《生産完了》Fender American Standard Stratocaster徹底分析

[記事公開日]2016/4/20 [最終更新日]2021/6/1
[編集者]神崎聡

american-standard-stratocaster

「フェンダー・アメリカンスタンダード・ストラトキャスター(以下、アメスタ)」は、1986年のデビュー以来30年にわたって生産されているフェンダーレギュラーライン(USA)の定番機です。1954年に誕生して以来、フェンダー・ストラトキャスターは「エレキギターの王道」として君臨してきました。アメスタはこの伝統的なストラトの構造を継承しつつ、ギターとしての基本性能をアップさせ、また時代のニーズを見据えたアレンジを受けることで、「現代の楽器」としてバリバリ使えるギターとして多くのプレイヤーから支持されています。

50年代や60年代に生産されたヴィンテージストラトキャスターは、今でこそ100万円を軽く飛び越える価格で取引されています。しかしこれらが生産されていた当時には、ストラトキャスターにはカスタムショップも廉価版もありませんでした。当時は個体差こそあれ、モデル的には「普通のストラトキャスター」しかなかったのです。そういう意味では、「標準」または「普通」という意味の「Standard(スタンダード)」を冠するアメスタこそ、「フェンダーのストラトキャスター」だと言えるでしょう。

ここではフェンダー大定番のアメスタに注目し、歴史や特徴に迫ってみましょう。

この製品は生産完了しています

2017年、アメスタは惜しまれつつも30年に及ぶ歴史の幕を閉じました。アメスタに代わって新たに登場したのが「アメリカン・プロフェッショナル(=アメプロ)」シリーズです。アメプロシリーズのストラトキャスターについては次のページで紹介しています。
American Professional Stratocaster徹底分析:ストラトキャスターはどう変わったのか


Primus – “Tommy The Cat” – Bonnaroo 2011 (Official Video) | Bonnaroo365
ストラトはどんな音楽でも使用される大変柔軟性のあるギターですが、アメスタに代表される現代的なモデルは、ドライブサウンドでバリバリソロを弾くスタイルのギタリストに特に強力にフィットします。


American Standard Stratocaster® Demo

American Standard Stratocasterの特徴(American Vintage との比較)

アメスタのデビューした1986年は、ハードロック/ヘヴィメタルが全盛期を迎えていました。この時代のギタリストには、過激なディストーションサウンドや流麗なリードプレイが求められることが多く、ストラトキャスターにも

  • サスティンの強化
  • リードプレイにおける演奏性の強化

といった、この時代背景を受けたモデルチェンジが求められました。

アメスタは伝統的なストラトと比べ、一見しただけでは違いがないように見えますね。どういったところが「現代の標準仕様」なのでしょうか。ここでは伝統的な仕様を再現している「AMERICAN VINTAGE ’59 STRATOCASTER」との比較を試みてみましょう。グレードの上下はいったん置いといて、設計上の違いがどこにあるのかをチェックしていきます。

American Standard、American Vintage 左:American Vintage ’59、右:American Standard
サンバースト・モデルの比較。一見するとあまり違いがないように見えるが…

ネックと指板

第一にネック周りの共通点ですが、ビンテージ’59、アメスタともに

  • 弦長25.5″(648mm)のメイプルネック
  • ローズ指板にはパール、メイプル指板には黒いドットのポジションマーク
  • 4点留めデタッチャブルジョイント

といった大雑把なところが共通しています。しかし多くのところにアレンジが加わっており、全く異なったネックになっています。

American Vintage '59 American Standard
グリップ 厚みがあり「カマボコ」とも呼ばれる「Dシェイプ」。ボディと同様のラッカー塗装。 厚みを抑えつつ、スリムすぎないバランスを持っている「モダンCシェイプ」。塗装はウレタンで、サラサラに仕上げられている。
指板R 7.25" (184.1 mm)
伝統的な、「Rのきつい指板」。コードは押さえやすいが、チョーキングで音が詰まることが。
9.5"(241mm)
ギブソンほどではないが、比較的平らになった指板。弦高を下げやすく、リードプレイに有利。
フレットのサイズと数 細くて低い「ヴィンテージスタイル」の21フレット。 押弦とチョーキングに有利であり、かつ大きすぎない「ミディアムジャンボ」の22フレット。音域が1フレットぶん広がるのは、特にロックにおいては非常に大きな意味を持つ。
ナット幅 1.650" (42 mm) 1.685"(42.8mm)
調整法 トラスロッドがネックのボディ側にあるため、調整のときにはネックを外す。 トラスロッドはヘッド側にあり、調整ではネックを外す必要がない。また、ジョイント部に「マイクロティルト」が仕込まれている。
ロッドの挿入法 メイプル指板はネック裏から、ローズ指板は指板側から挿入。 メイプル、ローズ共にネック裏から挿入。

ネックの材質・形状について

ギターは本来コードを鳴らすための「伴奏楽器」であったことから、当初はコードが押さえやすくて握りやすいことを重視したネックになっていました。今でこそリードギターに欠かせない「チョーキング」ですが、ストラトキャスターのデビュー当時は「裏ワザ」的な扱いで、現在ほど多用することを想定していなかったわけです。
これに対してアメスタでは、

  • ネック:厚みを抑え、幅を若干広くした(それでもギブソンよりは細い)
  • 指板:丸みを抑え、平滑ぎみに
  • フレット:サイズアップして音域も拡大

といった、リードプレイでの演奏性を強化したアレンジが施されています。

「ネックを外してロッド調整」はフェンダーの大きな特徴で、ネックエンドに達するトラスロッドが「腰折れ」を防ぐ補強となるという画期的な構造ですが、ちょこちょこ調整するわけにはいかない不便さもあり、アメスタではヘッド側から調整できるようになっています。さらに70年代に開発された「マイクロティルト」も備えており、ネックの仕込み角を調整することができます。

またアメスタではローズ指板でも裏の溝からロッドを仕込むため、もともとはワンピースメイプルネックの特徴だったスカンクストライプ(ロッドを仕込む溝を埋めた跡)」がローズ指板のモデルにも確認できます。本来ならば指板側に溝を掘り、ロッドを仕込んでから指板で塞ぐという工法がとられます。しかしこれを敢えて裏側から仕込むことによって、ネック側が一枚板で指板に接着されるため、振動の伝達を効率良くすることができます。


The Joy Formidable – Whirring (Live on KEXP)
The Joy Formidable(ザ・ジョイ・フォーミダブル)のリッツィ・ブライアン氏は、可愛らしいファッション、澄んだヴォーカル、そして豪快な弾きっぷりとマニアックな機材で知られる、全てを兼ね備えているともいえる女性です。彼女のような多彩なエフェクターが使用されるのも現代的なスタイルの特徴ですが、クセなくサスティンが豊かな楽器が「エフェクターの乗りが良い」と言われます。

ペグとブリッジ

金属パーツについては、パーツ本体の性能を向上させるアップグレードが施されています。

American Vintage '59 American Standard
ブリッジ 6点留めヴィンテージスタイル アームを操作しやすい2点留め
サドル 伝統的な「ベント・サドル(鉄板を曲げて成形)」 強固でサスティンに有利な「ブロックサドル」から、2000年代になって「ベント・サドル」へ回帰した。
ペグ 伝統的な「クルーソンタイプ」。 強固な「ロトマチック」タイプで、スタガード・ストリングポストを採用。

Vintage'59、Standardのブリッジ比較 ブリッジ比較
左:American Vintage ’59、右:American Standard

弦が6本あるんだから、支点のネジも6本必要だろうという考えから6点留めで設計されたトレモロユニットですが、フロイドローズに見られるようにネジ2本で留めた方がアーミングに有利であることがわかり、現代のスタイルでは2点留めが主流になっています。

vintage59-amesta-peg ペグ比較
左:American Vintage ’59、右:American Standard

金属部分の質量が多いほどサスティンが伸びることから、デビュー当時からアメスタはロトマチックタイプのペグを採用していました。「スタガード・ストリングポスト」は、6弦から1弦にかけて段階的にストリングポストの高さを下げていくことで、ナットにしっかり張力がかかるようにする仕組みです。

ヴィンテージ的なスタイルの再評価がされている現代では、ベント・サドルが標準という扱いになっています。これにより、現代版のストラトのブリッジは、

  • アメリカン・エリート:2点留め、ブロックサドル
  • アメリカン・スタンダード:2点留め、ベントサドル
  • アメリカン・スペシャル:6点留め、ベントサドル

というようにそれぞれの仕様に違いが設けられており、各モデルを見分けるポイントになっています。

電気系

American Vintage '59 American Standard
ピックアップ American Vintage '59 Single-Coil Strat Custom Shop Fat '50s Single-Coil Strat
コントロール 1ヴォリューム、フロントトーン、センター+リアトーン 1ヴォリューム、フロントトーン、センター+リアトーン
セレクター 5Way 5Way


Fender Custom Shop Fat ’50s Stratocaster® Pickups — DIRTY


Fender Custom Shop Fat ’50s Stratocaster® Pickups — CLEAN
ピックアップのデモ演奏ですが、使用されているギターはアメスタです。変なクセがなく細い音も太い音も作ることができる柔軟性を持ち、くっきりとしたサウンドを持つ優秀なピックアップですね。わざわざアメスタ用にピックアップを開発しないことで、開発費用ひいては本体の価格を抑えることにも寄与しています。

電気系の比較は「ピックアップ以外に違いがないという意外な結果になりました。伝統的なスタイルのストラトキャスターはリアピックアップにトーン回路を持たないのが標準仕様でしたが、アメスタ、アメリカンヴィンテージともにリアにもトーンが効きます。「アメリカンヴィンテージ」シリーズは、フェンダーのレギュラーラインにおいてカスタムショップ的な立ち位置にありながらも「ヴィンテージスタイルの現代楽器」として作られているようです。

カスタムショップ製ピックアップ「Fat ’50s」

従来アメスタのピックアップは、「Standard Single Coil」というアメスタ専用のものが使われていましたが、2000年代からカスタムショップ製のピックアップが採用されています。この「Fat ’50s」は

■マイケル・ランドウ・シグネイチャーストラト(1963レリック)
■デヴィッド・ギルモア・ストラトキャスター(リアのみ)

に搭載された実績を持つ、実際にカスタムショップのモデルで使用されているピックアップです。「Fat(=太い)」という名の通り、チリチリとした「鈴鳴り」感というより低域の主張がある、くっきりとした存在感のある音を持っています。

2007年ころまでのアメスタでは、センター+リアトーンが「TBXコントロール」となっており、甘い音にする「ハイカット」と鋭い音にする「ローカット」を一つの回路で使い分けることができました。現代のアメスタではシンプルさが重視されているためTBXは付いていませんが、交換用パーツとして現在でも生産されています。

アメスタのその他の特徴

ネックのメイプルは落ち着いた色調に整えられ、ピックアップカバーとコントロールノブはエイジド加工で着色されており、安っぽくない重厚な顔つきになっています。

塗装はウレタンですが、下地の塗装を薄くすることで、ボディの鳴りが増強されています。

またハードシェルケース、ストラップ、シールド、クロスが付属しています。

amesta-hardcase
アメスタのハードケース

ハムバッカーの搭載もラクにできる

amesta-hss HSS配列のアメスタ「American Standard Stratocaster HSS」

通称「弁当箱」と呼ばれる大きなピックアップキャビティもアメスタの特徴でしたが、近年にモデルではそれぞれのピックアップに合わせた穴が開けられます。「HSS」や「HH」と同じ生産ラインでボディを成形することから、リアとフロントのキャビティのみハムバッカーを収めるサイズになっており、気分次第でハムバッカーに載せ換えるのも比較的容易にできるようです。

アメスタを…
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カラーバリエーション

アメスタのカラーバリエーション

カラーバリエーションが豊富にあるのもアメスタの魅力です。3カラー(=3トーン)サンバースト、オリンピックホワイト、ブラックといった定番カラーに加え、

  • ボルドーメタリック:バーガンディーミストを想わせる赤紫メタリック
  • ジェイドパールメタリック:翡翠(ジェイド)をイメージした、落ち着いたグリーンのメタリック
  • オーシャンブルーメタリック(明るめ)、ミスティックブルー(暗め)の二つのメタリックブルー
  • ミスティックレッド:キャンディアップレッドに比べ、落ち着いた印象のメタリックレッド

といったこだわりのあるメタリック系が目を引きます。「シエナサンバースト」のみボディ材はアッシュとなり、焼けた感じの淡いサンバーストにアッシュのくっきりとした木目が映えます。

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