《音楽に生きた男》ジョージ・ハリスン (George Harrison 1943-2001)

[記事公開日]2021/9/9 [最終更新日]2023/10/1
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

ジョージ・ハリスン(George Harrison)

ジョージ・ハリスン氏は偉大なるグループThe Beatles(ザ・ビートルズ)のギタリストです。バンドの中にあって彼は最も年下で、ビートルズの活動初期から中期においては目立たない存在でしたが次第に才能を開花させます。「タックスマン」がアルバム「リボルバー」の1曲目を飾るなど頭角を現し、後期になると「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」「サムシング」等の名曲を完成させます。

またエレキギター以外の楽器も積極的に使用しています。初期では12弦ギターを、中期にはインド楽器であるシタールを、また後期には初期の型のシンセサイザーをいち早く導入しています。
謙虚で爽やかな人柄だったためか外部ミュージシャンとの交流が盛んでした。自作曲「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」のギターソロにエリック・クラプトン氏を、キーボード・プレイヤーとしてビリー・プレストン氏をゲット・バック・セッションに参加させるなど、閉鎖的だったバンドのサウンドに外部の血を入れるという面でも貢献します。他にもボブ・ディラン氏、ボンゾ・ドッグ・ドー・ダー・バンドとの交流はよく知られています。

Biography

1943年2月25日 生 英リバプール
ビートルズのメンバーの中では一番年下で、デビュー時はあどけなさの残る19歳でした。活発なディスカッションで音楽を作るビートルズにおいて、ジョージ氏は常に一歩引いた位置で聞き役にまわり、「静かなビートルズ」と呼ばれました。
スーパー・グループの中でジョージ氏は自作曲の水準を上げるべく孤独な戦いを続け、ついにアルバム「リヴォルバー」では自作曲「タックスマン」でオープニングを飾りました。しかしレノン&マッカートニーの強力なナンバーの数々はその完成度の高さゆえ、さほどギター・ソロを必要としない場合も多く、プレイ面でもジョージ氏の葛藤は続きます。


George Harrison – Got My Mind Set On You (Version II)
1987年。「My Sweet Load(1970)」、「Give Me Love(1973)」に続く、アメリカにおけるナンバーワン・ヒット。派手なプレイは無く、しかし楽曲に対して絶好のギターを弾き、そしてギターソロは無い。ギターにではなく音楽に生きた人、それがジョージ・ハリスン氏です。なお、中盤のバク転からのキレッキレのダンスは、スタントによるもの。

ビートルズ解散後

ビートルズ解散後、ジョージ・ハリスン氏はビートルズのメンバーの中で最も活発にソロ活動を行いました。
本格的な初のソロ・アルバムとなった『オール・シングス・マスト・パス』はビートルズ時代に書き溜めていた数々の作品を異例のLP3枚組として発売されたにもかかわらず全米 /全英のアルバムチャートで7週連続1位となる大ヒットを収め、シングル「マイ・スウィート・ロード」も米英それぞれ4、5週連続No.1となっています。
1971年8月にはシタールの師匠であるラビィ・シャンカール氏の呼びかけで、ジョージ氏が主宰となって「バングラデシュ難民救済コンサート」を開催させます。

ソロアルバムは10枚に達し、エリック・クラプトン氏と来日公演を果たすなど活発に活動しましたが、2001年に肺癌と脳腫瘍が発覚、治療の甲斐なく同年亡くなります。享年58。生前発表するはずだったアルバム「Brainwashed」はその翌年に発表され、各界で高い評価を得ました。


Marwa Blues
アルバム「Brainwashed(2002)」収録曲。2004年グラミー「最優秀ポップインストルメンタルパフォーマンス」受賞。

ギターにではなく、音楽に生きるスタイル

ジョージ・ハリスン氏は、決して技巧派のギタリストではありません。しかしそれは、演奏技術が足りなかったからではありません。むしろその逆で、ジョージ氏は若いころからカントリー、ジャズ、ブルース、ロックンロール、ロカビリーなど、非常に多様な演奏スタイルを習得していました。
弾けるけど、音楽にいらないフレーズは弾かない。出るところは出るけど、引くところは引く。そして常に最適なプレイをする。技巧に逃げず、音楽を最優先に演奏していたのです。

巧みなコードプレイ

特にビートルズでは、リードギターという役割がありました。そのためベーシックなコードをガンガン弾くというより、高音のアルペジオやコードを利用したリフを多く担当しました。一見するとコードの音を順番に弾いているだけのようなフレーズも多いのですが、それらには全て、シンプルな材料による伝わりやすさと「ココにはコレが必要だ」と思わせる必然性があります。


The Beatles – I Feel Fine
フィードバックで始まる冒頭。コレは世界で初めてフィードバックを音楽に使った例だと言われています。この曲のウキウキするようなイントロは、バレーコードを維持したまま指を伸ばしてメロディックに演奏するという離れ業です。よほどの修練がなくては、ウキウキどころの騒ぎではありません。

スライドの名手

ジョージ氏の得意技に、「スライド奏法」があります。決して技巧的ではない、しかし独特の甘いトーンと幽玄の揺らぎを持つプレイは、知っている人なら「ジョージの音だ」とすぐ判るほどです。


George Harrison – This Is Love
しかもこれ、リッケンバッカーを使用した、ワウとスライドの合わせ技です。誰だ、ジョージが技巧派じゃないだなんて言ったのは。

「二人の天才」に負けないソングライティング


The Beatles – Something
ポール・マッカートニー氏とジョン・レノン氏。ソングライティングの天才を二人も擁したバンド「ザ・ビートルズ」にあって、ジョージ氏の作曲はまた違った個性を発揮し、存在感を示しました。その中の一つ「サムシング」は、コード進行の中で徐々に下降していく「クリシェ・ライン」を効果的に使用した名作です。

サウンド・コンポーザーとしての能力は高く、特にカントリーやブルースなど、アメリカン・ミュージックに関する深い造詣を背景とした作風です。一度聞いたら耳から離れないギターフレーズがビートルズ後期の楽曲では聞くことができます。


The Beatles – Here Comes The Sun (2019 Mix)
作曲におけるジョージ氏の必殺技、「3音フレーズ」の応酬が決め手の演目。コレを流行らせたのはジョージ氏だと言っても過言ではありません。しかもオープニングはアコギ1本で、メロディを立たせながらのコードストロークです。何度でも言おう。誰だ、ジョージが技巧派じゃないだなんて言ったのは。

使用エレキギター

ジョージ・ハリスン氏は、さまざまなギターを使ってきました。エピフォン・カジノ、グレッチ6122カントリージェントルマン、リッケンバッカー「360-12」などはその代表格です。このほかストラト、テレキャス、レスポール、SGなど、王道系のギターはほとんど弾いていると言って良いでしょう。

アンプはVOX「AC30」を長らく愛用していましたが、ビートルズ後期あたりからフェンダー「Bassman」を、ソロ以降はフェンダー「Twin Reverb」も愛用していたようです。

Gretsch「6122 Country Gentleman」


The Beatles on the Ed Sullivan Show
グレッチ「6122カントリー・ジェントルマン」は、チェット・アトキンス氏をリスペクトしていたことで愛用していました。特にエド・サリバン・ショー出演時に使われており、トレードマークにもなっていました。

Gretsch 6122 Country Gentleman

Rickenbacker「360-12」


The Beatles – A Hard Day’s Night
冒頭の突き抜けるコード一発や複弦を有効に利用した間奏は、12弦ギターならでは。ネックが太い、チョーキングが封じられる、苦行のような弦交換など、12弦ギターには扱いの難しさがあります。しかしだからこその面白みがあり、また他には得がたいサウンドがあります。

リッケンバッカー(Rickenbacker)のギターについて

Epiphone「CASINO」


Budokan
特にジョン・レノン氏が愛用して「ビートルズと言えばカジノ」と言われるくらいのギターですが、ジョージ氏が気に入って使っていたのをレノン氏もマッカートニー氏も見て、俺も俺もと買っていったようです。

ビートルズへのリスペクトを込めて「エピフォン・カジノ」特集

Gibson Les Paul「Lucy」


The Beatles – Revolution
真紅のレスポールは、エリック・クラプトン氏が「While My Guitar Gentry Weeps」のレコーディングで使用したギターです。レコーディングの後ジョージ氏にプレゼントされ、「ルーシー」と名付けられました。

ギブソン・レスポールの種類と選び方

Fender「All Rose Telecaster(George Harrison Telecaster)」

George Harrison Telecaster

George Harrison Telecaster:ボディ

George Harrison Telecaster:ペグ

2017年に登場したジョージ・ハリスン・シグネイチャーモデルのテレキャスター。60年代中期スタイルのCシェイプネック、ピックアップは「American Vintage ’64 gray-bottom single-coil Telecaster」を2基搭載、軽量のローズウッド・ボディ材、ローズウッドネック/指板と、材はオール・ローズウッドという仕上がりになっています。


The Beatles: Get Back | Official Trailer | Disney+
ジョージ氏のオールローズ・テレキャスターは1968年に作られ、ビートルズ後期のレコーディングを支えました。ビートルズとしては最後のライヴ「ルーフトップ・コンサート」でも使用され、伝説のギターとなっています。

George Harrison Telecasterを…
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Discography

All Things Must Pass(1970)

ジョージ・ハリスン/All Things Must Pass

ジョージ・ハリスン氏がビートルズ解散後間もない1970年に発表した最高傑作。エリック・クラプトン氏やデイヴ・メイスン氏、ビリー・プレストン氏やリンゴ・スター氏といった幅広い交友関係で結ばれたミュージシャンによって演奏がなされ、フィル・スペクター氏のプロデュースによって纏め上げられました。ジョージ氏の才能の開花を高らかに宣言したロックの金字塔と賞される作品。


George Harrison – My Sweet Lord
アルバムの先行シングルとして、日本を含む世界各国でシングル発売された作品。英米では、元ビートルズのメンバーのシングルとしては初となるヒットチャート1位を獲得。

Cloud Nine (1987)

Cloud Nine

数年の沈黙ののち発表した、ソロ10枚目にして生涯で最後のソロアルバム。本記事で動画を紹介している「Got My Mind Set On You (Version II)」、「This Is Love」も収録。エリック・クラプトン 氏、エルトン・ジョン氏、リンゴスター氏ら豪華なメンバーが客演します。

Cloud Nine (Remastered 2004)

ジョージ氏のスライドギターに対し、何とエリック・クラプトン氏が脇役として合いの手を入れるという、二人の強いフレンドシップが伺える演目。エレピにはエルトン・ジョン氏。何という贅沢なセッション。

Traveling Wilburys Vol. 1/Traveling Wilburys(1988)

「トラベリング・ウィルベリーズ」は、前作「Cloud 9」のセッションがヒントとなって集められた5人のシンガーソングライター、ジョージ・ハリスン氏、ボブ・ディラン氏、ジェフ・リン氏、トム・ペティ氏、ロイ・オービソン氏によるスーパーグループです。
本作は英米で成功を収め、トリプルプラチナとして認定、1990年のグラミー賞「ボーカルのデュオまたはグループによる最高のロックパフォーマンス」を受賞し、「ここ10年の偉大な商業クーデターの1つ」とまで評されました。


The Traveling Wilburys – Handle With Care (Official Video)

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