リンディーフレーリン(Lindy Fralin)のピックアップ

[記事公開日]2019/11/10 [最終更新日]2021/6/28
[ライター]森多健司 [編集者]神崎聡

リンディーフレーリン・ピックアップ

LINDY FRALIN(リンディ・フレーリン)はアメリカのヴァージニア州、リッチモンドに工房を構えるピックアップ専門メーカーです。創業者のリンディ・フレーリン氏を含む社員は計10人。ピックアップ製作のスペシャリストを集めた、小規模ながら大手ピックアップメーカーと肩を並べる「世界的メーカー」です。

リンディーフレーリンの歴史

1980年頃、リンディ氏は自身が使っていた1965年製ストラトキャスターの、ブリッジピックアップに満足がいかず、自分で製作しようとしてピックアップの自己製作に思い至ります。ミシンと速度調整用のトランスを購入し、地元リッチモンドの楽器店で壊れたピックアップを仕入れてはリワインドの経験を重ねていきますが、始めてから5年間ぐらいは満足のいくものができなかったと本人は語っています。

やがて安定した製作ができるようになってくると、リンディ氏は雑誌に広告を出し、製作やリワインドの仕事をあちこちから請け負うようになります。事業が大きくなるにつれて、彼はあらゆる時代のピックアップをかき集め、そのサウンドについて研究を重ねました。どのようにして素晴らしい音を得ているのか、徹底的に調べ上げて、それを自分の製作の経験に生かして行きました。

1990年頃、工房に自作用の機械を導入し、オリジナルモデルの開発販売を主とする事業を立ち上げます。これが現在のリンディ・フレーリン社の始まりです。会社創業後はまもなくしてインターネットが爆発的に普及する時代へと突入、そこで口コミでの評判が広まるにつけ、広告に費用を掛ける必要もなく、その名が一気に広まりました。これについては「一気に色々とできるようになり、本当に幸運だった」とリンディ氏本人が語っていますが、その幸運が舞い降りたのも、自らの作り出した製品の質の高さゆえであることは言うまでもありません。

創業30年近く経った現在でも、シングルコイルを主軸としたラインナップの全てを、手巻きで作り上げるスタイルを崩していません。その職人技が生み出すサウンドは、高い評価を得続けています。

LINDY FRALIN ピックアップの特徴

LINDY FRALINのピックアップは全製作工程が「手作業」で行われていることが特徴です。当然コイルは手巻きであり、巻き方にランダム性を加えることによって、機会巻きには真似のできない極上のサウンドを作り上げています。まさに「職人芸」と呼べるでしょう。

手巻きは品質管理が難しいと言われていますが、同メーカーの製品は「100年持つ」と創業者が自負しています。そのために全製品のコイルにワックスを塗り、振動や空気から保護しています。

ラインナップはストラトキャスター用やテレキャスター用のシングルコイルが多く、ハムバッカーは少なめ。いずれも1950~60年代辺りのヴィンテージサウンドを意識したものが多く、これはリンディ氏がピックアップ製作を始める理由となったのが、自分自身の1965年製ストラトキャスターのためであったことと無縁ではないでしょう。また彼はロックンロールやブルースの演奏を定期的に行うミュージシャンでもあり、その演奏のための理想的サウンドをピックアップ製作の原動力にしているところも、その理由となっているようです。

ヴィンテージ系ピックアップとPre CBS

リンディ・フレーリンを始めとする、ヴィンテージ系サウンドを狙ったピックアップの話によく出てくるのが”Pre CBSフェンダー”という用語。これは「CBSの前のフェンダー」の意味で、1965年、CBS社に買収される以前のフェンダー社を指します。CBS買収以降のフェンダー製品は品質低下の一途を辿り、それ以前と以後で明確な差があります。世に溢れるヴィンテージ系サウンドを狙ったピックアップやストラトキャスター系やテレキャスター系などのギター製品は、基本的にCBS買収以前のものを目標として製作されており、リンディ・フレーリンの製品も例外ではありません。

現在のフェンダーは一度消滅したあと、1985年に日本のフジゲンなどの支援により再興された、第3次とも言うべき体制になっています。

《職人の手は、速い》フジゲン大町工場訪問インタビュー

ピックアップカテゴリ

ストラト用、テレキャス用、ムスタング用を含むシングルコイル系については、

  • ノーマル仕様としてVintage
  • そこから5%ほどホットでかつ太いサウンドを持つBlues Special
  • さらに15%増のパワーを持つHigh Output

の3種が展開されています。しかし、High Outputのシリーズなどは国内で手に入りにくく、見る機会は数の多いストラト用、テレキャス用でもVintageとBlue Specialが主となります。また、このシリーズに当てはまらない製品として、代表的なモデルである「Real 54」などが存在します。

ハムバッカーはPure PAF系以外について、国内での流通はほとんどなく、直輸入以外で手に入れるのは難しい状況です。また、シングルコイル系にはノイズレスを実現したスタックタイプのSplit-Bladeのシリーズが存在し、こちらも少量ながら流通しており、リンディ・フレーリンの魅力ある音をノイズレスに得られる、良質なモデルとなっています。

これらのカテゴリ分けを意識した上で製品を考えると、望むものにたどり着きやすいでしょう。

LINDY FRALINの定番ピックアップ

Real 54’s

Real 54

LINDY FRALINの定番モデル、1954年製のストラトキャスターに搭載されていたピックアップを再現した「Real 54’s」です。
このピックアップは55年製以降に主流となったアルニコVマグネットとは違い、アルニコIIIを使用。このマグネットは初期ブロードキャスターと54年製ストラト以外には使われていない代物で、より厚みと荒々しさを感じるサウンドを特徴としています。そのため、ヴィンテージ系特有の枯れとワイルドさを同時に味わうことができ、結果として、ピッキングニュアンスやダイナミクス、再生周波数帯域、全てが「これぞストラトキャスター」と言える素晴らしい音を体現しています。

ヴィンテージ系に少なからず存在する低パワーはほぼ感じさせず、その感覚に基づく太さと粘りを特徴とするため、様々なジャンルに使える間口の広さを持ち合わせており、代表的モデルになっている一番の要因もその部分にあります。ピッキングニュアンスを敏感に拾うため、表情豊かな演奏ができうる反面、ごまかしが効かないので一定以上の演奏技術が要求されるモデルでもありますが、これはリンディ・フレーリンのピックアップ全てに当てはまります。

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ストラトキャスター向けピックアップ

Blues Special

Blues Special

ラインナップ中でも、太さと暗さを特徴とするBlues Special。公式には下に紹介するVintage Hotに比べ、5%ほど暗くかつ太いという記載があり、その紹介文通りの印象です。中域にコシがあり、良く伸びるローミッドが特徴。やや暗めな印象を覚えるのは、中域にピークを少し強く持ってきているためであり、その分ゲインも少し強めに設定されているような感覚があります。

Real 54’sに比べると、ヴィンテージっぽさがやや後退した分、単音弾きやコードのストロークプレイなどに、より汎用的な音を得られるようになっており、幅広い層につかいやすい音になっています。

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Vintage Hot

Vintage Hot Tall G

ラインナップ中でも”ヴィンテージ”とはっきり銘打たれた、基本仕様にあたるモデル。旧き良きストラトキャスターのトーンをモチーフとしたピックアップです。

レンジが極めて広いのが特徴で、充実した鈴鳴りの倍音を放つ伸びやかな高域と、粘り気とコシのある中低域をしっかりと併せ持ち、全体を通したときの再生帯域の広さとそれに伴う分離感は随一。スティーヴィー・レイ・ヴォーンのような、絶妙な粘り気、太さと舞い上がるように伸びる高域には、ラインナップ中でももっとも印象が近いピックアップです。

ゲイン量、出力は意外にも高く、ヴィンテージと銘打ちながらも、モダンな音楽にも十分通用できるところは特筆すべき点。ごまかしが効かず、弾き手のピッキングの実力がそのまま出るのは他のモデルと同様です。3弦上のポールピースが高いTall Gと、4弦上が高いTall Dの2タイプが存在し、Tall Gは若干ブライトです。

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Spilt-Blade Strat Vintage

ポールピースがブレードの形状をしている独特のルックスが目を引く、スタック型シングルコイル。スタック型はハムキャンセル効果による圧倒的なノイズの少なさと、その分ややハムバッカー的な太さが混じるのが特徴。このモデルも例外ではなく、ラインナップ内では珍しく純粋なシングルコイルとは少し違うサウンドになっており、ハムバッカー的要素が若干混じった太さを持っています。とはいえ、シングルコイル的な良さはそのまま保っており、良く伸びる気持ちの良い高域は健在。特に歪ませた際にはヴィンテージ系とはまた違う魅力を放ちます。

ハムバッカー

Pure PAF

Pure PAF

50年代のギブソンに搭載されたオールドPAFをベースとしたピックアップ。低出力のマグネットを使用し、繊細さと高音域の抜けや音の伸びを重視したモデルとなっており、ヴィンテージPAFの音の傾向をうまく掴んでいます。

低出力からくる繊細さや音の分離の良さは、昨今のモダンなハムバッカーではなかなか得がたい長所。ピッキングダイナミクスを生かした表情の豊かなプレイに見事に追随し、音のクリアーさではあらゆるハムバッカーでも上位にあり、聴感上のブライトで元気なサウンドは、数値上での低出力を見事に覆い隠しています。クリーン、クランチにおいて見事なバランスを保ちますが、ハイゲインはやや苦手。その特徴ゆえにレスポール以外にもセミアコなどにもおすすめです。

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P-92

見た目はハムバッカーサイズですが、内部はスプリットシングルとなっており、シングルコイルを二つ並べた構造です。構造的にシングルコイル的なジャキジャキとしたサウンドとなり、非常にジューシーな高域と幅広いレンジが特徴。

ハムバッカーの図太いトーンは望めませんが、かき鳴らしたりする際にはハムバッカー的な太さとシングルコイル的な良く伸びる高域が合わさり、非常に気持ちの良い音が得られます。純粋なシングルコイルとP-90の中間的なサウンドです。

テレキャスター向けピックアップ

TELECASTER SET

60年代のテレキャスターに搭載されたものをモチーフとして作られたピックアップ。オリジナル同様、ポールピースの高さに変化を付けたスタッガード仕様です。

テレキャスターらしい無骨な太さを持ったまま、非常に美味しい高域の抜け方を体現しており、明瞭かつ粘っこい音が特徴。クリアーかつ再生帯域が広く、高域がうまく調整されているため、バンドアンサンブル内でも抜けてくるしっかりとした音になり、クリーンでカントリータッチにバキバキと弾いても、歪ませて粘り気のあるブルースを弾いても、いずれも出過ぎたり、足りなかったりするところがありません。テレキャスターの良いところを存分に引き出してくれる、良質なピックアップです。

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BROADCASTER SET

テレキャスターの前身である「ブロードキャスター」のサウンドを再現したピックアップが「BROADCASTER SET」です。1950年頃のモデルをベースとしており、出音はヴィンテージサウンドそのものです。

Real54と同じく、アルニコIIIが使われており、そのマグネットの特徴でもある太さと厚み、荒々しさをテレキャスターでも体感することができます。レンジが広く、粘り気があるリッチなトーンが印象的で、上記のTELECASTER SETがロックやブルース向けならば、BROADCASTER SETはソウルやファンク向けのピックアップと言えるでしょう。

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Blues Special

テレキャスター用のBlues Special。上のTelecaster Setに比べて5%ホットとなっており、明るさはそのままながらより太さを増しています。サウンドの傾向はストラト用のBlues Specialと似通っており、通常のテレキャスターの音を少し太くしたいという向きには最適です。

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その他

P-90 SOAPBAR

P-90 SOAPBAR

LINDY FRALINが販売するP-90タイプのピックアップが「P-90 SOAPBAR」です。本家ギブソンのP-90よりワイドレンジなサウンドであり、音の輪郭がハッキリしているのが特徴です。出力は高めですが「ローノイズ」であるため、P-90特有のノイズに悩まされることもありません。音が暴れやすいP-90ですが、このモデルは比較的大人しく扱いやすいのでオススメです。

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