──何と!今までの取材では、社員に作業をどんどん任せていくところばかりだったので、むしろデスクワークを社員に任せる社長は初めてです。

IKEDA(池田) 弊社では、ほとんど全員が現場に入ります。奥野は「MASTER 8 JAPAN」の統括をしながら営業部としてギターメーカーさんとの取引をしていますが、印刷ブースでの作業もしています。

IKEDA(奥野) 「MASTER 8 JAPAN」に関する仕事が3割、池田工業の仕事が7割という配分で私は仕事をしていますから、ブランドについては少しずつ少しずつという具合です。パートナーのL’s TRUSTさんは都内なので、アーティストさんやメディアさんとのミーティングなどがすぐにできます。こちらは第一に在庫を切らさないように生産管理をしつつ、アーティストモデルの開発においては私も出向してミーティングに参加、という動き方をしています。

──池田工業で働こうと思ったら、どうすればいいでしょうか?

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IKEDA(池田) 弊社は家内工業ですから、社員は一族なんです。奥野は長女の夫ですし、次女も長男もここで働いています。社員になりたかったら、嫁に来るか婿になるかです(笑)。
IKEDA(奥野) 一族みんなで作っているものだからこそ、やりがいがありますよ。

──池田工業は、この先に何を目指していますか?

IKEDA(池田) 私の時代はほぼ終わりましたので、息子たちがやってくれればと思っています。現在すでにほとんどのことを任せていますが、安心して見守っていますよ。弊社も今まで50年近く、よく続いたと思います。しかしこれからはピックに限らず他の分野に手を伸ばすことも考えられますし、ブランドの打ち出しでどんどん専門的なピックへと深く掘り進んでいくことも考えられるでしょう。若い社員たちに期待をしています。

IKEDA(奥野) OEMについては、これまで通り取引先様との連絡を密に取ってやり取りしていけば順調であると思います。「MASTER 8 JAPAN」については世界に広げて、メイドイン・ジャパンのピックは世界一だと思っていただけるようにしていきたいですね。それで私の子どもたちがもっと大きくなって、いろいろなことが分かるようになった時に、父親の仕事を知って誇ることができるように頑張っていきたいです。

すでに海外のアーティストさんにも使っていただいておりまして、次に出すカタログでは愛用者として紹介できる見込みです。ブランドを持つと、自分たちでいろいろなアクションを取ることができることがわかりました。異業種間のコラボレーション企画もこちらから提案できるようになり、今後の展開が自分でも楽しみです。

──日頃はどんな音楽を聴きますか?

IKEDA(池田) 押尾コータローさんです。ライブネタの一曲以外にご本人がピックを使うことは無いんですが、ノベルティーを作ったときからのお付き合いです。音に癒しがあるし、人柄がとても良くて大ファンになりました。コンサートに合わせて、ピックで作ったポスターを贈ったこともあります。

ピックでできたポスター コンサート会場で展示されたという、ピックでできたポスター。ピックを並べた上に印刷したのであって、ジグソーパズルではありません。

IKEDA(奥野) 私は現在携わっているアーティストさんの音源をくまなく聴くようにしていますが、息子も気に入っているようで一緒に聴いています。自分が作ったピックで演奏して下さったのを聴いていることもあって、自然とファンになります。


続いては、月に何十万枚も生産するというピック工場を見学させていただきました!